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セミナー:2011年世界の遺伝子組み換え作物の商業栽培に関する最新状況?国際アグリバイオ事業団(ISAAA)2011年次報告の発表?

バイテク情報普及会は2012年2月14日、国際アグリバイオ事業団(ISAAA)会長クライブ・ジェームズ博士とISAAA国際コーディネーター兼東南アジアセンター理事長のランディ・A・ホーティ博士の2人を講師に迎え、「2011年世界の遺伝子組み換え作物の商業栽培に関する最新状況」と題するセミナーを開催しました。

冒頭、ホーティ氏がISAAAの紹介を行い、昨年の遺伝子組み換え作物の栽培状況を簡潔に振り返りました。ISAAAは、遺伝子組み換え作物に関する正しい情報と知識の提供を目的としており、様々なメディアを通じて情報発信を行っています。ISAAAでは毎年、年次報告書を発行しており、現在では20億人以上の人々に購読されています。特筆すべきは、情報の受け手の80%は、発展途上国の人々であるという点です。昨年からは、日本語でのニュースレターの発行も行っているそうです。ホーティ氏は、遺伝子組み換え作物の現在の利用状況にも触れ、日本のダイズ自給率は5%、トウモロコシとナタネの自給率は0%でしかないため、それらの作物は全面的に輸入品に頼らざるを得ず、日本の遺伝子組み換え作物の輸入量は、2006年の1488万トンから2010年には1798万トンへと年々増加していると述べました。

次に、ジェームズ氏は、今回、ISAAAが発表した年次報告書「世界の遺伝子組み換え作物の商業栽培に関する状況:2011年」について次の4つのトピックに分けて解説しました。トピックは、(1)商業栽培―開始して16年の状況(2)発展途上国の重要性―特に、ブラジルの重要性(3)遺伝子組み換え作物がもたらしたインパクト(1996年?2010年)(4)将来の目標(2012年?2015年)――です。(4)については特に、2015年は国際連合の「ミレニアム開発目標(MDGs)」の最終年であり、世界の貧困を半分にするという目標の実現に向けて、遺伝子組み換え作物の将来を議論する上でも重要な年となると指摘しました。

今回の報告書の最大の特徴は、発展途上国での遺伝子組み換え作物の栽培面積が先進工業国とほぼ同じ面積を占めるようになったことです。ジェームズ氏は、「今後、ますます発展途上国の占める割合は増加するだろう」として、発展途上国の重要性を説きます。栽培面積の増加率について見ると、先進工業国は5%の増加にすぎませんが、発展途上国では11%も増加しています。この数字は、かつて1996年に遺伝子組み換え作物の栽培が始まった当初は、遺伝子組み換え作物は先進工業国にだけ経済的メリットがあるといわれていたことと対照的な結果です。事実、発展途上国に遺伝子組み換え作物の栽培がもたらした経済効果は、1996年?2010年の間で392億ドルに及びました。

中でも、「ブラジルの発展は目覚しいものがある」とジェームズ氏は力説します。2011年、ブラジルは遺伝子組み換え作物の栽培面積で、米国に次ぐ第2位にあり、全世界の20%もの栽培面積(3030万ヘクタール)を占めました。栽培面積の増加率は3年連続で世界最大を記録しており、2003年?2010年の経済的メリットは46億ドルに及ぶといわれています。

このブラジルの強さの秘密はどこにあるのでしょうか。ジェームズ氏は、「それは制度上の強みと分散型の研究開発体制の2つの学ぶべき点にある」と言います。制度上は、ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)が持つ強力な遺伝子組み換え作物導入プログラムにより遺伝子組み換え作物の栽培が推進されており、国家バイオ安全技術委員会(CTNBio)は効率的で迅速な栽培の認可を進めています。実際、2年間で14品目もの遺伝子組み換え作物がスピード承認されており、このように責任ある効率的な承認制度を持つことがいかに重要か、ジェームズ氏は訴えました。研究開発体制については、ブラジルでは、民間セクター、官民共同、公共セクターの3つのラインに分散して研究開発を進めることで、効果が最大化しています。ブラジルでは、この3つのパイプラインを通した研究開発により、2012年には、初のスタック(掛け合わせ)除草剤耐性・害虫抵抗性ダイズの栽培が実現される見通しです。

