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2010/12/27更新

日本の研究者から見た遺伝子組み換え作物の安全性と利用における課題~名古屋(COP-MOP5)で何が語られ何が課題として見えてきたのか?~

バイテク情報普及会は2010年12月6日、「日本の研究者から見た遺伝子組み換え作物の安全性と利用における課題~名古屋(COP-MOP5)で何が語られ何が課題として見えてきたのか?~」と題したセミナーを開催しました。
セミナー講師には、2010年10月に名古屋市において開催された第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)及び第5回カルタヘナ議定書締約国会議(MOP5)において、日本政府顧問とし会議に出席された筑波大学遺伝子実験センターの渡邉和男教授をお迎えして、会議の総括と遺伝子組み換え作物をめぐる世界の現状について、お話を頂きました。

■日時 2010年12月6日 16時~18時
■場所 大手町アーバンネット「レベル21」
■講師 筑波大学遺伝子実験センター・大学院生命環境科学研究科生命産業科学専攻 渡邉和男教授
■講演資料「カルタヘナバイオセーフティ議定書に係る現状」

講演のポイント

遺伝子組み換え技術は開発が始まって以来、安全性につい段階的に評価されており、これまで産業化されているものについて問題が起きたことはなく、世界中で遺伝子組み換え体は容認されている。国際的には、環境への配慮から生物多様性条約の傘の下でカルタヘナバイオセーフティ議定書があり、WTOOECDでも枠組みがあり、食品の安全性についてはCODEXで議論されており、基本的な枠組みに基づいて世界は動いている。

人間の歴史から見直してみると、産業革命以降、元々あまり価値のないもの、鉱物資源等の高次加工利用が可能になってから、国際紛争が起きて、国際法ができた。現在は生物資源とライフサイエンス分野、特にバイオテクノロジーが進展して、もともと実用性を見いだせなかった辺境地にいる生き物が新技術により新しい可能性を提供しており、生物資源に関わる国際取り決めを考慮した国際法ができた。生物多様性条約のカルタヘナ議定書はその一つといえる。

生物多様性条約(CBD)は先月、名古屋で10回目の会議が行われ、遺伝資源についての公平で衡平なアクセスと分配(ABS)について議定書の合意がなされ、飛躍的な発展を遂げた。また、バイオセーフティに係るカルタヘナ議定書については、これまで名古屋を含めて締約国会議が5回行われて、今回、補足議定書ということで27条「責任と修復」について合意がされた。

カルタヘナのバイオセーフティ議定書は、環境に意図的に導入し利用する遺伝子組み換え生物について国境を超える移動についての国際取り決めるものである。この中で重要なのは8条、事前通知と承認という事前同意手続きを行うということが骨子となっている。この手続き(AIA)では、基本的には輸出者が輸出の事前通知を輸入国に対して行って、通告の受領確認を行い、提供された情報に基づいて遺伝子組み換え体が環境に悪影響を起こさないかどうか確認を行い、妥当であれば輸入国は輸出国に対して輸入可否の回答を行って輸出実施を行う。勝手に輸出者が遺伝子組み換え体を外国に送ることはできない枠組みになっている。

名古屋での補足議定書は、27条の責任と救済(修復)について合意されたものであるが、これが実質的には不要ではないかという意見は私だけではない。これまでもAIA手続きによって遺伝子組み換え体が輸入国によって消費され、それが輸出されて問題に起こったことはない。一方で今後承認された後で、環境に大きな影響を及ぼすものが出た場合にどうするか、補足議定書が議論されて今回、合意に至った。大事なことは、補足議定書を実施していくためには因果関係が明確であり、科学的根拠を持つことが大前提となるということである。一方で、民間ではCONPACTのような任意システムを作って、もし問題があれば企業が恊働・相互扶助にて自分たちを守る、責任が明確であれば修復に関して関与するというシステムもできている。

