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2009/11/06更新

バイテク情報普及会 第24回メディアセミナー「食と健康の科学技術の未来を考える~オーストラリア ロイヤルメルボルン工科大学 バイオサイエンス最新研究についての講演~」を開催

バイテク情報普及会は9月8日、「食と健康の科学技術の未来を考える~オーストラリア ロイヤルメルボルン工科大学 バイオサイエンス最新研究についての講演~」と題した第24回メディアセミナーを開催しました。講師として、オーストラリア ロイヤルメルボルン工科大学准教授のピーター・スモーカー博士、および同大学准教授のアンドレアス・ロパタ博士をお迎えし、スモーカー博士には家きんなどを通してヒトに感染するサルモネラ菌・カンピロバクターのワクチン研究について、ロパタ博士には海産物アレルギーや有害反応について診断および分子的アプローチの側面について、バイオサイエンス最前線からご講演を頂きました。

■日時 2009年9月8日14時~17時
■会場 ベルサール八重洲ルーム5
■講師 ピーター・スモーカー博士(オーストラリア ロイヤルメルボルン工科大学准教授)
アンドレアス・ロパタ博士(同大学准教授)
■講演資料 「食用動物における感染症のコントロール」(スモーカー博士)
「海産物に対する有害反応―診断および分子的側面」(ロパタ博士)
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セミナーのポイント

■スモーカー博士ご講演

  • オーストラリアでは家畜に対するサルモネラ菌の感染予防ワクチンが幅広く商業生産されつつあるが、カンピロバクターおよびその他多くの病気に対するワクチンは、未だ開発されていない。
  • カンピロバクター感染予防ワクチンの開発のため、汎用目的のワクチン供給システムとして、組み換え技術を用いて、サルモネラ菌を運搬体として使用する可能性について、検討を行っている。

■ロパタ博士ご講演

  • 海産物の世界的な消費頻度の高まりの中で、水産加工業者の間で海産物に対するアレルギー反応の増加や、海産物の汚染物質による人体への悪影響例が頻繁に報告されるようになってきている。
  • バイオテクノロジーを用いた組み換え技術の進展によって、海産物アレルギーの診断が改善し、さらなる分子アプローチによって、海産物アレルギーに対する免疫療法の開発につながる等、新たな可能性を示している。

●まず、細菌学ワクチンの専門家であるピーター・スモーカー博士より「食用動物における感染症のコントロール」と題するご講演がありました。

食用動物には、様々な細菌、寄生虫、ウィルスに感染する可能性があります。感染によって動物が病気になり、それによる生産量の減少を抑えるためのワクチン摂取や治療が必要となるものもあれば、動物では症状が見られないものの、食物連鎖によりヒトに感染して、病気を発症させるものもあります。

家きんにおける二つの代表的な細菌性疾患は、サルモネラ菌とカンピロバクターです。いずれもヒトへ感染し、病気を発症する可能性があります。サルモネラ菌は、家きん類で病気を起こすことがありますが、通常は家きん類において症状は現れません。一方、カンピロバクターは、非常に高いレベルまでニワトリに感染する可能性がありますが、こちらも明らかな症状は現れません。しかし、この二つの細菌がいずれもヒトに感染した場合、胃腸炎(およびその他の合併症)を引き起こす可能性があります。このため家畜の感染をまず防いでから、ヒトの感染を防ぐことが重要となります。

サルモネラ菌は数百の血清型で構成されており、人畜両方に感染する可能性があります。一方サルモネラ症を発症するネズミチフス菌は、家きんに慢性的に感染することがあります。この場合も、感染して家きんにおいて症状は見られないことが多いのですが、汚染された食物を通してヒトへ感染すると病気を発症します。

カンピロバクターは、ヒトへ感染すると胃腸炎またはギランバレー症候群(運動障害を起こす抹消神経疾患)を引き起こします。カンピロバクターの汚染を減らすための対策として、と蓄後の塩素消毒などが挙げられますが、コストがかかり製品の品質を低下させることから消費者にとっては好ましい選択ではなく、ワクチンで体内のカンピロバクターを防ぐことが最適な解決方法となります。

