更新日:2023年12月25日

生物多様性への影響評価

遺伝子組み換え作物の国内での栽培や、食用や飼料用としての輸入や流通が行われるためには、日本の環境に影響を及ぼす可能性が無いことを科学的に評価する必要があります。この評価はカルタヘナ法に基づいて行われており、農林水産省および環境省に承認申請することが義務付けられています。

生物多様性影響評価の概要

生物多様性(環境)に対する影響については、「遺伝子組み換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」に基づいて審査が行われます。遺伝子組み換え作物の国内での利用を目的とする場合については、農林水産省と環境省が承認を行います。

遺伝子組み換え作物の利用申請にあたり、開発者は目的の遺伝子組み換え作物についての基本的な情報や、生育・生殖特性、交雑性などに関するデータを収集し、農林水産省と環境省に提出します。作物や遺伝子の特性によっては、遺伝子組み換え作物が場外に流出しないように設計・管理された「隔離ほ場」における試験でのデータ収集を命じられる場合があります。その場合、開発者はまず隔離ほ場試験を実施するための承認を取得し、隔離ほ場試験を実施して得られたデータをもとに、改めて利用申請を行う必要があります。

提出されたデータに基づき、国によって選定された専門家らが、国内に存在する野生生物に対する影響について評価を行います。評価にあたっては、遺伝子組み換え作物の利用により影響を受ける可能性のある在来の野生動植物が国内に存在するかどうか、存在する場合、どのような影響がどのくらい出るかなどを、総合的に検討しています。この結果得られた審査報告書について、さらに国民の意見(パブリックコメント)の聴取を行い、その内容を考慮した上で最終的な承認の可否が決定します。

こうして生物多様性影響が生じるおそれがないと最終的に判断された遺伝子組み換え作物のみが、国内での流通や利用等を認められることになります。

遺伝子組み換え作物の生物多様性影響評価の流れ
図1 遺伝子組み換え作物の生物多様性影響評価の流れ

生物多様性影響評価の考え方

カルタヘナ法における遺伝子組み換え作物の生物多様性影響評価においては、次の4つの項目について評価を行うことが定められています。

(1)競合における優位性

遺伝子組み換え作物が在来の野生種と栄養分や日照、生育場所などを巡って競い合い、在来生態系へ侵入し、影響を及ぼす可能性

(2)有害物質の産生性

遺伝子組み換え生物が有害な物質を生み出すことによって、周辺の生態系に影響を及ぼす可能性

(3)交雑性

遺伝子組み換え作物と近縁野生種との交雑により、在来の野生種の集団に影響を及ぼす可能性

(4)その他の性質

その他、生物多様性影響評価を行うことが適切であると考えられる性質

それぞれの評価項目について、次の手順で評価が行われ、最終的な認可を総合的に判断しています。

  1. 一 影響を受ける可能性のある野生生物の特定
  2. 二 影響を受ける可能性のある野生生物が特定された場合、その影響の具体的内容
  3. 三 影響を受ける可能性のある野生生物が特定された場合、その影響の生じやすさ
  4. 四 生物多様性影響が生じるおそれの有無の判断

実際の運用にあたっては、申請される遺伝子組み換え作物の宿主や導入する形質、使用目的に応じた評価項目などが設定されます。例えば、ライフサイクルの長い樹木と一年生農作物とでは、評価に必要な具体的な情報や評価方法は異なるものになります。また、ダイズの場合は近縁種としてツルマメが存在しているため、交雑の可能性を検討する必要があります。一方で、トウモロコシやワタの場合には日本国内に自生している近縁野生種は存在していません。また、セイヨウナタネの場合も、日本で栽培されているアブラナ科植物は明治以降に入ってきた外来種であり、在来の近縁野生種は存在していません。したがって、これらの作物には近縁野生種との交雑の可能性はありません。このように、宿主あるいは遺伝子の特性を科学的見地から適切に評価するために、カルタヘナ法は柔軟に運用されています。

生物多様性影響評価の手順
図2 生物多様性影響評価の手順

カルタヘナ法について

遺伝子組み換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律、いわゆる「カルタヘナ法」は、カルタヘナ議定書の批准に伴う国内法として2003年6月に制定され、2004年2月から施行されています。カルタヘナ法では、遺伝子組み換え生物等(LMO)の拡散を防止するための措置、未承認のLMOの輸入の有無を検査する仕組み、輸出の際の相手国への情報提供、違反者への回収や使用中止の命令などが定められています。

カルタヘナ法では、遺伝子組み換え生物等(LMO)の使用形態を2つに分類しています。

(1)第一種使用等

環境中への拡散を防止しないで行う使用です。LMOのほ場での栽培や穀物としての流通など、一般環境中で使用する場合の規定です。事前に主務大臣の承認を受けた上で使用することが義務付けられています。

(2)第二種使用等

環境中への拡散を防止しつつ行う使用です。研究室内での実験や工場内での産業利用などが対象になります。省令に定められた拡散防止措置を行うか、主務大臣の確認を受けた上で拡散防止措置を取ることが義務付けられています。

カルタヘナ法には、文部科学省、財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、環境省が関わっており、利用する分野ごとに主務大臣が定められています。研究開発は文部科学省、酒類製造は財務大臣、医薬品等は厚生労働大臣、農林水産分野は農林水産大臣、鉱工業は経済産業大臣が担当しており、第一種使用の場合はさらに環境大臣が加わります。したがって、遺伝子組み換え作物の流通を目的とする場合は、農林水産省と環境省が承認を行います。

カルタヘナ議定書では、「食料や飼料として直接利用あるいは加工用のLMO」については、「栽培用のLMO」とは異なり各国による事前承認手続きは要求されていません。しかし、日本におけるカルタヘナ法では、「食料や飼料として直接利用あるいは加工用のLMO」も第一種使用に含めて事前承認手続きの対象としており、カルタヘナ議定書よりも厳格な適用となっています。

日本でカルタヘナ法に基づく安全性の確認を行った遺伝子組み換え作物

これまでにカルタヘナ法で承認を受けた作物については、農林水産省や環境省が提供する情報をご参照ください。

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