これまで民間NGOの活動を見てきたが、一番大事なところは、常に社会への利益の享受を選択肢に入れて考えることだと思う。日本では多くの調査結果で国民理解の低さが確認されている。これは特定の集団が常にキャンペーンを行っていることが考えられるが、活動が適切でないと事実無根の情報が流され、風評被害となって迷惑をかける場合もある。

学校教育においては、遺伝子組み換え体に限らず、家庭科や理科での情報提供の在り方が十分ではないということが課題である。また、センセーショナルな記事が出てしまって、あとで修正記事の部分は人が見ないということで、偏った情報が流れていることも問題である。

日本は特殊な環境で、非常に偏った規制の中で、研究を行っているため、インドや中国の進展に比べると遅れをとっている。実際に日本における試験栽培ができず、遺伝子組み換えの研究開発の経験値はだんだん劣ってきている。今後はその可能性についても情報提供を行い、その是非について市民参加によって問うことが必要である。情報の提供に当たっては、情報の透明性を高めて世界共通の情報をシェアしていくことが必要となるだろう。

講演内容

はじめに―遺伝子組み換え体は世界的に容認されている。
 本日は、バイオセーフティ議定書の経緯についてご紹介し、あわせて遺伝子組み換え作物の現状について話題提供をしたいと思います。最初に、遺伝子組み換え作物は危ないでしょうか?という議論がありますが、まず基本として危ない技術の研究開発が進められることはありません。もともと遺伝子組み換え技術の研究開発が行われたときから、科学者は自主的に遺伝子組み換え作物を取り扱うことについて議論しています。予防原則、予防措置と国によって考え方は二通りありますが、基本的には予防的に様々な措置をとって安全性を段階的に評価してきています。これまで産業化されているものについては、製品そのものについては問題が起きたことはなく、遺伝子組み換え開発が始まって以来、法整備ができているということです。世界的には、遺伝子組み換えを否定しているわけではありません。
 遺伝子組み換え体は一般的に、産業化利用のために世界的に容認されています。その一つとして、国際取引と環境への配慮、環境ということばから生物多様性条約の傘の下でカルタヘナバイオセーフティ議定書があり、WTOでも貿易上の取り決めがあり、OECDでも枠組みがあり、植物防疫法の中にも取り扱いがそれぞれ決められています。国際間取引の取り決めがたくさんできていて、これは規制ではありますが、否定するものではなくて、国際間で遺伝子組み換え体を使うことができるということを示しています。食品についてはCODEXOECDで検討され、それぞれ安全性が議論されています。いろんな遺伝子組み換えの検出についてはISO、貿易上についてはWTOOECDで検討しており、基本的な枠組みに基づいて世界は動いています。また、発展途上国も含めて、研究開発が行われており、自分たちが利用することも考えているということで、国家で遺伝子組み換え体を利用することについて、否定している国はありません。

天然資源に関わる技術革新と国際議論
 一方、何でこんなに法律ができてきたか、人間の歴史から見直してみましょう。今は大きな変遷期にありますが、過去には領土の拡大のために様々な技術ができるようになりました。過去200年で産業革命がおこり、元々あまり価値のないものが使えるようになって、いわゆるエネルギー、鉱物資源の高次加工利用が可能になってから、国際紛争が起きました。技術、支援、国際紛争の三者が一体となって起きることによって国際法ができてきたといえます。現在はどうかというと、生物資源とそれを使うライフサイエンス分野、特にバイオテクノロジーが進展して、過去30年間でバイオテクノロジーは飛躍的に進みました。もともとあまり価値を見いだせなかった辺境地にいる生き物が、いろんな形で産業に利用できるということで、微生物に限らず植物でも21世紀の新しい可能性を提供していることになります。この中で、略語で書いていますが生物資源に関わる国際取り決めを考慮した国際法は数多くあります。その中で今日は生物多様性条約のカルタヘナ議定書についてお話していきます。