昨年のトピックの1つに、ビル&ミランダ・ゲイツ財団とハワード・G・バフェット財団による乾燥耐性トウモロコシ種子の研究開発プロジェクトへの資金提供が挙げられます。世界的に著名な民間の基金によって発展途上国での遺伝子組み換え作物の栽培を推進することで、飢餓と貧困の削減をもたらす気配がいよいよ間近に迫ってきたといえるでしょう。この資金提供が後押しとなって、2013年には米国で初の乾燥耐性トウモロコシの栽培が開始され、2017年にはアフリカでの栽培が実現する予定です。これが実現すれば、毎年干ばつにより失われている1000万人の命を救うことにつながるとしています。

最後に、ジェームズ氏は食料生産の将来展望について述べて講演を締めくくりました。今後の急速な人口増加に伴って食料生産は従来の方法だけでは追いつかないことを強調し、食糧問題に対処するためには従来の品種改良技術と遺伝子組み換え技術の組み合わせが不可欠であり、その実現には官と民の協力体制が重要だとジェームズ氏は主張。「対立・分散していてはだめ。団結すれば問題は解決できる。」との最後の言葉で、ジェームズ氏は講演を終えました。

ISAAAホームページ
http://www.isaaa.org/resources/publications/briefs/43/default.asp
講師略歴 参考【PDF】

ISAAA クライブジェームズ博士
「世界の遺伝子組み換え作物ー商業栽培に 関する最新状況2011年」報告書
・ハイライト 参考【PDF】
・同上PPT資料 参考【PDF】

2011年世界の遺伝子組み換え農作物の栽培状況(ISAAA)データ集ページ
https://cbijapan.com/news/993/

2011年遺伝子組み換え作物を栽培した29ヶ国における国別栽培状況

順位 国名 面積(ha) 作物
*1 アメリカ 6,900万 トウモロコシ、ダイズ、ワタ、ナタネ、テンサイ、アルファルファ、パパイヤ、スクワッシュ
*2 ブラジル 3,030万 ダイズ、トウモロコシ、ワタ
*3 アルゼンチン 2,370万 ダイズ、トウモロコシ、ワタ
*4 インド 1,060万 ワタ
*5 カナダ 1,040万 ナタネ、トウモロコシ、ダイズ、テンサイ
*6 中国 390万 ワタ、パパイヤ、ポプラ、トマト、パプリカ
*7 パラグアイ 280万 ダイズ
*8 パキスタン 260万 ワタ
*9 南アフリカ 230万 トウモロコシ、ダイズ、ワタ
*10 ウルグアイ 130万 ダイズ、トウモロコシ
*11 ボリビア 90万 ダイズ
*12 オーストラリア 70万 ワタ、ナタネ
*13 フィリピン 60万 トウモロコシ
*14 ミャンマー 30万 ワタ
*15 ブルキナファソ 30万 ワタ
*16 メキシコ 20万 ワタ、ダイズ
*17 スペイン 10万 トウモロコシ
18 コロンビア <5万 ワタ
19 チリ <5万 トウモロコシ、ダイズ、ナタネ
20 ホンジュラス <5万 トウモロコシ
21 ポルトガル <5万 トウモロコシ
22 チェコ <5万 トウモロコシ、ジャガイモ
23 ポーランド <5万 トウモロコシ
24 エジプト <5万 トウモロコシ
25 スロバキア <5万 トウモロコシ
26 ルーマニア <5万 トウモロコシ
27 スウェーデン <5万 ジャガイモ
28 コスタリカ <5万 ワタ、ダイズ
29 ドイツ <5万 ジャガイモ

*上位17国は遺伝子組み換え作物を5万ヘクタール以上栽培している
出典:Brief 43: Global Status of Commercialized Biotech/GM Crops: 2011
クライブ・ジェームズ(2012年)

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