更新日:2022年12月13日

米国

生産の概況

米国における遺伝子組み換え作物の栽培面積は、2019年に7,150万ヘクタールにおよび世界最大となっています1。内訳は、ダイズ3,043万ヘクタール、トウモロコシ3,317万ヘクタール、ワタ531万ヘクタール、アルファルファ128万ヘクタール、カノーラ80万ヘクタール、テンサイ45.4万ヘクタール、ジャガイモ1,780ヘクタールなどとなっています。これ以外にもリンゴ、スクオッシュ、パパイヤが栽培されています。ダイズ、トウモロコシ、ワタの主要作物に関しては、94%が遺伝子組み換えで、普及はほぼ一巡したといえます。

安全性審査

米国では、1986年に出された「バイオテクノロジー政策に関する調和的枠組み」により、3省庁(農務省、環境保護庁、食品医薬品局)間で規制を分担してきました。この調和的枠組みに関して、オバマ政権下ではそのアップデートが求められると共に、トランプ政権下では規制枠組みの現代化を指示する大統領令2が発出されたことで、各省庁での規制改訂が進められています。

特に近年大きな規制改訂を行ったのは、USDA(米国農務省)です。USDAでは、環境中で栽培される作物に対して、連邦植物保護法(PPA)のもとで、植物病害虫(plant pest)の危険性の観点から安全性審査を行ってきましたが、2020年5月に行政規則(7 CFR 340)を大幅に見直しました(略称:SECUREルール)。新たなルールでは、USDAが審査経験(作物×特性×発現メカニズム)を有するGM作物については、同種のものが開発されても、安全性の審査不要になりました(USDAに確認を求めることも可能)。審査経験がない組み換え作物に関しては、USDAに規制適用状況レビュー(RSR)を申請し、安全性が確認されれば規制対象外と認められます。USDAが規制すべきと認めた作物に関しては、USDAが許可した範囲のもとで栽培・流通が可能です。このように、従来は、届出制と許可制の2種類の制度であったものが、①適用除外と確認、②規制適用状況レビュー、③許可の3種類の制度に改められました3

遺伝子組み換え食品の安全性に関しては、連邦食品・医薬品・化粧品法(FDCA)を根拠として、FDA(米国食品医薬品庁)が確認を行っています。安全性審査を受けることは法的には義務付けられていませんが、商品化にあたって開発企業はFDAに事前に安全性確認を自主的に求めています。米国では食品にも製造物責任が課せられていますので、FDAに事前確認を得ておくことが企業にとっても必要と考えられています。

植物内で農薬成分を作り出すような害虫抵抗性作物については、EPA(米国環境保護庁)の認可も必要です。この場合の規制は、連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法(FIFRA)を根拠法としています。この種の作物の野外試験には、EPAの許可も必要ですが、小面積(0.4ヘクタール以下)であればこの手続きが免除されています。

なお、スタック品種に関しては、既存品種の掛け合わせと同等と考えられ、SECUREルール以前より、特別に安全性審査は行われていません。

また遺伝子組み換え動物に関しては、新規動物薬を規制するという観点から、FDAがその安全性を審査しています(根拠法は、連邦食品・医薬品・化粧品法(FDCA)です)。さらに遺伝子組み換え微生物に関しては、基本的にEPAが規制を担当しています(根拠法は、連邦有害物質規制法(TSCA))。

表示

これまで遺伝子組み換え食品に関する表示は義務付けられていませんでしたが、2016年7月に「全米遺伝子工学食品情報開示法」が成立し、USDAにより情報開示基準が制定されました。その後、経過措置を経て、2022年1月よりすべての事業者に遵守が義務付けられました。情報開示のための方法は、4種類(テキスト表示、USDAが定めたマーク、QRコード、ウェブサイトへのリンク)から事業者が選択できることになりました。また意図せざる混入はそれぞれの原材料に関して5%まで認められています。なお、組み換えられたDNAが検知できない加工品や、組み換え飼料により飼養された家畜から生産された食肉、レストランなどは情報開示が免除されています。どの品目が情報開示の対象になっているかに関しては、USDA-AMSのウェブサイトでリストが公表されています。

新たな育種技術(NBT)の扱い

上記のUSDAによるSECUREルールにおいて、ゲノム編集由来の生物のうち、次のいずれかの場合は、規制から除外されることとなりました。
①遺伝的変異が、外部から提供された修復テンプレートがない場合の標的DNA切断の細胞修復から生じたものである場合。
②遺伝的変異が標的部位での一塩基対の置換である場合。
③遺伝的変異が、植物の遺伝子プールで発生することが知られている遺伝子を導入するか、既知の対立遺伝子または遺伝子プールに存在する既知の構造のバリエーションであるような変更を標的配列に導入した場合。
④これ以外に農務省の規制監督者が除外するとしたもの。
なお、ゲノム編集された動物に関しては、FDAが産業向けガイダンス案(#187)を2017年1月に公表し、遺伝子組み換え動物と同等の規制を適用する方針を示していますが、2021年1月にはUSDAとDHHS(FDAの本省)が合意書(MOU)を締結し、一部の組み換え動物の規制をUSDAに移管することが検討されています。EPAについては、2020年8月末にFIFRAの改定案を公表し、これまで慣行育種由来の植物にのみ認められていた登録免除の規定を、ゲノム編集などの新技術に由来する植物にまで拡大するという提案を行いましたが、まだ検討中です。


※協力:名古屋大学大学院 環境学研究科 立川 雅司 教授

1ISAAA(2019)

Brief 55: Global Status of Commercialized Biotech/GM Crops in 2019

2Executive Order on Modernizing the Regulatory Framework for Agricultural Biotechnology Products (June 11, 2019) 3アメリカ穀物協会(2020)「米国政府による遺伝子組み換え生物の規制と植物バイオテクノロジー技術に関する米国農務省の新しい規則(SECUREルール)」『養鶏の友』2020年9月号

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