バイテク情報普及会について

セミナー・イベント

2010/02/26更新

バイテク情報普及会セミナー「2009年 世界の遺伝子組み換え作物の商業栽培に関する最新状況」を開催

バイテク情報普及会は2月26日、「2009年 世界の遺伝子組み換え作物の商業栽培に関する最新状況」と題したセミナーを開催しました。セミナーには国際アグリバイオ事業団(ISAAA)会長クライブ・ジェームズ博士と、ISAAA国際コーディネーター兼東南アジアセンター理事長のランディ A.ホーティ博士を講師にお迎えして、世界の遺伝子組み換え作物の栽培状況についてご講演頂きました。また、昨年他界したノーベル平和賞受賞者のノーマン・ボーローグ博士と縁の深い研究者である、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構作物研究所の岩永勝所長をお迎えして、ボーローグ博士を偲んでお話頂きました。

■日時 2010年2月26日 14時~16時
■会場 ベルサール神保町
■講師
岩永 勝氏(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構作物研究所所長)
ランディ A.ホーティ氏(ISAAA国際コーディネーター兼東南アジアセンター理事長)
クライブ・ジェームズ氏(ISAAA会長)
◆講師略歴 ⇒
■講演資料
ノーマン・ボーローグ博士を偲んで(岩永 勝氏)
ISAAAの紹介および世界の遺伝子組み換え作物に関する状況 2009年
(ランディ A.ホーティ氏)
世界の遺伝子組み換え作物の状況2009年 現状と影響、将来の展望
(クライブ・ジェームズ氏)
※資料の転用・転載はご遠慮ください

セミナーのポイント

  • 昨年他界したノーマン・ボーローグ博士(1914~2009)は、1970年に農業分野で初めてノーベル平和賞を受賞し、「緑の革命」の父として、生涯を世界の農業生産性の向上に尽くした。博士は、ISAAA設立に貢献した後援者でもあり「植物バイオテクノロジーは、増え続ける食糧需要を満たしつつ、未来の世代のため、環境を守る上でも大いに役に立っている」と述べている。
  • 2009年の遺伝子組み換え作物の栽培を手がけた農家は、25カ国で1400万人となり、栽培面積は1億3,400万ヘクタール(3億3,300万エーカー)と過去最高に達した。この面積は、世界の耕地面積全体の9%を占める。日本は食用、飼料用栽培国としてはカウントされていないが、2009年から青いバラの栽培を開始しており、栽培国の仲間入りをした。
  • 1996年~2009年までに栽培された遺伝子組み換え作物の累計面積はおよそ10億ヘクタールで、世界全体の栽培面積のほぼ半分(46%)が発展途上国によって占められている。発展途上国の遺伝子組み換え作物の栽培面積拡大の勢いは、先進国を上回っており、2015年には先進国を追い抜くものと思われる。
  • 新しい波として、2009年11月に中国においてBtイネおよび高フィターゼトウモロコシのバイオセーフティ証明書が発行され、2、3年後に商業化が可能になると思われる。中国政府主導で開発されたこの2種類の遺伝子組み換え作物は、アジアや世界にも多大な影響を及ぼすだろう。
  • 2010年から2015年までの実現が期待される、新しい遺伝子組み換え作物は、3つの形質を付与する8種類の遺伝子をもつトウモロコシ、インドのBtナス、フィリピンのゴールデンライス、乾燥耐性トウモロコシ、窒素利用効率が高い小麦などがあげられる。

●岩永 勝氏の講演内容

ノーマン・ボーローグ博士のお人柄、お仕事に感銘を受けた方は多くいらっしゃると思います。私自身もその一人です。博士が1970年にノーベル平和賞を受賞した当時、彼は国際トウモロコシ・小麦改良センター(CIMMYT)の小麦部長で、専門は小麦の品種改良でした。彼の最大の功績は「奇跡の小麦」の育成を行ったことです。従来の小麦は、スライドのように背丈が高く、雨風にも病気にも弱いものが伝統的な品種でした。博士が開発した小麦は、背丈が低くて収量は2、3倍高く、病害虫にも強いものでした。

この開発の過程では、日本の小麦品種である農林10号が使われました。これが無ければ奇跡の小麦もできず、緑の革命も起きなかったと言われています。日本の小麦品種は赤小麦や埼玉27号といった品種も「奇跡の小麦」の育成に使われました。小麦は世界で一番多く栽培されている作物ですが、その栽培面積の80%以上がこれら日本の小麦由来であり、日本は大きな貢献をしています。背丈だけでなく、日長非感応性といって、日本のように南北に長い国ではすべての日長に合った品種が必要でしたが、既に1950年代にはこれらを兼ね備えた品種が日本ではできあがっていました。それを使うことによって緑の革命を成し遂げることができ、日本の標準が、世界のスタンダードを作ったと言えると思います。