生物多様性条約(CBD)とカルタヘナ議定書締約国会議
 生物多様性条約は先月、名古屋で10回目の会議が行われました。これは、生物多様性の保存、生物多様性の持続的利用、公平で衡平なアクセスと分配という3つの骨子で成り立つものです。生物多様性条約では生物多様性の保存ということで、バイオテクノロジー産物が生物多様性に悪影響を及ぼすことがあってはいけないとして、それを担保するためにカルタヘナバイオセーフティ議定書ができています。特に、カルタヘナバイオセーフティ議定書に関連して、ここ4回の締約国会議は議定書の運用、及び生物多様性条約本体の運用について2年に1回の会議が行われています。ここに経緯をまとめていますが特に前回のボン、2008年に行われたCOP9以来、様々な課題が2年間で作業部会にて議論が進んで、今回名古屋では遺伝資源についての公平で衡平なアクセスと分配(ABS)について議定書が合意され、飛躍的な発展が名古屋で遂げられました。
 次にカルタヘナ議定書ですが、現在160カ国が加盟しており、生物多様性条約の傘の下の特定の取り決めを実施するためのもので、バイオセーフティに係る議定書です。具体的には国境を移動に伴い事前通知と事前承認を受けて初めて遺伝子組み換え生物を移動することができる、というものです。これまで名古屋を含めて締約国会議は5回行われて、少しずつ具体的に運用できるようになっており、特に途上国が議定書の中身を理解し、遺伝子組み換え体を正しく理解し、各国で取り扱うかどうか進んでいます。一方で議定書自体の議論が進んでいないのは、発展途上国の理解が進むように途上国の技術支援を行っているが必ずしもすべての国で進んでいるわけではない、ということがあります。もとの成立時点、2000年に戻りますが、その時点で合意がなされていなかったことが先送りにされ、2004年の第一回締約国会議(MOP1)では補足議定書について具体化しようということになり、6年間議論がなされ、今年の名古屋で補足議定書ということで27条「責任と修復」について合意がなされました。基本的に先進国においては、EU、日本などは加盟国ですが、遺伝子組み換え作物輸出国はほとんど締約国になっていません。様々な課題を2000年以来締約国会議で議論されて、手続きが取りきめられました。日本の国内法も国際世論に基づいて国内法が成立されて、輸出に関わる情報、あるいは国内で遺伝子組み換え技術の研究者間で取引する場合も適用されているということです。今後も、遺伝子組み換え技術に伴う運用についてリスク評価・管理について議論されていくことになります。また、能力構築という面では、発展途上国が独立して自分の国で遺伝子組み換え体を理解し、取引を判断するための人材養成が必要ですが、それはまだ十分進んでいるとはいえないという課題があります。
 今回、補足議定書は名古屋で合意されましたが、国際法として有効になるためには、署名がなされ、そして批准するという行為が必要です。実際に一定数の国がこの名古屋で合意された補足議定書について加盟しないと今後有効にならず、今時点で発効しているわけではありません。

