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セミナー:遺伝子組み換え作物の、世界における社会経済的、環境的効果とEUの承認および表示規制が及ぼした影響

バイテク情報普及会は10月31日「遺伝子組み換え作物の、世界における社会経済的、環境的効果とEUの承認および表示規制が及ぼした影響?英国コンサルティング会社、PGエコノミクス社の2008年調査報告書より?」と題したセミナーを開催しました。講師として、英国PGエコノミクス社のディレクターであるグラハム・ブルックス氏をお迎えし、遺伝子組み換え作物が世界にもたらした影響の分析結果や、EUにおける遺伝子組み換え食品の承認・表示規制が食品業界や消費者に及ぼした影響について、2008年6月に発表した報告書をもとにご講演いただきました。

日時:2008年10月31日 10:30-12:00
会場:ホテル・ヴィラフォンテーヌ汐留
講師:グラハム・ブルックス氏
(英国PGエコノミクス社ディレクター)【PDF】
講演資料:遺伝子組み換え作物のグローバルインパクト:1996-2006年の経済および環境への効果(グラハム・ブルックス氏)【PDF】
※資料の転用・転載はご遠慮ください

セミナーのポイント
報告書「1996年から2006年における遺伝子組み換え作物の社会経済的、環境的効果が世界に与えた影響」は、遺伝子組み換え作物が農業収入や生産性、環境などに与えた影響を分析したものである。(報告書の全文はwww.pgeconomics.co.ukで参照可能。)
1996年以降、遺伝子組み換え作物は、農業収入の増加、作物の品質や利便性の向上、収量の増加、温室効果ガス排出量削減など、様々な点において影響を与えている。
EUにおける遺伝子組み換え規制の問題は、承認プロセスが機能していない、EU未承認の作物がゼロトレランスであることなどにあり、そのために通常の貿易が停止した事例もある。
表示することのベネフィットや、コストに見合っているかなどを評価する必要がある。
●遺伝子組み換え作物の経済および環境への効果
1996年に遺伝子組み換え作物の栽培が開始され、その作付面積は年々増加しています。英国の経済学者ピーター・バーフット氏とともに、報告書「1996年から2006年における遺伝子組み換え作物の社会経済的、環境的効果が世界に与えた影響」を2008年6月に発表しました。この報告書は、遺伝子組み換え作物が、農業収入や生産性、農薬散布量の変化や温室効果ガス排出など環境への影響について分析したものです。環境影響について、ある特定物質の毒性に暴露の度合いをかけて表される「EIQ(環境影響指数)」と呼ばれる指標を用いて分析しているのも特徴的です。

1996年以降、遺伝子組み換え作物により、農業収入は338億USドル増加しています。国別の増加額では作付面積の広いアメリカが最も増加していますが、最近ではフィリピンなども増加傾向にあります。また、生産者への利点は収入だけではありません。遺伝子組み換え作物を栽培することで、作物の品質や安全性の向上、利便性の増加など、多くの生産者にとって収入以上に重要な利点があります。

なお、農業収入増加の43%は収量の増加、57%はコストの節減によるものです。収量の増加には主に遺伝子組み換え害虫抵抗性、コストの節減には主に遺伝子組み換え除草剤耐性が寄与しています。

遺伝子組み換え作物は、農業生産による世界的環境負荷の大幅な削減にも貢献しています。1996年以降、農薬の使用量は28万6,000トン(7.9%)減り、それに伴い、関連する環境への影響も15.4%減りました。この量は、1年間にEUが耕地作物に使用する農薬有効成分の総量に相当します。また、農薬散布や土壌耕起の減少による燃料使用量の削減や、除草剤耐性作物による不耕起栽培の促進は、温室効果ガス排出量削減にもつながっています。2006年には、自動車656万台の1年間の排出量に相当する温室効果ガス排出量を削減しました。

遺伝子組み換え作物は農業生産量を増加しました。その結果、世界の商品穀物の取引量は大幅に増え、世界市場における価格高騰の緩和にも影響を与えたと考えられます。利益率、生産性・生産量の向上、環境の改善という観点からも、今後の遺伝子組み換え技術の継続的かつ広範な導入が期待されています。

●EUにおける遺伝子組み換え規制の影響
EUでは、遺伝子組み換えの含有量が0.9%以上である食品の場合、表示が義務付けられています。大豆油のように、製品にタンパク質DNAが検出されなくても、遺伝子組み換え作物由来であれば、表示をしなければなりません。

