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セミナー:オーストラリアにおける遺伝子組み換え作物の栽培状況と研究開発

バイテク情報普及会は7月3日「オーストラリアにおける遺伝子組み換え作物の栽培状況と研究開発?干ばつ耐性の遺伝子組み換え小麦および消費者意識の現状について?」と題したセミナーを開催しました。講師として、オーストラリアビクトリア州一次産業省バイオサイエンス研究局のエグゼクティブディレクターで、ラ・トローブ大学植物学部教授のヘルマン・シュパンゲンベルク氏をお迎えし、オーストラリアにおける最新の遺伝子組み換え作物の研究成果と、消費者意識の実際についてご講演いただきました。

日時:2008年7月3日 14:00-16:00
会場:東京コンファレンスセンター・品川
講師:ヘルマン・シュパンゲンベルク氏
(オーストラリアビクトリア州一次産業省バイオサイエンス研究局エグゼクティブディレクター/ラ・トローブ大学植物学教授)【PDF】
講演資料:環境に役立つ農業バイオテクノロジー(ヘルマン・シュパンゲンベルク氏)【PDF】
※資料の転用・転載はご遠慮ください

セミナーのポイント
遺伝子組み換え技術を含めた遺伝子工学は、植物育種の中で体系的に進められてきたものであり、約8千?1万年前から中国や中東、アフリカ西部やメキシコ中部で始められていた。
現在、世界の人々に十分な食料を供給することが緊急課題とされ、遺伝子組み換え技術はその問題に対応できるひとつのツールである。
地球では気候の変化や干ばつなどの様々な環境変化により、大きな損害が生じている。
オーストラリアでは、干ばつ耐性小麦、菌耐性小麦の開発やバイオマスの促進などを見通した作物の開発も進められている。また、より少ない資源で増産するための飼料用作物の開発が進められている。
人の健康増進のために、花粉アレルゲンを減らしたライグラスの開発が進められ、初の圃場試験が行われることとなった。
消費者意識を調査した結果、正しい情報提供を行うことにより多くの人が遺伝子技術を受け入れる傾向にある。
●遺伝子組み換えと地球環境の現状
遺伝子組み換え技術とは、決して新しい技術ではなく、中国や中東、アフリカ、メキシコなどで約8千?1万年から野生植物の栽培がはじまり、その後の植物育種の進展は体系的な遺伝子組み換えであるともいえます。25年ほど前からは異種間での導入等の研究も活発に行われるようになりました。遺伝子組み換え技術を始めとする遺伝子工学は、環境の改善をもたらすとともに、世界中の人々に食糧を与えるという緊急の課題に対応します。

今後地球の人口は2030年までに80億人に達し、2世代の間に2倍の食糧が消費されると予測され、現行の農業技術では農地を12%拡大しないと供給が間に合わないといわれています。畜産物の需要も高まり、飼料用としての穀物や水資源の需要がますます増加すると示唆されています。

●オーストラリアの現状
オーストラリアでは、灌漑農地が農業の生産額ベースで1/3を占めています。水の70%が灌漑農業に、その中でも35%が牧草資源に使われており、水が重要な資源となっています。豪州環境自然/文化遺産省の予測によると内陸部のほとんどの地域で、年間平均気温が1-6℃上昇し、降水量はさらに減少していくといわれています。このような気候変化により2002-2003年の干ばつでは、国内総生産(GDP)の1%の損失(66億豪ドル)を被りました。また、大きな課題である温室効果ガスの主な発生源は農業や畜産によるものだと考えられており、これらの問題の軽減、緩和のためにいかに取り組むかが課題となっています。

●遺伝子組み換え作物の現状
世界的な問題解決の有望な技術として、遺伝子組み換え技術が挙げられます。遺伝子組み換え作物が栽培されて12年たちますが、その栽培国、面積は大きく広がり、発展途上国も含む各国の生産物の増収や環境負担の減少、温室効果ガス排出量などの減少に貢献しています。

●オーストラリアにおける遺伝子組み換え小麦
オーストラリアでは干ばつがもたらす農業被害は深刻なものです。そこで、各国に先駆けて干ばつ耐性を持つ遺伝子組み換え小麦の研究が進められています。この技術の導入により年間1億2400万-3億7100万豪ドル(約126億-377億円)の経済効果があると予測されています。一方、形質転換をしない限り気候変化による損失はまぬがれないと考えられます。

オーストラリアビクトリア州の2つの圃場で、初の干ばつ耐性遺伝子組み換え小麦の試験栽培が始まりました。干ばつ耐性の6つの異なる候補遺伝子を用いた作物が栽培されています。いくつかの品種では対照よりも収穫量が最大で20%上回り、干ばつがなくても収穫の落ち込みはないという結果が確認されています。また、気候変化により病原菌の被害が増加するとが考えられており、うどんこ病を予防する小麦など、菌耐性を持つ遺伝子組み換え小麦の開発も進められています。

