更新日:2023年2月1日

インド

生産の状況

インドでは、Btワタ(害虫抵抗性ワタ)の商業栽培が2002年から開始されています。2021/22年の栽培面積は、1,220万ヘクタールとなっており1、栽培面積の95%を遺伝子組み換えワタが占めるに至っており、普及がほぼ一巡したものによるものと思われます。組み換え作物の栽培面積としては世界第5位となります2

Btワタは5種類(イベント)が認可されています。なお、Btナス(害虫抵抗性ナス)に関しては、認可の最終段階で、政府がモラトリアムを宣言し(2010年2月)、長期的な安全性評価を行うとしていましたが、その後の手続きは進んでいません1。また国内の研究機関で開発された組み換えマスタードも審査されており、政府の最終決定の段階に近づきつつあります。ワタに次いで国内2番目に商業栽培なされる組み換え作物になる可能性があります。このほかにも、Btワタのスタック品種、除草剤耐性トウモロコシなどの審査が進んでいます。

安全性審査

インドのバイオテクノロジー規制の基本法は、1986年環境保護法(Environmental Protection Act, EPA)であり、この法律において、遺伝子組み換え作物の研究開発、商業栽培、食品・飼料の輸入などの承認に関する諸規定が定められています1。本法のもとで、「有害微生物および遺伝子組み換え生物の製造、利用・輸出入、保管に関する規則」(1989年)が定められ、この行政規則により規制が行われています。

商業栽培の認可や輸入に関わる安全性審査の最終決定機関は、環境森林気候変動省(MoEFCC)のもとで設置されている「遺伝子工学審査委員会」(GEAC)です。科学的評価は、科学技術省(MOST)・バイオテクノロジー局(DBT)のもとで設置されている「遺伝子操作レビュー委員会」(RCGM)が担当しています。この委員会は、30~40名ほどの科学者や専門家などで構成されています。RCGMの勧告にもとづいて、GEACが認可を決定することになります。このようにインドにおいては、安全性審査に関して環境森林気候変動省と科学技術省が重要な役割を果たしています。スタック品種については、新たなイベントして扱われ、他のものと同様に審査の対象となっています。

なお、野外試験をめぐっては、2005年頃より裁判が行われ、最高裁とGEACとの間で野外試験の実施やその条件が検討され、また最高裁により設置された科学者パネルとの間で議論がなされたという経緯があります。また2011年からは野外試験において州政府からの同意を得ることも必要とされるようになりました。またBtワタに関しては未認可のものが出回っているために、2017年4月以降、野外試験における科学的検証にはインド農業研究会議(ICAR)も関与することになりました。

農業省は野外試験で安全性が確認された遺伝子組み換え作物品種について、その評価や商品化を担当しています。

食品安全性の審査に関しては、GEACが審査を行っていましたが、2017年8月に最高裁の判決により、GEACからインド食品安全基準庁(FSSAI)に対して食品の安全性審査の権限を移し、そのための規則制定を求めることとなりました。これを受けてインド食品安全基準庁(FSSAI)は「2006年食品安全基準法」の遺伝子組み換え食品(加工品を含む)に関する条項に基づいて、2021年11月に「食品安全および基準(遺伝子組み換え食品)」(案)を公表しましたが、最終決定には至っていません。現時点では、上記のGEACがすでに食品安全性を確認した食品(組み換え大豆および組み換えカノーラの油)のみが輸入を認められています。これ以外の組み換え食品の輸入が認められていないことから、インド食品安全基準庁(FSSAI)は、2021年3月より「非GM由来兼GMフリー」の証明を提出するよう事業者に求める決定を行いました。

表示

2006年3月、保健家族福祉省(MHFW)は、1955年食品汚染法(PFA)の改訂案を公表し、表示対象を遺伝子組み換え食品にまで拡張する提案を行いました。その後、2012年6月には包装食品に関して、消費者問題・食品・流通省(MCAFPD)・消費者局(DCA)が表示規定を提案しましたが、同局には表示を強制する権限はないようです1。さらに、2018年4月には食品安全基準庁(FSSAI)が表示規制案を発表しました(その後、改訂案を2019年6月に発表)が、現在に至るまで最終的な決定には至っていません。なお、意図せざる混入の水準は、1%が検討されているようです。

新たな育種技術(NBT)の扱い

2022年3月にインド環境森林気候変動省(MoEFCC)は、通知を発出し、SDN-1もしくはSDN-2により作出された植物で、外来遺伝子が含まれていないものは、GM規制の対象外とすることを明らかにしました。これは「有害微生物および遺伝子組み換え生物の製造、利用・輸出入、保管に関する規則」(1989年)のうち、第7条から第11条について適用外とすることを意味し、輸出入、製造加工、環境放出、食品利用に関する規制から除外されることになりました。また科学技術省からも、これに関連して「ゲノム編集された植物のリスク評価ガイドライン」および「ゲノム編集作物に対する審査に関する標準手順書」が公表されました。

※協力:名古屋大学大学院 環境学研究科 立川 雅司 教授

1USDA-FAS (2022) India: Agricultural Biotechnology Annual. GAIN Report Number IN2022-0087. 2ISAAA(2019)Brief 55: Global Status of Commercialized Biotech/GM Crops in 2019

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