EU市場において、非遺伝子組み換えの需要のほとんどは食品業界にあります。しかし、非遺伝子組み換えは価格が高いため、最近では需要が低下しています。また、規制上の問題点もあります。承認プロセスが十分に機能しておらず、EU圏外では承認され、使用されている遺伝子組み換え作物でも、EUでは輸入および使用が認められていません。つまり未承認の形質の遺伝子組み換え作物についてゼロトレランスであり、ダイオキシンやカドミウムなどよりも厳しいものです。未承認の遺伝子組み換え作物が低レベルで混入していた場合、サプライチェーンの多くの部分に影響を与えます。実際、米国から輸入した米に、EUで未承認の遺伝子組み換え米LL601が混入していたことで、輸入時の検査が義務化され、米国産米の通常の貿易が停止するという事態に発展しました。ゼロトレランスは、このような場合に小売店で品不足になったり、ブランドイメージに傷がつくなど、消費者にも大きく影響し、徹底するのは困難なことです。

表示をすることのメリットは何でしょうか。製品が安全であれば、表示は必要なのでしょうか。表示は、消費者の知る権利のためにあるものです。しかし、ほとんどの消費者は表示を見ていないというデータも報告されています。購買行動を見ると、遺伝子組み換えであるか否かは実際に購入する際には重要な問題ではないようです。表示をすることのベネフィットと、表示することで発生するコストをきちんと評価することが重要です。雇用を創出し、消費者に選択肢を与えることのできる競争力のある産業を目指すならば、EUの規制をそのまま真似することは避けた方がよいかもしれません。

●質疑応答(すべてグラハム・ブルックス氏による回答)
【Q1】:EUにおける遺伝子組み換えの規制について、加盟国がどのような立場にあるか、具体的に教えてください。
【A1】:遺伝子組み換えの作物の承認に一貫して反対する国は、オーストリア、ギリシャ、ルクセンブルク、ポーランドです。EFSA(欧州食品安全局)の勧告を承認している加盟国は、イギリス、スウェーデン、フィンランド、スペイン、チェコ共和国です。そして、これらの中間の立場の国は、イタリア、フランス、ある意味ではドイツもそうです。もちろん、それぞれの国で実際の政権を誰が担うかによっても対応は異なってくると思います。

【Q2】:除草剤耐性技術で二番作が可能になったという点について、日本では連作や輪作を行う上で大変な苦労があります。どうして遺伝子組み換え技術でこれが可能になったのでしょうか。
【A2】:10年前にくらべて、南米の農家は、より多くの二番作の大豆を栽培しています。同じシーズンに、小麦を栽培した後に大豆を栽培するのです。通常は、小麦を栽培した後に、農地を耕してから大豆の種を植えますが、不耕起栽培が可能になれば、農地を耕す必要がないので、そのプロセスがより早く簡単になります。そのため、同じシーズンに二番目の作物を栽培し、収穫するまでの十分な時間が確保できるのです。

【Q3】:ヨーロッパの消費者の遺伝子組み換え食品に対する態度は、最近ではどうでしょうか。傾向に変化は出てきているのですか?
【A3】:消費者の態度に関してはいろいろな調査が行われています。消費者の答えは、質問の仕方によっても変わってきます。意識調査だけではなく、購買時に実際どのような行動をしているのかを見る必要がありますが、行動を調査したものは、ほとんどありません。意識調査で述べる事柄と実際の行動に違いがあることは、よく確認されています。これは日本でも当てはまるのではないでしょうか。遺伝子組み換えに関する調査だけでなく、他の問題に関する調査でも同じだと思います。ヨーロッパでは3/4の消費者は遺伝子組み換えかどうかよりも、値段など、他の要素に関心をもっています。少数ではありますが、是が非でも遺伝子組み換えを避けたいという人もいます。遺伝子組み換えについての理解が十分ではない場合も多く、誤った情報によって遺伝子組み換え技術に対する懸念を表す人もいますが、遺伝子組み換え作物を受け入れようという傾向は、少しずつ強くなっています。

【Q4】:アメリカで承認されている遺伝子組み換え米がヨーロッパでは承認されていないという点について、これをヨーロッパでは承認しようとしているのでしょうか。
【A4】:この形質の遺伝子組み換えについては、開発をした会社そのものが、商品化をしなかったため、EUの規制のシステムではまだ検討されていないと思います。

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