緑の革命の成功を支えたのは、単位面積あたりで収量を増やすという画期的な技術で、背丈の遺伝子だけではなく様々な要因が貢献しています。緑の革命は画期的な農業技術を飛び越えて、人類の歴史に大きなインパクトをもたらしたもので、それだけ社会を大きく変えたものだと思います。博士の偉大さはこれだけではなく、ノーベル平和賞受賞後にさらに発揮されました。ノーベル賞受賞者は往々にして受賞時の研究がピークで、その後スローダウンをするようですが、博士は受賞後さらにそのスピードを速めて様々な仕事を成し遂げました。

第一の仕事が、農業や食糧の大切さを伝える伝道師という役割です。世界各地を回って、その国の農林大臣、首相と会って、農業の大切さを訴えました。二番目がアフリカの支援です。アフリカは緑の革命の恩恵をうけなかったと言われていますが、博士は1980年代からアフリカ支援を行っています。三番目が人材育成、博士は世界各地大学で数千に及ぶ講演を行っています。実は学生向けの最後の講演は、日本の大学で行われています。この時、博士は病気療養中にもかかわらず、午後の講演のために朝4時から起きてリハーサルを繰り返していました。相手が誰であろうと決して手を抜かず、農学に携わることの大切さを伝える気持ちの強い方でした。

博士の偉大な功績を紹介する「緑の革命を起こした不屈の農学者ノーマン・ボーローグ」と題した書籍があり、私は昨年、日本語の監訳を担当しました。9月13日に日本で本の出版を祝った席で、博士の訃報が入りました。今世紀に入って人口増加のスピードが速まる中で、日々たゆまぬ技術革新が求められています。博士の遺志を受け継いで、一刻も早く食糧増産の技術支援を農家に伝えていくことが大切だと思っています。

●ランディ A.ホーティ氏の講演

国際アグリバイオ事業団(ISAAA)は、国際的非営利慈善団体で、遺伝子組み換え作物に関する知識を国際社会で共有するとともに、資源の乏しい発展途上国の農業生産者に対し作物生産性を高め、より安全な環境と持続可能な農業開発を実現するための活動を行っています。ISAAAの遺伝子組み換え作物グローバルナレッジセンター(KC)は、2000年9月、ノーマン・ボーローグ博士のフィリピン訪問中に、フィリピンを本拠地として設立されました。KCは発展途上国の政策立案者の需要に応え、確かな情報をもとに、作物バイオテクノロジーに関する意思決定プロセスを透明化することを支援しています。過去10年間の活動を通じて、グローバルな組織に成長し、世界中に幅広い知識と経験の共有を進めています。

KCの業務は、出版物、ビデオ、ウェブサイト、ニュースを通して、幅広い知識を提供し、関与者に正しい政策決定を促すために行われています。その一つとして毎週ニューズレターを発行して、特に途上国の情報提供を行っています。このニューズレターの購読者は200カ国74万人に及びます。

またISAAAの年次報告書を発行していますが、報告書のメディア報道は1500件以上引用され、79カ国で記事が書かれています。年々その影響力は高まり、14億人を超える読者に報道され、翻訳言語数は47に及び、メディアの注目度も増しています。本日皆様にお届けするのは、2009年の最新報告書です。これはボーローグ博士の理想を体現したものとなります。その概要をクライブ・ジェームズ会長よりお話頂きしょう。

●クライブ・ジェームズ氏講演

バイオテクノロジーは14年前に「約束の科学」と言われて、その将来が期待されました。あの時の約束を振り返って、どうだったでしょうか。また、近い将来2010年から2015年にかけて何が起こるのでしょうか。本日は、サブタイトルに「ノーベル平和賞受賞者であり、ISAAAに寄与した故ノーマン・ボーローグ博士に捧げる」と題して、博士の業績を偲びつつ、進めたいと思います。

1970年にノーベル賞委員会はボーローグ博士にノーベル平和賞を授与しましたが、その受賞理由は「同時代のだれよりも、飢えた世界にパンを提供することに多大なる貢献をした。われわれはパンの提供が平和をもたらすことを希望して今回の受賞者を決定した。…世界に新しい食糧状況を創出し、人口爆発と食糧生産の激しい競争の中で悲観主義を楽観主義に転換することに成功した」となっています。

