ベネフィット

遺伝子組換え作物は、食糧の増産、栄養不足の改善、農業の省力化、農家の経営改善、作物の病気からの保護、環境問題の緩和など、様々な利益を社会や環境にもたらしています。バイテク資料室のインフォグラフィックもご参考ください。

増大する人口への食糧供給

国連によれば、2017年現在、76億人とされる世界の人口は、2050年には97億人に達すると予測されています1。人口の増加は、同時に生活の都市化や一人当たり所得の向上をもたらし、食料、飼料、燃料、繊維用途の農産物の需要も増加します。その需要を満たすためには、2050年には農産物の生産量を2012年から50%増加させる必要があると推定されています2

一方で、世界の気候は急速に変動しています。年々、夏が暑くなっていることは皆さんも実感しているかと思います。気候変動は不安定な天候や自然災害、天然資源の変化をもたらし、農業生産に多大な影響を及ぼします。異常な高温は、水資源の枯渇を引き起こし、有益昆虫(ミツバチ等)の生息地や食糧などの天然資源を減少させます。作物の開花や受粉は阻害され、雑草や病害虫の発生が増加します。干ばつは凶作をもたらし、農耕地を失わせます。豪雨は洪水を引き起こし、表土を奪い取り、作物に損害を与えます。ある研究は、気候変動により農作物(トウモロコシ、米、小麦、大豆)の生産はより不安定化し、2030年代までに9%、2050年代までに23%減少すると推測しています3

このような厳しい見通しの中で、どうすれば食糧増産が可能でしょうか?手つかずの森林や牧草地、自然公園を切り開いて農地を拡大することは、自然環境を保護するため、避けるべき選択肢です。食糧増産のためには、既存の農地を有効活用する方法、つまり、単位面積当たりの収量(単収)を増やすことを考えなければなりません。実際、過去50年間の農産物の生産量の上昇は、収穫面積の拡大ではなく単収の伸びにより支えられてきました。

農産物の生産量、単収、収穫面積の推移(農林水産省、2017)
農産物の生産量、単収、収穫面積の推移(農林水産省、20174

1950年代に普及した窒素肥料や農薬により、またその後の様々な技術革新により、単収は増加してきました。1996年に導入された遺伝子組換え(GM)作物も、単収の増加に大きな寄与をしています。KlümperとQaimは、GM作物は、非GM作物と比較して22%収量を増加させる効果があると報告しています5。収量の増加効果に加えて、GM作物は農法の革新により裏作を可能にしたことがさらなる生産量の増加をもたらしており、2015年にはGM作物が無ければ1,950万ヘクタールの農地(参考:日本の総農地面積は447万ヘクタール4)が追加で必要になった計算になります。67

これまでのGM作物による増収効果は、主に除草剤耐性作物や害虫抵抗性作物によってもたらされてきました。現在、世界各地の大学や公的研究機関、企業で、干ばつ耐性作物や冠水耐性作物、窒素利用効率の高い品種などの開発が進んでいます。GM作物は、気候変動の影響を緩和しながら増大する人口を養っていくための、解決手段の1つになるでしょう。

「隠れた飢餓」との闘い:ゴールデンライス

皆さんは「隠れた飢餓」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。空腹を感じさせることなく「隠れて」健康を蝕む微量栄養素欠乏のことで、世界中で20億人以上がこの状態にあると言われています2。ビタミンA欠乏を例に挙げると、アフリカやアジアの途上国で毎年25万から50万人の子供がこのために失明しており、そのうち半数は光を失って半年以内に亡くなっています。8

ビタミンA欠乏に苦しむ貧困地域の子供たちにとって、サプリメント等の錠剤は一時的にはビタミンA欠乏を緩和できるかもしれませんが、経済面で持続可能な対策にはなりません。彼らの主食である米からビタミンAを摂取できれば、貧困地域のビタミンA欠乏を一掃できるのではないか―そのような夢の作物を開発したのは、スイスの生物学者インゴ・ポトリクスIngo Potrykusとドイツの生化学者ピーター・ベイヤーPeter Beyerらでした。2000年、彼らは世界的に有名な科学誌サイエンスに、ビタミンAの前駆体であるベータカロテンを作り出すイネ「ゴールデンライス」を開発したと報告しました9。そして2004年、ゴールデンライスの特許権を持っていたシンジェンタ社は、必要とする途上国が無償で利用できるよう、ゴールデンライスの普及促進のために官民共同で設立されたゴールデンライス人道委員会Golden Rice Humanitarian Boardに特許権を譲渡すると発表しました。