カルタヘナバイオセーフティ議定書とは
 カルタヘナバイオセーフティ議定書についてもう一度おさらいしますと、これは環境に意図的に導入し利用するLMOsについて国境を超える移動についての国際取り決めです。日本の国内法では、遺伝子組み換え生物について取り扱う全てのルールをカルタヘナ法と呼んでいますが、カルタヘナバイオセーフティ議定書そのものについては非常に限定されたルールです。この中で重要なのは8条、事前通知と承認という事前同意手続きを行うのがこの議定書の骨子となります。また、11条でLMOs−FFP(Food Feed Processing)については、輸入国の任意で対応できることになっています。
 次にAIAとは何かということですが、基本的には輸出者が輸出の事前通知を輸入国に対して行って通告の受領確認をして、受け付けましたということでその後、提供された情報に基づいて遺伝子組み換え体が環境に悪影響を起こさないかどうか、リスク評価を書面上あるいは実際の評価作業等で行うものです。基本的には申請者が出した情報に基づいて妥当かどうか確認をします。妥当であれば輸入国は輸出国に対して輸入可否の回答を行い、それに基づいて輸出者は輸出を実施します。これは勝手に輸出者が遺伝子組み換え体を外国に送ることはできないもので、相手国政府の承認がないと遺伝子組み体は環境に関して輸出できるわけではありません。食品に関してはまた別で、遺伝子組み換え体作物に対して、安全性審査を各国が行います。カルタヘナバイオセーフティ議定書は、あくまでも環境への配慮を行うためのものです。食品としては食品として別のルールがあります。
 日本における国内法はおさらいですけれども2003年、11月21日付でバイオセーフティ議定書に加盟をし、2004年2月19日より対応した国内法が施行されました。カルタヘナバイオセーフティ議定書に対して、国内法は遺伝子組み換え体を取り扱いに関する網羅的な国内法になっています。日本国内でルール違反をすれば懲役刑もあり罰金もあり、厳しい罰則があります。一方で、特にAIA手続き、いろんな遺伝子組み換え体作物が輸入されたり、試験的に研究などの目的で入ってきますが、手続きは完備しているので、国内法としてはきちんと動いている、効果的に機能している法規制となっています。

残されていた議論
 ただし国際法の議定書に残されている議論は、名古屋MOP5までではいろいろです。責任と救済について事業者からの信託資金がいるのではないか、能力構築については世界的には進んでいないのではないか、実際に遺伝子組み換え体を世界標準で理解しないと、国によってちぐはぐになるのではないか、間違いが起こるということで教育制度の調整が必要ではないか、といった課題があります。特に私の専門であるリスク評価やリスク管理についての方式や実施方法については、各国で任意でできますが、一番単純明解な作業ルールがまだ欠けています。また、リスクコミュニケーションについて、マスメディアの皆さんには重要なことですが、どうやって国民への情報提供、市民参加を促すかということで、終わった結果を提供するのではなくて、遺伝子組み換え体を取り扱う、輸入するプロセスでいろんなステークホルダーを参加させることができるかということが重要になります。具体的には国際環境法において市民参加を奨励する条約を関連させて、情報提供を促す必要があると思います。また、資金的には加盟国は分担金を払わなければならず、国連の計算では日本の分担金は大きいので、他の先進国が入ってこないと日本の分担金の比率は大きくなってしまう、実に国際法運用の20%の予算を担保します。カルタヘナ議定書の事務局の運用に年間6億円くらいかかっていると思いますが、日本はその2割を負担しています。ちなみに国際環境法は250くらいありますが、その多く日本政府は加盟しており、事務局の運営費は似たり寄ったりかかります。国際法にいったん入ると二億くらい負担しなくてはならないので、はたして加盟する価値があるのか、貢献できるのか、ということは政府としても考えていく必要があると思います。またもう一つは、植物に対しては、IPPCがあり、国際取り決めはWTOがありますが、これらと整合しているか、国際的に混乱がないかどうかという点も重要です。MOP5でも全ても解決されたわけではなく、明確化されたのは責任と救済の部分での補足議定書ということです。

