バイオテクノロジー関連資料

資料「遺伝子組み換え作物(GMO)に関する消費者からの質問トップ10」(2016年・GMOアンサーズ作成)

一般の方から寄せられる遺伝子組み換え作物(GMO)のあらゆる質問に専門家が回答するサイト「GMOアンサーズ(https://gmoanswers.com/)」は、消費者がGMOに対して抱いている疑問を知るために、2016年に世論調査会社(OCR)と共に全米で調査を実施し、その調査で消費者から数多く寄せられた上位10項目の疑問への回答をまとめました。

バイテク情報普及会はこのたび、その上位10項目のQ&Aの日本語訳を作成しましたので、ご紹介します。なお、バイテク情報普及会では「GMOアンサーズ」に掲載されたQ&Aをピックアップし日本語で紹介するサイト「GMOアンサーズ Q&A紹介サイト(https://cbijapan.com/gmo)」も公開しており、現在までに138件のQ&Aをご紹介しています。ぜひこちらもご覧ください。
資料「遺伝子組み換え作物(GMO)に関する消費者からの質問トップ10」
PDFはこちら

10.遺伝子組み換え作物はハチやチョウに影響を及ぼしますか?

この質問に対しては、ハチとチョウ、それぞれについて別々にお答えしたいと思います。まずは、ハチについてお話しします。
各地においてハチの成虫が巣箱から突然失踪するという現象は、蜂群崩壊症候群(CCD)と呼ばれ、10年ほど前から全米で注目されるようになりました。害虫抵抗性の遺伝子組み換え作物がハチに悪影響を及ぼすと言う説も広まりましたが、この説に対しては多くの科学者が異議を唱えています。現在では、ハチの個体数の減少に遺伝子組み換え作物が影響を及ぼすことはないと考えられています。
米国環境保護庁(EPA)をはじめとする諸機関では、ハチの個体数減少には様々な原因があると考えています。その原因としては、ハチに対する害虫、寄生虫、病気、餌不足、あるいは、遺伝的多様性の喪失などが考えられています。
現在栽培されている害虫抵抗性作物が産生する殺虫タンパク質は、いずれも、土壌中に広く存在するバクテリアに由来するものであり、毒性試験によりハチに対する安全性が確認されています。これらのタンパク質が、短期的にも長期的にも、ハチの成虫ならびに幼虫に有害であるという証拠は認められていません。

遺伝子組み換え作物はハチに悪影響を及ぼす原因の1つとなり得るのでしょうか?この問いに対し、テキサスA&M大学において普及エキスパートとして30年以上の経歴を持ち、バイエルクロップサイエンス社によるハチについての啓蒙活動に携わるクリス・サンソン教授は、いくつかの科学論文を紹介し、「遺伝子組み換え植物とハチの関係については広く研究されており、遺伝子組み換え植物はハチに無害であることが明らかにされている」と述べています。

さて、続いてチョウについてお話ししましょう。オオカバマダラの個体数減少にも様々な要因があります。例えば、森林伐採、寄生虫、あるいは、食草であるトウワタ属の減少などです。

遺伝子組み換え作物や除草剤グリホサートの使用がオオカバマダラの幼虫の主な餌植物であるトウワタの個体数を減少させているという意見や、Btトウモロコシの花粉の摂食によりオオカバマダラの個体数が減少しているという主張があります。GMOアンサーズでは、これら2つの主張に対し専門家が意見を述べています。

ワイオミング大学雑草管理・生態学准教授アンドリュー・ニス博士は、トウワタの減少には様々な要因が関係していると説明しています。そして、遺伝子組み換え作物の栽培地付近においてトウワタを含む在来植物種が減少している原因として、除草剤の使用が何らかの影響を与えている可能性を示す一方で、米国農務省農業研究局とペンシルバニア州立大学による調査の結果を引用し、除草剤よりもはるかに大きな影響を与えている要因が存在すると結んでいます。

