GMO Answers
質問
GMOの利用は、畑の耕起を減らすことができるため、温室効果ガスの低減につながるとの推定を目にしたことがあります。このような推定は、どのように算出されるのでしょうか?GMOや新たな組換え技術の利用がもっと増えれば、温室効果ガスの排出は、さらに低減されるのでしょうか?
回答
GM作物による温室効果ガス(GHG)の排出低減については、G.ブルックスとP.バーフット(2014)が最新の推定を行っており、以下の情報はその報告から引用しています。
GM作物は、主に二つの理由で、温室効果ガス(GHG)の排出低減に貢献しています。
GM作物の利用は、除草剤や殺虫剤の散布頻度の低下による燃料消費の削減、及び土壌耕起のためのエネルギー消費量の低減、この二つに役立っています。例えば、ラザラス(2012)は、一回の農薬散布で0.84リットルの燃料が消費されると推定しており、これは、1ヘクタール当たり2.24kgの二酸化炭素排出に相当します。ブルックス及びバーフット(2014)の分析では、害虫抵抗性GM作物(GM IR)だけが農薬(殺虫剤)の散布回数を減らし、除草剤耐性GM作物(GM HT)は農薬(除草剤)の散布回数/頻度に影響を及ぼさない、という控えめな仮説が用いられています。殺虫剤の散布回数の低減に加え、除草剤耐性作物(GM HT)の利用は、従来型の耕起から、不耕起や減耕起への移行を促進してきました。これはトラクターの燃料消費に大きな影響をもたらしました。燃料を大量に消費する従来の耕起が、不耕起や減耕起、除草剤を基にした雑草管理手法に、取って代わられたのです。例えば、米国では、除草剤耐性GMダイズ(GM HT)の栽培で、そして除草剤耐性GMダイズ(GM HT)とトウモロコシの輪作栽培が広く行われている地域で、この傾向は顕著です。このように、除草剤耐性GM 作物(GM HT)技術の導入は、減耕起や不耕起(NT)栽培の採用を促進させる上で、重要な貢献をなしてきました(CTIC2002)。除草剤耐性GMダイズ(GM HT)技術が導入される以前にも、一部の農家は、様々な除草剤を使って不耕起(NT)栽培を行っていましたが、その成功率はまちまちでした。播種前に除草剤で畑の雑草を「根絶やし」にする前処理を行い、その後、作物(ダイズ/トウモロコシ)が根付いた時点で、雑草の生育を抑えるための除草剤を撒くという方法は、農家にとって、不耕起(NT)栽培を、より信頼性が高く、技術的に実行可能で、経済的にも魅力的なものとしました。
このような技術的優位性は、コスト面での利点とあいまって、除草剤耐性GM技術が活かされたダイズやトウモロコシの採用を急速に推し進め、米国における不耕起(NT)栽培のダイズ面積は、従来の2倍近くに増加しました(アルゼンチンでは7倍の増加)。米国及びアルゼンチンの双方で、除草剤耐性GMダイズ(GM HT)の栽培面積は、不耕起(NT)栽培のダイズ作物面積全体の95%を占めると推定されています。不耕起(NT)栽培は、カナダでも著しく増加しており、同国の不耕起(NT)キャノーラ栽培面積は、1996年から2012年の間に、80万ヘクタールから800万ヘクタール(全キャノーラ栽培面積の約90%に相当)に上昇しました(不耕起(NT)キャノーラ栽培の総面積の95%は、除草剤耐性のGM品種(GM HT)が占める)。ブルックス及びバーフット(2014)の報告における、除草剤耐性GM(GM HT)技術が促した耕起法の変化による燃料の節約という指摘は、ジャサ(2002)、CTIC(2002)、イリノイ大学(2006)、USDAエネルギー推定(2013)、リーダー(2010)、そしてUSDA COMETーVRモデル(2013)を含む文献のレビューから、導き出されています。 ブルックス及びバーフット(2014)の分析では、ダイズ生産に不耕起(NT)が用いられる場合、耕起や播種床作りに要する燃料の使用量は、伝統的な通常耕起と比べ、1ヘクタール当たり27.12リットル少なくなり、畝立て(RT)との比較では、1ヘクタール当たり10.39リットル少なくなると推定しています。トウモロコシでは、従来の全面耕起に比べ、不耕起(NT)では1ヘクタール当たり24.41リットル、畝立て(RT)では1ヘクタール当たり7.52リットルの節約となります。これらは控えめな推定値ですが、ダイズとトウモロコシを対象にしたUSDAのエネルギー推定と一致しています。
