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2009/12/01更新

第25回メディアセミナー「遺伝子組み換え技術の国民的理解の増進について」開催

バイテク情報普及会は10月20日、筑波大学遺伝子実験センター鎌田 博教授をお迎えして、第25回メディアセミナー「遺伝子組み換え技術の国民的理解の増進について」と題するセミナーを開催しました。鎌田教授が現在行っている調査研究の中間報告を中心に、国民的理解を増進するために教育現場において何をすべきかご講演いただき、その後、活発な意見交換が行われました。

■日時 10月20日 午前の部10時30分~(一般対象)、午後の部14時30分~(メディア対象)
■会場 東京大手町・サンケイプラザ
■講師 筑波大学遺伝子実験センター 鎌田 博教授
■講演資料 遺伝子組み換え技術の国民的理解の増進について
~科学技術振興調整費による調査研究より~
※著作権の都合により一部掲載していない図表がございます。予めご了承ください。
※資料の転用・転載はご遠慮ください

セミナーのポイント

  • 日本の遺伝子組み換え食品に関する法的規制や表示制度は、世界に誇れるほど完備されているにもかかわらず、消費者の不安はなかなか減らない。そこで、国民的理解を増進させるために何をすべきか、平成20年度から21年度にかけて文部科学省の科学技術振興調整費による「遺伝子組み換え技術の国民的理解に関する調査研究」を行うこととした。
  • 海外の調査としてこれまでEU、中国、東南アジアに行き、関係者にインタビューを行った。EUではポルトガルで商業栽培を行っているが、共存法が整備されており、栽培区域を定めてBtトウモロコシの栽培が行われている。消費者向けのコミュニケーションを関係者全員で協力しながら行っている。
  • イギリスは最近になって遺伝子組み換えの受容度が上がってきている。科学を伝えるリテラシー教育が充実しており、科学博物館で企画展示が行われ、一般の人が科学技術を理解しやすいような環境づくりに力が入れられている。DEFRAやFSAも国民理解に向けて積極的であり、FSAの調査によるとGMOの安全性に問題があると考えている人の割合はかなり低いことがわかる。
  • 中国では様々な立場の人に会ってインタビューしたが、人によって受け止め方が違う。遺伝子組み換え農作物の開発・実用化に向けて積極的に取り組んで行くという半面で、環境影響評価については慎重に進めたいとする意見もある。中国の農家や消費者は現段階では遺伝子組み換えについてあまり知識はなく、関心も低い。今後の広報活動や教育が大きな課題である。
  • フィリピンではウィルス抵抗性パパイヤとBtナスの実用化が間近である。関係者はわかりやすい説明資料を作成して、広報活動を行っている。また、IRRIのゴールデンライスは隔離ほ場試験が終わった段階で、予定よりも遅れている。
  • 日本では今後、社会受容を目指して、学校教育の充実、食の安全性のリテラシー教育が重要となる。教育現場では、教科書や教員の意識など様々な問題がある。高校で教育目的遺伝子組み換え実験を広めていきたいが、文部科学省の予算が足りない。いろいろな組織が動いて活動を進めているが、もっと計画的に進めていかなければならない。今後、政策提言として報告書をまとめていきたい。

鎌田教授より、調査研究に至った経緯、海外動向の中間報告、国民的理解の増進に向けた今後の取り組みの三つに焦点を当てた講演が行われました。

●国民的理解を向上させるために調査研究を開始

遺伝子組み換え農作物が輸入されて13年、日本が輸入している穀物の多くが、今や遺伝子組み換え農作物だと考えられます。日本で遺伝子組み換え農作物が流通するためには、環境影響評価や食品・飼料についての安全性評価など、法律において細かく定められた確認項目をクリアしなくてはなりません。また、遺伝子組み換え実験や遺伝子組み換え生物の開発・利用について、法的な規則のもとで、安全を慎重に確認しながら進められています。しかし、こうした厳しい規制は消費者にはあまり知られていないようです。

