更新日:2023年6月15日

遺伝子組み換え作物とは

遺伝子組み換え作物は、文字通り「遺伝子組み換え技術」を利用して改良された作物です。ここでは、遺伝子組み換え作物の概要や、私たちが食べてきた作物の品種改良の歴史と遺伝子組み換え作物が誕生した背景、そして、遺伝子組み換え作物と従来の品種との違いおよび共通点についてご説明します。

遺伝子組み換え作物は、「遺伝子組み換え技術」を利用して品種改良された作物です

遺伝子組み換え(遺伝子組み換え、GM)作物とは、概して「遺伝子組み換え技術(遺伝子工学、バイオテクノロジーとも称されます)を利用して、従来の品種を新たな遺伝的組み合わせを持つように改良した作物」のことです。

特に、日本の法律(カルタヘナ法)上の定義では、「遺伝子組み換え技術」として、「細胞外で核酸を加工する技術」や「異なる科に属する生物の細胞を融合する技術」が該当します。ただし、移入する核酸が同種由来の核酸であったり(セルフクローニング)、自然界で核酸の交換がもともと起こりうる種由来の核酸であったり(ナチュラルオカレンス)、あるいは異なる科に属する生物の細胞融合であっても交配等従来から用いられている技術であれば、それらを利用しても遺伝子組み換え作物には該当しません。

遺伝子組み換え技術は、ある生物に別の生物由来の遺伝子を挿入したり、逆にもともと持っていた遺伝子の機能を抑制したりすることを可能にします。この技術を利用することで、従来の品種改良技術では作り出すことが不可能だった、新しい有用な性質を持った品種を開発できるようになりました。例えば、除草剤耐性や害虫抵抗性、ウイルス抵抗性を備えたGM作物は、農薬散布の労力を軽減し、収量を向上させ、農家に貢献しています。また、栄養成分を改変したGM作物は、栄養不足にあえぐ途上国の人々の栄養状況の改善や、消費者の健康維持や増進への貢献が期待されています。

1996年に商業栽培が開始されて20年以上、GM作物は世界中で利用されています。そして、その栽培面積は今でも増え続けています。では、そもそもGM作物はどのような背景で誕生し、従来の品種改良による作物とどのような違いがあるのでしょうか。

野生種と栽培種

作物とは、人間が野生の植物を栽培して繁殖させる中で、人間の目的に合うように品種改良を重ねた植物のことを指します。野生植物は、厳しい自然環境の中で生存していくための優れた性質を備えています。発育の時期が不揃いであったり、種子が厚い種皮やとげで覆われていたり、有害成分を含んでいたりします。しかし、これらの性質は人間が利用するには不都合なものです。そこで、人間は長い年月を欠けて、これらの性質を取り除き、より稔りの多い品種を作り出してきました。

例えば、トウモロコシとその祖先種であるテオシントの関係は良く研究されています。現在のすべてのトウモロコシは、約9,000年前にメキシコに自生していたテオシントという野生種に起源を持つとされています1。テオシントは、現在のトウモロコシとは似ても似つかない姿をしています。トウモロコシの茎は1本ですが、テオシントは沢山枝分れしています。トウモロコシの皮をむくとすぐに実が出てきますが、テオシントはこの実に硬い殻をかぶっています。そしてこれらの差異は、枝分れや殻を制御している遺伝子の変化によって説明されることが明らかにされています2,3。テオシントを栽培化していく過程で、自然は度々突然変異を産み出し、人間はその中から新たな好ましい性質を持つ作物、すなわち新たな遺伝的組み合わせを持つ作物を選抜してきました(分離育種)。つまり、現在存在する多種多様なトウモロコシの栽培種は、人間が自分たちにとって有用な方向へ選択圧を加え続けてきた結果、作り出されたものなのです。

左側:テオシントの穂軸、右側:トウモロコシの穂軸
左側:テオシントの穂軸、右側:トウモロコシの穂軸
出典:University of Wisconsin-Madison(https://teosinte.wisc.edu/images.html

品種改良の歴史

すべての生物は遺伝子を持っています。植物ももちろん例外ではなく、作物の色や形、味などの特徴は遺伝子によって決まります。19世紀以降、遺伝や進化の概念が明らかにされていくにつれ、優れた性質を持つ個体を交配によって意図的に作り出そうとする交雑育種が盛んに行われるようになりました。具体的には、おいしいけれど病気に弱い品種Aと、おいしくないが病気に強い品種Bを掛け合わせて、これら2つの望ましい形質を両方持った、おいしく病気に強い品種を作ろうとする試みです。品種Aのめしべに品種Bの花粉をつけて受粉し、種子を採取します。そして、この種子を植えて目的とする美味しく病気に強い植物を探し、種を取り、また次世代を植えるということを繰り返して、目的の形質のみを持つものに近づけていきます。例えば、おいしいお米の代名詞「コシヒカリ」は、収量が多く食味に優れた品種と、病気に強いとされていた品種の掛け合わせで作られました。私たちが普段食べているお米のほとんどは、交配を介した品種改良によるものです。

