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メディアセミナー:植物バイオテクノロジーが作る持続可能な社会?遺伝子組み換え植物が可能にする地球にやさしいもの作り?

バイテク情報普及会は12月8日「植物バイオテクノロジーが作る持続可能な社会?遺伝子組み換え植物が可能にする地球にやさしいもの作り?」と題したメディアセミナーを開催しました。講師として、奈良先端技術大学院大学名誉教授の新名惇彦氏をお迎えし、化石資源の代替としての植物バイオエネルギーと遺伝子組み換え技術の可能性についてご講演いただきました。

日時:2008年12月8日 17:00?18:30
会場:丸ビルコンファレンススクエア
講師:新名惇彦氏(奈良先端技術大学院大学名誉教授)【PDF】
講演資料:植物バイオテクノロジーが作る持続可能な社会(新名氏)【PDF】
※資料の転用・転載はご遠慮ください

セミナーのポイント
再生可能エネルギーである植物バイオマスは、多量にある、備蓄が可能、食物資源になるという利点がある。
植物バイオマスをエネルギー源として利用する際には、エネルギーに使用しない窒素やリンなどは土壌に戻すというのが、持続可能な社会の実現の基本となる考えである。
今後の世界人口の増加に伴うエネルギー需要量の増加の対応策として、未利用バイオマスおよびその他の再生可能エネルギーの利用、そして遺伝子組み換え技術による植物の増産が考えられる。
植物科学の分野では、モデル植物で行う基礎研究から、実用植物に適用する応用研究へ発展させていくことが今後重要である。
●化石資源を植物バイオマスに代替する可能性
20世紀の間に化石資源の多くを消費し、地球の残存量はわずか56%です。また、化石資源を使用することで、大気中の二酸化炭素濃度は高くなり、これが地球温暖化につながっていると言われています。現在、世界で一年間に使用されているエネルギー量は12TW(兆ワット)で、この86%を化石資源に頼っています。

これからは、化石資源に代わる、再生可能なエネルギーの使用を考えていかなければなりません。こうしたエネルギーの中で最も量の多いものが太陽エネルギーで(10万TW)、次が植物バイオマスです(100TW)。特に植物バイオマスは、樹木やデンプンとして備蓄が可能な上、食物資源になるという利点もあり、太陽エネルギーと同様に期待されています。現在、アメリカではトウモロコシなどの有用バイオマスからエタノールやバイオディーゼルを作っていますが、食用などと競合してしまうため、今後は未利用バイオマスを利用することを考えていかなければなりません。

アメリカでは、エタノールがガソリンより輸送用燃料として優れているとされています。その利点はタンカー事故等による海洋汚染を引き起こさない、国内自給が可能である、農業経営力の向上などが挙げられます。日本において、農林産業での廃棄バイオマス(稲わらなど)を全て使用すると仮定すると、ガソリン消費量の33%のエタノールを生産できます。しかし、これはあくまで、全てのバイオマスがエタノールに分解されたらという仮定のもとでの単純計算なので、分解効率を上げる研究が進められています。有効な植物バイオマスとしては、有害物質があるため食用にならないヒガンバナ球根と水質浄化にも役立つホテイアオイがエタノール原料となる可能性が明らかになりました。

2004年、EUではディーゼルに代替するバイオディーゼル原料の83%がナタネ油でした。しかし、食用と競合するため、他の原料の利用も考えなければなりません。面積当たりの収量が多く、原料としての可能性があるものに、アブラヤシとヤトロファがあります。ヤトロファは農地として使用しにくい半乾燥地で生育し、有害物質を持つため食用に適さない植物です。世界の半乾燥地の約1/4を用いてヤトロファを栽培すれば、ディーゼルの代替になると計算できますが、さらにその収量を上げるための研究が進められています。

世界の年間重油消費量(19億トン)の半分以上(11億トン)は、植物バイオマスに含まれエネルギー源として有効と考えられているリグニンでまかなうことができると計算されますが、リグニンを得るために植物を伐採し続ければ、その土壌は痩せてしまいます。そこで、燃料になる部分だけを採取して、燃料にならない窒素やリンなどは土壌に戻し、エネルギー生産と農業を両立させるという持続可能な社会の実現が基本的な考えになっています。

原油を燃焼させた際に排出される硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)は、酸性雨の原因になると考えられるため、脱硫・脱窒装置を設備することが必要です。原油の硫黄含有量は、マレーシア産で0.05%、中東のものでは1?4%です。植物の硫黄含有量は0.1?1.5%あるので、原油の代わりに薪を利用する場合も装置が必要になりますが、薪を代替にする可能性はあると思っています。

ナフサは原油を蒸留させることで得られ、プラスチックやゴムの原料となります。このナフサを植物由来原料に代替させる場合、植物のデンプンやセルロースから高分子材料を作るのに、多くの反応や変換が必要になります。現在でも紙パルプや天然ゴム、ロジンなどの植物由来原料は多く利用されていますが、経済産業省では、酸性土壌に強いユーカリなど、遺伝子組み換え植物を利用した植物バイオマスエネルギーを工業に利用するための、様々な技術開発のプロジェクトが行われています。