南半球のオーストラリアにおいては、感染ピークは北半球と逆で、サルモネラ菌のピークは夏の終わりの3月、カンピロバクターは暑さに耐えられるため感染ピークは11月となります。最近の月間報告数をみると、サルモネラ菌よりもカンピロバクターのほうが高い比率で発生していることがわかります。

家きんにおけるサルモネラ菌の感染を抑えることができるワクチンは既に開発されています。そのワクチンの一つがSTM-1で、これは弱毒化した経口生ワクチンで生後1日のニワトリに投与されるもので、感染して免疫反応を誘導して、サルモネラ菌による感染を防止します。このSTM-1はaroA遺伝子領域を標的としたトランスポゾンを仲介とする突然変異誘発によって作られたものですが、外来遺伝子が組み込まれていないため、遺伝子組み換えとはみなされていません。またサルモネラ症を起こすネズミチフス菌についても大きな効果を発揮します。一方、カンピロバクターやその他の多くの病原体に対するワクチンはまだ開発されていません。

そこで汎用目的の「ワクチン供給システム」として、サルモネラ菌を運搬体として使用することができないかどうか、検討を行いました。大腸菌の実験室株と同様、他の種から遺伝子を発現するようサルモネラ菌をだまし、これらの遺伝子タンパク質を生成し、それが宿主により異物として認識されて免疫反応が誘導されれば、病原体から保護できる場合がある、と考えたのです。組み換えSTM-1を用いたワクチンは、サルモネラ菌および異種遺伝子に由来する病原体の両方から保護することができる可能性があります。

その一方で、運搬体としてサルモネラ菌を使用する上での制約事項としては、ワクチンは抗生物質が存在する場合に有効でないことがあること、異種抗原に対して強い抗体反応を誘導しない可能性があること、外来の遺伝子を組み込むためには規制許可を得る必要があることなどが挙げられました。

予備試験の結果、サルモネラ菌のワクチン株が様々な種から抗原を誘導することができ、ワクチンとして使用された場合には誘導された抗原に対する免疫反応が誘導されることを示すことがわかりました。今後は、カンピロバクターのワクチン開発として、抗原の選択および抗原の運搬方法について、カンピロバクターのゲノムおよびプロテオーム分析を含め、研究をさらに前進させていきます。

●続いて、海洋生物医科学および健康学の専門家であるアンドレアス・ロパタ博士より「海産物に対する有害反応から診断および分子的側面」」についてご講演頂きました。

海産物は人間の栄養補給と健康に重要な役割を果たしています。海産物の種類と製品の国際的な取引の増加により、多くの国々において様々な海産物の人気と消費頻度が高まりました。

海産物の消費量の増加により、消費者だけでなく、海産物の加工業者の間でも健康悪化の問題が頻繁に報告されるようになりました。海産物に対する有害反応は、免疫学的な側面からアレルギー反応の場合と、非免疫学的側面から毒物や寄生虫などの海産物の汚染物質に対する反応の場合があります。

海産物に対する有害反応の中でも、毒素については、サバ毒素などヒスタミン系で魚を由来とするものについて、またイガイやカキなどに含まれる毒素は、食中毒症状とともにアレルギーと似た症状を呈します。また寄生虫では、毎年アニサキス科線虫類の被害が世界各国で報告されており、生魚や加熱が不十分な軟体動物類など各国魚介料理に含まれている可能性があります。アニサキスはアレルゲンとなって、ぜんそく症状を引き起こす場合があります。

