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セミナー:世界の食糧危機問題の現状と今後の展望?持続可能な食糧供給と農業環境における遺伝子組み換え作物の位置付け?

バイテク情報普及会は6月4日「世界の食糧危機問題の現状と今後の展望?持続可能な食糧供給と農業環境における遺伝子組み換え作物の位置付け?」と題したセミナーを開催しました。講師として、アミタ持続可能経済研究所の主席研究員である有路昌彦氏を講師としてお迎えし、世界の食糧危機問題や穀物価格の高騰の現状と予測、遺伝子組み換え作物の持続可能な食糧供給および農業環境における位置付けについてご講演いただきました。

日時:2008年6月4日 14:00-16:00
会場:ホテル・ヴィラフォンテーヌ汐留
講師:有路昌彦氏(アミタ持続可能経済研究所主席研究員)【PDF】
講演資料:世界の食糧危機問題の現状と今後の展望(有路昌彦氏)【PDF】
※資料の転用・転載はご遠慮ください

セミナーのポイント
干ばつや地球温暖化などの環境変動、耕地拡大の限界、単収の頭打ちなどの要因により、食糧の生産量の増大が見込めない。
穀物への投機増加や原油価格高騰によるバイオエタノールの生産、人口の増加など穀物需要の増加で、ますます穀物価格が高騰し食糧危機が拡大している。
食糧危機を迎える中、遺伝子組み換え作物には食糧の増産、温暖化への対応などそれに対する様々な便益がある。
遺伝子組み換え技術では、リスクと便益を定量化しその費用対効果等で検討することが重要である。
日本におけるメディアのリスクコミュニケーターとしての役割は大きく合理的な情報発信が望まれる。
はじめに、ランディ・ホーテア氏よりISAAAの活動について紹介が行われました。
●世界の食糧の現状
世界的な食糧危機の要因の1つとして、資源の枯渇などの環境変動が食糧の供給に大きく影響を与えていることが挙げられます。例えば、顕著な水不足によりアメリカや南米の穀倉地帯で大きな影響を受けています。その結果、耕地面積や生産量が減り穀物が全く生産できない、あるいは期待するほど生産できず、供給量を大幅に減少させています。また、食糧にとどまらずそれを飼料とする畜産類の他、水産資源も影響を受けています。例えば水産資源では、1990年代からの技術の革新にも関わらず、資源の限界量等によって漁獲量が頭打ちとなっています。
この状態が続くと、ある日いきなり食べ物がなくなるのではなく、店舗から一種類ずつ品物が消えていくという状態になります。そして、その代替商品が無くなるというように連鎖して次々に食料がなくなってしまうのです。

また、現代の世界的な食糧危機において、食糧を買う側の立場としては大きく2つの問題を抱えています。1つは人口の増加による食用需要の増大です。中国やブラジルなどの経済成長や世界人口の増加により、食糧としての需要が増加しています。それにより、日本では買い負けも起こり始めています。
2つ目は燃料需要の増大です。今まで、穀物の最終消費者はほとんどが人間でしたが、バイオエタノールの出現により、最終消費者の幅が車まで拡大しました。これら需給の増大に対し、供給は増大する見込みがありませんので、今後、穀物価格はどんどん高騰していくと考えられます。

経済学的にも食糧が投機の対象となるため、実質の価格より高騰することが懸念されます。今後は食品として安くなる可能性はほとんどないと考えられます。食糧不足によって政情不安をも巻き起こす可能性もあるのです。

これらの要因によって現在、無理やり海外から食糧を買おうとすると、例えば今よりカロリーベースで5%分買った場合、より不足している国の800万人の食糧を奪うことになる、といった構造的な食糧難が起こっているのです。

●遺伝子組み換え作物とそのリスク管理・評価・コミュニケーションについて
このような世界的な食糧危機に対して、遺伝子組み換え作物はまず、食糧の大幅な増産が期待できます。加えて生産コストの削減や生産現場での資源・エネルギーの節約を可能にします。穀類不足の要因の1つと考えられるバイオエタノールの生産量を増産させる可能性もありますし、他にも地球温暖化への対応、残留農薬のリスクを下げる、機能の付加などの便益から非常に期待される技術だと考えられます。

