更新日:2023年2月1日

カナダ

生産の状況

カナダにおける遺伝子組み換え作物の栽培面積は、2019年に1,250万ヘクタールと推計されており、世界第4位の生産面積の国となっています1。主な組み換え作物はカノーラ(ナタネ)、ダイズ、トウモロコシですが、このほかテンサイ、リンゴ、ジャガイモ、アルファルファも栽培されています。カノーラ、ダイズ、トウモロコシに関しては、国内栽培の圧倒的割合が組み換え品種になっています。リンゴに関しては、2017年以降3種類のリンゴが認可されましたが、カナダ国内での生産はありません(アメリカでは生産されています)2。また組み換え大西洋サケが食品として流通しています。

組み換えアマニ(flax)の生産に関しては、1990年代に一旦生産されていましたが、分別困難であることから2001年に登録を解除しました。しかし、2009年に欧州においてカナダから輸出したアマニに組み換え品種が発見されたことで、欧州では未承認遺伝子組み換え植物として取り扱われ、混入防止のために輸出検査体制が強化されました。

安全性審査

カナダにおける規制の最も大きな特徴は、遺伝子組み換え技術など新規の植物を作り出す方法ではなく、新たな植物がもつ特性に注目し、特性が新規である限り、作出方法を問わず、規制の対象としているという点にあります。新規の特性を有する植物は、新規特性植物(Plant with Novel Trait, PNT)と呼ばれ、新規食品(novel foods、これまでの食経験がないもの)と並んで規制対象とされます。

主要な規制官庁としては、カナダ食品検査庁(CFIA)、カナダ保健省(HC)、カナダ環境・気候変動省(ECCC)があり、連携して新規特性植物や新規食品の開発と応用を監督しています。

カナダ食品検査庁(CFIA)は、輸入、環境中での利用、品種登録、飼料利用に関する安全性審査に責任を有し、遺伝子組み換え品種も含めすべての新規作物の隔離ほ場試験を種子法のもとで規制しています。スタック品種に関しては、環境安全性に関する特別の審査はありませんが、環境中で利用する場合には、少なくとも60日前にCFIAの植物バイオセイフティ局(PBO)に届け出ることが必要です。届出を受けてPBOは、開発者に追加的データを求めることがあります。

カナダ保健省(HC)は、食品医薬品規則(Food and Drug Regulations)のPart B・Division 28によって規定される新規食品(遺伝子組み換え食品を含む)に関する健康への安全性と商業利用に対する責任を負っています。遺伝子組み換え食品は、市場導入前に資料を提出することが義務付けられており、食料総局の新規食品部(Novel Foods Section)が科学的に安全性評価を行っています。2022年5月に保健省はガイドラインを改訂し、新規食品に関してより限定した定義を行いました。これはゲノム編集技術など新たな育種技術の登場に対応するものです。また過去に保健省が評価した経験がある組換え植物(retransformant)に由来する食品に関しても、審査を簡素化しました。

カナダ環境・気候変動省は、バイオレメディエーションなどに用いられる組み換え微生物に関して、カナダ環境保護法(CEPA)および新物質申請規則(New Substance Notification Regulations)のもとで規制しています。新物質申請規則は、他の連邦法に対する補完的役割を有しており、他の規制でカバーされないものを規制することになっています(米国のTSCAが果たしている役割と同様です)。また水産物へのバイテク応用に関しても、新物質申請規則により規制されていますが、その際は、環境・気候変動省と保健省に加え、漁業海洋省(DFO)が関与しています。

カナダにおける品種登録では、新品種が生産者や消費者にとって明確なメリットがなければ登録できないことになっています。

カナダはカルタヘナ議定書に署名はしましたが、批准はしていません。

表示

HCとCFIAは共同で、食品医薬品法(FDA)に基づいてカナダの食品表示政策を担っています。表示は、米国と同様に栄養組成が従来のものと異なる場合に義務付けられていましたが、2004年4月15日、カナダ政府は遺伝子組み換え原料を使用しているか否かの食品表示および広告を自主的に行うことに関する基準を、カナダの国家規格としてカナダ規格審査会が公式採用したことを発表しています。この自主的表示においても、消費者に誤解を与えないために、様々な条件を遵守することが求められています。意図せざる混入の許容水準に関しては、5%までとされています。他方、表示を義務化しようという法案に関しては、議会に提出されましたが、2017年5月に否決されています。なお、この基準は、2016年と2021年再確認されていますが、ゲノム編集など新たな育種技術のうち、従来の交配育種によっても自然に作り出せる技術に関しては、遺伝子組み換え技術から除外する点が明記されました。

新たな育種技術(NBT)の扱い

カナダにおいては、NBT由来の作物(CFIA担当)や食品(保健省担当)に関する取扱いが検討されてきました。こうした検討を踏まえて、2022年5月には保健省が「新規食品の安全性評価ガイドライン2006」を改訂しました。具体的には、「食品医薬品規則(新規食品規則)」一部(Part B、Division 28)を改訂し、アレルゲンや栄養組成に変化がみられない食品や外来遺伝子由来ではないものは「規制対象外」としました(植物由来の食品に限定)。CFIAからも、2021年5月にガイダンス案が公表されましたが、最終決定には至っていません。動物や微生物に関しては、カナダ環境保護法(Environmental Protection Act)のもとで取り扱われることが見込まれますが、具体的な方針は未定です。

※協力:名古屋大学大学院 環境学研究科 立川 雅司 教授

1ISAAA(2019)Brief 55: Global Status of Commercialized Biotech/GM Crops in 2019 2USDA-FAS (2022) Canada: Agricultural Biotechnology Annual. GAIN Report Number CA2022-0041.

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