オオカバマダラの個体数減少を食い止めるにはどうすればよいのでしょうか。1つは、農地管理の方法を変えることです。農地管理方法はオオカバマダラの生存に必要なトウワタやその他の花蜜を産生する植物の生育に大きな影響を与えます。研究者や環境保護団体、政府機関、そして、農業関係者は、生産的な農業システムの必要性を常に念頭におきつつ、農地におけるオオカバマダラの生育環境復元手段を研究しています。オオカバマダラの保護においては農家が重要な役割を担っています。農村地域に生育するトウワタの個体数を回復させようとする彼らの取り組みが、オオカバマダラの個体数を増やすことにつながります。

みなさんもまた、都会の片隅、あるいは郊外の一角に、チョウの生存のための緑地を保つことで、オオカバマダラの個体数回復を支援することが出来ます。これまでに、Monarch WatchやMonarch Joint Ventureなどといった団体により、この様な緑地が何百か所も作られています。
Btトウモロコシの花粉がオオカバマダラの個体数減少に影響しているかについては、ノースカロライナ州立大学普及エキスパートである昆虫学科准教授のドミニク・レイシグ氏に詳しい解説をお願いしました。解説の中でレイシグ氏は、「Btを摂食しなければチョウが死に至ることはありません。遺伝子組み換え作物を摂食するのは害虫種のみで、オオカバマダラなどの非害虫種は摂食しません。つまり、非標的昆虫はBtに触れることはないので、Btにより死ぬことはありません。結論として、遺伝子組み換え作物が非害虫種のチョウを死に至らしめることはありません」と説明しています。

米国農務省は特設ウェブページを開設し、Btトウモロコシの花粉を摂食することでオオカバマダラが害を受ける可能性があるとする主張について独自に行った調査研究の結果を掲載しています。そこでは、「Btトウモロコシが栽培される環境において、Btへの暴露量が、オオカバマダラに著しい害を及ぼすことは無い」としています。更に、米国各地及びカナダの科学者達による共同研究では、「Btトウモロコシの花粉は、自然環境で観察し得るどのような量においても、急性毒性作用を示さない」ことが報告されています。
特筆すべき点は、新たに開発された遺伝子組み換え作物の商業栽培が開始されるには、その作物がハチやチョウなどの非標的昆虫に対して無害であるということが開発企業により証明されなければならないという点です。その他にも、GMOが市場で流通するためには、健康に与える影響や安全性についての厳密な審査に合格しなければなりません。害虫抵抗性や除草剤耐性の遺伝子組み換え作物については、環境保護庁による審査も必ず行われ、環境に及ぼす影響が評価されます。

9.農家は種子の開発を行う企業に影響されて遺伝子組み換え作物を栽培するのでしょうか?

インディアナ州でトウモコロシやダイズ、その他の作物を栽培する農家ブライアン・スコット氏は、フォーブスへの寄稿で、「世間一般では、我々農家がモンサントやダウ、デュポン、シンジェンタなどと言った企業から種子を買うということは、我々がビジネスにおける決定権を失うことだという見方が広がっているようですが、私のこれまでの経験上、そのようなことはありません。どの種子を選ぶかは、毎年私自身が決めていますし、一度種子を購入すると、その企業から毎年購入することを余儀なくされるようなことはありません。」と説明しています。

またスコット氏は、「何を栽培するかを農家自身が自由に決めるのは当然のことです。」と主張しています。

8.GMOは食料の価格に影響を及ぼしますか?

