GMO Answers
質問
GMO食品には様々な微量栄養素が不足していることを示す研究報告がいくつもありますが、あなた方はこれをどう考えていますか? また、グリホサート耐性の種子には、収穫後に許容量以上のグリホサート残留があるとの報告については、どう思いますか? ある研究報告(この質問に付しました)では、GMO食品は(非GM食品に比べて)、カルシウムの含有量が平均して437倍、マグネシウムが56倍、マンガンでは7倍も少なく、EPAが定めた水中のグリホサート残留基準が0.7ppm以下であるのに対し、グリホサートの残留は13ppmであったとしています。 また、私が参加した大学の農業会議で、GMO交配種の出現以来、食品の栄養素密度が継続して低下しているとの話がありましたが、この指摘は間違っているのでしょうか?
回答
セスさん、遺伝子組換え食品の栄養素の質や遺伝子組換えでない食品との比較については、多くの人が興味をもっていることだと思いますが、答えは簡単です。 数多くの研究からの結果、GMOから派生した作物は、栄養素を意図的に組換えたものを除いては、従来型の作物と同等の栄養価があります。(2013年ランドリーらの研究; 2010年ハリガンらの研究)
あなたの質問は、ある特定のトウモロコシの研究についてのものですが、質問に引用された研究結果の数字が本当ならば、皆さんが心配するのも当然かと思います。 私もウェブサイトでこの情報をみつけ出すことができました。 注釈に、「これはレポートであり、科学論文として査読された研究報告ではなく、私はこのブログに記した以上の情報を持ち合わせていませんので、留意ください」と書かれていることに着目しました。 この結果が妥当なら、私が知るほとんどの科学者は、慌ててこの情報を、影響力の大きい手段や論文審査のあるジャーナルで発表し、誰もが目にできるよう広範囲にばらまいたことと思います。 しかしこの情報は公表されておらず、ブログ以外の情報が出ていないという事実から、実験結果や研究手法、サンプルなどの妥当性を疑いたくなります。 これらのデータは、Profit Pro社という企業によって、De Dell Seedsに帰されていることが分りましたが、Profit Pro社は、私たちの問いかけには応じません。 これは重要なことです。 報告にあるいくつかの変数からみて、この情報がトウモロコシから得られた数値なのかも疑わしくなります。 またミネラルについての情報に、サイトではさらに、「陽イオン交換容量(CEC)」について触れています。 CECとは、土壌が保持できる最大のイオン量を示す値です。 CECの測定は、トウモロコシに対して行われるものではありません。 「嫌気性生物」や「好気性生物」、「化学物質含有量」、他のほとんどの変数も違います。 つまり、レポートに記されたデータは、トウモロコシから採ったものではない、とはっきりと言えますが、土壌のデータなのか、その他のサンプルからなのかは分りません。
残念ながら、私は、この情報の基となったオリジナルのレポートやデータの採取方法についての情報を見つけ出すことはできませんでした。 あなたが質問された微量栄養素やグリホサート残留量の具体的な情報について直接お答えすることはできませんが、科学者として、経験を通して観察してきたものについてお話することはできますし、回答に代わるものとなれば幸いと思います。 ご質問の意味を正しく理解したとすれば、あなたはGM作物に非遺伝子組換え作物と同じような微量栄養素があるのかどうか、グリホサート残留があるのかないのか、その値が食するに安全かどうかをお知りになりたいのかと思います。これを読まれた後、ご質問の一部でも間違って解釈しているようでしたら、またご連絡ください。
ご質問の最初の部分ですが、作物の中の微量栄養素の値は、様々な要因によって異なってくるということを特記したいと思います。 これらの要因には、施肥や播種の間隔、環境、圃場の中の位置などの栽培慣行も含まれます。 しかしながら、遺伝子組換え作物は、微量栄養素含量の変化の重大な要因にはなりません。なぜかと言いますと、すべての遺伝子組換え作物は、安全性評価につながる厳格な科学審査を受け、そこで主要栄養素の量や、場合によっては、無益な天然化合物の量を測定する組成分析が行われるからです。 測定される化合物の一覧は、国際的な統一を図るための合意文書に基づいており、これはOECD(経済協力開発機構)から公表されています。 炭水化物、脂質、微量栄養素を含め、どのような化合物が測定されているかは、こちらのOECD文書をご覧ください。