また、海産物アレルギーとして、魚類や甲殻類の罹患が報告されています。他のアレルゲンと比べると、通常は大人になってから罹患率は減るものですが、甲殻類においては大人になってから罹患率が増えるのが特徴です。甲殻類のアレルギー罹患率は国によってかなりデータは異なりますが、ND~50%にちかくになるという結果も報告されています。これらリスクにさらされている人として、海産物加工業者があげられ、彼らが肺の疾患が多いという報告もあります。健康被害を受けた人々の臨床反応が似ている為、有害反応と本当の海産物アレルギーとを区別することが重要となります。

最新のバイオ技術、プロテオアミクス技術を用いて、海産物のアレルゲンについてはかなり詳しく分かってきました。また、甲殻類のタンパク質の新しいアレルゲンについても、さらに分子レベル別に細かく分類ができるようになりました。バイオテクノロジーを用いた組み換えアレルギー誘発性タンパク質の生産により、海産物アレルギーのCRD(アレルゲンの構成タンパク質レベルでの診断)についても改善されています。今後の分子アプローチは、海産物アレルギーに対する特効薬として、新しい免疫療法の開発の助けとなることでしょう。

●質疑応答

【Q1】:ロパタ先生にお伺いしたいのですが、10ページのアレルギー性ぜんそくモデル図の作用機序について、もう少しご説明をお願いします。
【A1】:この図では、免疫システムを担うリンパ球として、抗体産生系のB細胞と、免疫機能を促進するヘルパーT細胞を紹介しています。ヘルパーT細胞にはTh1細胞とTh2細胞があり、互いに産生するサイトカインも異なりますがTh2細胞が産生するサイトカインはIL3、IL4、IL5などがあって、IgE抗体の産生に関わります。このTh2細胞について、アニサキスのような寄生虫が異物としてのアレルゲンとなって過剰反応すると、IgE抗体の産生が高まり、肥満細胞や好酸球の機能が促進されて、図のとおり肥満細胞からは毒素が生成されて、正常な気道から、気道の閉鎖が起きます。このようなアレルギー炎症の結果、アナフィラキシーのような症状となります。

【Q2】:ロパタ先生のお話で、サバのトキシンとしてヒスタミンの話も出ましたが、ここでのIgE抗体の産生に関わっているのですか。
【A2】:サバ毒素としてヒスタミンによる食中毒は、魚肉中に一定量以上のヒスタミンが蓄積したときに起きるものです。もともと魚の筋肉中に含まれるヒスチジンが細菌によってヒスタミンに変わるのですが、ヒスタミンによる食中毒の症状ではじんましんのようなアレルギーに似た症状も出ます。この場合は先ほどのアレルギー性モデル図のようにIgE抗体反応は起こらないので、アレルギー炎症のような症状とは異なります。

【Q3】:スモーカー先生へ、ワクチンの件で一点確認したいのですが、お話された組み換えSTM-1を用いたワクチンは、サルモネラ菌とカンピロバクターの両方から保護することができるのですか。そのようなワクチンがオーストラリアで商品化されるのは、いつ頃になる予定でしょうか。
【A3】:今段階では予備試験を行った段階で、いずれはサルモネラ菌と同様にカンピロバクターの組み換えワクチンの開発に成功したいところです。ただ、お話したようにいくつかの研究では、抗原の選定などまだ多くの課題があって、まだ数年はかかる予定で、今後も商品化を目指しています。

【Q4】:ロパタ先生へ、13ページのスライドによると、国によっては甲殻類のアレルギーが2割とか5割の罹患率だということです。これはある特定の甲殻類なのでしょうか。もう一つは、甲殻類のアレルギーはダニアレルギーの交差があるということですが、交差反応は含まれないのでしょうか。
【A4】:ここでいうデータは、条件を同等としたものではなくサンプル数も異なります。甲殻類の定義も異なるので、ある特定の甲殻類ということではありません。それから甲殻類に対するアレルギーは、主要アレルゲンはトロポミオシンだと言うお話をしましたが、これはダニなどの昆虫にも踏まれていて共通抗原性が存在しますので、交差性があるとご紹介したのですが、このデータでは交差反応が含まれるかどうかまでは、わかりません。