更新日:2022年11月10日

カルタヘナ議定書

生物多様性条約の詳細は議定書で定められることになっています。その一つが2003年に発効したカルタヘナ議定書であり、これは遺伝子組み換え生物の規制に関する最初の国際法です。各国の輸出入規制やリスク評価システムの基本となっています。

カルタヘナ議定書の概要

生物多様性条約は様々な構成要素からなっています。条約第19条3項において「バイオテクノロジーによって改変された生物 (LMO: Living Modified Organism resulting from biotechnology)であって生物多様性の保全および持続可能な利用に悪影響を及ぼす可能性のあるもの」について、「安全な移送、取り扱いおよび利用の分野における適当な手続き」を定める議定書の必要性を検討することを求めています。

これに基づき、2000年1月に特別締約国会議(Extraordinary Meeting of the Conference of the Parties: ExCOP)再開会合において「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(カルタヘナ議定書、Cartagena Protocol on Biosafety)」が採択され、2003年9月に発効しました。つまり、生物多様性条約とカルタヘナ議定書は親子のような関係にあります。カナダ・モントリオールに設置されている生物多様性条約事務局が、カルタヘナ議定書の事務局も兼ねています。

現在では、170以上の国と地域が本議定書を締約しています。カルタヘナ議定書のための会合として、概ね2年に一度、締約国会合(The Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties of the Protocol: COP-MOPまたはMOP)が開催されています。

日本は2003年11月にカルタヘナ議定書を批准しました。そして、この議定書を担保するための国内法「遺伝子組み換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法) が、2004年に施行されています。

カルタヘナ議定書の適用範囲

カルタヘナ議定書の規制対象である遺伝子組み換え生物(LMO)は、カルタヘナ議定書第3条g項において「現代のバイオテクノロジーの利用によって得られる遺伝素材の新たな組み合わせを持つ生物」であると定義されています。他の国際協定や国際機関が取り扱っている人間用の医薬品としてのLMOは、本議定書の適用対象から除外されています。

なお、日常的に広く用いられているGMO( Genetically Modified Organism)という文言ではないのは、GMOの定義のあいまいさに照らして、もっと明確な定義づけが必要であると考えられたためです。LMOは「生きていること」が条件になります。たとえば遺伝子組み換えダイズはLMOですが、遺伝子組み換えダイズを用いた醤油はLMOには該当しません。ただし、非公式の場ではLMOとGMOが類似語として用いられていることが少なくありません。

カルタヘナ議定書の内容

カルタヘナ議定書は、LMOの意図的な国境を超える移動に関する輸出国および輸入国の手続について、LMOの次の3つの用途ごとに定めています(表2)。

  1. 環境への意図的な導入を目的とするLMO(例:農地栽培用の遺伝子組み換え種苗)
  2. 食料、飼料、加工用として利用するLMO(例:食用、飼料用、加工用の遺伝子組み換え植物)
  3. 拡散防止措置の下で利用するLMO(例:工場等閉鎖的環境で使用される遺伝子組み換え微生物)

表2 カルタヘナ議定書の定めるLMOの用途ごとの手続き

カルタヘナ議定書の定めるLMOの用途ごとの手続き

「1. 環境への意図的な導入を目的とするLMO」に対しては、カルタヘナ議定書第7条から10条に規定されている輸出入の際の事前同意手続き(AIA: Advance Informed Agreement)が適用されます。それによると、輸出国または輸出者は、LMO輸出の意思をLMOの情報とともに、輸入国に対して文書で通知しなければなりません。輸入国はリスク評価を行い、その結果をもとに輸入の可否を判断し、輸出国あるいは輸出者およびバイオテーフティクリアリングハウス(BCH)に回答します。この輸入手続きを経て、輸入国が認めたLMOについてのみ、輸出入が行われることになります。ただし、過去に輸出を行い、上記手続きをすでに経ているLMOについては、手続きを省略することができます(図1)。

なおBCHは、締約国による議定書の運営を支援し、LMOに関する情報の交換や共有を行うためのメカニズムです。日本も、カルタヘナ法により日本版BCHを設立しています。
https://www.biodic.go.jp/bch/

「2. 食料、飼料、加工用として利用されるLMO」については、AIA手続きは義務付けられていませんが、自国における2の利用を決定した国には、BCHに通告することが求められています。輸入国はBCHを通じて情報を入手し国内基準に従って輸入を決定することができます(図2)。

「3. 拡散防止措置の下で利用するLMO」に対しては、カルタヘナ議定書の輸出入前の手続きに関する規定は適用されません(国内法で定めることはできます)。

「環境への意図的な導入を目的とするLMO」に対して適用される事前同意手続き
図1「環境への意図的な導入を目的とするLMO」に対して適用される事前同意手続き (AIA)
図2「食料、飼料、加工用として利用されるLMO」に対して適用される手続き
図2「食料、飼料、加工用として利用されるLMO」に対して適用される手続き
1OECD (1986). Recombinant DNA Safety Considerations. 2OECD (1992). Safety evaluation of Foods derived from Modern Biotechnology. 3CODEX Alimentarius Commission (2003a). Principles for the Risk Analysis of Foods Derived from Modern Biotechnology. CAC/GL 44-2003. 4CODEX Alimentarius Commission (2003a). Guideline for the Conduct of Food Safety Assessment of Foods Derived from Recombinant-DNA Plants. CAC/GL 45-2003. 5CODEX Alimentarius Commission (2003a). Guideline for the Conduct of Food Safety Assessment of Foods Produced Using Recombiant-DNA Microorganisms. CAC/GL 46-2003.

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