遺伝子組み換え食品の輸入についても、輸入時の検査が厳重に行われており、国が安全性を確認したものしか流通させてならないことになっています。遺伝子組み換え食品の表示制度についても、消費者の知る権利を守るという観点から制度が完備されています。また、表示が正しいことを検査する方法も確立されています。世界に誇れるほど、法的規制やモニタリングもきちんとしているのに、遺伝子組み換え食品について消費者の不安は、徐々に減ってきてはいるものの、なかなか減らないのが現状です。

食品安全委員会の食品安全モニターによる調査結果をみると、「不安を感じている理由」では「科学的根拠に疑問」とする理由が多いことがわかります。これだけ国として科学的評価に基づいて様々な観点から評価しているのに、「科学的根拠に疑問」とされる理由が多いのは、どうしたことでしょうか。このような現状から遺伝子組み換え技術の国民的理解を増進させるために何をすべきか対応策が講じられなければなりません。そこで、文部科学省の科学技術振興調整費の中の重要政策課題に対する機動的対応の調査研究として「ライフサイエンスの先端科学技術が社会に与える影響の調査研究」という項目があり、私を含めた6名の研究者で「遺伝子組み換え技術の国民的理解に関する調査研究」として応募したところ、採択されました。平成20年度から21年度の2年間かけて調査研究を行い、本日は私の調査「GMO理解推進の内外動向調査」について、中間報告をさせて頂きます。

●諸外国の状況

諸外国の調査として、平成20年度12月にシンガポール、フィリピン、タイを訪問して、政策担当者・研究者等と面接して関連情報を収集し、今年の2月にはEU、3月に中国を訪問して面接調査を重ねました。平成21年度はこれからインドを訪問、アフリカ、オーストラリアの調査を行う予定です。

●EU調査(2009年2月8~16日)より

EUの調査にあたっては、事前情報として、2008年12月にドイツ、ポルトガル、フランスの担当者が訪日して農林水産省で意見交換会が行われた際に、各国の意見を聴くことができました。ポルトガルでは反GMOグループが遺伝子組み換えほ場破壊を行うと、これに対して国民が強く反発するという、EUにおいては例外的な国だということでした。ポルトガル政府として国民の遺伝子組み換えに関する意識調査を続けていますが、多くの国民が受容しています。学校では生徒を対象に積極的に教育、普及活動を行って努力しています。一方、ドイツではしばしば遺伝子組み換えほ場破壊が起こりますが、それに対して世論は特に反対しません。EUの将来にとって、食品としての遺伝子組み換え作物は不必要だが、肉の生産にとっては必要で、域外からの輸入はするが、域内での栽培に対しては反対しているということでした。また、研究分野においては、ドイツでは研究者や企業が海外に流出してしまい、フランスでは基礎研究は極めて活発で予算も拡大していますが、応用や実用化は進まず、競争力に悪影響が出ていることが懸念されているということでした。

ここで、私はポルトガルに注目して2009年2月に訪問し、様々な関係者から情報収集を行いました。ポルトガルではEUの中で遺伝子組み換え農作物の商業栽培をしており、農家が望めば実際に栽培できるよう、政策的に対応して共存法という法律を整備しています。遺伝子組み換え農作物の栽培を有機栽培と同じ地区で実施するために、隔離距離をどう取るかなど、法律に則って栽培できるようにしたのです。小規模農家でも対応できるよう、関係する農家が同意すれば、一定の地域を一括して栽培区域(GMとnon-GMが混ざった状態)として認定します。承認を取るためには多くの申請書の提出や訓練を受ける必要があり、なおかつ栽培を始めてからも多くの書類の作成が義務付けられています。

ここで驚いたのは、遺伝子組み換えと慣行栽培の農作物を全く区別せずに集荷し、販売するし、値段も変わらず販売されているという点です。組み換えの表示もちゃんと整備されていて、混ざっているものはもちろん、組み換えの表示となります。農家としては、栽培のコストが下がれば、それだけ利益も増えて、農家の収入が上がったという声も聞かれました。また、EUが遺伝子組み換え農作物栽培の承認をなかなかしないので、栽培できるものが少ないという声もありました。消費者向けのコミュニケーションは熱心に行われており、栽培農家がTVに出たりしています。関係者全員が協力しながら一緒になって取り組んでいることが印象的でした。