http://www.oecd.org/science/biotrack/latestdocuments/2/
これまでに行われた遺伝子組換えと非遺伝子組換えの作物を比較した研究では、両者の微量栄養素の含量に、生物学的観点から差異は認められていません、まして、ご質問に記されたような大きな差異は、両者にはありません。 多くの公共機関の科学者が携わった優れた調査研究の一例を、ここに紹介したいと思います。
http://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/jf302436u
この報告で著者らは、得られる様々な研究報告を調査した結果、グリホサート耐性作物に含まれる無機栄養分は、グリホサート耐性形質やグリホサート除草剤の散布のいずれにも影響をうけないこと、また、グリホサート耐性作物の収量データから見て、グリホサート耐性作物には無機栄養や病気などの点で重大な問題があるという仮説は支持することができないこと、などが結論されています。 組成データに関する最新の研究としては、ランドリーらによる報告(2013年)が出されていますので、ご覧ください。
http://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/jf304005n
この報告は、カルシウムやマグネシウム、マンガンの値に、GMトウモロコシと従来のトウモロコシの間に差がないことを示しています。
微量栄養素はヒトや動物の健康に欠かせないものですが、植物自身の健康にとっても重要です。 例えば、もしトウモロコシの植物体内にあるカルシウムの量が、437倍も少なければ、細胞壁の形成や代謝プロセスのような基本的な植物機能に大きな影響が出てきます。 すなわち、植物は健全に育たず、生殖のための成長もできません。マグネシウムとマンガンも、太陽光を吸収し、植物のエネルギーに変換する重要な役割を担っています。従って、これらの栄養素の一つにでも大幅な不足が生じれば、植物の成長や発達が滞り、成熟して実を付けることができず試験用の種子すら採れません。このような生育不良は、植物の姿を見ればすぐに分かります。これまでに、このようなことが観察されたことはありませんし、植物が正常に発達しないのであれば、農家もお金をかけてGM種子を購入することはしないでしょう。 トウモロコシの栽培地帯を訪れてみてください、健全に発育しているトウモロコシは、ほとんどが遺伝子組換えです。 この研究報告が正しかったとすれば、トウモロコシはこのようには育ちません。
ご質問の二つ目の部分、すなわち、私たちが消費する作物に残留するグリホサートの量についてですが、作物に使用される農薬はすべてEPAで審査され、様々な農産物に「許容値」(農産物中や表面に残留する農薬の法的上限値)が定められます。「許容値」は、「安全」だと判断された場合にのみ設定されます。法令には、「安全」の定義が明確に示されており、その農薬を吸ったり食べたり触れたり(農薬への暴露)しても害がないという、合理的な確実性があることです。 EPAはまず広範囲にわたる各種の毒性試験をレビューし、短期的な急性の暴露や長期にわたる慢性的な暴露を考慮に入れ、その農薬の許容暴露レベルを確立します。 総合的な暴露量は許容値以下でなくてはなりませんので、その農薬が使われる全ての作物を示すことが必須です。そうでない場合は使用が認められません。 水中のグリホサートの最大許容濃度(MCL)は0.7ppm、もしくは700ppbと定められています。これは、飲料水からの暴露が、グリホサートの許容暴露レベルよりもはるかに少ない濃度に留まることを示しています。 この数値は、グリホサートが実際に水中に含まれる量ではありませんし、含まれるであろうと言う推定値でもありません。なお、MCLもまた、作物中のグリホサート残留を評価するための適切な基準ではありません。それは、別の様々なプロセスによって確立されるのです。農産物中のグリホサートの許容レベルは、対象作物が栽培されている様々な地域で、実際の使用を想定した最大の濃度で圃場試験を行い、それらの評価結果に基づいて決められます。それぞれの農産物に対する農薬の許容レベルは、その農薬が使用される全ての作物における残留量を合計し、その数値が、その農薬の許容暴露レベル以下であった場合に初めて設定されるのです。すなわち、許容レベルは、先ず全体の許容量が制限され(これで上限が確定)、次に、認可されたラベルの記載事項(使用基準)通りに農薬が使用された場合に起こりうる可能性を考慮して、一定の値以下に制限されるのです。最新のEPAによるグリホサートの食品暴露評価が、2013年のはじめに発行されていますのでご覧ください。
