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2010/01/07更新

第26回メディアセミナー「よく分かる生物多様性~経済・社会・環境のバランスと名古屋COP10に向けて」開催

バイテク情報普及会は12月2日、名古屋市立大学経済研究科 香坂 玲准教授をお迎えして、第26回メディアセミナー「よく分かる生物多様性~経済・社会・環境のバランスと名古屋COP10に向けて~」と題するセミナーを開催しました。生物多様生条約事務局元職員でもあった香坂准教授に、2010年に名古屋で開催されるCOP10の基礎知識についてご講演いただきました。

■日時 2009年12月2日
■場所 丸ビルコンファレンススクエアセミナー
■講師 名古屋市立大学経済学研究科准教授 香坂 玲氏(元生物多様性条約事務局職員)
■講演資料 「よく分かる生物多様性~経済・社会・環境のバランスと名古屋COP10に向けて」
※著作権の都合により一部掲載していない図表がございます。予めご了承ください。
※資料の転用・転載はご遠慮ください

セミナーのポイント

  • 生物多様性とは遺伝子、種、生態系の三つのレベルがあり、生物多様性条約は、保全、利用、利益の配分が話し合われる場である。
  • 時代によって生物多様性の概念は変わってきた。
  • 生物多様性が必要な理由は、便利、存続、進化の三つである。
  • 人間が生態系から得る利益は、供給、調節、文化、支持基盤に分けられる。
  • 企業活動にとって生物多様性の取り組みは、義務、リスクの分散、価値の創造という三つの意味があり、持続的な活動の基盤になり得るものである。取り組み方によってはアピールのチャンスでもある。
  • 生物多様性条約をCBD、締約国会議のことをCOPと言う。COP10は第10回締約国会議という意味で、来年、名古屋で開催される。COP10の開会式から2年間、日本が議長国となる。
  • COP10の2010年は節目の年だと言われており、それには三つの理由がある。一つは2002年に定めた2010年目標の確認が行われ、同時にポスト2010年目標を定めることが注目されていること。二つ目は、2010年は国際生物多様性の年ということ。三つ目は利益配分で、ABSの国際制度について、保全する側と利用・発展させたい側の南北問題がその背景にあり、その議論の場となる。
  • 名古屋で行われるCOP10について、今後は日本の国内の啓発活動も含めて、どういうメッセージを発信するのか戦略的に考える必要がある。

●生物多様性と生物多様性条約とは

生物多様性とは、遺伝子、種、生態系の三つのレベルでとらえるものです。ちょっと考えて頂きたいのは、ワシントン条約と聞いて思い浮かべるのは象牙や黒マグロでしょうか、この場合は種です。ラムサール条約であれば湿地や渡り鳥で、種や生態系となります。これらはある程度特定され、何かアイコンになるもの、カリスマ性のあるものを持っているのですが、生物多様性条約の場合はこういったものからカバーしきれなかったものを包括的にまとめて取り扱おうとするもので、後から誕生したものです。このため全ての層にまたがっていて範囲が広いこと、発展途上国側の言い分も反映する形でできあがってきたもので、保全、利用、利益の配分の三つのポイントを含めて議論されています。つまり、生物多様性は遺伝子、種、生態系の三つのレベルがあって、生物多様性条約には、保全、利用、利益の配分をお話する場であるということです。

いろいろな種があるとよく言いますが、我々が命名しているものは175万種ほどあって、ほとんどが昆虫や植物に集中しています。哺乳類や鳥類もわかっている種が多いが、その一方で微生物はあまりわかっていない。菌類等も比率からみるとあまりわかっていないために数は多くありません。ですから何かが破壊されるときは、その中の微生物、線虫がどういったものがあるかわからないまま、破壊されることが問題です。こういった問題に何らかの対応するために、生物多様性ということばが生まれてきたということがあります。

いつの時代でも多様性が大事と言われてきたかということですが、必ずしもそうではありません。私が滞在していたドイツの例で、森林を例に価値観の変遷を説明しましょう。1980年代の環境問題は、酸性雨で、それで森林が枯れていることが大きな問題でした。当時、ドイツのシュピーゲルという雑誌が、森林の死という問題を取り上げて、それがきっかけで森林が失われるということが社会問題化しました。ここに木が倒れているモチーフがありますが、つい30年ほど前、倒木は環境破壊の象徴でした。それが、だんだんと酸性雨の被害が抑えられたこともあって、森林は木材を生産するだけの場ではなく、その他にも水を貯める、二酸化炭素を固定する、多くの方がレクリエーションを楽しむ場といったように、森林の多面的な機能が論じられるようになってきました。自然に近い森林もあっていいではないかと価値観が変わってきたのです。1980年代は、きれいで太さも揃っているのが正しい森として推奨されてきましたが、2000年代は倒れた木や立ったまま枯れた木もあっていい、そこに鳥類や昆虫が来るような楽しむ森があってもいいということになってきました。