次がイギリスですが、遺伝子組み換え農作物の輸入・栽培許可等については制定された規則どおりに運用されています。一部の情報によると最近になって、遺伝子組み換え農作物を受け入れるように世論が変わってきたそうです。首相が変わったからというわけではなく、昔から必要であれば受け入れることとなっていたとのこと、ここで受け入れるのは米国の遺伝子組み換え飼料のことです。米国からの家畜用飼料が入らないと畜産業が成り立たないということが主因です。政府関係者に、ポルトガルの農家の意見としてEUの審査が遅いという話をすると嫌な顔をされました。
イギリスでは遺伝子組み換え教育というよりも、科学を伝えるというサイエンスリテラシーの教育を重視しています。たまたま訪問した際に、遺伝子組み換えの特別展示を科学博物館で開催していました。夜の8、9時までやっていて、入場料は無料です。遺伝子組み換え農作物について賛成も反対も含めてパネル展示しており、コンピュータのパネルを操作すると次々と自分で勉強できるようになっています。最後のところで、受け入れるか受け入れないか、というタッチパネルを選ぶようになっていましたが、ここでは受け入れる人の方が多くなっていました。

イギリスでなぜ、このような活動が活発かといえば、BSE問題がありますし、2003年はカビ毒の話が出て、有機栽培トウモロコシの廃棄処分の緊急命令を出しました。こういう問題を常に国として気にかけており、遺伝子組み換えについても取り組んでいるのではないかと思います。DEFRA(英国環境・食料および農村地域省)とFSA(英国食品基準庁)のレポートでは、遺伝子組み換え農作物(飼料)がなくてもやっていけるのか実際に計算して、国民に対してレポートを提示するという活動をしています。これを外からみると、遺伝子組み換え受け入れ国のようにみえてきます。

FSAが四半期ごとに実施している国民に対する追跡調査の結果、食品中に遺伝子組み換え原料が含まれることを食品安全性の問題と考えている消費者はわずか21%に過ぎませんでした。また、対面調査で「食に関して不安に感じていることは何か」と質問された際に、遺伝子組み換え食品と答えた人の割合は、わずか4%に留まっています。これは少なくとも不安と思っていないということでしょう。国がどのように政策を決めているか、それをうまく伝えれば、こういう結果になるのだろうと思いました。

●中国現地調査(2009年3月15~19日)より

中国の環境省の行政担当官によれば、中国にはきわめて貴重な生物多様性があって、これを守るのが大切で、環境影響評価の審査を慎重に進めているということでした。ものによっては10年くらいかかるといいます。特にダイズは野生種がいるのできわめて慎重にならざるをえませんとのことでした。中国は遺伝子組み換え農作物の栽培国であり、輸入国でもあります。そこで、栽培に伴う長期モニタリングをして調べているという状況です。その一方で、担当官の意見として、サイエンスとして遺伝子組み換えの発展は大事だということは共通理解であるということはよくわかっている、しかしそんなに急いで栽培を進めようとはしていない。リスクが予想された場合、産業利用は停止するし、消費者がもし遺伝子組み換え食品を食べたくないといったら、使わせないということでした。彼によればリテラシー教育等は現時点では無意味だと思うということでした。

次に農水省にあたる中国農業アカデミー(バイテクリサーチセンター)の担当官に会いました。ここでは遺伝子組み換え稲や樹木の開発を進めています。BTワタの商業栽培について聞いたところ、2007年12月で1109件ということです。この数字は、中国は栽培場所ごとに認可しているので数は多く見えるのですが、GMOイベントでみると少数だということです。中国ではグリーンピース等の反対派の活動は活発ですが、メディアは賛成も反対も広く情報を発信しています。GMOを積極的に支援していきたいのですが、環境影響評価に時間がかかりすぎるのが問題だということでした。

次に中国民族大学の教授のインタビューです。彼によると大規模商業栽培を認めているのはBtワタのみで、小規模商業栽培を認めているのはトマト等6、7の植物種だそうです。一方で、遺伝子組み換えナタネ、ダイズは大量に輸入されており、遺伝子組み換えトウモロコシは間もなく商業栽培が承認されます。遺伝子組み換え医薬品については厚生省の担当であり、環境影響も含めて、そのリスクアセスメントは全く異なります。今後はバイオセーフティについて、センターが立ち上がるなど、力を入れていく分野だそうです。また、表示は法的に整備されていますが、実際には使われていないということです。