遺伝子組み換え作物は非遺伝子組み換え作物よりも効率よく生産されるので、それを原料とする食品は、非遺伝子組み換え食品よりも低価格で流通します」

食品価格には、天候不順や病害虫による被害に加え、物価や、賃金、輸送運賃などの様々な要因が影響します。例えば、長距離輸送を必要とする食品の場合、燃料費の上昇により価格に大きな影響が及ぶことになります。

遺伝子組み換え作物の栽培によりトウモロコシやダイズの供給量が増え、遺伝子組み換え作物が存在しなかったと想定した場合に比べ、食品価格の上昇は低く抑えられています。パデュー大学のタイナー氏らによる2016年の研究では、米国において遺伝子組み換え作物が禁止された場合の著しい生産量低下とその他の経済的影響が示されました。彼らの研究レポートによると、米国においてすべての遺伝子組み換え作物が禁止された場合、トウモロコシ、ダイズ、ワタの生産量はそれぞれ平均で11.2%、5.2%、18.6%減少し、その結果、トウモロコシとダイズの価格はそれぞれ28%、22%上昇するとされています。世界的に見てみると、カリフォルニア大学バークレー校のデイビッド・ジルバーマン教授の研究において、Btトウモロコシの栽培により、フィリピン、南アフリカ、アルゼンチンの生産量がそれぞれ34%、11%、9%、そして米国およびスペインでは5%?6%上昇したと推定されています。

またこの研究において、「遺伝子組み換え作物がなければ、食品価格は現在よりも5?10%上昇し、特に食肉、鶏卵、牛乳、加工食品の価格が大きく上昇する」と予測されており、ジルバーマン教授は「最も大きな影響を受けるのは貧困層だろう」と語っています。さらにジルバーマン教授は、これらの食品の多くが既に不足している発展途上国の人々は、特に大きな影響を受けるだろうとも述べています。

また、食料や飼料の実質価格がこの50年間で低下しつづけていることにも注目すべきです。この実質価格の低下は突発的に起こったのではなく、生産者が生産性を大幅に向上させたことによるものです。そして、生産性の向上は、GMOなどの新たな技術の導入によりもたらされたものです。

7.遺伝子組み換え飼料で育てられた家畜の肉を食べるということは、GMOを食べていることになるのですか?

遺伝子組み換え作物は70%以上が家畜飼料として使用されていると推定されているため、遺伝子組み換え作物を最も多く消費しているのは世界各国の家畜ということになります。また、遺伝子組み換え飼料で育てられた家畜の乳や肉、卵から組換え遺伝子が検出されたことはこれまでに一度もありません。

はじめに、われわれ人間(もしくは動物)の食物のほとんどすべてにDNAやタンパク質が含まれているということをご理解いただきたいと思います。そして、遺伝子組み換えであっても、非遺伝子組み換えであっても、食品に含まれているDNAやタンパク質は、われわれの体内の消化システムにより消化されます。その過程で、遺伝子組み換えであるかないかにかかわらず、DNAはその構成単位である4種類のヌクレオチドのいずれか、もしくは、いくつかのヌクレオチドの結合体に分解されます。そしてタンパク質も同様に、遺伝子組み換え、非遺伝子組み換えにかかわらず、消化の過程で、自然界に存在する21種類のアミノ酸1分子もしくは複数分子にまで分解されます。これまでに遺伝子組み換えDNAやタンパク質が動物細胞に入り込む可能性について複数の研究が実施されてきましたが、遺伝子組み換え飼料を摂取した家畜の細胞内から、そのままの形で、あるいは免疫反応を引き起こす形で、遺伝子組み換えDNAやタンパク質が検出されたことはありません。

カリフォルニア大学バークレー校動物ゲノム学および生命工学普及エキスパートのアリソン・ヴァン・イーネナム博士は、以下のように説明しています。「家畜が摂取した遺伝子組み換え作物は、従来の飼料作物と同様に消化されます。これまでに得られたエビデンスは、栄養成分、消化性、そして飼料としての価値のどの点においても、家畜に遺伝子組み換え飼料を与えることと、非遺伝子組み換え飼料を与えることは同等であることを強く示唆しています。」ヴァン・イーネナム博士は、「遺伝子組み換え飼料を使用して飼育された家畜の乳や肉、あるいは卵から、遺伝子組み換えDNA、あるいは、そのDNAから合成されたタンパク質が検出されたことは一度もありません。遺伝子組み換え作物を摂取した動物の細胞内に、遺伝子組み換えDNAではなく、その作物がもともと持つDNAの一部が入り込むことがあると報告する研究は複数あります」と語ります。

