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セミナー:2008年世界の遺伝子組み換え作物の商業栽培に関する状況

バイテク情報普及会は2月25日、「世界の遺伝子組み換え作物の商業栽培に関する状況:2008年」と題したセミナーを開催しました。国際アグリバイオ事業団(ISAAA)会長のクライブ・ジェームズ氏と、ISAAA国際コーディネーター兼東南アジアセンター理事長のランディA・ホーテア氏を講師に迎え、世界の遺伝子組み換え作物の栽培状況と世界に与えるインパクトについてご講演いただきました。

日時:2009年2月25日 10:30-12:00
会場:TKP虎ノ門ビジネスセンター
講師:クライブ・ジェームズ氏(ISAAA会長)【PDF】
ランディ・ホーテア氏(ISAAA国際コーディネーター兼東南アジアセンター 理事長)【PDF】
講演資料:世界の遺伝子組み換え作物に関する状況 1996年?2008年(クライブ・ジェームズ氏)【PDF】

※資料の転用・転載はご遠慮ください
セミナーのポイント
2008年は、25ヶ国、1億2,500万ヘクタールで遺伝子組み換え作物が栽培された。作付面積は、13年間で6番目の大きな増加幅であった。
総作付面積は前年比で9.4%の増加であるのに対し、スタックとしての導入を反映させた ‘形質面積’は15%の増加であった。
2008年に新しく栽培を開始した国は、ボリビア、ブルキナファソ、エジプトで、今後、アフリカ諸国の栽培開始が予想される。
アメリカとカナダで除草剤耐性テンサイが世界で初めて栽培された。今後、商業化が予想されるものに、中国が開発している遺伝子組み換えイネ等がある。
遺伝子組み換え作物は貧困問題、食糧の安全保障、地球環境問題への対策として期待される。日本は、遺伝子組み換え技術を使うことのリスクと使わないことのリスクを天秤にかけて考えるべきだ。
クライブ・ジェームズ氏より、2008年の世界の遺伝子組み換え作物の作付け動向に関する報告書をもとに、世界の導入状況、遺伝子組み換え作物のインパクト、将来予測の3つに焦点を当てた講演が行われました。

●ISAAAの使命
ISAAAは、高い品質の科学的知識・情報を提供するという使命の下に活動を行っている国際的非営利団体です。私たちは、pro-choice(選択権)を支持しています。有機栽培作物を支持している人の選択権は保護するべきで、同じように遺伝子組み換え作物も選択できるようにするべきだと考えています。最終的には、世界の貧困問題の解決と持続可能な農業の実現に貢献したいと思っています。今回の報告書は、遺伝子組み換えに対して抵抗を示す傾向のある地域であるヨーロッパにある、2つの団体(イベルカハ、ブッソレラ・ブランカ財団)から協賛を得て作成しました。

●遺伝子組み換え作物の導入状況
穀物価格は2006年までは安定的に推移していましたが、2008年をピークに高騰し、今後も2006年までの価格まで下がるのは難しいでしょう。

こうした状況において、一般市民には、遺伝子組み換え作物は手頃な値段で手に入るだろうか、持続可能な農業に貢献できるだろうか、世界の食糧問題に貢献できるだろうかという3つの関心事があります。

これまで、アメリカ大陸、北米、南米のほとんどの国、世界の人口のおよそ40%が集中している中国とインドが遺伝子組み換え作物を導入しています。2008年には新たにボリビアが導入しました。

最も注目すべきは、アフリカです。これまで、南アフリカ共和国しか導入していませんでしたが、今回新たにブルキナファソとエジプトが導入を開始しました。ブルキナファソはBtワタを栽培し、生産量を20?40%上げ、エジプトはBtトウモロコシを栽培しました。ブルキナファソとエジプトの栽培開始が起爆剤となり、周辺諸国も遺伝子組み換え作物の導入に意欲的になっています。遺伝子組み換え作物は、貧困問題や食糧の安全供給に貢献できると考えられ、2015年には、アフリカ諸国の12ヶ国が遺伝子組み換え作物を導入していると予想されます。

2008年に遺伝子組み換え作物を栽培した25ヶ国の内、15ヵ国が途上国、10ヶ国が先進国です。作付面積は、1,017万ヘクタール増加し、1億2,500万ヘクタールでした。これは13年間で6番目の非常に大きな増加幅です。1996年は170万ヘクタールだったので、その導入の早さは目を見張るものです。

2008年に遺伝子組み換え作物を栽培した農家は、1,330万人です。この内、90%が中国、インド、フィリピン等の貧困で資源が乏しい農家です。

ひとつの品種の中に複数の形質が入っている品種(スタック)による、導入された性質の数を反映させたものが‘形質面積’です。総作付面積は、9.4%の増加ですが、形質面積は15%の増加でした。