中国ではBtイネの試験栽培もやっていて、現在、環境影響評価の5つのフェーズの4段階目にあります。法規制としては国として一元管理となっており、ちょっと疑問があるとまたデータを出すので、10年近くかかるのではないかということでした。イネは野生のイネもあるので、なかなか慎重にやっているようです。また、中国は家畜飼料用のトウモロコシは国内生産で十分に足りているそうです。中国の農家は遺伝子組み換えについてあまり知識はなく、ただ儲かるからやっていて、遺伝子組み換え品種をどんどん交配して地元で安い種子を販売しているようなこともあるそうです。特許の問題はどういうことになっているのか、わかりません。

中国の現地調査で得た全体的な印象は、人によって、ニュアンスを含めてかなり違うということです。中国全体として遺伝子組み換え農作物の開発・実用化に向かってこれからもかなり積極的に取り組んでいくものと思われますが、環境影響評価の段階で困難が予想され、商業栽培までにはかなり時間がかかるのではないかと思われました。また多くの国民はGMOのことは正確には知らず、あまり関心もあるとは思えません。今後は社会受容に向けた広報活動や教育が大きな課題になってくるように思っています。中国農業アカデミーのBtイネの研究ほ場を見ましたが、冬だったので実際にイネは栽培されていませんでした。特に厳重に隔離されているわけでもなく、誰でも入れるようなところで驚きました。

●東南アジアの調査より
フィリピン・シンガポールの事例調査(2008年12月16~18日)について

フィリピンでは、ウィルス抵抗性パパイヤが隔離圃場で栽培実験が行われており、もうすぐ実用化される予定です。また、熱帯地方のナスは虫に弱いことから、Btナスの開発も進んでいて、国立大学の学識者とインドの会社と共同で実用化する予定で進められています。現在、安全性データをインドで取っており、栽培者や消費者とも話し合いを進めていくそうです。

フィリピンの社会受容については、遺伝子組み換えパパイヤと遺伝子組み換えナスの分かり易い説明資料が作成されており、農家の理解が進むように関係者は努力しています。なぜ必要なのか、どういうものか、誰がどのような予算で開発したのか、環境影響評価と食品としての安全性について、簡潔にわかりやすく説明されています。また、フィリピンのゴールデンライスですが、現在、隔離ほ場試験が終了した段階で、当初の予定よりも遅れています。IRRIは国際機関なので、世界中の国に対応して、いろんな品種と交配して育種しています。また、その他の組み換えイネは、耐虫性、カビ病抵抗性、乾燥耐性、鉄高含有量などが開発中で、日本で発見された遺伝子や日本で開発が断念されたものがフィリピンにわたっています。IRRIでは社会受容に向けて、教育機関に広報活動が行われており、システマティックに展開されています。

シンガポールは、政府予算で研究はしていますが、遺伝子組み換え作物の実用的な開発は行われていません。狭い国土ですから栽培もしておらず、あくまで輸入国です。表示は義務付けられていません。食品としての安全性はCODEXを参照としており、anti-GM活動も低調です。遺伝子組み換えについては、農水省の政策担当者が科学実験等を通して技術や知識の理解を深め、また、国の委員会であるGMAC(Genetic Modification Advisory Committee)の中にPAのサブコミッティまでつくって国民に対して責任を持って理解増進活動をしています。遺伝子組み換えに関してはGMACが全て一元的に管理し、科学教育も含めて進めているので、国民理解も定着しています。もしマスメディアが間違えた情報を流したら、クレームを伝えるのもGMACの役割です。

タイは、渡邉和男氏が調査を行っていますが、タイでは2000年初頭に、ウィルス抵抗性パパイヤのほ場試験まで実施していました。しかしある日、グリーンピース等の反対派から栽培禁止の請願書を国王が受け取ってしまい、国王が請願書を受け取ったという行為そのものが、この時点で試験栽培を停止するという指示と受け止められ、野外栽培試験をやめてしまいました。今も政治的に混乱しているので、当面は栽培されないだろうということでした。