突然変異育種

20世紀になると、放射線や化学物質を用いて人為的に突然変異を誘発することで、新たな品種を産み出そうとする技術が現れました(突然変異育種)。例えば、ピンク色のグレープフルーツの「スタールビー」や「リオレッド」、「ゴールド二十世紀」ナシ、お米の「ミルキークリーン」や「はえぬき」は突然変異育種により開発されました4

しかしながら、これらの品種改良の手法は、不確実で偶然に頼る部分が多く、新しい品種を作り出すまでに長い年月を必要としていました。また、これらの手法で作り出された品種では多くの遺伝子が変化していますが、どのような遺伝子がどのように変化したのか、ほとんどの場合不明でした。

品種改良の歴史については、こちらもご覧ください。
インフォグラフィック「農作物の遺伝子改変の歴史」(2017年・GMOアンサーズ作成)

育種の歴史の延長としての遺伝子組み換え作物

従来の品種改良技術を発展させて、より効率的に、より確実に、新しい性質を作物に加えることはできないか―そこで着目されたのが遺伝子組み換え技術です。遺伝子組み換え技術により、より確実でより効率的な品種改良が可能になり、さらに、従来の品種改良技術では作り出すことが不可能だった、新しい有用な性質を持った品種を開発できるようになりました。

品種改良と遺伝子組み換え

従来の品種改良技術も遺伝子組み換え技術も、人間にとって有用な性質を持つ作物を作出するという目的のもとで、人為的に遺伝子の組み合わせを変えているという点では同じです。遺伝子組み換え技術は、これまでの品種改良技術を単に発展させたものだと言えるでしょう。私たちは、「自然のまま」「手つかずのまま」の穀物や野菜、果物を食べていると思いがちですが、実は長い時間をかけて品種改良という人の手が加えられた作物を食べているのです。そもそも、農業という営みは、人間により整備された特定の環境で、人間による定期的な管理のもとで、単一の遺伝的集団を栽培するという、不自然なものではないでしょうか。自然にどこまで人間の介入を許容するのか、常に論争の的となる、明確な答えの無い問題です。しかし、人間社会の持続可能な発展に、農業、そして品種改良技術が貢献してきたということは、疑いの無い事実だと言えるでしょう。

バイオテクノロジーについて

1953年にワトソンとクリックがデオキシリボ核酸(DNA)の立体構造を明らかにして以来、遺伝子に関する研究は飛躍的に発展しました。アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類の塩基から構成されるDNAは、それらが連なったひも状の形状をしています。DNAは立体的に折りたたまれて染色体となり、細胞の核の中に収納されています。A、T、G、Cの並び方に秘密があり、3文字(4x4x4=64通り)で特定の意味を持ちます。つまり、アミノ酸の作成を開始するか、どのアミノ酸を作成するか、アミノ酸の作成を終了するかです。配列に従い作られたアミノ酸が連なったものがタンパク質であり、これが生物の性質を実現する様々な機能を発揮しています。このようにしてタンパク質を作成するための遺伝情報の単位が、遺伝子です。そして、生物が持つすべての遺伝情報をゲノムと呼びます。ヒトの場合、約31億の塩基、約2.2万の遺伝子から構成されています。

遺伝子組み換え技術とは、DNAを細胞外で切断したり結合したり、あるいはDNAを細胞内に導入したりするなどして遺伝暗号を変える技術のことです。遺伝子組み換え技術は、様々な分野で私たちの社会に貢献しています。遺伝子組み換え技術を用いて製造したヒトインスリンやヒト成長ホルモン、オプジーボなどの抗がん剤や最近ではコロナウイルスのワクチンなど、医療分野ではすでに数多くの医薬品が開発されています。ナチュラルチーズの製造に欠かせない酵素キモシンや、サプリメントなどに利用される多くのアミノ酸やビタミン類も、遺伝子組み換え技術により作られています。再生可能エネルギーとしてのバイオ燃料の開発にも用いられています。

このように、遺伝子組み換え技術を利用した製品は既に身の回りにあふれており、私たちの社会に欠かせないものとなっています。

1Matsuoka, Y. et al. (2002). A single domestication for maize shown by multilocus microsatellite genotyping.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 99(9), 6080-6084.
http://doi.org/10.1073/pnas.052125199
2Doebley, J. et al. (1997). The evolution of apical dominance in maize. Nature, 386(6624):485-8.
http://www.nature.com/nature/journal/v386/n6624/abs/386485a0.html
3Wang, H. et al. (2005). The origin of the naked grains of maize. Nature, 436(7051), 714-719.
http://doi.org/10.1038/nature03863
4IAEA (国際原子力機関) 突然変異育種品種データベース.
https://mvd.iaea.org/

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