GMO Answers

質問

質問者 carriehun (フロリダ州、ゲインズビル) 

種子に特許が認められるとすれば、ライバル企業が、ある種子のゲノムの複製を使い、その中に含まれる中立の分子を2、3個改変しただけで、それを「新たな発明」と称することもできると思いますが、どうなのでしょう?

回答

ライバル企業が、ある遺伝子に含まれる「2、3個の中立分子」を僅かに改変し、その遺伝子(もしくは種子)について特許を申請すること、それ自体は可能でしょう。しかし、私見を申せば、改変されているのが「2、3個の中立分子」と言う事実からすれば、その特許申請が受理される可能性は、非常に低いと思います。

米国の通常(一般)特許法の下で特許を取得するには、申請者は次の4つの法的要件を満たす必要があります:申請案件が、新規なものであるか、有用性があるか、自明でないか、適切に説明されているか。では、あなたからのご質問にある、「2、3個の中立分子」の改変、に照らし合わせて、それぞれの法的要件を手短に見ていきましょう。

新規なものであるか: 以前に世界中のどこかで、当該遺伝子が、特許審議の対象となっていたか、公表されていたか、広く利用されていたか。この答えが全て「ノー」であれば、この遺伝子は「新規なもの」とみなされます。しかし、答えが「イエス」であれば、この遺伝子は新規なものとは認められず、特許申請は却下されるでしょう。では、一歩譲って、この遺伝子が、「新規なものである」という法的要件を満たしているとしましょう。

適切に説明されているか: 更に一歩譲って、提出された申請書には、当該遺伝子(種子)について適切な説明がなされていた、あるいは、説明通りの適切な生物サンプルが供託されていたとします。

有用性があるか: 当該遺伝子(種子)の具体的な用途あるいは効能が、特許申請書において、1つ以上説明されていなければなりません。ここでも、譲歩して、この条件が満たされているとしましょう。

ここまでに、当該遺伝子が、特許取得に必要な法的要件4項目のうち3項目を満たしているとしてきました。しかし、私の考えでは、乗り越えられない壁となり得るのが4番目の条件です。

自明でないか: 4番目の法的要件では、特許申請された案件が「自明でない」発明であること、つまり、進歩性のある発明であることが求められます。申請者は、その発明が、対象技術分野の専門家たちによってでさえも、容易に成し遂げることができなかった「進歩性」のある発明であることを、説明しなくてはならないのです。あなたの質問では、遺伝子に加えられた改変の範囲は「2、3個の中立分子」ということなので、申請書で発明の進歩性が示されているとはとても思えません。この特許申請は、おそらく、却下されると思われます。その理由は、遺伝子組み換えの分野に精通している人なら、「2、3個の中立分子」を改変することは容易だからです。この様に、「自明でない」という法的要件を満たさないため、当該遺伝子の特許申請は却下されるでしょう。

通常(一般)特許法に加え、米国では、植物品種保護法(PVPA)により、知的財産としての植物品種に対し「補助的な特許」、すなわち植物新品種登録証明書が与えられます。法律家たちが、植物品種保護法を知的財産に対する「補助的な特許」と呼ぶ理由は、法的要件が、通常(一般)特許法に比べ緩やかであるためです。

とは言え、植物品種保護法にも法的要件はあります。植物品種保護法の下では、提出された申請書において、各法的要件を満たすための証拠が提供されていない限り、特許は与えられません。それぞれの法的要件は以下の通りです:新規なものであること、既存の品種と明確に区別できること、安定していること、均一であること、そして適切に説明されていること(説明通りの生物サンプルの供託を含め)。

「2、3個の中立分子」のみの改変は、ここに挙げた植物品種保護法の5つの法的要件のうち、おそらく、「既存の品種と明確に区別できること」という条件には適合しないと思われます。もし、実際に、特許申請された種子が「2、3個の中立分子」を改変しただけのものであるならば、私見ですが、特許審査官は、「当該種子は、親世代の種子と明らかに異なる表現型や遺伝的な差異を示すことはない」と判断するでしょう。つまり、この申請は、植物品種保護法の特許の対象となる「既存の品種と明確に区別できる」品種を作ったことの説明が不十分であったことになります。

要約しますと、ライバル企業は、「2、3個の中立分子」のみを改変した遺伝子(種子)に対し、知的財産権の取得を申請することができる、という点については、あなたのおっしゃる通りです。しかし、ライバル企業による申請は、一般特許法、あるいは、植物品種保護法のどちらにおいても、法的要件を満たすことが出来ないであろうというのが私の考えです。

回答者 ドルー・カーシェン

回答者

ドルー・カーシェン

Drew Kershen

オクラホマ大学法学部、アール・スニード・センテニアル法学教授(名誉教授)

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