●世界各国の遺伝子組み換え開発から遅れをとった日本

現在、世界の遺伝子組み換え農作物開発は環境耐性に力を入れる傾向にあります。オーストラリアでも干ばつ耐性コムギの開発が進められています。こういう中で、日本はどうするのか、なかなか開発が進まないのが現状です。今年になって、私の組織で耐塩性ユーカリの開発に取り組んでいるのですが、この話をアフリカの人にしたら、アフリカに持ってこないかという話がありました。我々としては技術開発だけでなく、環境影響評価や管理についてパッケージとして緑化を支援していきたいと思っています。

現在、日本で開発されたもので商業栽培されているのは、サントリーの青いバラ以外はありません。世界トップクラスの遺伝子関連技術を持っているわが国が、なぜだろうと思います。よく言われるのは、ほ場試験のハードルがすごく高いということです。遺伝子組み換え植物の育成や隔離ほ場試験は、EU内の多くの国でも多数実施されていますが、実施例では日本は少ないのです。日本では、隔離ほ場試験は第一種使用(封じ込め措置を施していない使用)として大臣承認対象となっていますが、EU、オーストラリア、アジアなどの多くの国では、そこまで求められることはありません。一定のリスク(環境影響)の可能性を認めつつ、試験研究としての隔離ほ場試験を実施しない限り、科学的データも蓄積されず、日本は立ち遅れることになります。このため基礎研究用の隔離ほ場をできるだけ多く設置し、数多くの試験栽培を実施することが重要です。

●社会受容を目指した教育について

日本における遺伝子組み換えの社会受容を向上させるためには、どうしたらいいのでしょうか。昔は啓蒙活動と言われて、研究者から一方向の情報伝達でしたが、今は社会受容を目指して、より理解を深めたサイエンスカフェ等の活動など、リラックスした状況で双方向のコミュニケーションという形が求められています。さらに体験型イベントなど、活動の形も様々です。たとえば、キッチンバイオカフェという活動では台所で遺伝子組み換えの話を聞こうと遺伝子組み換え材料のマーガリンを使ったり、ものを一緒に見たり聞いたりする活動を行う必要があります。

内閣府が平成20年7月に行った「遺伝子組み換え技術による研究開発成果の普及に関する意識調査」の中の、地方自治体職員に対するアンケート調査をご紹介しましょう。遺伝子組み換え作物・食品の安全性について聞いたところ、地方自治体の食品安全部門担当者は、安全と認識する割合が8割以上と多いのですが、消費生活関連部門担当者はこの割合が逆転します。所属部署で認識が異なることがわかります。消費生活関連部門の担当者は、こういう意識で栽培禁止条例を作っている、これが大きな問題だと思います。

では、消費者はどう思っているのでしょうか。食品安全モニターアンケートによる調査結果で、平成15年の調査、平成20年の調査を比較したところ、発がん性の可能性が高いと感じる要因は、平成15年度の調査では遺伝子組み換え食品と答えた人が、ふつうの食べ物と答えた人よりも多かったのですが、平成20年度は逆になっています。時代とともに、勉強して、消費者が変わっていく典型例だと思います。

遺伝子組み換え農作物・食品について、社会人や一般人を対象とした課題は、間違った報道はそのまま野放しにしないということが大事だと思います。そのままにしておくと、国民理解そのものが進みません。食品の安全性に関するリテラシー教育を促進していかねばなりません。

また、学校教育も重要です。先の内閣府の意識調査で、中学・高校教員に対するアンケート調査を行っていますが、「遺伝子組み換え作物・食品という言葉から受けるイメージ」の中で、約70%近くが危険だと思っています。ただ、教科ごとによって意識は異なり、家庭科や社会科の教員が危険だと思っている人が多いという結果です。理科や生物の教員では安全と答える人の割合が増えますが、学校教育における遺伝子関連授業の実態は、高校は生物Ⅱで履修するのですが、高校生の20%くらいしか生物Ⅱを履修しないと言われています。一方で、家庭科は男女必修科目ですが、そこでは人体への悪影響が言われ、社会科も独占企業がやっているといったような記述があります。