不耕起(NT)や畝立て(RT)栽培は、燃料の使用に関して言えば、二酸化炭素の排出を、ダイズではそれぞれ1ヘクタール当たり72.41kg(NTの場合)、1ヘクタール当たり 27.74kg(RTの場合)低減し、トウモロコシではそれぞれ1ヘクタール65.17kg 、1ヘクタール当たり20.08kgの低減となります。
畑の耕起が少なくて済む減耕起や不耕起栽培では、有機炭素は、作物の残さとして土壌中に貯蔵、隔離されることになります。このような(土壌中への)炭素隔離により、環境へ排出される二酸化炭素は、少なくなるのです。ブルックス及びバーフット(2014)の分析では、通常の耕起栽培と減耕起栽培のそれぞれについて、炭素がどの程度土壌中に隔離されるかを算出し、GM作物の利用がいかに炭素隔離の増加を促し、最終的に大気中に排出されるCO2量を低減させたかを示しています。当然ながら、炭素の隔離量は、土壌の種類や栽培体系、エコリージョン(生物地理学的地域)により変動します。ブルックス及びバーフット(2014)分析では、以下のように推測しています:
- 米国: ダイズとの継続的輪作を行うトウモロコシの場合、不耕起(NT)栽培では、年間1ヘクタール当たり250kgの炭素が土壌に隔離され、炭素の排出削減量は、年間1ヘクタール当たり251kgと推定される。畝立て(RT)栽培では、年間1ヘクタール当たり75kgの削減となり、従来型の耕起(CT)では、年間1ヘクタール当たり1kg の削減に留まると推定される。
- 米国: トウモロコシとの継続的輪作を行うダイズの場合、不耕起(NT)栽培では、年間1ヘクタール当たり100kgの炭素が土壌に隔離され、炭素の排出量は、年間1ヘクタール当たり45kgと推定される。畝立て(RT)栽培では、年間1ヘクタール当たり115kgの炭素が排出され、従来型の耕起(CT)では、年間1ヘクタール当たり145kgの炭素が排出されると推定される。
- アルゼンチンとブラジル: 土壌に貯蔵される炭素の量は、不耕起(NT)ダイズ栽培では、年間1ヘクタール当たり275kgと推定される一方、従来型の耕起(CT)では、年間1ヘクタール当たり25kgの炭素が排出されると推定される(両者の差は年間1ヘクタール当たり300kg)。
表1は、2012年のGM作物栽培が温室効果ガス(GHG)排出にもたらした影響をまとめています。2012年には、GM作物栽培に係る燃料の使用削減により、恒久的なCO2削減量は、21億1千百万kgに達しています。これは一年間に道路から乗用車を90万台取り除いたに等しい値です。
表1: 2012にGM作物が炭素隔離に与えた影響; 乗用車の台数に換算
作物/形質/国 |
燃料使用が減ることによる恒久的な二酸化炭素の削減量 (単位:百万Kg) |
恒久的な燃料の削減量、平均的な自家用車を1年間道路から除いた場合の台数に換算 (単位:1,000台) |
土壌への炭素隔離が増加することによる付加的な排出削減潜在量 (単位:百万Kg) |
土壌への炭素隔離が増加することによる付加的な排出削減潜在量、平均的な自家用車を1年間道路から除いた場合の台数に換算 (単位:1,000台) |
---|---|---|---|---|
米国: 除草剤耐性GM ダイズ |
210 |
93 |
1,070 |
475 |
アルゼンチン: 除草剤耐性GM ダイズ |
736 |
327 |
11,186 |
4,972 |
ブラジル: 除草剤耐性GM ダイズ |
394 |
175 |
5,985 |
2,660 |
ボリビア、パラグアイ、ウルグアイ: 除草剤耐性GM ダイズ |
156 |
69 |
2,365 |
1,051 |
カナダ: 除草剤耐性GM キャノーラ |
203 |
90 |
1,024 |
455 |
米国: 除草剤耐性GM トウモロコシ |
210 |
93 |
2,983 |
1,326 |
世界: 害虫抵抗性GM IR ワタ |
45 |
20 |
0 |
0 |
ブラジル: 害虫抵抗性トウモロコシ |
157 |
69 |
0 |
0 |
合計 |
2,111 |
936 |
24,613 |
10,939 |
出典:Brookes and Barfoot (2014)
注釈:仮定:平均的な自家用車は1kmあたり150gの二酸化炭素を排出する。乗用車一台の年間走行距離は平均15,000kmとすれば、一年間に排出する二酸化炭素の量は2,250kgとなる。