遺伝子組み換え作物の累積作付面積は、第1期の4億ヘクタールには10年かかりましたが、第2期は3年で達成されました。2015年には少なくとも16億ヘクタールになると予想されます。

2008年は、新たにブラジルがBtトウモロコシ、オーストラリアが除草剤耐性ナタネの栽培を開始しました。また、アメリカとカナダが、除草剤耐性テンサイを世界で初めて栽培しました。テンサイで成功を収めることができれば、バイオ燃料の原料にもなるサトウキビへの応用が期待されます。

●遺伝子組み換え作物のインパクト
1996?2007年で農業所得は440億米ドル増加しました。56%がコスト削減によるもので、44%が生産増加(1億4,100万トン)によるものです。このことは、遺伝子組み換え技術が手頃な値段の商品を多く生み出す可能性があることを示唆しています。

作物を1億4,100万トン生産するには4,300万ヘクタールの農地が必要であり、遺伝子組み換え技術は農地の有効活用、そして生物多様性の保全に貢献していると考えられます。

遺伝子組み換え作物の栽培により改善される無機的な要素としては、農薬の使用量削減(9%)、二酸化炭素の排出削減(140億kg)、土壌と水の保全が挙げられます。水は生産性の足かせとなる要素ですが、干ばつ耐性の作物はこの解決策となります。

●将来予測:新たな技術の動向
ミレニアム開発目標年である2015年に向けて、今後新たに開発される遺伝子組み換え作物として大きな役割を持っているのが、遺伝子組み換えイネです。既に中国が開発に取り組んでいますが、これが実現されれば世界で2億5,000万人のコメ生産者が恩恵を受けるでしょう。また、コメを主食としているアジアの貧困層の食糧源として大きな可能性を持っています。

最も重要な形質は、干ばつ耐性です。2012年には干ばつ耐性トウモロコシが実用化される見込みです。他の機能性作物としては、ビタミンAが強化されたゴールデンライスが2011年には実用化される見込みです。

中国、ブラジル、インド等の発展途上国でも多くの遺伝子組み換え作物が開発されています。遺伝子組み換え技術は、気候変動や干ばつといった深刻で急速な地球環境問題に対して、新たな品種を生み出すことにより、素早い対応を提供ができるでしょう。

●将来予測:政策意欲と支援
2008年はG8洞爺湖サミットが開かれ、その中で初めて共同声明で遺伝子組み換え作物の重要性が認識されました。また、欧州委員会においても、食糧安全保障、貧困問題、地球環境問題への対策として遺伝子組み換え技術は重要であるとの認識を示しています。

アフリカにおいても政治的な意思が見られます。アフリカの農業大臣であるルト氏は、「バイオテクノロジーはアフリカの食糧安全保障の増強を可能にする。今こそが実行するべき時だ」と述べています。

中国の温音宝首席は、「食糧問題を解決するためには、ビッグサイエンスに大きく依存しなければならない。それは遺伝子組み換え技術、バイオテクノロジーである」と述べており、今後12年間で35億ドル(購買力平価で120?150億ドル)を遺伝子組み換え作物の研究・開発に投資すると発表しています。

2005年に行った2006年予測(遺伝子組み換え作物栽培国数、農業生産者数、栽培面積)は2008年時点で達成されており、今後も増加傾向は続くでしょう。こうした状況の中で行うべきことは、遺伝子組み換え作物のリスクの対処です。遺伝子組み換え作物は、従来のものと同じくらい安全であると言えます。アメリカでは、サルモネラ菌によって500人が体調を崩しており、従来の食品の方がこうした被害が出る場合もあります。Btトウモロコシはアフラトキシンのリスクを減らすことが分かっています。

日本が考えるべきことは、遺伝子組み換え技術を使わなかったときのリスクです。発展途上国が遺伝子組み換え作物を次々と導入していることを考えてみても、この技術を使わないことの方がむしろリスクは大きいのではないでしょうか。使うことのリスクと使わないことのリスクを天秤にかけて考えるべきだと思います。‘緑の革命’でノーベル平和賞を受賞したボーロク博士は、「お腹がすいていては平和を構築することはできない」と述べました。食糧の安全保障をするという意味で、遺伝子組み換え技術は平和と繁栄をもたらすと考えています。

ご講演後、質疑応答が行われました。
●質疑応答
【Q1】:資料の中では2005年の将来予測でしたが、2009年の将来予測はどうでしょうか。
【A1】(ジェームズ氏):2005年の将来予測の数字は控え目のものです。2008年には、25ヶ国、1億2,500万ヘクタールで遺伝子組み換え作物が栽培されていますが、24ヵ月以内に遺伝子組み換えイネが商業化されれば、この予想は上回り、増加するでしょう。その他の新規作物として、Btナスはインド全域であらゆる料理で使われるので、承認された場合、そのインパクトは大きいでしょう。他に承認が予想されるものとして、遺伝子組み換えジャガイモとサトウキビがあります。