[http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2013-05-01/pdf/2013-10316.pdf]
評価を行うに当たり、EPAは、あらゆるグリホサート耐性の食用農産物には、許容レベルでの残留があり、これら全ての作物にはグリホサートが散布されていたものと想定しました。すなわち、極めて厳しい見方で評価を行うことにしたのです。 評価に用いられた飲料水中の推定濃度は、実際のモニタリング・データやモデル試験のデータに基づき、8.11ppbとされました。評価の結果、全ての食品と水からの合計グリホサート暴露量は、現行の登録作物に対する使用基準に基づいた許容暴露レベルに対し、多くても13%程度と判断されました。 全体を合わせた暴露量がグリホサートの許容レベル以下である限り、残留量の増加に繋がる適用作物の拡大や、様々な食用農産物に対する許容レベルの引き上げも、将来的にはEPAが承認する可能性があります。
あなたの質問には、種子中のグリホサート残留が13ppmと引用されていました。 上述しましたように、このレポートにある様々な分析結果は、トウモロコシについてではないように思います。グリホサートについての結果は、私たちが理解しているトウモロコシ中の残留値とは、かけ離れていることは確かです。 EPAは、従来型のトウモロコシと遺伝子組換えトウモロコシの双方に対して認められた最大の使用量に基づいて、グリホサートのトウモロコシ粒中の許容値を5ppmと設定しています。生産者が認可された使用量に従ってグリホサートを散布しているとすれば、トウモロコシ中の残留値は、許容値以下になるはずです。 許容値以上の残留があったとすれば、それはグリホサートが、ラベル(使用基準)通りに散布されていなかったことを意味し、そのトウモロコシは、食品として流通することが出来ません。トウモロコシ粒中のグリホサート許容量は、安全であると判断される上限値を遥かに下回るものですし、トウモロコシを含めたすべての作物からのグリホサート暴露量合計は、グリホサートに設定された許容レベルの13%にしか過ぎないのです。
グリホサートには、長年、安全に使われてきた実績があります。グリホサートは、長期にわたって環境に残存することはありません。毒物学的な観点から補足しますと、ヒトや他の哺乳類は、グリホサートが標的とする代謝経路(シキミ酸経路として知られている)を持ってさえいません。 すなわち、グリホサートは、ヒトや動物の代謝を、この(シキミ酸)経路を使って阻害することはできないのです。ちなみに、私たちの体内にシキミ酸経路がないということは、私たちの生存に欠かせない「必須アミノ酸」と呼ばれるアミノ酸、すなわちシキミ酸経路を通して生産されるアミノ酸を、私たちは、植物を食べること、あるいは植物を餌として食べる動物を食べることで、摂取する必要があるということでもあります。
完璧なバランスで様々な栄養素を摂ることが出来る食品は、殆どありませんし、仮にあったとしてもごくまれでしょう。様々な食物をとることが、私たちにとってなぜ大切なのか、そして、私が1才8か月の娘に、麺類だけでなく他の食物も食べさせようと奮闘しているのは、このことが大きな理由の一つなのです。 まだ上手くいっていませんが、今私は、スパゲティソースの中にどれだけ多くの野菜や肉類を隠し入れることができるか、実験中です。
- Lundry, DR; Burns, JA; Nemeth, MA; and Riordan, SG. 2013. Journal of Agricultural and Food Chemistry 61: 1991-1998. http://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/jf304005n
- Harrigan et al., 2010: http://www.nature.com/nbt/journal/v28/n5/full/nbt0510-402.html
回答者
アンジェラ・ヘンドリクソン・キューラー
Angela Hendrickson Culler
モンサント社、組成生物学センター、リード