また、元酪農業者で、現在ダートマス大学大学院3年生、分子細胞生物学専攻のロイ・ウィリアム氏は「人間や牛の体内に植物の一部が存在することはありません(もちろん消化管内は例外ですが)。人や牛が摂取した植物体は、消化管内で分子レベルまで分解され、化学工場にも例えられる体内で我々が必要とする脂肪や糖、タンパク質に合成されるのです。」と語ります。

遺伝子組み換え飼料は家畜にとって安全でしょうか?

トウモロコシ、ダイズ、アルファルファなどの遺伝子組み換え作物は家畜飼料として広く用いられており、肉牛、豚、羊、乳牛、そしてニワトリへの給餌試験は100件以上実施されています。

アイオワ州立大学食品科学・人間栄養学科学科長であるルース・マクドナルド教授は、「牛肉についての事実」(Facts About Beef https://factsaboutbeef.com/)への寄稿で以下のように指摘しています。「米国では1996年以来、遺伝子組み換え作物を原料とする食品が流通しています。このことにより、遺伝子組み換え作物が家畜や人の健康に悪影響を及ぼさないことを何十年もかけて実証してきたことになります。家畜の健康は、地球上のどの動物よりも細心の注意をもってチェックされています。遺伝子組み換えトウモロコシや遺伝子組み換えダイズは何世代にもわたり家畜に与えられてきましたが、このことが家畜の成長や生殖能力、あるいは健康に悪影響を与えているというエビデンスは1つもありません。また、人についても、遺伝子組み換え食品を原因とする疾病やアレルギー症状が確認された例はありません。」

2016年春、米国科学・技術・医学アカデミーがこの懸念に対する調査を実施しました。科学者や研究者、そして農業や産業界の専門家20人以上により、およそ900件の研究報告や出版物を含め、遺伝子組み換え作物が登場してから現在に至るまでの過去20年間にわたるデータが調査されました。この調査の結果、「遺伝子組み換え飼料導入前から導入後今日に至るまで、家畜の健康状態や飼料転換効率を記録した長期データの中に、遺伝子組み換え飼料導入によりこれらの数値が悪化したことを示すものはない」ことが明らかになりました。

6.GMOはアレルギーを引き起こしますか?

この質問に対し、米国登録栄養士のリサ・キャティック氏は次のように説明します。「現在市場に流通している遺伝子組み換え作物には、遺伝子組み換えにより作られた新たなアレルゲンを含むものはありません。そして、遺伝子組み換え作物には、商品化の前に厳しい検査が行われているため、これから先もそのような作物が市場に流通することは決してないでしょう。」

また、キャティック氏は、「食物アレルギーは、主に8種類の食品(牛乳、卵、ピーナッツ、木の実、ダイズ、小麦、魚、貝)により引きおこされ、それらは米国内で報告されているアレルギー疾患の90%を占めています。ここで特筆すべきことは、上で挙げたアレルギーを起こす8大食品のうち、バイオテクノロジーと関係のあるものはダイズのみであるということです。残りの7品目については、現在、遺伝子組み換えされた食品の市場流通はありません」と述べています。

ある植物に対してアレルギーを持つ人は、その植物が遺伝子組み換えであるかないかに関わらず、アレルギー反応を示します。遺伝子組み換え品種が新たなアレルゲンを含んでいることはありません。逆に、研究者や学者、そして企業などは、食物アレルギー問題を解決するための新たな遺伝子組み換え食品の研究に取り組んでいます。例えば、スペインでは、ある科学者グループが、グルテンを含まない小麦を開発しました。これは、セリアック病患者に安全な小麦です。

GMOには、どのようなアレルギー性のチェックが行われているのですか?

