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研究報告書「家畜・家禽用非GM飼料が米国飼料産業に与える影響」(2022年・Institute for Feed Education and Research)

研究報告紹介

掲載日:2025年6月24日

Impact of Non‐GM Livestock and Poultry Feed on the U.S. Feed Industry
家畜・家禽用非GM飼料が米国飼料産業に与える影響

Report prepared for the Institute for Feed Education & Research(IFEEDER)
英文レポート全文(PDF)
https://www.ifeeder.org/ifeeder/assets/file/public/research/ifeeder-final-report-011822-final.pdf
・エグゼクティブ・サマリー(PDF)英語原文 | 日本語訳

食品産業において、遺伝子組換え(GM)原料を含まない製品を求める声は根強くあります。GMフリーの牛乳や肉、卵といった畜産物を生産するには、家畜に非GM飼料のみを与えることが求められています。そのため、非GM飼料市場の拡大が求められる場合には、米国の飼料業界は非GM飼料の生産に伴う経済的および環境的影響を十分に理解することが重要です。
米国の飼料教育研究機関(IFEEDER)は、非GM飼料の生産量増加が農場、穀物エレベーター、飼料工場にどのような影響を及ぼすかを把握することを目指しました。最近、この取り組みの一環として「家畜・家禽用の非GM飼料が米国飼料産業に与える影響」という研究レポートが報告されたので、その概要を紹介します。

GMと非GMトウモロコシ及びダイズの生産状況
GM作物は、米国のトウモロコシやダイズ農家によって広く栽培されています。2019年には、米国におけるトウモロコシの栽培面積の92%が害虫抵抗性、除草剤耐性、またはその両方の特性を持つGM作物で占められており、ダイズにおいては除草剤耐性のGM作物が94%に達しました。メタアナリシスの結果、GMトウモロコシは、非GMトウモロコシで遺伝的に類似した系統と比較して収量が5.6%から24.5%向上することが確認されており、GMダイズでも収量は約3%増加するとされています。
GM作物の種子は非GM作物の種子よりも高価ですが、多くの場合、そのコストは除草剤、殺虫剤、および野外作業にかかる費用が低減することで相殺されます。さらに、GM技術による収量向上が可能な場合、1ブッシェル当たりの総生産コストは非GM技術と比較して大幅に低くなる可能性があります。こうした現状を踏まえると、農業従事者がGM作物から非GM作物への転換を検討する際には、非GM作物の生産コストの差を埋めるためにプレミアム (割増金) が必要となるでしょう。
以下に、その他のGM作物と非GM作物の特徴が紹介されています。

1)土地の節約
2007年から2016年にかけて観測された草地から農作物栽培への移行は、高い収益性を目指した動きを示しています。この動きにおける非GM作物からのシフトは、土地の節約効果を生じます。例えば、GM作物の特性を活用することで得られる高い収量性によって、680万エーカーから1,590万エーカーもの土地が耕作地に変わることなく、草地として維持されました。これは、土地転用が35%から65%少なくなることを示しています。

2)燃料使用量とCO2排出量の関係、窒素の排出
環境に関する文献によると、除草剤耐性GM作物の導入により、低耕起および不耕起栽培が可能になり、その結果、温室効果ガス排出量の削減に寄与していると報告されています。耕起作業の減少により、燃料費、設備費、人件費が削減され、農場での燃料使用量が減少したことがCO2排出量の低下につながると評価されています。本報告においても、GM作物を使用した場合と使用しない場合、さらに耕起栽培と不耕起栽培を組み合わせて比較した表が示されています。これによるとGM作物の不耕起栽培は、非GM作物の耕起栽培に比べて、CO2排出量は43%削減されるとのことです。生産システムにおける窒素排出には、施肥時の揮発、土壌層を通じた浸出、脱窒による放出の3つの主な経路があります。非GMトウモロコシの栽培によって収量が5%減少した場合の窒素排出を研究者が評価しました。GMトウモロコシと同等の収量を得るためには、非GMトウモロコシでは栽培面積を4.9%増やす必要がありますが、その結果として、環境中への窒素排出量が約2.7%増えると予測されます。トウモロコシ栽培の主要12州においては、1995年にはトウモロコシ1ブッシェルあたり1.2ポンドの窒素使用量が、2018年にはGMトウモロコシ栽培のために0.90ポンドへと約26%減少していることが示されています。

3)穀物の取扱いへの影響
非遺伝子組換え(非GM)作物の生産を増加させるには、現在存在する2種類の製品(GM作物と非GM作物)のサプライチェーンを、大規模に再構築する必要があります。この変更により、非GM飼料の生産に関与する人々は、GM作物と非GM作物の分別や隔離に関連する追加コストを負担することになります。

農家への影響:農場での分別コストは1ブッシェルあたり0.05ドル未満とされています。また、非GM穀物の生産可否を決める主な要因は隔離作業にかかるコストではなく、生産性や最終的な穀物価格設定が重要な意思決定要因と見られています。