家庭科の副読本の中には、遺伝子組み換え食品をフランケンシュタイン食品として記述されているものもあり、副読本として不適切なものが多いのが現状です。副読本として生徒たちに配布されるものは、国のチェックはどこにも入っていないので、その点も問題です。食品安全委員会委員長が「適切な副読本を作成中であり、来年には配布予定」とコメントされていますので、こちらを期待したいと思います。家庭科の先生たちがWEB情報も含めて正しい情報はどこに?と戸惑っているような状況も見受けられますので、関連学会、CBIJ、STAFF等でパンフレットも配布していますし、WEB情報も発信しています。また、群馬県で出している「遺伝子組み換え食品ってどうなの?」というパンフレットも、日本中の高校生に配ってほしいくらい、非常によくできた本です。

学校・教育現場対象の今後の課題として、教員の意識の問題、教科書とカリキュラムの問題があげられます。ここで日米の教科書を比べてみると、大きさ、厚さ、内容、すべての点で日本の教科書が劣ります。このような状況でどうすればいいのでしょうか。特に日本の高校生物の特徴として、人間の生物学、食品の生物学は含まれない、生命倫理はましてや入れない、バイオテクノロジーや遺伝子組み換えについては含まれない点があげられます。日本の生物学は大学の受験競争のための純粋な学問であり、いわゆるお勉強に留まっているのではないでしょうか。社会とむすびついていないため、卒業したら速やかに忘れられる運命にあります。ちょっと古いデータですが、OECD加盟国の国民の科学技術への関心を比較すると、日本は他国に比べて全ての分野で低いことがわかります。

科学リテラシーが低い人、つまり消化吸収に対する基本的理解がないような人は、遺伝子って何なのかという中学高校レベルの基本的なことがわかっていないようです。このため、「遺伝子が入っている食品を食べるのが怖い」とか、人の遺伝・生殖に対する基本的な知識がないと「食べ続けると子孫への影響が心配」ということになります。欧米では文化としての科学が根付いており、日本はこれができていないのが問題です。今年、新学習指導要領が新しくなって、2013年から生物の教科書が大きく変わるということです。そこで、生物の教科書では、遺伝遺伝子DNAを中心に展開して、生活との触れ合いについても取り込んでいくということなので、もう少し生活とのかかわりが出てくるだろうと期待しています。ただし、家庭科の教科書はどのように変えたらいいのでしょうか。その点の問題は残っています。

米国の遺伝子組み換え教育を調べてみると、GFPを用いた教育目的の遺伝子組み換え実験が2000年頃から行われているということがわかりました。教育現場で安全な実験を行い、実際に手を動かして実験をすることは非常に意義深いことです。日本では2002年の組み換えDNA実験指針の改定で、「教育目的組み換えDNA実験」として定義されました。この代表的な実験はGFPを用いて大腸菌を光らせる形質転換実験ですが、この実験を広めようと2001年に筑波大学と東京農工大学で教員対象教育研修会が開かれ、全国に広がっています。しかし残念ながら、予算不足によって高校生の理科室ではなかなか普及しないのが現状です。キットが若干高くて、8名で班に一つキットを配布するとしても、一クラスで5万円以上かかります。これでは、理科の年間予算をすべて使いきってしまうということで、とてもできないというのです。それにしても文部科学省の予算は少なくて、日本の教育予算のGDP比はOECD加盟国28カ国中27位です。これで国がサポートするというのは無理なので、県レベルでコンソーシアムをつくって実験機材の貸し出しが行われたり、CBIJ(バイテク情報普及会)からキットが届けられたり、学会としても協力して大学の先生が学校に行ったりして、実験をしてもらっています。実験では遺伝子組み換え食品についても触れられ、家庭科の先生にも参加してもらうこともあります。