【Q2】:資料の中に、2007年の遺伝子組み換え作物が果たした持続可能性への貢献ということで、‘気候変動と温室効果ガス排出の緩和―630万台分の自動車削減に匹敵’とありますが、どのような根拠に基づいていますか。
【A2】(ジェームズ氏):遺伝子組み換え技術により、不耕起栽培の導入が可能になります。不耕起栽培が導入されることで、機械の利用を少なくし、温室効果ガスの排出をおよそ140億キログラム削減することができます。他に、土壌の劣化と水の流出を抑えることができます。耕起をすることで湿度は土壌から失われるので、土壌に湿度が溜まるまで時間を置かなければなりませんが、不耕起栽培の場合は節水できます。

【Q3】:温暖化によって害虫の種類の変化や増加等があると思いますが、温暖化に対応する遺伝子組み換え作物には、干ばつ耐性以外にどのようなものが考えられますか。また、それらを用いることで、どの程度の被害を抑えることができますか。
【A3】(ジェームズ氏):雑草や害虫は、作物の収量を40%引き下げます。除草剤耐性、害虫抵抗性の作物はこうした問題を解決します。遺伝子組み換え技術により付与される生物的な耐性としてこうしたものが挙げられますが、これは氷山の一角に過ぎません。これからは、作物を保護するだけでなく、収量を上げるということが加味されていくでしょう。

【Q4】:今年、ラウンドアップレディー2は従来のダイズとどれだけ置き換えられるのか、見通しがありましたら教えてください。
【A4】(ジェームズ氏):今年は40万ヘクタールの予定です。2010年にはその2倍になるでしょう。8?10%の大幅な収量増加になるということで、最も早く導入されるものになるのではないでしょうか。また、青いバラは2009年に商業的に栽培されるとのことで、日本で先駆的な事例になる重要なステップであると考えています。ホーテア博士、ゴールデンライスの状況はどのようになっているでしょうか?
(ホーテア氏)ゴールデンライスは皆さんよくご存じだと思いますが、人道的な支援のためのテクノロジーの活用ということで、いくつかの企業が数年前から開発に取り組んでいます。現在、ビタミンA欠乏によって2億7,000万人もの人たちが苦しんでおり、多くの子供たちがビタミンA欠乏によって視力を失い、早くに亡くなっています。特に、フィリピンでは10人に4人がこの症状に苦しんでいます。このプロジェクトの目的は、ビタミンAの前駆物質であるβカロチンを強化したコメを開発することです。このコメのほ場試験は2007年にフィリピンで終了しました。2011年には、商業化の承認がされるのではないかという見通しが立てられています。

【Q5】:花粉症を緩和するコメが開発され、そのコメを花粉症以外の人が食べたらどうなるのかということが問題になっています。ゴールデンライスでは、そういった部分はどのように考えられていますか。
【A5】(ホーテア氏)ビタミンA欠乏の対策には、サプリメントによる補給等、複数のアプローチがありますが、アジアにおいてはコメが主食なので、最も都合がよいと思われます。ビタミンAの余剰分については、体外に排出されるので、栄養面、健康面での問題はないと考えられます。

【Q6】:中国の遺伝子組み換えトウモロコシとイネに対する政策的意欲は、日本を含めたアジアに大きな影響を与えると思いますが、どのようにお考えですか。
【A6】(ジェームズ氏):その通りだと思います。政治的な意思なくして、実現はできません。2008年は食品価格の高騰があり、また、気候変動、干ばつ等により作物栽培の環境は変わっています。このとき最も深刻な影響を受けるのが途上国です。現在、世界的な食糧の備蓄は底をつこうとしており、危機に向かって準備を進めていかなければなりません。中国の国家主席は、「遺伝子組み換え技術に投資することで、食糧、飼料、繊維において自立をしたい」と戦略的な意思表示をしました。このような理解が重要です。経験なくして知識は身につきません。長い間私たちが取り組んできたこの知識の恩恵を、日本も受けて欲しいと思っています。

【Q7】:世界の遺伝子組み換え作物の研究・開発投資はどのくらいですか。
【A7】(ジェームズ氏):公式なデータはありませんが、推測するに、平均的に1年間でおよそ50億ドルです。これは公共部門の値です。民間を合わせると、世界で80億ドル投資されています。中国は35億ドルを投資すると発表しており、他にもブラジル、インド等、途上国の公共部門が投資を増やしています。

【Q8】:技術の受け入れが早いと、何か問題があったときにストップできない怖さが言われることがありますが、こういった声にはどのように答えればよいのでしょうか。
【A8】(ジェームズ氏):遺伝子組み換え技術が登場した時は、新しい技術であり、思いがけないことが起こるかもしれないと言われ、慎重なプロセスを採用しました。その後10数年の経験を経て、現在はより迅速な開発が求められています。しかし、基準は非常に厳しいものを適用しており、責任を伴っています。

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