博士は3つの「P」、すなわちProductivity(生産性)、People(人間)、Poverty(貧困)に取り組むことを成功の要因としました。このうち生産性は、実験農場レベルでなく、実際の生産現場での成否が全てだと考え、収量増に力をいれました。博士は遺伝子組み換え作物を強力に推進しており、1990年に世界食糧賞を創設して、最初のISAAA設立の支援者となりました。貧困と飢餓の解消のためにこの技術を活用すべく尽力し、最も強力な支持者でありました。

2009年の遺伝子組み換え作物の栽培を手がけた農家は、世界25カ国で1400万人となり、栽培面積は1億3,400万ヘクタール(3億3,300万エーカー)と過去最高に達しました。総作付面積は2008年と比較して7%の増加、スタックとしての導入を反映させた形質面積は1億8,000万ヘクタールで、昨年より8%の増加となりました。この面積は、世界の耕地面積全体の9%を占め、1996年と比較すると栽培面積は実に80倍です。遺伝子組み換え作物は近代農業史において最も急速に普及した農作物技術といえます。

世界の栽培面積は遺伝子組み換え主要作物4種類すべてにおいて過去最高に達しています。大豆は世界全体の栽培面積のうち4分の3以上を遺伝子組み換え作物が占め、ワタはほぼ半分、トウモロコシは4分の1超、ナタネは5分の1以上となりました。

1996年~2009年までに栽培された遺伝子組み換え作物の累計面積はおよそ10億ヘクタールで、世界全体の栽培面積のほぼ半分(46%)が発展途上国によって占められています。また、組換え作物の栽培に従事する1400万人のうち、90%は小規模で資源に乏しい農家です。発展途上国の遺伝子組み換え作物の栽培面積拡大の勢いは、先進国を上回っており、2015年には先進国を追い抜くものと思われます。

2009年に大規模な遺伝子組み換え作物栽培を行った5つの発展途上国として、中国、ブラジル、アルゼンチン、インド、南アフリカがあげられます。中国では700万の生産者が370万ヘクタールでBtワタを栽培しました。またブラジルは世界第2位の栽培国、アルゼンチンは世界第3位の栽培国となっています。インドのBtワタは840万ヘクタールで普及率は87%となりました。南アフリカはとうもろこし、大豆、ワタを栽培しており2009年の成長率は17%となりました。

2009年の新しい波としては、11月に中国においてBtイネおよび高フィターゼトウモロコシのバイオセーフティ証明書が発行されたことでしょう。中国政府主導で開発されたこの2種類の遺伝子組み換え作物は、中国はもちろんのこと、アジアや世界にも多大な影響を及ぼすものと思われます。また、日本は昨年から青いバラの栽培を開始しており、食用、飼料用栽培国としてはカウントされていませんが、栽培国の仲間入りを果たしました。

遺伝子組み換え作物の拡大によって、環境影響としては殺虫剤の使用が2008年だけで10%程度削減され、また、700万台の自動車を減らしたのと同等の二酸化炭素排出量を削減できました。また、北米およびラテンアメリカを中心に不耕起栽培の併用によって土壌と水資源の保護が可能となり、持続可能性への貢献も果たしました。

2010年から2015年までの展望ですが、今後、遺伝子組み換え作物の栽培を拡大させるためには、政治的な決意と研究機関の支援、遺伝子組み換え作物のさらなる改良が必要となるでしょう。この政治的決意の金メダルに相当するのが、中国温家宝首相のコメント「私は遺伝子工学の試みを支持している。近年の世界的な食糧不足でその思いはいっそう強くなった(2008)」です。彼は言行一致で遺伝子組み換え農作物を支持しています。また、今後実現が期待される新しい遺伝子組み換え作物としてはたくさんありますが、たとえば3つの形質を付与する8種類の遺伝子をもつトウモロコシ、インドのBtナス、フィリピンのゴールデンライス、乾燥耐性トウモロコシ、窒素利用効率が高い小麦などがあげられます。

最後に、遺伝子組み換え作物に関するボーローグ博士の助言をご紹介しましょう。「この10年間に植物バイオテクノロジーは大きな成功を収めてきました。この技術は世界中で農作物の収量を高めると同時に、農薬使用を減らし、豊かな土壌の亡失あるいは土壌浸食を食い止めることに貢献しています。その恩恵と安全性は、世界の総人口の半分以上を占める国で、この10年間に証明されています。かつての緑の革命、そして今の植物バイオテクノロジーは、増え続ける食糧需要を満たしつつ、未来の世代のために環境を守る上でも大いに役に立っています」と博士は述べています。最後にこの10年、バイテクのリスクは何かという意見が投げかけられる中で、コインの表と裏のように、逆にバイテクを使わないリスクは何なのか、ということを皆様に問いかけて、終わりにしたいと思います。