このように日本のいろんな組織が動いて、活動を進めているのですが、それぞれ単独で動くような面もあって、もっとシステマティックに動くためにはどうすればいいのか、ということが問われています。今年に入ってからは、カルタヘナ法の検討が行われ、第1種使用の運用がどう変えられるか、隔離ほ場をどうするのか、という検討が行われています。また、遺伝子組み換え植物の基礎研究中拠点の設立も検討されています。教科書の検定も進み、社会受容に向けた多様な取り組みも行われています。このような状況の中で、どのように進むべきか、今後、提言をまとめていきたいと思っています。この中には教育に対する提言、研究者に対する提言、国民的理解増進に向けたステークホルダー間連携に関する提言を盛り込みたいと思います。そして最後に、日本の農業、食糧をどうすればいいのか政策に対する課題の明示として、共存法の早期確立などを含めて、政策提言としてまとめていきたいと思っています。

●午前の部の質疑応答

【Q1】:砂漠に水を巻くような作業と思いながら、栄養士に対して教育活動を進めている者です。メンデルの法則を習っていないような方がいる現状で、どこまでわかってもらえるか。家庭科の先生のリテラシー向上も考えて頂けないかと思います。
【A1】:年齢にもよりますが、そういう方も含めてどうしたらいいのか、なかなかいい方法はありません。栄養士には学校で食品リテラシー教育をやってもらえばかなり変わると思います。もう一つ、講演会にも出ないようなサイレントマジョリティの方々をどうすればいいかという問題もあります。イギリスの科学館のように偶然入った見学者が勉強できるようなチャンスがどれだけ作れるのか、あちらの科学館は夜まで開いていましたから、そういう試みを重ねていくことだと思います。

【Q2】:大学や短大の教育をどうしたらいいと思われますか。
【A2】:私も気にしています。教養教育が一時おかしくなって、システマティックになっていないのです。これは各大学の取り組みになりますが、食の安全は日常に関わる問題ですから、理系文系に関わらず、教養として教えていけるようになればいいと思います。

【Q3】:国と会社、大学が力をあわせて攻めていくしかないと思います。理学部と農学部の卒業生が、もっと仕事ができるようなところを増やしていかないといけないと思います。
【A3】:自分がやってきた研究がなかなか社会生活に結びついていかないというところに問題があるのだと思います。最近の傾向として、理学部の学生は遺伝子組み換え植物を栽培してみたい、基礎研究よりも使ってみたいという学生が多いようですが、そういった学生にどんな就職先があるのか。日本で遺伝子組み換え作物開発企業はほとんどないので、学生たちは就職では全然違うところに行きます。まず、これをなんとか解決したい。現在遺伝子組み換え生物の環境影響評価をやらなくてはいけないところで、野外栽培ではイベントごとに認可が必要だが、これが現実的ではないと思います。日本で開発されたものが野外で栽培できる仕組みになっていないし、ここで多数の系統(イベント)を調べないといいものが選べないのです。隔離ほ場試験をいかにシステマティックにするか、法の運用の見直しや検討が必要です。それから食品の審査ですが、日本は食品安全委員会がきっちりやっています。日本の会社はまだ自社開発したもの(組み換え農作物・食品)を実用化した経験がないので、日本発で本当にいいものを作ってそれを実用化するという第一例を早く作らなければなりません。

【Q4】:政策提言の中で、国がきちんと姿勢を示すという最後の提言がありました。しかし農林水産省は安全であるという姿勢はもうしっかりしています。他方で消費者は非科学的な姿勢ですが、このギャップをどう埋めるのでしょうか。
【A4】:私は、農林水産省がDEFRA(英国環境食糧農林省)のように姿勢を明確にしないと、日本として遺伝子組み換えが必要なのかそうでないのか、はっきりしないと思います。どんな運動でも心情的に反対する人がいて、それを変えることはできないので、我々は我々の姿勢として、正しい情報を正確に伝えていくしかありません。メーカーとしてもコミュニケーションをどうすべきか、考えて頂きたいと思います。

【Q5】:教育は10年20年かかるという人もいます。その一方で、来年再来年という短い期間でこれから食料需給が逼迫していく中で、早く実需者と消費者のギャップを埋めるためには何が必要でしょうか。
【A5】:われわれ大学ができることが教育ですが、メーカー側として商品の中でどのように表示していくのかという問題もあると思います。これまでnonGMという誤解を導くような表示を各社は選択したのですが、メーカーはそのnonGMの表示について説明をしていないと思います。それは会社の責任です。会社のできること、情報発信の内容を考えて、教育は大学で考えて、そうすることで全体的に考えてもらえるような社会にしていきたいと思います。