今年の夏には、フィンランドの森林所有者に生物多様性の話を聞きました。フィンランドは湿地が多いのですが、こういう湿地を何代にもわたって乾かして農地にしたり、林業を営むということをしてきたのですが、今は、このことによって森の中の多様性が失われてしまうことが問題となっています。水を取り込むという機能が失われてしまうというのです。今では湿地を含む森林や泥炭地を保全するために、契約して補助金を出すという政策に転換しています。これに対して森林所有者は悲喜こもごもで、三世代にわたって一生懸命森林を乾かして農地にしてきたのに、そのままにしておいた方が補助金がもらえるということで、生物多様性が大事、二酸化炭素の話はわかるのですが、なかなかついていけない部分もあるそうです。こうした場合、現場で説明するのは、林野庁の担当者と環境省の担当者が広がりをもって活動して、環境保全に力を入れているのが印象的でした。省庁を渡って横断的にこの問題に取り組み、効果的に森林を守っているのです。

●なぜ生物多様性が必要となるのか

生物多様性を森林から話しましたが、人との関わりとしては趣味や季節、食事など、実にいろいろな場面があります。水をきれいにする、集中豪雨の時に土砂が流れ出さないようにする、二酸化炭素を貯蔵する、土壌の微生物によって廃棄物が循環する、食など材料の調達、それから抽象的な話ですが知恵を授かる、自然界から着想を得て製品やサービスが開発されることもあります。

生物多様性が必要な理由は三つあり、一つは便利であること、生物多様性が生活を営むうえで不可欠であるという点です。二つめは存続ということ、これは一度失ってしまうと復元が難しいということがあげられます。次の世代にわたすために生息している場所から生き物を離して渡すということだけではなく、生きている場所と一緒に渡していくということが大事です。これを生息内保全と言います。生きている場所を可能としているその地域の文化や、文化の多様性ともリンクしていく問題です。これは生物多様性条約とも関連していますが、先住民の文化とか地域社会の文化が、地域にあった固有種とかあまり使われないマイナーな作物の保全が、生物多様性の持続性に寄与してきたということが、条文の中に書かれているのです。三つめは進化です。長い進化のプロセスの中で、自己増殖するプロセスから、生物は子孫を自分とは違うものを再生産するというプロセス残してきたことで、多様性の戦略がでてきたことがいえると思います。

また、2005年に発表されたミレニアム生態系評価に掲げられているものに、生態系サービスについて整理したものがあります。これは、人間が生態系から受けている恩恵を整理したものです。大きく4つあって、供給、調整、文化、支持基盤という形で整理しています。この分類の仕方が西洋的で、自然と人間を分けて分類するというのが、日本人にとってなじみにくいかもしれませんが、一つの整理の仕方であると思います。

●民間企業と生物多様性条約

民間企業にとって、生物多様性がどういうものか、経団連のアンケート分析を紹介しましょう。日本のCSRと海外のそれは、若干ことばの響きが違うように思います。日本の場合は、地域社会と密着して活動するものが多いのですが、海外のCSRは、もっとグローバルな形で貧困、格差、環境などにグローバルに展開する企業としてどういうスタンスか、ということを聞かれることが多いようです。どちらがいいということではないのですが、現状では生物多様性条約の対応については、日本では義務色が強い感じがあります。遺伝子組み換え関連の方からお聞きすると、カルタヘナ等の書類の審査を守っていること等、義務色の感じが強いのですが、COP10に向けてはもう少しWin-Winの前向きの対応で差別化をアピールする対応であってもいいのかと思います。

こういった生物多様性のための取り組みは、大きく三つの考え方ができます。一つは何らかのフレームワークの中の義務であるということです。たとえばグローバルレポートや環境アセスメントには、生物多様性の対応が項目として法的にも入ってきますし、義務の部分でも出てきます。もう一つはリスクの分散という点です。物資を安定的に供給する観点から、生態系サービスの維持することによってはリスクが分散されます。もう一つは多様な価値の分散です。しかし、アンケートでは約2700社以上に聞いていますが、約7割の企業が生物多様性は重要であるが、自社の活動との関連性は低いという結果がでています。