インサイダーからの見解
 ところで、カルタヘナバイオセーフティ議定書は、今までの遺伝子組み換え作物が頭にあっての議論ですが、農業や産業関連機関より、むしろ環境関連の機関からの代表者が多く、議論が平衡化されたものではなく、環境志向が基盤の協議があったように思います。もう一つは各国代表といっても、国際法の専門家がいらっしゃったり、私のように科学技術の専門家であったり、あるいは一回しか会議に出ずにバックグラウンドがなかったりと、大きな差異があり、必ずしも効率的な議論が行われたではありません。また、会議そのものが散発的に行われたりして、もう一つ連続性がない。過去6年間の補足議定書交渉については専門家がついて議論がしていましたがこれは例外的で、カルタヘナバイオセーフティ議定書の全体については、連携や会議そのものがうまくいかなかったこともありました。
 独立した専門機関が運営のために必要ではないかという議論がありますが、私は疑問視するところもあります。議定書を運用、支援するのは生物多様性事務局ですが、事務局には専門家がいないということで、議定書を運用するために専門家のパネルをもっと有効に使っていく必要があると思います。また、これは環境影響が主体であって、人への健康や食品安全性も、ある程度は考慮しましょうということになっていますが、実際にはCODEX委員会でこれらは検討されており、カルタヘナバイオセーフティー議定書の主体は環境で十分に運用できるはずです。また議定書そのものは環境そのものへの配慮だけではなくて、実際には遺伝子組み換え体取り扱いの枠組みであるということで、情報提供に関しては18条が関与して適用されます。遺伝子組み換え体を使って研究している研究者であっても、自分は実験しているだけだからカルタヘナ議定書は関係ないと思ってはいけません、国内法では総じて、遺伝子組み換え体を取引する場合でも国際間で取引する場合でも、国際法に基づく手続きをしなくてはならない。実際に取り扱いにあたっては、実験室であろうが畑で植えようが、理解がないと国際法違反ということになります。研究者向けの実験生物は、情報提供をしないとルール違反になります。

名古屋-KL補足議定書における責任と救済
 名古屋での補足議定書は、27条の責任と救済(修復)について合意されたものです。私の個人的な疑問も入っていますが、これが実質的には不要と言っているのは私だけではありません。これまでAIA手続きによって遺伝子組み換え体が輸入国によって消費され、それが輸出されて問題に起こったことはありません。過去6年間、議定書が発効し、締約国会議が5回行われてきた中で、明確に商品化したものが問題を起こしたことがないので具体例をもって補足議定書を運用するかということで、ずっと空回りした議論を6年間行ってきました。一方で、今後承認された後に環境に大きな影響を及ぼすものが出た場合にどうしましょうか、ということで、補足議定書が議論されて今回合意となっています。
 責任と救済とは何かと言うと、輸入国がAIAに基づき輸入を許可し、自国内で損害が発生した時に、一つは責任の所在、誰が問題を起こすかということと、救済(修復)についてはルールを定めるかということで、基本的には損害発生後の事務手続きということになります。今のところ、損害が発生したような事例はありません。各国で種がこぼれていても、これはリスク評価及び管理の範疇で予測処理できることで、被害が出たという報告ではありません。一つ大事なことは、補足議定書を実施していくためには因果関係が明確であり、科学的根拠を持つことが大前提になります。こう思うとか、定性的な情報だけではなくて、定量的な情報で責任と救済措置をとるということです。
 もともとの議論は、遺伝子組み換え体で問題を起こしたら遺伝子組み換え体を開発した人が責任をとるということで、大元をたどれば遺伝子組み換え体を研究した大学の先生なのか、ということが6年くらい前の議論ではありました。しかし民法的に何かが損害発生したら、大元で開発した人に責任をとらせることはしません。開発した業者であってもそうです。基本的には輸出した人、輸入した人の間での民法的な責任となります。輸出者と使用者であるということに帰着しています。しかし、以前は非常に幅広くいろんな人が責任をとるということで、どういうステークホルダーがいるかということを列挙して最後まで厳格に追及していこうという考え方でした。通常の民法的考え方、国際的運用を考えると、当初はかなり過激な議論が行われたことになります。実際に環境を利用している人たち、たとえば国立公園であれば国家が考えられますが、被害者も特定するということで、行政アプローチということで国内法による取り扱い、民事的な訴訟ということで行われることになります。