●牧草の開発
より少ない資源から多くの収穫を上げるための技術開発も行われています。乳の品質や、収量を上げるため、糖質の高いライグラスが今年から圃場試験が始められ、2014年に市販される予定です。その他、家畜の生産性に重要な影響を及ぼす様々な飼料用牧草の研究が進められています。ヒトの健康影響にかかわる牧草としては、花粉アレルゲンを放つライグラスについて、アレルゲンを低下させる遺伝子組み換えライグラスが開発され、圃場試験栽培が始まりました。保健・医療の分野でも大きく期待されているのです。

その他に動物の健康福祉の向上に向けて、研究が進められている作物としては、家畜の対鼓脹症に対応するデザインクローバーや、バイオマスや収穫を促進させる老化の遅いシロツメクサなどが挙げられます。中でもウィルス耐性を持つデザイナークローバーではこれまで10年に及ぶ試験が行われており、2-3年後に商業化されると見込まれています。

現在、オーストラリアで商業栽培が承認されている遺伝子組み換え植物は、色を変えた花、除草剤耐性ナタネ・ワタ、害虫抵抗性ワタなどがあります。遺伝子組み換えナタネについては、去年ビクトリア州で、今年はニューサウスウェールズ州でモラトリアムが解禁となり、栽培が始められています。圃場試験のための評価を受けているのものでは、リン摂取量の多いトレニア、栄養強化されたバナナがあります。

●リスク管理・評価・コミュニケーションについて
Biotechnology Australiaの行ったオーストラリア国民における消費者意識調査では、消費者は特に、直接的な利益がある遺伝子組み換え作物を受け入れる可能性が高く、懸念しているが購入する際には気にせず購入するなど、回答と行動が必ずしも一致されない場合も多く見られました。また、遺伝子組み換え技術の開発・導入による結果や効果を理解するとより多くの人が受け入れる傾向にありました。

●質疑応答(すべてシュパンゲンベルグ氏による回答)
【Q1】:これまで小麦の遺伝子組み換え研究はあまり進んでいませんでしたが、オーストラリアでの需要はどのように予想されるでしょうか。
【A1】:干ばつ耐性や害虫抵抗性の遺伝子組み換え小麦は今後深刻となる気候変動への足がかりとなるでしょう。需要を掘り起こしていくことが重要であり、それなくしてはオーストラリアの農業持続可能性は成立しません。

【Q2】:遺伝子組み換え作物のデメリットについてはいかがでしょうか。
【A2】:遺伝子工学や遺伝子組み換え技術にも確かにリスクは存在しますが、それはリスク評価のプロセスの中で審査されています。特に遺伝子組み換え作物は、従来の育種のリスクと変わりませんが、より厳格な審査が要求されています。また、過去12年間の商業栽培において、健康被害の例はありません。

【Q3】:オーストラリアにおける消費者意識の中の「消費者がアンケートで回答することと実際の行動は必ずしも 一致していない」とはどういう意味でしょうか。
【A3】:アンケートなどで遺伝子組み換え食品を受け入れるか、という質問を投げかけた場合には、「NO」と答えていても、実際には遺伝子組み換え食品を買っている人が多いという結果になりました。また、より多くの情報を与えると受け入れ姿勢については改善することがわかりました。

【Q4】:遺伝子組み換え小麦について、一般の人にどのような周知を図っていますか。
【A4】:生徒、教師、栽培者、消費者などに啓発活動を展開しており、それが功を奏して、オーストラリア国民における遺伝子組み換えに対する受け入れ姿勢は前向きになってきています。

【Q5】:遺伝子組み換え小麦の開発にあたっては、国際的な協力体制があったのでしょうか。
【A5】:まだ研究のプロセスは初期段階ですが、今後は国際協力を求める可能性もあります。

【Q6】:遺伝子組み換え小麦の干ばつ耐性の仕組みについて、具体的にどのようなメカニズムなのですか。
【A6】:干ばつ耐性と言っても、栽培の時期によってニーズが異なり、初期であれば干ばつ対策、後期になれば水の利用効率を高めること、さらに収穫期が近づけば高温ストレス、乾燥が課題となってきます。その中から、オーストラリアの環境に合う候補遺伝子を特定していきました。結果として、対照品種と比較しても収量が20%アップしています。

【Q7】:遺伝子組み換え小麦の環境に対するリスク評価について教えてください。
【A7】:リスク評価については、法律の下、OGTR (オーストラリア連邦政府遺伝子技術規制局)が行い、リスク評価・管理の計画を策定し、圃場実験についての評価、承認し、ライセンスを発行します。オーストラリアのリスク評価は、世界的にも厳しく徹底した包括的なプロセスで実施されます。

【Q8】:イギリスでは、遺伝子組み換え体自体だけでなく、その導入によって農業の方法が変わることへの評価を行っていますが、オーストラリアではどのようになっていますか。
【A8】:オーストラリアでは、業界の自主的な取り組みとして組み換え技術の管理の枠組みが設けられています。また、必要なトレーニング、管理計画の策定も行っております。

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