それでも行政や企業活動にとって、生物多様性に取り組むことは、アピールのチャンスとなるでしょう。たとえば、COP9の生物多様性条約会議の展示会場において、ボン市は現地でとれた無農薬のお茶を楽しんでもらおうというブースがあり、ドイツのビール会社は1カートンで1平方メートルの熱帯雨林を守るための寄付をするといった取り組みがありました。ドイツは国民一人当たりの熱帯雨林募金額は世界一となっています。先ほど知恵を授かるという話をしましたが、たとえば早く泳げる、かじきの肌の構造を研究して水着をつくるといったアイデアがあり、トンボを模倣したブラインドの展示がありました。来年のCOP10は、メッセ名古屋という会場があって、国内外の環境技術や自然界からの着想を得たサービスや製品の展示ということがあります。ここはぜひ、民間、報道機関、NPOが展示にも協力してもらいたいと思っています。

●COPとCOP10とは何か?

次にCOPとCOP10についてお話します。生物多様性条約をCBD、締約国会議のことをCOPと言います。来年のCOP10は第10回締約国会議となります。議長国は開会から2年間、来年は名古屋の熱田ですが、会議を始めるその時から次の会議の開会式までの2年間、2012年まで日本が議長国を務めます。生物多様性条約の構造は、それぞれの専門部会から科学技術助言補助機関(SBSTTA)というところを通して、科学者がCOPに対してアドバイスをするという形で、最高決定機関であるCOPに上がってきます。今年の8月にはイラクが加盟を表明し、ソマリアも加盟を準備しており、190以上の国が加盟している中で、大きな国で入っていないのは米国を残すのみとなりました。条文があるのになぜ何年に一回集まるのかというと、条文が確実に実施されているのかどうか、利益配分がきちんと行われているかどうか、締約国が確認するためです。

COPの議論における実際の決議文書を読むと、長くて歯切れが悪くて、わかりにくいものです。たとえば熱帯雨林について主張したい場合は、新委員会が必要となり、主権を尊重しつつ情報の共有を進め、新規の追加的予算があれば新委員会の設置を検討できます。多様な意見を尊重しつつ、共同歩調をとる難しさが根底にあるのです。様々な議論を経た決議文書は、190以上の国の創意という重みがあります。

生物多様性条約とは?

生物多様性条約の目的は、①地球上の多様な生物をその生育環境とともに保全すること、②生物資源を持続可能であるように利用すること、③遺伝資源の利用から生ずる利益を公平かつ衡平に配分すること(略してABS)と、第一条で定められています。三つ目については経済や南北問題に関わる情報があり、2010年のCOP10はこの点が大いに注目されており、そのため海外から来年の会議が注目されています。

CBDの特色は、発展途上国の積極的な参加があること、また先住民の文化が生物多様性に関連しており、マイナーな作物の保全が条文の中に入るというようなことが挙げられると思います。COPの作業計画の分野としては、沿岸・海洋域、内陸水、森林、乾燥地及び半乾燥地、農業、山岳、島嶼の7つの分野があり、COP10では沿岸・海洋域、山岳についておそらく集中的に議論されることになるでしょう。またこれらの分野を横断する事項・課題としては、30近い事項があげられます。

生物多様性の損失の要因は様々ですが、その一つに生息の場の変化があり、農業が最大の要因になることがあります。生息地と農業との関り合いという点は、たとえばコウノトリの生態系を辿っていくと、農業のあり方が出てきて、農薬を使わないようなやり方や灌漑施設など、環境創造型農業といったような人間の側が工夫することでコウノトリを育む事例が挙げられるかと思います。COP10を前に、全ての種は他の種に依存していて、一つの種を滅ぼすことはその先にある数多くの種を危険にさらすというメッセージを広報するようなことも行われています。

ところでCOP10の2010年は節目の年だと言われていますが、それには三つの理由があります。まずは2010年目標ということがあげられます。2002年から活動してきたこの目標が達成されたかどうか、2010年までにこれまで損なわれてきた各指数の悪化についてブレーキがかけられたかどうか、COP10で確認されることになります。2006年に定められた地球規模生物多様性概況というものがまとめられて、その中間報告が出ていますが、15項目のうち、明らかな改善は一つ、その他は特定の種、生息域のつながり等の項目は、多少悪化する傾向にあることが示されています。このことからも2010年目標の達成はかなり厳しいと思います。ポスト2010年目標として、日本国の提案として、ポスト2020年目標、2050年目標が出てきますが、これが今後の議論です。また、二つ目の理由としては、2010年は国際生物多様性の年ということがあげられます。世界各地で普及・啓発面で様々なイベントが行われる予定で、閉会式を石川県でという話もあります。