以下は米国食品医薬品局による説明です。「遺伝子組み換え作物から作られた食品の安全性評価は、いくつかの段階からなる網羅的なプロセスです。概して、開発者が、遺伝子組み換えにより新たに付加された形質が、人が摂取した場合に有害となる、あるいは、アレルギーの原因となるかを評価するというものです。」
GMOの開発を始める前に、目的とする形質が全ての既知アレルゲンと照合して無関係であることが確認されます。

この問題に関するさらに詳しい内容につきましては以下のページもご覧ください。

・アレルギー誘発性生物の遺伝子を、通常それをもたない生物に組み込んだ場合、例えばダイズのような特定のアレルゲンに敏感な人がアレルギー反応を起こさないというエビデンスはあるのでしょうか?

回答者:リサ・カティック 登録栄養士、Kコンサルティング社、プリンシパル
https://cbijapan.com/gmo/search/detail/report_id/38

・食物アレルギーの増加と遺伝子組み換え食品を関連付けることは妥当でしょうか?関連性がないとしたら、この傾向は何によるものでしょうか?例えばトウモロコシやダイズのアレルギーは、遺伝子組み換えであろうとなかろうと、純粋に食品に含まれるトウモロコシやダイズ及びそれらの派生物の量によって、引き起こされるものですか?

回答者:ジェニファー・シュミット メリーランド州の農家で登録栄養士
https://cbijapan.com/gmo/search/detail/report_id/72

5.遺伝子組み換え作物による健康への影響について長期的な研究は行われていますか?

GMOが健康に与える影響についての長期的な研究が実施されていることはあまり知られていないでしょう。商業栽培が開始されてから現在まで、遺伝子組み換え食品が20年以上にわたり安全に消費されてきたという実績はありますが、それに加えて、遺伝子組み換え作物の食品としての安全性、および、環境に対する安全性について、広範にわたる試験研究が繰り返し行われています。そして、これらの安全性試験の結果は、米国では農務省(USDA)や環境保護庁(EPA)、そして、食品医薬品局(FDA)により審査され、また、世界各国で同様の機関が審査しています。これらの安全性評価試験は、業界の専門家および独立機関がそれぞれ実施しています。

EUの公的資金により現在実施されているプロジェクトGRACEでは、90日間の給餌試験や長期間にわたる動物実験など、複数項目について試験を実施しています。近年、同プロジェクトに携わる科学者らにより、遺伝子組み換えトウモロコシ(MON810)と従来品種のトウモロコシを使った1年間にわたる給餌試験の結果が公表されました。この試験では、遺伝子組み換えトウモロコシ(MON810)を最大33%混合した餌をラットに与え続けても、ラットに健康障害は認められませんでした。

また、2012年には、スネルらが過去の論文を精査し、GMO由来の原料を高濃度で含有する飼料を使った長期的な給餌試験についての概要をまとめました。この要約では、「今回精査した研究報告では、いずれも、遺伝子組み換え作物は、非遺伝子組み換え作物と栄養成分について差異がなく、安全上の問題なく食品ならびに飼料として利用できることが明らかである」と結論付けています。

さらには、世界中の主要な学術団体や規制機関が、それぞれ、GMOに関する文献の精査を行い、現在商品化されている遺伝子組み換え作物、および、これらを用いて製造した食品の安全性を広く公表しています。

この問題に関するさらに詳しい内容につきましては以下のページもご覧ください。

・遺伝子組み換え生物の生態学的影響について、あらゆる角度から、長期(30年以上)にわたり行なわれた研究はあるのでしょうか? 
回答者:ブルース・M・チェーシィ イリノイ大学、アーバナ・シャンペーン校、食品科学・人間栄養学科、食品安全・栄養学、名誉教授
https://cbijapan.com/gmo/search/detail/report_id/29

4.GMOは自然環境にどのように影響しますか?

