GMO Answers

質問

質問者 TheAlchemist (ノースカロライナ州、カーリー) 

コメAの遺伝子に、種の全く異なる生物の遺伝子を挿入して、その生物由来のタンパク質を産生するようなコメBを作る(トランスジェネシスの)場合、どのような毒性試験が実施されるのですか?例えば、コメAに、同じ種の生物からの遺伝子を挿入して、その生物由来のタンパク質を産生するコメBを作る(シスジェネシス)場合には、通常、既に人が食べているものを使っているので、それほど問題にはならないと思います。しかし、種の全く異なる生物の遺伝子の挿入で新たなタンパク質が産生される場合、そのタンパク質が食べても安全だと、どうして分かるのでしょうか。 また、既に安全性が確認されているタンパク質でも、大量に摂取した場合、安全だと言えるのでしょうか?

回答

ご質問にお答えする前に、まずは質問の背景となる、タンパク質とは何か、タンパク質はどのように作られるのか、そして、私たち人間が食事から摂取するタンパク質は体内でどうなるのか、についてご説明したいと思います。

まずは、分子生物学には「セントラルドグマ(Central Dogma)」という中心原理があることを覚えておいてください。すなわち、遺伝子DNA)の配列がタンパク質の配列を決定(コード化)している、という原理です。そして、タンパク質は20種類のアミノ酸の組み合わせで構成されている、ということも覚えておいてください。それぞれのアミノ酸は、化学構造(NH2-CHR-CO2H)は皆同じで、側鎖(R基)だけが異なります。一つのアミノ酸のアミノ基(NH2)は、他のアミノ酸のカルボキシル基(CO2H)と結びつき、ペプチド結合を形成することができます。特定のタンパク質を構成するためのアミノ酸の結合順序や数は、すべて遺伝子配列によって決定されます。つまり、それぞれのタンパク質は、配列も、大きさも異なるのです。

さて、タンパク質を構成するアミノ酸は、どこからもたらされるのでしょうか?その答えは、バクテリア、植物、あるいは人間など、それぞれの生物によって異なります。アミノ酸は、その生物の代謝機能を通して全く別の物質から作られるか、もしくは、食べ物として取り入れられたタンパク質が消化され(様々なアミノ酸に分解され)ることで手に入ります。例えば、植物は20種類のアミノ酸それぞれを合成するための代謝経路を全て持っています。対照的に、私たち人間が体内で合成できるのは、10種類のアミノ酸のみで、その他の「必須」アミノ酸については、それらを合成するための代謝経路を持たないため、食べ物から摂取する必要があります。私たち人間は、他の動物や植物の体内で合成されたタンパク質を食べることで、それらのアミノ酸を、体内の代謝プロセスで再利用しているのです。

鶏肉とブロッコリーを使った炒飯を例に挙げましょう。この料理には、およそ10万種類ものタンパク質が含まれています。鶏肉には、様々なタンパク質をコード化している遺伝子が約25,000含まれ、コメとブロッコリーにはそれぞれ約35,000も含まれています。私たちが、いかに多くのタンパク質を毎日摂取しているか分かって頂けると思います。当然ながら、私たちの摂る食事が多様であればあるほど、摂取するタンパク質の種類も幅広いものになります。

さて、植物に遺伝子(すなわちDNA)が導入されると、その植物は、植物体内で合成されたアミノ酸を使って、導入遺伝子にコード化されたタンパク質を作り出します。つまり、遺伝子組み換えコメであれ、導入遺伝子のコードに従って作られるタンパク質を構成する様々なアミノ酸は、コメにもともと含まれる約35,000種類のタンパク質を構成するアミノ酸と、なんら違いはないのです。

この点を踏まえ、導入遺伝子によってコード化されたタンパク質には、詳細な毒性試験やアレルゲン試験が行われます。但し、どこまで踏み込んだ試験が行われるかは、場合により異なります。代表的な試験には、タンパク質のアミノ酸配列を、既知の毒素やアレルゲンと比べ、どれだけ類似性を持っているかを見極めるための生物情報学的な分析や、食事からの摂取を想定し、消化や熱がタンパク質の構造及び機能にどのような影響を与えるかを調べる試験、そして、安全な利用経験に関する調査(文献調査)などが含まれます。

では、コメAのタンパク質をコード化している遺伝子を、コメBへ導入する場合を考えてみましょう。もしこのタンパク質が毒素やアレルゲンとは無縁で、容易に消化されるか熱で変性し、既に食べられている(コメAを私たちは食べている:安全に利用されてきた歴史がある)ものであれば、このタンパク質に広範な試験を行うべき科学的な根拠はありません。しかしながら、導入遺伝子が、今まで人が食べたことがない生物由来の遺伝子で、消化もされず熱に対しても安定している、あるいは、既知の毒素やアレルゲンに対し相同性が認められるような場合には、更に徹底した分析が必要となるでしょう。毒性試験やアレルゲン試験の結果が、科学的に正当であると判断された場合には、そのタンパク質の産生が認められ、各種の食品安全性試験に供試されることになります。食品安全性試験で典型的なものは、90日間の給餌試験で、導入遺伝子のコードにより産生したタンパク質が実験動物に与えられます。注目すべき点は、給餌試験では、体重75kgの成人男性が1度の食事でトウモロコシを50トン(!)も食べるに相当する量のタンパク質が与えられることです。再度申し上げますが、食品安全性の確認試験は、導入遺伝子によって(遺伝子組み換え植物中に)産生するタンパク質のレベルよりも、はるかに高いレベルで行われるのです。タンパク質の毒性やアレルゲン性試験の項目は、極めて広範にわたるため詳細は割愛させていただきますが、新たな食品に係るリスクの大きさに見合った項目が網羅されています。

更なる情報をお望みの場合は、『Nature Biotechnology』誌の編集者ローラ・ディフランチェスコ(Laura DeFrancesco)氏による2013年の記事「遺伝子組み換え食品に求められる安全性のレベルは?」(Nature Biotechnology nol. 31, issue 9, pages 794-802)をお読みになることをお勧めします。この記事は、お寄せいただいたものと同様な質問に対し、中立かつバランスのとれた分析を提供するとともに、このテーマを更に深堀しています。

回答者 ジョセフ・ジェズ

回答者

ジョセフ・ジェズ

Joseph Jez

ワシントン大学(セントルイス)、生物学教授、ハワード・ヒューズ医学研究所教授

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