三つ目は利益配分です。ABSの国際制度については、保全する側と利用・発展させたい側の南北問題がその背景にあり、なぜ合意ができないのか、ずっと議論されてきました。生物多様性の特色としては、熱帯雨林やマングローブなど発展途上国側に資源が遍在しているということがあって、条約には発展途上国が活発に参加し、グローバルに見た場合の保全は行えないという難しさがあります。また、途上国側には、バイオパレンシーという過激なことばがあって、先進国から原産国の遺伝資源を略奪され、ものを取られているのではないかという被害意識があり、植民地時代の話もあいあって根の深い感情的な議論があります。途上国側としては、国の資源を使って利益が出た場合は還元してほしい、還元はお金だけでなくて、技術移転、特許、知識の部分も入ってきます。米国はこういった動きに批判的で、条約を批准しなかったのは、利益配分のところであり、新しいものを作っていこうという気風が損なわれることを懸念しているとも聞いています。

遺伝資源へのアクセスと利益配分については、遺伝資源は人類共通のものだったのですが、認識を変えて、2002年COP6においては自主的なガイドラインとして採択されています。ただしガイドラインですので法的な拘束力はありません。11月にはモントリオールで作業部会がありますが、合意できていないブラケット(括弧の個所)が2500以上あり、これが名古屋の会議で合意されるのかどうかということで注目されています。

今後の課題として、会議のスケジュールですが、最初の一週間は、カルタヘナ議定書締約国会合(MOP)の議論があります。その次に私が今日お話したCOPの会議が約2週間あり、最後の3日間が閣僚級会合となります。私見ですが、COP10に向けての政治的課題としては、ABSのような利益配分とかバイオ燃料、水産資源の分野で火種があるのかと思っています。また、科学的領域としてはポスト2010年目標の設定がありますし、議定書の中では責任と修復といった話し合いが行われる予定です。今後は日本の国内の啓発活動もあるのですが、海外の報道機関とのコミュニケーションも含めて、どういうメッセージを発信するのか戦略的に考える必要があると思います。

●質疑応答(すべてシュパンゲンベルグ氏による回答)

【Q1】:COP10に向けて、日本はどういうイニシアチブをとるべきだろうか。
【A1】:日本政府が既に打ち出している里山イニシアチブというのがあります。これまでは人の影響力が来ないように守っていくということでしたが、それに加えて人手が加わったことに対する持続可能なものが里山イニシアチブだということだと思います。どちらかというと啓発的な意味づけが強いと考えています。どう取るべきかとなりますと、おそらく日本が注目されるのは、ポスト2010年目標と利益配分の方でどういうスタンスをとるか、ということだと思います。

【Q2】:排出権のような考え方を取り入れて、途上国の生物多様性を保全することは可能でしょうか。もし資金的な問題があるとすれば、どういうことでしょうか。
【A2】:取引の話では、いろいろな考え方が出てきていますが、途上国側の利益配分、ABSというものが、ここまではまだ、まとまっていないわけです。そうなると、何らかの基金とか、税金があったとしても、条約の中で議論されてうまくいくのかどうか、現実的な施策は厳しいのではないかと思います。

【Q3】:食物連鎖でコウノトリの話がでてきました。ビジュアルで目にするものがわかりやすいが、ビジュアルではないような微生物も入るのでしょうか。
【A3】:利益配分の中では微生物が中心的だと思います。また農業の中ではイニシアチブとしては、受粉とか土壌多様性で、たくさんの微生物に関わってくる問題で、議論されています。

【Q4】:全く素人的な質問ですが、生物多様性という意味が人によって、国によって違うのではないでしょうか。どうやって折り合うのか気になるのですが。
【A4】:ワシントン条約やラムサール条約のような分かりやすい部分ではなくて、そこでカバーしきれない部分で生物多様性条約があります。わかりにくい微生物等の問題も含みます。実は条約では、生物多様性のそもそも論のような議論は、あまり出てきません。条約の中ではそういうフレームワークの中にある遺伝子資源とか国際的な利益のぶつかり合いがほとんどで、微生物から発生した特許の配分のあり方とかそういう話になります。定義については、ほとんど議論にはなりません。

【Q5】:農業のことでおうかがいします。湿地や森林を壊して農地にするという議論ではなくて、今ある農地で、商品作物が進化していくことは生物多様の観点でどう語られるのでしょうか。
【A5】:そもそも農業が生物多様性に与える影響ということでは、農業活動の中の多様性と理解している場合もあったり、農作業が行われていること自体が他の森林や湿地に影響を与える場合もあったり、今でも線引きはあいまいです。生物多様性条約の一つの線引きとしては、先住民の伝統的な、地域社会の貢献ということが問題になります。