GMO Answers

質問

質問者 Chris123 (オーストラリア、ビクトリア州、メルボルン) 

遺伝子組み換え植物や健康、安全性についての議論は、本当に公平なものなのでしょうか?

回答

この質問は、一見すると少々曖昧な感じがしますが、実際には、とても慎重に考えている方からの素晴らしい質問であると思います。この質問は、詰まる所、次のように言い換えることが出来るのではないでしょうか:GMO(遺伝子組み換え植物)支持者や反対派は、双方とも、自分たちに都合のよい証拠だけを採りあげて、全く対照的な主張をしているので、誰を信じてよいのか、何を信じたらよいのか分りません、どう判断すれば良いのでしょうか。これには明快な答えはありませんので、様々な尺度や論拠、証拠を踏まえて考える必要があります。でははじめましょう:

逸話
「物語」は誰もが語れます。そのような物語は、往々にして恐ろしい話でもあります。しかしながら、「逸話」というのは、当てにならないことで有名です。例えば、私がある会議に出ていた時のことですが、参加者の一人が自分の近所でガンに罹った人の症例を幾つも挙げ、ある特定の要因が関係しているのではないか、と質問しました。この質問には、州の衛生局の代表が、州全体でがんの発生頻度を分析したが、言及されたような要因との相関関係はなかった、と答えていました。ではこのような話が数多く出てきた場合にはどうなるでしょうか。多くの反GMOウェブサイトは、このような「逸話」の数々を頼りにしています。しかしながら、複数の逸話は“データ”ではありません。

相関関係
数か月前に近所の知り合いが、ウェブサイト上に掲載されていたという「恐ろしい話」を私に送ってきました。それは、アルゼンチンでグリホサートが出生異常(特に神経管欠損症)を引き起こしているという記事で、学術論文を引用しその主張に信憑性をもたせるような書きぶりでした。(注:グリホサート自体はGMOではないが、ほとんどの場合グリホサート耐性のGMO作物と共に使用されている)。私はその記事に引用されていた幾つかの文献を調べてみましたが、いずれも記事に書かれたような主張を裏付けるものではありませんでした。これらの文献にはアルゼンチンでの出生異常に関する疫学的データが掲載され、農薬の使用との関連性が示唆されていたものの、それがグリホサートであるとの指摘はされていませんでした。この恐ろしい記事を書いた人物が、勝手に関連付けたのです。

ともあれ、これは真実なのでしょうか?もしこれが真実であればどうなっていたかを考えてみましょう:グリホサート耐性トウモロコシは、トウモロコシ栽培が盛んなアイオワ州を筆頭に、米国では17年間にわたって栽培されており、USDAの統計では、今やGMOトウモロコシは米国のトウモロコシ全体の90%以上を占めています。もしグリホサートが神経管欠損症の原因であったならば、今頃はもう兆候が表れているはずですが、CDC(米国疾病予防管理センター)の調査データは、米国内の神経管欠損症患者数はGMトウモロコシが導入されて以来、実際には減少していることを示しています。

相関関係は因果関係の証ではない
では、もし何らかの健康状態とGMO作物の採用の間に相関関係があるとしたらどうでしょうか?それこそ恐ろしい話です!自閉症やアレルギー、喘息などが増加傾向にあることは確かですが、その原因ははっきり分ってはいません。ですから、私たちは相関関係を調べて答えを見つけ出そうとします。しかしながら、相関関係があるから言って、それが原因であると決めつける訳にはいきません。下の図を見てください。自閉症患者の増加と有機農作物の消費量には、ほぼ完全な相関関係があります。有機農作物が自閉症の原因だと言えるでしょうか?そうは言えません、ですがこの相関関係は恐ろしく見えます。覚えておいてください。相関関係は因果関係を証明することにはならないのです。