ただ、残念ながらゴールデンライスはいまだに実用化されていません。ベータカロテン含有量や収量の改善に予想以上の努力が必要だったことはその理由の1つでしょう。しかし、GM作物に対する激しい反対運動にゴールデンライスがさらされてきたことを無視することはできません。誇りを持って開発を進め、農家への無償供与を望んだポトリクス博士は、反対派から「遺伝子汚染の生みの親」だと非難されました。2013年には、フィリピンの国際稲研究所(International Rice Research Institute)でほ場試験中だった苗が、フェンスを破壊して侵入した反対派の集団によって根こそぎ引き抜かれるという事件もありました。10

2016年、このような事態を憂いた100名を超えるノーベル賞受賞者らが共同で、「GM作物、特にゴールデンライスに対する反対運動は即刻中止すべきである」とする書簡を発表しました11。「世界中の貧しい人々が、どれだけの命を落としたら、これ(GM作物への反対運動)が「人道に対する罪だ」と考えられるようになるのであろうか」。これがその書簡の結びです。GM作物の恩恵により、救われる命があるのです。

ゴールデンライス

農業の省力化と経済性の改善

雑草は、常に農家を悩ませてきた問題です。水、栄養、日光、空間を作物と奪い合うだけでなく、病害虫の住処となったり、収穫物に混入して品質を低下させたりします。農家は通常、耕起、手取り除草、除草剤の使用など、様々な除草手段を講じます。皆さんも学校や家庭で一度は草むしりをしたことがあると思いますが、広大な農地の雑草管理がいかに大変か、想像に難くないでしょう。そこで除草作業の労力と時間の削減に役立つのが、除草剤耐性を持ったGM作物です。通常の作物の場合は、作物の生育に影響しない方法で、様々な雑草ごとに効果の異なる複数の除草剤を散布する必要がありました。しかし除草剤耐性作物であれば、より安価な特定の除草剤を散布するだけで、その除草剤に耐性のあるGM作物以外のすべての雑草を枯らすことが可能です。加えて、雑草処理のためにトラクターで耕起する回数を減らした減耕起や不耕起栽培も可能になり、省力化に大きく寄与します。除草剤耐性作物による省力化は、農家経済へもプラスの影響を与えています。除草コストの削減に加え、不耕起栽培により生産サイクルが短縮化され裏作が可能になったことが、生産量を増加させています。

害虫抵抗性作物も、殺虫剤の使用量を減少させ、省力化および経済性の向上に貢献しています。通常、農家は害虫の防除のために、複数の殺虫剤を複数回使用する必要があります。これに対して、Btタンパク質という特定の害虫に対してのみ効果のあるタンパク質を産生するように改良された害虫抵抗性作物であれば、その害虫に対する殺虫剤を使用する必要はありません。加えてBtタンパク質は、殺虫剤よりも非標的昆虫に対する影響が少なく、環境中にも残留しないという利点があります。もちろん人間や動物にも影響はありません。

GM作物の利用による農家経済への影響については、複数の研究が定量化しています。ある研究は、GM作物の利用は農家の利益を平均して68%増加させると報告しています5。また、GM作物の採用により、2015年単年度で世界全体の農家の農業所得は154億ドル押し上げられ、そのうち75億ドルは途上国に帰属していました6

農薬による生態系への影響の緩和

農薬は農業にとって欠かせない資材ですが、環境への負荷は常に考慮すべき課題です。1995年から2014年に発表されたGM作物の経済性に関する研究論文147報を調査したメタアナリシスでは、GM作物の採用により農薬の使用量が37%減少したと報告されています5。また別の研究では、1996年から2015年にかけて、農薬有効成分の使用量は累計で6億1,800万kg(8.2%に相当)減少したと報告されています6。ここで注意して頂きたいのは、この農薬使用量の減少は主に害虫抵抗性作物と除草剤耐性トウモロコシによるもので、除草剤耐性ダイズの場合は横ばいか、むしろ微増しているという点です。これは、除草剤の連用によって一部の地域で抵抗性雑草が発達したことに起因すると考えられます。抵抗性の発達は、GMの有無によらずほぼすべての農薬に付随する問題であり、適切な抵抗性マネジメントが求められます。

農薬の使用が環境に与える影響を、個々の製品の毒性および環境暴露データを用いて算出した、環境影響指数(EIQ)と呼ばれる指標があります。GM作物の採用がEIQに与える影響を調べたところ、1996年から2015年の20年間で、EIQは18.6%減少していました6。除草剤耐性ダイズの場合も、13.9%減少しています。これは、除草剤耐性作物に使用される除草剤が、これまでの農薬より環境に負荷が少ないためであると考えられます。総じて、GM作物は、農薬の使用量を削減することで、また環境負荷の高い農薬を低い農薬へ置き換えることで、生態系への影響を低減させています。