●質疑応答を抜粋してご紹介

【Q1】:ボーローグ博士は、「緑の革命」の最初に小麦の品種改良に取り組んだというお話をお聞きしましたが、遺伝子組み換え技術の小麦の栽培はどうしてまだ行われていないのでしょうか?
【A1】:コムギの問題は複雑です。殺虫剤の使用を減らして栽培できる遺伝子組み換えコムギが4年前に開発されましたが、お蔵入りになった経緯があります。この時点で、殺虫剤の削減がまだ十分ではないということでアドバンテージが無いということだったのですが、殺虫剤の使用をもっと下げたもので再開しようと開発が行われているとも聞いています。さらに、旱魃耐性のものが今後でてくれば、受容度も上がると思われ、6、7年で状況は変わるものと思われます。

【Q2】:バイテクの種子は通常のものに比べると2~3割高いといわれていますが、中国では貧しい農家も多く、そのような高い種子を買って栽培することができるでしょうか?
【A2】:農家は往々にして売れるよりも多く収穫してしまう傾向にありますが、本来はリターンを考えてバランスよく栽培する必要があります。貧しい農家であっても、リターンを考慮すれば、種子の価格は栽培の際の制限要因になることはありません。既に中国ではビジネスでBtワタが栽培されており、700万人の農家が利用しています。こうした農家は平均的に殺虫剤の利用が6割減って、収益も10%上がっており、このようにリターンが多ければ、種子は高くても購入すると思われます。インドでも遺伝子組み換えのBtワタの農家の収益が3割近く上がっています。中国は世界第2位のトウモロコシ生産国ですが、遺伝子組み換えの高フィターゼトウモロコシが導入されれば、ブタや鶏等の家畜のリン酸吸収をより容易にして動物の成長を促すとともに、排出される栄養分の量を減少させることができます。農家に対するリターンを考えれば、遺伝子組み換え作物の導入はさらに進むことになるでしょう。

【Q3】:今後、中国に遺伝子組み換え技術が大いに導入されることになれば、農業人口が将来的に余ってしまって、農村人口が都市部に流入するような現象が起きるかもしれませ。この技術が適切に導入されなければ、バイオテクノロジーは新たな社会的リスクにならないでしょうか?
【A3】:これは緑の革命を考えると、よく理解できると思います。緑の革命によって労働力が増える部門もあります。たとえばアルゼンチンではBt大豆の導入によってこの10年で25万人の雇用が作り出されたと言われています。遺伝子組み換え作物の導入によって、農業人口が単純に減るわけではありません。この技術が適切に管理されて、共存可能な世界に貢献されることが大事だと思います。

【Q4】:バイオテクノロジーが導入されることで、ネガティブなインパクトもあるのではないでしょうか。報道で耳に入るのは、米国で耐性雑草が増えている話や、インドのBtコットンの農家に皮膚アレルギーが増えているといった報告があるようですが。
【A4】:どんなテクノロジーも導入される場合には、適切な管理が必要です。連続して同じ作物を同じ土地で栽培し、転作しない場合に出てくる問題は、他のテクノロジーでも同様です。管理しなければ問題は出てきます。またネガティブなインパクトとして、たとえばモナコバタフライの話もありましたが科学的に信憑性が薄いもので、結論としては否定されました。アレルギーの話は始めて聞きましたが、インドでBtワタを導入した村は、結果的に医療のケアや教育などが充実して生活の質が向上しており、むしろ遺伝子組み換え農作物を導入したことによる恩恵の部分が多いと報告されています。また南アフリカの女性のコメントを紹介すると、Btワタが導入されたことで、片道4.5kmの道を毎日通って何度も農薬を撒くという大変な仕事から開放され、身体が楽になったということです。批判する場合は、根拠が明確かどうか、文献は確かで信憑性があるかどうか、敏感に見極めることも重要な点だと思います。

【Q5】:中国のコメについて、今後商業生産が認められて、2、3年後に栽培されるようなことになったら、それは輸出用か、自国用かどちらでしょうか?
【A5】:現在、中国はコメの生産量のうち1%を輸出用にしています。コメの需要は年々増加しており、今後栽培されるようなことがあっても、多分輸出に回すようなことは無いと思われます。