●植物バイオマスエネルギーの活用における遺伝子組み換え技術の有効性
2050年には、発展途上国の人口の増加によって、世界の人口は90.3億人になると言われており、それを考慮してバイオマスエネルギーの開発を一層進める必要があります。エネルギー需要量は、各国の生活水準が現状維持のままならば1.24倍、世界中の生活水準が日本並みになると3.5倍、世界中の生活水準がアメリカ並みになると5.2倍に増加すると予測されます。現実的にはエネルギー需要量が現在の2?3倍になるレベルだと思いますが、このエネルギー増加分に対する提案として、未利用バイオマスと他の再生可能エネルギー(太陽光や風力等)の利用、そして遺伝子組み換え技術で植物を増産することを考えています。

植物は動物と違って移動できないので、環境ストレス(乾燥、冷害、塩害等)によって生産力は下がってしまいます。例えば、アメリカではストレスによって植物の生産力は1/4程度まで下がっていることが分かっています。ここで、遺伝子組み換え技術が有効になると考えています。遺伝子組み換え技術により、植物にストレス耐性を付与させることで、現在は使用されていない広大な不良土壌を耕作に用いることが可能になります。また、光合成効率や成長速度を上げることで生産性を向上することが可能です。

動物科学と違い、植物科学はいくつかのモデル植物の基礎研究から、多種多様な実用植物への応用研究を行うという流れを持っています。植物科学の分野では未だに、基礎研究を行う植物バイオ「サイエンス」が大部分です。今後は、基礎研究を実用植物に応用し、実用栽培する植物バイオ「テクノロジー」をますます発展させることが重要だと思います。

●質疑応答(すべて新名氏による回答)
【Q1】:日本において、未利用バイオマスの集積コストはどのように解決すればいいのでしょうか?
【A1】:重要なポイントだと思います。半径50km以内で完結しなければいけないと言われています。20世紀のテクノロジーは大規模に工場を作ったり、石油のパイプラインを張ったりという方法でしたが、これからはそれではいけないと思います。分散しているバイオマスを使うには、いかにスケールダウンするかということを考えなければいけません。全国で一斉に進めるというのは中々難しいと思うので、例えば、地方にモデル村を作るなど、地方からの発展を考えていくことも大切です。

【Q2】:海洋のバイオマスについてはどのようにお考えですか?
【A2】:海洋のバイオマスをいかに活かすのかというのは重要で、研究も行われています。ただ、日本はすぐに海が深くなるので、海中での栽培は管理が難しいのです。遠浅の海のある外国では、海洋のバイオマスの利用について活発に議論されています。例えば、微小な藻をビニル袋に入れて光合成を行わせるということがありますが、藻が多くなると、すぐ暗くなって光が届かないということがあり、難しいと思っています。他に、炭酸ガスを海に吹き込むと藻が増えるというメカニズムがあるかと思いますが、技術にする場合は温度の管理の問題があり、成果が出ていないというのが現状です。

【Q3】:遺伝子組み換え技術への批判が一部であることを踏まえると、遺伝子組み換えが世界で認められ、使用されるのはいつごろになるのでしょうか?
【A3】:これまでの活動から、科学技術を伝える難しさを感じています。最近は新しい技術がたくさんできて、専門家でも包括的にうまく説明できないのがこれだけ容認に時間がかかっている理由だと思います。ただ、大切なことは、研究者が一般の人と同じ目線で真剣に考えることだと思っています。また、小・中・高校の先生方にご理解いただくことも大切です。子どもたちに直接影響を与える学校の先生にもっと真剣にアプローチしたいと思っています。加えて、やはりスーパーで見かけられる、遺伝子組み換え不使用の表示が、遺伝子組み換えへの不安をあおる理由のひとつになっていると感じます。正しい情報を伝えていくということで、メディアの皆さんのご協力が大切なので、これからもこのような情報発信の機会を多く作っていきたいと思います。

【Q4】:他に補足説明があればお願いします。
【A4】:熱帯・亜熱帯では、燃料にできる、ユーカリ、ゴムノキ、キャッサバ、アカシア、コーヒーなどがよく育ちます。日本は南北に長いということを生かし、亜熱帯である沖縄で研究開発したものを、世界の熱帯・亜熱帯で実用化するという可能性を考えています。
地球温暖化による海面上昇などは計算で分かりますが、予測が難しいのは生物への影響です。カナダの事例で、ある甲虫が松の中に入り込んで、松を枯らすという問題があります。温暖化により、以前は越冬できなかった甲虫の卵が越冬するようになり、甲虫が爆発的に増えてしまったのです。このような生物への影響は深刻になるので、常に気にする必要があります。

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