作物病害への対抗手段:レインボーパパイヤ

雑草や害虫と並び、細菌やウイルスによって引き起こされる作物の病気は、農家にとって常に悩みの種です。農薬や抵抗性品種の育種は場合によっては有効ですが、時にはそれらの開発が間に合わない勢いで有効な手立ての無い病気が栽培地域に蔓延し、多くの農家を廃業に追い込むこともあります。そのようなとき、病害抵抗性のGM作物が役に立つでしょう。ここで、実際にハワイのパパイヤ産業を救ったウイルス抵抗性GM作物「レインボーパパイヤ」のお話をご紹介します。

1990年代初頭、ハワイのパパイヤにパパイヤ輪紋ウイルスが急速に拡がっていました。このウイルスに感染すると、樹の成長は止まり、実は不味くなり、最終的には樹ごと枯れてしまいます。1993年に約5,800万ポンドあったパパイヤ生産量は、この病気のために1998年には約3,500万ポンドにまで減少しました12。壊滅の危機にあったハワイのパパイヤ産業を、遺伝子組換え技術を用いて救おうと立ち上がったのがハワイ大学とコーネル大学の研究者らでした。1997年、彼らはパパイヤ輪紋ウイルス抵抗性パパイヤの開発に成功しました。関係者らの努力のもと、1998年には商業栽培が認可され、すぐにパパイヤ農家に無償で提供されることとなりました。そして、2002年にはパパイヤ生産量は元の水準まで回復することができました。2011年には日本でも安全性が確認され輸入できるようになったため、レインボーパパイヤとして多くの人々に親しまれています。

レインボーパパイヤ

環境保護への貢献

意外に思われるかもしれませんが、GM作物の利用は、温室効果ガスを削減します。直接的には、農薬散布や耕起のためのトラクターの駆動回数の減少に伴う、燃料使用量の削減がその要因です。2015年には、28億kgに相当する二酸化炭素の排出が抑制されたと試算されています6。間接的には、減耕起や不耕起栽培により土壌中に留まる炭素量が増えたことも、大気中へ放出される二酸化炭素量の低減に貢献していると考えられています。その効果は、2015年1年間で239億kgに相当します。合計すると、2015年の二酸化炭素放出抑制量は267億kgにのぼり、1,000万台の自動車が1年間に排出する量に相当します。

他にも、様々なGM作物の環境保護への貢献が期待されています。例えば、窒素利用効率を高めたGM作物は、肥料の使用量を低減でき、窒素の流出に伴う水質汚染や温室効果ガスである窒素酸化物の大気中への放出を抑制することが可能です。また傷や打撲で変色しにくいGMリンゴやジャガイモは、食品の無駄な廃棄を減らし、埋め立て地から発生するメタンガスの量を減らすことができるでしょう。

  
1United Nations (2017). World Population Prospects 2017.
https://esa.un.org/unpd/wpp/
2FAO (2017). The future of food and agriculture ? Trends and challenges.
http://www.fao.org/3/a-i6583e.pdf
3Haile, M.G., et al. (2017). Impact of Climate Change, Weather Extremes, and Price Risk on Global Food Supply. Economics of Disasters and Climate Change. 1(1), 55-75.
https://link.springer.com/article/10.1007/s41885-017-0005-2
4農林水産省 (2017). 平成28年度 食料・農業・農村白書.
http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h28/index.html
5Klümper W, Qaim M (2014). A Meta-Analysis of the Impacts of Genetically Modified Crops. PLoS ONE 9(11). 6Brookes, G. and Barfoot, P. (2017). GM crops: global socio-economic and environmental impacts 1996-2015. PG Economics Ltd, UK.
http://www.pgeconomics.co.uk/pdf/2017globalimpactstudy.pdf
7PG Economics Ltd (2017). Benefits of Crop Biotechnology.
http://www.pgeconomics.co.uk/pdf/PG%20Economics-benefits.jpg
8WHO (2017). Micronutrient deficiencies/Vitamin A deficiency.
http://www.who.int/nutrition/topics/vad/en/
9Ye, X. et al. (2000). Engineering the Provitamin A (β-Carotene) Biosynthetic Pathway into (Carotenoid-Free) Rice Endosperm. Science, 287 (5451), 303-305. 10http://www.nytimes.com/2013/08/25/sunday-review/golden-rice-lifesaver.html 11http://supportprecisionagriculture.org/nobel-laureate-gmo-letter_rjr.html. 日本語版
http://supportprecisionagriculture.org/Japanese_letter.docx
12ISAAA (2016). Global Status of Commercialized Biotech/GM Crops: 2016. ISAAA Brief No. 52. ISAAA: Ithaca, NY.

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