因果関係(あるいは因果関係の不在)
では、どうすれば因果関係を証明できるのでしょうか?最も優秀な研究者たちでさえ、多少の先入観は持っています。彼らは、自分自身は誠実で公正である、と思っていますが、僅かではあるものの常に仮説通りの結果を得ようとする気持ちを持っています。究極の判断基準は、いわゆる二重盲検試験です。例えば、食餌試験では、研究者が試験計画をたてますが、食餌は見た目が同一でなければなりません。実験室の技師たちには、どの餌がどの動物に与えられたのかが分らないようにし、同様に、分析スタッフたちにも、どの動物にどの餌が与えられたかが分らないようにせねばなりません。これは、符号化することで行います。給餌を終えて分析を行い、符号がそれぞれの処理を表す言葉に置き換えられた後にはじめて、与えた食餌が観察結果の原因となっているか否かについて調査が行われます。なぜこのような手間をかけるのでしょうか?やっと答えの核心にたどり着きました:それは先入観を排除するためなのです。

公表
如何なる組織による刊行物であれ、報告書として公表されるものは、業界内や組織内を問わず、二つの点が満たされていなければ「未承認」として扱われます:ピア・レビュー(査読)を経て公表されること、そして他者によって再現性が確認されることです。2013年のエコノミスト誌に「とうして科学は上手く行かないのか」と題されたすばらしい論文が掲載されました。その論文には、多くの研究には微妙な先入観が忍び込んでいること、必ずしもすべてが正しく行われていないこと、このような理由により、75%の独創的な医学研究報告が再現不能なことなどが指摘されています。

誰が研究資金を助成しているか
業界が行った研究、あるいは業界が資金助成した研究については、少なくともそれらの研究が業界とは無関係な立場で精査されるまでは、しかるべき疑いの目を持って接する必要があります。同様に、如何なる研究であれ、反GMO組織が資金助成を行った研究に対しても、疑いの目を向けるべきでしょう。遺伝子組み換えに好意的な研究はすべて業界が助成したものだと考える人もいますが、そうではありません。「Biofortified」が行った資金源調査から、そのような研究の50%は政府の助成により行われたものであること、欧州においても同様な実態であること、などが分っています。            

ピア・レビュー(査読)
ピア・レビュー(査読)では、その分野で高名な2-3人の研究者が、データとともに提示された論文原稿に目を通し、その信頼性について意見を述べます。しかしながら、査読されたすべての論文が同じレベルとは限りません:大変優れたものもあれば悪いものもあり、疑わしいものや実にひどいものもあります。しかし、それらはどうすれば見分けられるのでしょうか?(そのような情報の源については次章で触れます)

ジャーナルと査読の質
まずジャーナルの質ですが、一流のジャーナルは、その分野で最も権威のある極めて厳格な査読者たちが審査し、最も優れた論文だけを掲載しています。一方、質の低いジャーナルは何百もあり、いい加減な資格しか持たず、批判できる能力のない査読者たちによる不十分な審査を経た殆ど全ての論文を掲載しています。言わずもがなですが、どちらのジャーナルの信頼性が高いでしょうか?

最も精選された論文を掲載しているジャーナルには、「Nature」や「Science」、「The Proceedings of the National Academy of Sciences」などがありますが、これらのジャーナルも時には間違いを犯します。著名な科学者たちは、自分たちの分野ではどのジャーナルが一流であるか(あるいはそうでないか)を、即座に答えることが出来るでしょう。「インパクトファクター(学術雑誌の重要度を示す尺度)」と呼ばれる数値がありますが、これはそれぞれ論文が、何回他者によって引用されたかを示す平均値です。一般的に、より質の高いジャーナルに掲載された論文の方がより多く引用されており、より高い「インパクトファクター」となります。しかしこれが崩れることもあります:質の低いジャーナルに衝撃的な論文が掲載されたような場合には、それを正しいと信じる人々やそれが偽りであると主張する人々の双方がその論文を引用するため、突然質の低いジャーナルが高い、但し意味のない、インパクトファクターを持つことになります。(更なる詳細は、こちら:http://www.nytimes.com/2013/04/08/health/for-scientists-an-exploding-world-of-pseudo-academia.html?pagewanted=all&_r=1 並びに、こちら:http://scholarlyoa.com/individual-journals/ をご覧ください)。

継続的評価
次に留意すべきことは、ピア・レビュー(査読)は、単に二人の査読者による意見に留まらないという点です。論文が公表された時点から、本当のピア・レビューが始まるのです。

  • 多くの科学者たちは、この論文を読んでどう思うか?
  • よく出来た論文か、出来の悪い論文か(それは何故なのか)、また、分析は正しく行われているか?
  • 調査は適切な統計的方法に基づいているか?