まずは、GM作物を取り入れた農業が生物多様性の保全につながることについてお話ししましょう。GM作物の栽培により、既存農地の生産性が高まり、また、非農耕地の使用を控えることで生物多様性を保全することが出来ます。また、耕起を減らした農法 (減耕起栽培) が広く普及し、殺虫剤の使用量が低減し、そして、収量を増加させることが出来る環境負荷の少ない除草剤が使われるようになりました。その結果、農地をさらに拡大する必要が緩和されました。

GM作物の栽培により農業の生産性が向上します。

PG エコノミクス社によれば、GM作物の栽培により、1996年から2014年の間に世界全体で、トウモロコシ、3億5,470万トン、ダイズ、1億7,460万トン、ワタ、2,720万トン、ナタネ、1,010万トンの増産効果があったと推計されています。GM作物の栽培により、各地で収量が増加しており、中には30%の増加をみた地域もあります。そして、GM作物は、発展途上国における貧困削減ならびに食糧安全保障の確保にも役立ちます。

GM作物は土壌浸食を軽減します。

除草剤耐性作物により、より効果的で効率の良い雑草管理が低コストで実現され、減耕起栽培が多くの農家で可能となります。フロリダ州で農業を営むローソン・モズレイ氏は除草剤耐性GM作物の栽培について、除草剤で枯死した雑草残渣が農地表面を覆い土壌の浸食を防ぐのだと説明します。そして、新たに作付けをする際には、耕起を必要とせず、前の栽培期の植物残渣が有機物として残る農地に直接播種を行います。

GM作物は水資源の保全に役立ちます。

農家では点滴灌漑などの様々な方法を活用し節水に努めています。GM作物も節水に役立つ方法の1つです。除草剤耐性作物の減耕起栽培により、土壌中の水分が保持されやすくなり、灌漑水を節約できます。乾燥耐性を持つGM作物も節水を可能とします。このGM形質作物は、乾燥ストレスに耐え、干ばつが発生した際にも特別な灌漑を必要とせず収量を増加させます。

GM作物は大気汚染の低減に役立ちます。

GM作物は、農業による温室効果ガスの排出量を減らします。以下は農業経済学者グラハム・ブルックス氏の報告からの引用です。「GM作物は、燃料や肥料などといった農業用投入資材の削減、ならびに、減耕起農法を可能とすることで、農業による環境負荷を低減するのに役立っています。GM作物を使った農業では、トラクターの稼働時間が短縮され、燃料消費量が低減することにより、温室効果ガスの排出量削減につながっています。GM作物を栽培することで、995万台の車が1年間に排出する量に相当するCO2が削減されました。更に、1996年から2014年の間に、農薬使用量が約59万トン削減されました。」

GM作物は農薬の使用量を減らします。

多くの方が、GM作物を栽培することで農薬使用量が増加すると誤解されていますが、実際にはその逆です。害虫への抵抗性を持つBt作物を含め、GM作物の栽培により農薬使用量が全体で37%削減されています。農薬使用量の削減は、自然環境保護に役立つだけでなく、栽培農家にとっても有益です。

農業経済学者グラハム・ブルックス氏はGMOアンサーズへの寄稿で、害虫抵抗性作物について「作物保護を実現し、農薬に代わる害虫防除手段となることもある」と記しています。さらにブルック氏は、「遺伝子組み換え害虫抵抗性作物により、害虫防除に必要な殺虫剤の量が従来に比べ大幅に減った。」とも述べています。

遺伝子組み換え技術により、農薬使用量を減らした栽培が可能となる作物もありますが、健全な農産物を生産する上で、農薬が重要な役割を果たすということも忘れてはなりません。

GMOの将来は?

除草剤耐性、病害虫抵抗性、乾燥耐性、耐塩性、そして窒素を効率よく吸収する形質など、これまでに開発されてきた様々な形質の他にも、アフリカやアジアの発展途上国では、主要な作物の栄養強化を試みる研究が多数行われています。例えば、バナナ、ササゲ、そしてキャッサバなどです。

バイオテクノロジー研究に携わる人の多くが、遺伝子組み換え技術の将来的な可能性に期待しており、この技術により世界中で起きている複雑な問題が解決される可能性に注目しています。特に発展途上国においては、食糧問題と栄養不足の解決に、そして土地、水、労働力の利用効率を高めるためのより良い手段を現場の農家に提供し、生活に必要な最低限の農業生産ではなく余剰を生みだす生産を可能とするために、力が注がれています。

3.米国で消費される食品にはどれくらいのGMOが含まれているのでしょうか?