【Q6】:教育機関において予算が無いというのはよくわかります。そこで学校によっては副校長などの立場で理解のある人の裁量で、保護者をゲストアドバイザーという形で声をかけて授業をやってもらうというケースもあります。しかし、先生が転任すると、それが続かない。そういう仕組みを国が支えていくということもぜひ考えてもらいたいです。
【A6】:生物多様性のシンポジウムなどで活躍している、「さかなくん」という方がいます。彼は人に伝えるという力がすごいと思います。そういうトレーニングがあれば受けたいくらいです。遺伝子組み換えの場合も「GM君」というようなキャラクターの先生がいれば、社会的な宣伝効果が高いと思います。それから予算だけはどうにもならないので、実験キットを簡単に手に入れられるとか、県の理解があってサポートできればもっと良くなると思います。岐阜県ではコンソーシアムを作って、県の予算で県下のすべての高校で組み換え実験をやるという目標をもって進めています。そういう地道な活動を重ねていければいいと思います。

●午後の部の質疑応答

【Q1】:オーストラリアの事例として旱魃耐性の小麦の話がありました。アメリカで遺伝子組み換え小麦をつくらないのは、どう思われますか。
【A1】:ある開発企業が乾燥耐性を付与したトウモロコシの開発を行い、これから日本で申請されますが、今まで無かったものなので考え方を含めてきちんと整理しなくてはならないと思います。まずはトウモロコシで許可を得て、それからいろんな国が食品安全をどう考えるのかをみて、小麦ということでしょうか。今、オーストラリアは干ばつがひどくて小麦の問題が切迫しているので、こちらは国をあげてやるので、先に実現するかもしれないと思います。遺伝子組み換え食品を生で食べる、ということで、遺伝子組み換えパパイヤは食品として承認されたので、これを消費者が受け入れるのか、そういう感触がわれわれとしても気になるところです。観光でハワイに行ったら食べているわけですから、それが日本に輸入されて受け入れられるかどうかだと思います。

【Q2】:教育の問題のお話を聞いてショックを受けましたが、何で日本の遺伝子組み換えの現状がこのような馬鹿な事になっているか。いつも聞きたいと思っていました。日本の先端技術で国際共同研究をして、遺伝子組み換えイネとかどんどん作っていくのでしょうか。初期のころ、遺伝子組み換えの研究がワッとはじまって、ワッと終わった感じがあります。消費者としては研究がない中で、外から入ってきたものを受容といわれても、どんなものでしょうか。
【A2】:日本では1980年代、バイオテクノロジーが話題になって、いろんな開発をしてきました。その中の一つに遺伝子組み換えがありましたが、日本ではいろんな問題を抱えていました。当時は、国がお金を出しているのだから、特許をとって権利を確保してから、外国で使えるようにと言われました。特許を取るとなると、遺伝子だけの特許ではすまないので、機能を調べなくてはならない。そのためには栽培しなくてはならない。基礎研究をして、栽培までいったのは、とても少ないので、特許がとれない、それで、遅れをとった部分があります。農林水産技術会議で遺伝子組み換え農作物の5年ロードマップを発表して、稲ゲノムをやった結果として、今後どうやるのかを公表しました。たとえばフィリピンでは、この研究はこの農業でこの場面で使うのだというのがわかりやすいのですが、それが日本ではどの場面で使うのか、あまりいいアイデアがなかったのです。大企業がやっているような除草剤耐性といったような大きなメリットはありません。日本では農業というと儲けなければならないので、遺伝子組み換えだと割が合わない、遺伝子組み換えは使わないでもいいのではないかということになってしまいました。もちろん外国で活用されることでもいいのです。篠崎先生たちの開発事例のように、諸外国で国際貢献をしようとしているケースもあります。日本のカルタヘナ法のルールについても見直しが行われて、国際スタンダード程度になれば、もう少し実用化に向けて何とかなるように思っています。