遺伝子組み換え作物に対して安全性や環境への影響について便益とリスクそれぞれの主張がありますが、遺伝子組み換えについて考えるときには感情論ではなく、その便益またはリスクを費用対効果あるいは社会的損失として明確に定量化しなくてはなりません。それらを客観的に比較して検討することで、合理的で有効な判断ができると考えます。消費者も良いか悪いかの二者択一的な判断をするのではなく、リスクと便益を天秤にかけてその均衡点を探っていかなくてはなりません。そのためには、日ごろから情報源や内容に偏りがなく、信頼を得られる情報提供が行われていることが必要です。

日本におけるリスクコミュニケーターはメディアであると考えます。消費者の情報源はほぼすべてメディアであるので、メディアは合理的で明確な情報提供を誠実にすることが望まれます。

講演後、質疑応答が行われました。
●質疑応答
【Q1】:遺伝子組み換え技術だけで現在の食糧危機を解決できるのでしょうか。
【A1】(有路氏):遺伝子組み換え技術の便益の1つとして食糧危機への貢献が挙げられるのです。今回のセミナーで、消費者が選択できる仕組みを作っていくためにも便益や意義を知り積み上げていくことが大切ではないかと問題提起をしたいと思います。食品としての安全性や、環境への影響など様々な面でリスクと便益をそれぞれ数値化、検討して判断するところまで持ち込まないと遺伝子組み換えの議論は進まないと思います。

【Q2】:バイオテクノロジーの導入に関し、冷静な議論をすることは難しいと感じます。
【A2】(有路氏):国際的な議論の中でも非常に重要な点です。合理的な判断の基準があるべきで、それに向かうプロセスが重要です。これはリスク認知にもあたり、良い・悪いという判断ではなくそこに至る考え方を重視しなくてはなりません。そこから取り組み始め、責任を持った判断ができるようになればよいのではないでしょうか。

【Q3】:「国民的合意」とは何だと思いますか。例えば1000人にアンケートを取って「合意が得られた」と言えるのでしょうか。
【A3】(有路氏):単純なアンケートや電話調査の結果をすぐ「世論」としてしまうのは安直です。それは、回答者が判断に必要な情報を十分に持っていないかもしれないからです。特に一般の方はネガティブな情報の方が頭に残りやすい傾向にあります。メディアの方にはその点も意識し、リスクコミュニケーターという役割を認識していただきながら情報発信をしていただきたいと思います。よりよいリスクコミュニケーションのためには、不特定多数での集会の他に、発言のない一般の消費者も含めた一人一人が持つ考え方に合わせて、内容や情報量を変える必要があると思います。

【Q4】:日本への遺伝子組み換え作物の導入をどうすべきだと考えますか。
【A4】(有路氏):評価プロセスが大切ですので、評価を終えているものに関して言えば、よいのではないでしょうか。遺伝子組み換え作物は健康に対するリスクは非常に低いのではないかと考えています。環境に対する影響はしっかりと評価していかなくてはなりません。

【Q5】:日本は遺伝子組み換えに対して感情的な部分も多いのでしょうか。
【A5】(有路氏):感情的な判断に対しては、合理的に説明を繰り返す姿勢を変えてはいけないと思います。全員が同じ感情ではありませんので、対象をそれぞれ分析して説明する必要があります。欧米にはそういったプロセスを持った上で導入されています。

【Q6】:バイオテクノロジーはどんどん進化しており、「正しい情報」としていた根拠が変わることもあるのではないでしょうか。
【A6】(有路氏):何かを科学的に判断しなければならないとき、進歩と世の中の動きを考えると、現在の最も追及された科学で判断をするしかありません。その判断について半永久的に持続させるのではなく、現在の判断を科学の進歩に沿って把握、更新し、場合によって修正するアダプティブ・マネジメントを行い、常にリスクやその対応を判断するようにしていけばよいと考えます。

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