名古屋の会議の間際まで残った懸案事項
 MOPの名古屋で議論の懸案事項は、懸案事項は産品を議定書の対象に含めるか、あるいは財政的な担保について規定を設けるか、という点です。これは最後まで残ったのですが、直前になって両方とも明確に既定の対象としない、ということになりました。今後議定書運用について必要であれば議論が出てくるかもしれませんが、明確に載せないということになっています。
 名古屋KL補足議定書は、実際に輸入国政府が遺伝子組み換え体を輸入していいという承認をして、輸出者に許可を与えるということで、政府の所在があるわけですが、もともとのカルタヘナバイオセーフティ議定書の8条の事前通知での合意による承認を再考すると輸入国の責任は、補足議定書の中では非常に欠如している部分があるかもしれません。「自分たちの国は十分に判断する能力が無いし、問題に対処する能力が無いから、もし起こったら国際法で担保して自分たちを守ってください」と発言している国もありましたが、輸入するということは、その国のAIA手続きが存在するということなので、輸入国の責任もあるという認知が必要です。補足議定書は輸入国の責任はあまり言及していないと思います。補足議定書についてはこのように、実態として対象として起こりうる実例が無い、でも将来に向かって法的に被害者を守る、責任の所在をはっきりさせるということになっています。今後、議定書が発効して運用上、いろんな議論が復活する可能性があります。一方で、民間ではCONPACTのような任意システムを作って、もし問題があれば企業が自分たちを守る、責任が明確であれば修復に関して関与するというシステムもできています。ですから運用に対して全然動かないような国際法ではありません。

遺伝子組み換えに反対するNGOのアプローチは正しいのか?
 それでは話題を少し変えて、日本国内に限らず世界的にみて、遺伝子組み換え体に関して情報はあるけれども情報が消化されていないということをお話します。世界でどういうバイオテクノロジーが使われて医療や食料に貢献しているのかといった情報など、一般的な情報の受容のあり方という点に問題があるかと思います。地方自治体の典型として、独自の考え方をもって規制を持っているところもありますが、国が承認しているものを栽培してはならないということができるかどうか、法的には問題はあるそうです。いずれにしても、情報を十分に受容してもらうことをもう一歩踏み込んだ形で理解して頂く形は重要ではないかと思います。
 今回の名古屋の経験ですが、私自身はカルタヘナ議定書を作る過程から関わってきていて、1995年にCBDのCOP2、それ以降も議論が行われてきましたが1995年以来15年間は、議定書そのものを作るということについて集中してきました。この間、民間団体の活動はどうだったろうか。基本的に二つに分けてスライドに示しています。こちら右側に科学コミュニティ、左側に遺伝子組み換えを止めておけ、というグループに分けて考え方を列記しています。左側は個人の考え方全てが社会全てに対して同じように考えないといけないという形で、参加を拒否するとか押しつけをするということがあります。そういうことがいいのかどうか。そういう視点で私は民間NGOの活動を見てきました。一番大事なところは、常に社会への利益の享受を感じるときに選択肢を考えて、これもある、あれもあると考えてそのうえでこの技術を使うべきかどうか参加して考えるということだと思います。一方的に参加を拒否するような、そういう考え方は適正だろうか、と思います。
 日本ではいろんな統計がとられていますが、多くの調査結果で国民理解の低さが確認されています。一方で、特定の集団が常にキャンペーンを行っており、それは言論の自由ですが、営利活動になっていないかというのが私たちの印象です。地方自治体でも北海道などは、国が栽培を認めているのに、申請手数料30万円としていて、そんな料金を払って申請する農家はいない。こういうことが日本で起こっている。私が住んでいる茨城県つくば市の隣の町で、篤農家が日本で承認されている遺伝子組み換え大豆を植えたら破壊されてしまったという事件があった。反対することは自由ですが、破壊活動をしていいのでしょうか。
 またナタネの事例では、2005年と2010年の締約国会議のサイドイベントで、こうした団体は「遺伝子組み換えナタネが日本の港からあちこち運ばれる時にトラックからこぼれて、遺伝子組み換えナタネがはびこってしまった、環境に悪影響を及ぼしている」と言うのですけれども、実はいろんな情報が科学的に評価されて、遺伝子組み換え体のナタネがこぼれても日本の生物多様性に悪影響は及ぼさないということになっており、承認されて利用されています。私の言っていることが正しいか、客観的な情報がこのILSIの情報誌に挙げられています。これを押し付けるわけではないが、ご判断できるだけの科学的な情報があります。特にMOP5のイベントで、日本中でナタネが交雑しちゃっていると言っていましたが、これはそんな事実はありません。科学的妥当性はありません。食用の菜花を産地としている地方自治体があるのですが、こういうGMの反対キャンペーンを行っている人たちによって風評被害を受けています。遺伝子組み換え体があって風評被害ではなくて、遺伝子組み換え体が日本中に広がって交雑してはびこっているということを言っている人たちによって、非常に困った風評被害の状態になっています。活動を適切にやらないと事実無根の迷惑をかける場合があるということです。
 次にトウモロコシについて日本のシステムは動いていますという事例を紹介します。未承認の耐虫性トウモロコシで混入の判定がなされて、適切に港で止められているということがありました。輸入のものがチェックされて、未承認のものは水際で止められているということを実証した事例ですが、国内外のNGOは、輸出者は信頼に値しないという主張をしました。
 さらにMOP5の事前イベントで、特定の団体がスポンサーで市民公開ワークショップがありパネル討論があったのですが、説明する人が根拠のない情報を流したり、魚を一度も取り扱ったことが無い人が遺伝子組み換え魚の安全性について話をするとか、科学者だけど専門外の人がいたということで、こういう会議が頻繁に行われていました。つまり、これは適正な情報提供の場なのか、ということです。こういうことが結構あります。