実際の所、このような継続的な評価の方が、二人の査定者による当初の意見よりも重要だ、と指摘する人もいます。

メタ分析
ピア・レビュー(査読)された一件の論文よりも重要なのは、多くの論文に示された圧倒的多数の結果や証拠です。現在、ピア・レビューのあるジャーナルには、GMO作物や食品の有効性、安全性、そして環境への影響について調べた論文が多数掲載されています。2013年には、イタリアのグループが公表された1,783件の論文を検証し、「遺伝子組み換え作物の安全性に係る10年間の研究概要(2003-2013)」として発表しています。本研究のリーダーは、「私たちの目標は、科学者たちが遺伝子組み換え作物の安全性についてどのような研究を行ってきたかを、この分野に興味を持つ様々な分野の専門家が、一つの文書で概観できるようにすることでした。」(下記に示したウェブサイトに記載)、また、「これまでに行われた議論の内容や現時点における結論、そして新たな課題について、公平な見解を示すことに意を注ぎました。」と述べています。詳細はこちら(http://geneticliteracyproject.org/2013/10/with-2000-global-studies-confirming-safety-gm-foods-among-most-analyzed-subject-in-science/)をご参照ください。「Biofortified」のGeneraデータベースには400以上(増加中)の論文が掲載されています(http://genera.biofortified.org/wp/about/about-genera )。

多くの論文に掲載されたデータを調べる分析手法として有用なのは、メタ分析です。例えば、最近(2014年11月)行われたメタ分析には、ドイツのゲッティンゲン大学の二人の農業経済学者が実施したものがあります。これは、ピア・レビューされた文献の中から147件の論文を分析したもので、評判の高いオンラインのジャーナル「PLOS-one」を通じて公表されました。彼らは、遺伝子組み換え作物が平均して、農薬の使用を37%削減し、作物収量を22%増加させ、農家の収益を68%増加させたことを明らかにしました。なぜ、1,800件もの論文から、147件だけを採りあげたのでしょうか?その理由は、分析の主題が特定のものに限られていたこと、そして質の面から、ある一定の水準に達しているものだけが選ばれたからなのです。

GMO食品の安全性に関しては、2012年にイギリスとフランスのそれぞれ別のグループが、12件のGMO長期食餌試験、及び12件の複数世代に渡るGMO食餌試験を調べ、示された証拠から判断すれは、「GM植物は、栄養面で従来の非GM植物と同等であり、食品や飼料として安心して利用できる」、と結論づけています。(残念ながら全文閲覧は有料ですが、要約はこちら(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22155268でご覧いただけます。)イタリアやドイツ、フランスの人々は遺伝子組み換えにあまり好意的ではありませんが、このような研究が、それらの国々で行われたことは注目に値します。

別の1,000億もの大規模な食用動物データを調べた研究では、餌に遺伝子組み換え穀物が使われ始めた後と、それ以前とを比較して、食用動物の健康に変化は認められなかったと結論付けられています(詳細はこちらを参照ください:http://news.ucdavis.edu/search/news_detail.lasso?id=11038)。

支持と権威
GMO作物に対して誰が支持、または反対意見を述べているのかみてみましょう。GMO作物は、米国や欧州を含めた海外のすべての主要科学機関並びに食品安全機関によって、幅広く審査されており、同じ品種の非GM作物と同じく、食品としても環境に対しても安全であると判断されています。これらの機関には、米国科学アカデミー、米国科学振興協会、米国医師会、英国王立協会、そして欧州食品安全機関などが含まれます。

欧州委員会は2010年に次のように述べています:「25年以上にわたり、500以上の独立した研究グループが関わって行われた、130以上もの研究プロジェクトから引き出される主要な結論は、バイオテクノロジー、特に遺伝子組み換え作物は、それ自体、従来型の植物育種技術にくらべリスクが高いわけではない、ということである。」これと反対の主張は、非主流の科学者たちから聞かれますが、主流の科学機関からはありません。これは気候変動の存在を否定する科学者が3%いることと同様な状況かと思われます。

どうでしょう、これが科学的な視点からの見解です。

回答者 ピーター・J・デービス

回答者

ピーター・J・デービス

Peter J. Davies

コーネル大学(米国、ニューヨーク州、イサカ)、植物生理学教授 兼植物生物学国際教授

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