GM作物が減耕起によって栽培されることで、土壌中への炭素の隔離量は増え、その分だけ大気中への炭素の排出量は減少します。これによって、2012年には、246億1,300万kgものCO2排出が削減されました。 これは、一年間に約1,090万台の乗用車を道路から取り除いたに等しい値です。燃料の使用量削減と土壌への炭素隔離の拡大により、2012年に排出削減された炭素の量は、合計で、1,188万台の乗用車を道路から取り除いたに等しい値となっています(これは英国の登録車両の41%に相当)。
将来に関して言えば、より多くの農家が、殺虫剤の使用を減らす害虫抵抗性GM作物(GM IR)技術を利用し、より多くの農家が、主要な雑草管理手法として、除草剤抵抗性GM作物(GM HT)技術を用いた不耕起(NT)栽培を採用することになれば、温室効果ガス(GHG)の排出削減に対するGM作物技術の貢献は、さらに大きなものとなるでしょう。
参考文献
- Brookes, G., and Barfoot, P. (2014), “Key global environmental impacts of GM crop use 1996-2012, GM Crops and Food,” Biotechnology in Agriculture and the Food Chain, 5:2, 1–12, Apr-May 2014.
www.landesbioscience.com. - Conservation Tillage and Plant Biotechnology (CTIC) (2002), “How New Technologies Can Improve the Environment by Reducing the Need to Plough” (http://www.ctic.purdue.edu/CTIC/Biotech.html).
- Jasa, P. (2002), “Conservation Tillage Systems,” Extension Engineer, Univ Nebraska.
- Lazarus, W. F. (2012), Machinery Cost Estimates May 2012, University of Minnesota Extension Service.
- Reeder, R. (2010), “No-till benefits add up with diesel fuel savings.” http://www.thelandonline.com/currentedition/x1897235554/No-till-benefits-add-up-with-diesel-fuel-savings.
- University of Illinois (2006), Costs and fuel use for alternative tillage systems. www.farmdoc.uiuc.edu/manage/newsletters/fefo06 07/fefo06 07.html.
- USDA (2013), An online tool for estimating carbon storage in agroforestry practices (COMET-VR). http://www.cometvr.colostate.edu/.
- USDA Energy Estimator: tillage (2013), http://ecat.sc.egov.usda.gov.
「不耕起栽培」とは、(播種する前に)畑を全く耕起しないことですが、「減耕起」とは、伝統的な耕起方法(畑を全面的に耕起する方法)に比べ、より少ない耕起に留めることを言います。例えば、不耕起栽培では、ダイズの種子は、トウモロコシやワタ、麦などの前作物が収穫された後、畑に残された有機物の上から植え付けられます。また、不耕起栽培は、確実に土壌侵食を減らすため、従来利用価値が乏しいと思われた土地の耕作を可能にするといった経済的ベネフィットを農家にもたすだけでなく、植物相や動物相、そして景観の喪失を防ぐという、環境へのベネフィットをももたらしています。
回答者 グラハム・ブルックス回答者
グラハム・ブルックス
Graham Brookes
英国PGエコノミクス社、農業エコノミスト