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日本雑草学会 シンポジウム「遺伝子組み換え植物の生態系影響評価と管理」を開催

日本雑草学会は11月29日、「遺伝子組み換え植物の生態系影響評価と管理」をテーマに第23回シンポジウムを開催しました。

まず、遺伝子組み換え植物の現状と課題として、大阪府立大学生命環境科学研究科准教授の小泉望氏が世界の動向や消費について、農林水産技術会議事務局技術安全課長の横田敏恭氏が研究開発の進め方を述べ、両氏ともサイエンスコミュニケーションの必要性を説きました。

また、遺伝子組み換え植物の生態系影響評価に関して、雑草との関わりをテーマに大阪府立大学大学院生命環境科学研究科助教の中山祐一郎氏が発表し、農業生物資源研究所農業生物資源ジーンバンク研究員の加賀秋人氏と農業環境技術研究所生物多様性研究領域主任研究員の吉村泰幸氏が、それぞれ大豆の近縁野生種であるツルマメと栽培大豆との交雑について発表を行いました。そのほか、国立環境研究所生理生態研究室主任研究員の青山光子氏が「交雑・野生化の検出技術とその実際」と題し、2004年から2007年に行われた遺伝子組み換えセイヨウナタネの分布の分子生態学的解析について解説し、「在来カラシナから除草剤耐性種子は確認されていない」と報告しました。

小泉氏は、世界の多くの国々で遺伝子組み換え作物が栽培されている要因は、農薬や除草剤などの散布回数や労働力の削減にあり、国内での栽培に適した除草剤耐性品種の開発や、非遺伝子組み換え品種への交雑・混入への対応を課題としながらも、農業の省力化、生産性向上が期待できる、としました。最後に遺伝子組み換え作物の国内栽培には、リスクコミュニケーションとともに、「科学技術と社会との調和を目的としたレギュレタリーサイエンス(規制科学、評価科学、調和科学)が必要である」と提案しました。

横田氏は、「遺伝子組み換え農作物等の研究開発の進め方に関する検討会」のとりまとめから、コストや労力の低減、交雑を抑える技術や干ばつに耐える作物の開発など国際貢献や健康増進効果が期待できるものに重点をおく、と研究開発の方向性を示しました。具体的には、複合病害抵抗・多収イネや超多収バイオマスエネルギー用作物、乾燥耐性コムギ・イネ、機能性成分高蓄積イネなど機能性成分を高めた農作物、環境を改善する植物などの開発を挙げ、リスクコミュニケーションのさらなる推進を図り、国民の不安感にきちんと対処するのが国の責務と述べ、食料自給率目標50%に国を挙げて取り組むと語りました。

中山氏は、大豆畑周辺にも自生している大豆の近縁野生種であるツルマメを用い、栽培されている非遺伝子組み換え大豆とツルマメの交雑から生態系への影響を研究しています。その結果、除草などの栽培管理が行われている場合には、大豆とツルマメの自然交雑率は非常に低いと述べました。しかし、遺伝子組み換え作物に限らず、栽培植物から野生種への遺伝子の拡散は起こりうるものであり完全に防ぐのは難しく、国内で遺伝子組み換え栽培が選択された時に、適正な方法で栽培が行えるよう生物多様性等環境への影響の評価法、栽培管理やモニタリングの方法またその評価法など、きちんとした管理・評価制度を整えておかねばならない、とまとめました。

青野氏は、国内12港湾周辺の道路や河川敷において採集されたナタネについて分析手法とその結果を発表しました。2004年から2007年の調査期間に確認された除草剤耐性ナタネは、こぼれ落ちによる可能性が高いが、在来ナタネとカラシナからは除草剤耐性遺伝子を持つものは確認されなかったとまとめています。

加賀氏らは、全国の大豆栽培面積の広い地域に自生するツルマメを2003年から調査しており、全国各地の大豆畑の近くに生えるツルマメを調べ、ツルマメとダイズの中間体から、交雑での遺伝子が浸透するモデルを解明しているところで、それにより今後、組み換え遺伝子が環境にどのように拡散し影響を与える見込みがあるのか、前もって予測できる可能性を示しました。

吉村氏らは3年間、ツルマメと遺伝子組み換え大豆の自然交雑率を試験栽培圃場で1年ごとに条件を変え実験を行いました。組み換え大豆とツルマメについて、実際の自然環境では異なっている開花期を人為的に重複させ、両者をからみつくほど近くで栽培したところ、自然雑種が生じる可能性は1000分の1程度で、除草など管理された一般の大豆栽培では、これによりさらに交雑頻度は低くなると考察しています。

また、2007年の結果は、組み換え大豆とツルマメの開花期がほとんど重複しなければ、自然交雑の可能性はほとんどないことも示しており、地域によって組み換え大豆品種を選び、開花期の重複を低下させると、ツルマメと大豆との自然交雑率をゼロに近づけることができると述べました。また、品種の選択や除草方法を含む栽培方法の選択によって、日本では、ツルマメの生物多様性影響を防ぎながら、組み換え大豆を栽培できるという考えを示しました。

日本雑草学会ホームページ
http://wssj.jp/

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