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かずさDNA研究所、遺伝子組み換え技術の活用と可能性を紹介

財団法人かずさDNA研究所は、10月11日、かずさアカデミアホールにて14回目の開所記念行事の講演を開催し、同研究所所長・大石道夫氏が「遺伝子組み換え植物と我々の生活」 と題した講演を行いました。
初めに大石氏は、遺伝子組み換え技術は国としてもある程度の方針が定まった段階にきているため、遺伝子組み換え技術によって「どのようなことが可能になるか」「どのような影響があるか」「生活との係わりはどうか」等についてまとまった説明を行う必要あると講演の趣旨を述べました。

遺伝子組み換え技術は医療等の分野で人の生活に役立てる観点から研究が開始されたことを紹介しました。また、他の生物の遺伝子を組み込むことは、自然界では制約はあるがごく普通の現象で、長い歴史の中で、生物が他の生物の遺伝子を取り込み進化した結果、現在の多様な生態系を成したとされています。例えば、人の細胞内のミトコンドリアや植物の葉緑体などは、元々備わっていたものではなく後から組み込まれたものであることがわかっていると説明し、こうした現象は、「生命の暗号である遺伝子が全生物共通のものだからこそ可能である」と語りました。

現在、遺伝子組み換え技術によって、インシュリン、成長ホルモン、インターフェロン、TPA、エリスロポイエチンなどを製造することで、安価に安定した品質が得られることに加え、ウィルスなどの汚染の可能性がないなど、医薬品としてのメリットがあり医療分野の多くで貢献していると述べました。
農作物への利用も進んでおり、現在広く流通している害虫抵抗性作物や除草剤耐性作物の他にも、ビタミンなど栄養価の高めた作物、乾燥や高温・低温などの不良環境下で生育可能な作物、多収量作物、機能性作物などの研究・開発が行われており既に実験室レベルでは実現可能な段階に来ていることを説明しました。さらに、風害を避けて収量増加の見込まれるスーパーコシヒカリや、開発途上国での失明・貧血を防ぐためのビタミンA豊富なゴールデンライスの開発、ペチュニアの遺伝子を組み込んだ青いカーネーションの実用化等の例を紹介しました。
また、大石氏は、遺伝子組み換え技術の利用をめぐる健康面や環境面への影響等の不安についての議論については様々な研究が行われており、結論が出つつあると述べました。健康面への影響については、食品としての安全性は、導入遺伝子や由来タンパク質は体内で分解・消化されることや、動物実験を含む様々な審査を経ることによって安全性が確認されたもののみが認可されることを説明し、これらのことが調べられていない従来の作物よりもむしろ認可を受けた遺伝子組み換え作物の安全性は高いとの考えを示しました。

環境面への影響については、現在、近縁野生種の駆逐、近縁種との交雑、有害物質の産生による周辺生物の減少・消失などが懸念されていますが、もともと作物とは人の手をかけて初めて生育が可能なもので、野生環境下で広がり周辺生物を駆逐する可能性はほとんどないことを説明し、この分野の研究が今後も重要であると述べました。
2007年には遺伝子組み換え作物の商業栽培は、米国やアルゼンチンをはじめ世界23カ国で行われており、近年では中国はワタ・トマト・ポプラ、インドではワタの栽培が盛んに行われています。「ヨーロッパでもスペインやチェコなどを中心に力を入れ始めている一方、日本では未だ実験室レベルである」と現状の問題を訴えました。
最後に、今後の遺伝子組み換え技術をはじめとしたバイオテクノロジーが担う役割について、環境問題や食料問題解決に向けた貢献への期待を述べました。「生きるか死ぬかの問題である貧困に苦しむ途上国を飢餓からどう救うのか?」と問いかけ、遺伝子組み換え技術が解決のためのひとつの手段になると期待を示して講演を締めくくりました。

かずさDNA研究所ホームページ
http://www.kazusa.or.jp/

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