今日われわれが口にするほぼ全ての食物は、何千年も前から続く選抜育種の過程の中で、何らかの形で遺伝子改変されています。それにもかかわらず、現在米国で市場に流通している遺伝子組み換え作物と称するものはダイズ、トウモロコシ(食用と飼料用)、ナタネ、ワタ、アルファルファ、テンサイ、スカッシュ、パパイア、そしてジャガイモのわずか9種類のみとされています。最近商業栽培の承認を得たGMリンゴも、間もなく市場での販売が開始されるでしょう。

アルファルファ、飼料用トウモロコシ、そしてダイズをはじめ、GM作物の大半が家畜飼料用として栽培されています。また、砂糖やキャノーラ油、コーンスターチ、そしてダイズレシチンなどの食品原料として使用される作物もあります。スーパーなどの青果コーナーで実際に売られているのを目にするのは、レインボー・パパイアやスカッシュ、スィートコーン、そしてジャガイモなど、数種類のGM作物に限られます。

遺伝子組み換え動物食品として、世界で初めて米国食品医薬品局(FDA)の承認を得たのがGMアクアドバンテージ・サーモンです。このGMサーモンは、成長速度を速めエサ代を節約すること、そして天然のサケを保護することを目的として開発されました。

2.GMOは安全な食品なのでしょうか?


はい。GMOは安全な食品です。消費者の中には、GMOには発がん性がある、あるいは、GMOを食べることが自閉症やグルテン過敏症、その他様々な病気の原因となると信じ込んでいる方が多くいらっしゃいます。しかし、その考えは事実と全くかけ離れています。世界のあらゆる主要保健機関がGMOの安全性を支持しています。GMO食品の安全性に関する網羅的な研究が現在も数多く実施されています。また、専門機関による安全性評価や、第三者による独自の安全性研究の結果が多数発表されています。

2016年の春、米国科学・技術・医学アカデミー(NAS)がこの問題に関する調査を実施し、GMOは安全であると報告しました。調査チームは、「様々な動物への給餌試験、ならびに、現在市場に流通しているGM食品に含まれる化学成分についての調査において、GM食品と非GM食品との間に差異は確認できず、人の健康に対しGM食品がより高いリスクを持つことを示す証拠は認められない」と述べています。

1.GMOを食べると癌になりますか?


同様の質問、あるいは、この問題に関する質問はこれまでに多数GMOアンサーズに寄せられています。例えば、グリホサートが乳がんを引き起こすという報告についての質問や、GMOを含む飼料を与えたラットに癌が発症したというセラリーニ氏の研究論文(現在は撤回されています)についての質問などです。

消費者のみなさんが抱くGMOに対する不安を和らげるために、この質問には、フロリダ大学園芸学科准教授ケビン・フォルタ博士にお答えいただきました。以下はその一部です。「一言でお答えしますと、この質問に対する答えは『いいえ』です。GMOが癌の原因となることを示す確実な証拠はこれまでに1つも確認されていません。」

更に、GMOの安全性は、世界中の独立した機関や研究者がこれまでに行ってきた多くの研究により実証されています。例えば、GMOの安全性を調査した研究は世界に1,800件近くあります。また、EUが10年間にわたり出資したGM作物の研究プロジェクト(2001?2010)では、GM作物の持つリスクは従来作物と変わらないことが確認されています。

フォルタ博士による回答に加えて、7つのコホート研究(追跡的な観察研究)と14のケースコントロール研究(症例対照研究)を分析した疫学研究によれば、「がん全般(成人、小児)、あるいは、特定部位のがんの発生とグリホサートへのばく露との間に何の関連も認められなかった」と報告されています。

Pagetop