今後の課題
 日本国内では調査をすると、遺伝子組み換え体が心配だという人が多数ですが、実は目に見えていない部分が大多数で、関心を持っていない人がかなりいるということです。特に学校教育において、遺伝子組み換え体に限らず、家庭科や理科での情報提供の在り方が十分ではないということが課題です。たまにセンセーショナルな記事が出てしまって、あとで修正記事の部分は人が見ないということで、偏った情報が流れています。もう一つは商品が出ていくプロセスで研究が行われている、という社会対話が欠如している。特に大学において、世間に向かって遺伝子換え体は使えるといって, 研究費をもらっているのですが、市民対話の場が積極的に無いということも問題です。日本の事例をあげましたが、世界的にバイオセーフティ議定書を運用するにあたって、まだまだいろんな事項があります。発展途上国はスライドに挙げている課題点が必要となります。情報発信の必要性ということで、クロップライフのサイドイベントに参加したのですが、私が言ったことは消えないし責任をもって話しているし、確認もできる。こういう情報発信の在り方があっていいと思います。
 日本では特殊な環境で、農地が都会に近接していたりするため、遺伝子組み換え作物の栽培には事例ごとに配慮が必要となりますが、こうした特殊事情が研究開発の足かせになっています。商業利用と基礎研究の線引きが国内法ではありませんので、日本は非常に偏った規制の中で、研究を行っています。今後はインドや中国において、管理された状況で評価ができて、研究成果の是非を試験栽培等で問うことができますが、日本は研究開発において遅れをとっています。実際には、日本における試験栽培は海外諸国の様に容易にできず、遺伝子組み換えの研究開発の経験値はだんだん劣ってきています。今後はいろんな植物や、次世代の可能性についての情報提供を行い、その是非について市民参加によって問うていくことが必要であると思います。どうやって安心を確保するかという課題も日本だけでなく、海外でもテーマとなっています。また、今後は共存する可能性についても探っていかねばならず、すべても受益者の公平で衡平な権利の確保が求められると思います。情報の提供に当たっては、情報の透明性で世界共通の情報をシェアしていくことが、今後ますます必要となってくると思います。