穀物エレベーターへの影響:穀物エレベーターが非GM穀物を扱うかどうかを決定する際には、分別や隔離コストについての明確性と透明性が不可欠です。非GMダイズの取り扱いでは、GMダイズに比べて1ブッシェルあたり0.05ドルから0.07ドル、非GMトウモロコシでは0.07ドルから0.09ドルの追加コストがかかるとされています。

飼料工場への影響:飼料生産の最終段階である飼料工場では、非GM原料の分別にかかる追加コストが図として示されています。その内容は、豚用飼料で1トンあたり4.91ドル~9.08ドル、 肉用鶏 (ブロイラー) の飼料で同4.93ドル~9.11ドル、卵用鶏飼料で同5.14ドル~9.32ドル、肉牛用飼料で同0.44ドル~2.68ドル、乳牛用飼料で同1.32ドル~3.57ドルとなります。非GM飼料の製造を選択する際には、こうした追加コストが重要な決定要因となります。

4)意図せぬ混入の許容値
多くの国や第三者認証機関では、非GM製品の「許容可能」とされる意図しない混入(Adventitious Presence:AP、非GM原料または製品中に含まれる低レベルのGM原料)について、それぞれ異なる基準を設けています。一般的には、0.9%、3%、5%という3種類の貿易許容値が存在しますが、APの許容レベルが低いほど達成するためのコストは高くなります。受け入れた穀物中の混入率はAPレベルに大きく影響を与えるものの、モデル化された分別シナリオによれば、5%の許容値は達成可能とされています。さらに、単一の加工ラインを持つ工場では、専用化や時間的分別が許容値0.9%を満たす効果的な戦略とされています。一方、複数の加工ラインを持つ工場では、加工ラインを専用化しても0.9%のAPを満たすことは保証されないとされています。許容値0.9%を達成するには、原料の受け入れから飼料生産まで、堅実な分別戦略が不可欠です。

5)畜産物の生産コストへの影響
最も重要な要素は、GM作物を使用した場合と比較して、非GM作物を使用して生産された飼料で豚肉、鶏肉、卵、牛肉、牛乳を生産する場合のコストの違いです。非GM作物や非GM穀物を使用して生産された飼料に関連する生産コスト、分別コスト、プレミアムなどの知見や畜産物市場情報センターのデータベースの情報に基づいて、消費者が購入する豚肉、鶏肉、卵、牛肉、牛乳のコストが推定されました。その結果、非GM飼料を使用した場合、豚肉の価格は1ポンド当たり3.83ドルが4.47ドル(16.71%)へ上昇し、鶏肉パッケージの1ポンド当たりで1.91ドルから2.16ドル(13.09%)の上昇と推定されています。卵も1ダースで1.80ドルから2.04ドル(13.33%)の上昇となり、いずれも大幅な価格上昇が見込まれます。一方で、切り落とし牛肉の価格は1ポンド当たり0.04ドル(0.40%)の上昇であり、牛乳は1ガロンで0.08ドル(2.26%)の上昇と、比較的小幅な上昇にとどまると推定されています。

結論
GM作物は経済的・環境的に大きな便益をもたらすことから、その栽培面積は世界的に増加を続けています。一方で、非GM作物を含む製品を求める声にも応えることが求められています。このそのため、非GM飼料市場への参入には、資本コストと経営コストを慎重に考慮する必要があります。さらに、動物業界では持続可能性の目標が重要視されており、飼料は畜産業におけるカーボンフットプリントの主要な構成要素です。そのため、GM飼料と非GM飼料が温室効果ガス排出を含めて環境的影響を検討することが不可欠です。

本報告は、非GM飼料に関連する多様な情報を提供するものであり、非GM飼料の利用を検討する際だけでなく、GM飼料の利点を理解するためにも有用な資料といえるでしょう。

■報告書全文(英語・PDF)
Impact of Non‐GM Livestock and Poultry Feed on the U.S. Feed Industry
https://www.ifeeder.org/ifeeder/assets/file/public/research/ifeeder-final-report-011822-final.pdf

■本報告書のエグゼクティブ・サマリー
・英語原文(PDF)
https://www.ifeeder.org/ifeeder/assets/file/public/research/ifeeder_gmfreefeedreport_summary_033022a.pdf

・バイテク情報普及会による日本語訳(PDF)
https://cbijapan.com/wp-content/uploads/2025/06/JPN_Impact-of-Non-GM-Livingstock-and-Poultry-Feed-on-the-USFeed-Industry.pdf

■IFEEDERによる報告書紹介ページ
GM-Free Feed Can Lead to Increased GHG Emissions, Food Prices & More
https://www.ifeeder.org/research/gm-free-feed-can-lead-to-increased-ghg-emissions-food-prices-more/

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