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英国ACRE 遺伝子組み換え作物が環境に与えるメリットも考慮して評価すべきと指摘

英国政府の要請により、除草剤の影響を受けない遺伝子組み換え作物の環境影響について検討していた環境放出諮問委員会(ACRE)は3月17日、審議結果などをとりまとめた報告書を公表しました。それによると、EUの規則は遺伝子組み換え作物を利用することで期待される環境へのメリットについても考慮すべきであると指摘しています。
遺伝子組み換え作物が環境に与える影響については現在、EUの規則Directive 2001/18(遺伝子組み換え生物の放出を対象)に基づいて、非遺伝子組み換え農作物と比較することによって評価されています。具体的には、遺伝子組み換え作物の栽培、管理および収穫により考えられる即時的・遅延的、直接的・間接的な環境影響についてリスク評価を行い、厳密な審査を経て、屋外利用が承認される方式がとられています。
報告書では規制当局によるこのような評価方法には矛盾があるとも指摘しています。ひとつは、非遺伝子組み換えの新しい作物や、農業生産や農業管理方法の変更などに対しては、リスク評価が求められないという点です。
環境に与える影響の大きさは、遺伝子組み換え作物よりも、種まき時期を春から冬へ変更したり、飼料作物を乾草生産からサイレージ生産へ切り替えるなどの農業管理の変更による影響のほうが深刻になりうることが実地調査により証明されているとしています。
もうひとつは、除草剤耐性という同じ性質を持つ作物でも、遺伝子組み換えを用いて開発された場合は、栽培および市場流通の承認前に広範な環境リスク評価が課されるが、遺伝子組み換えではない育種法で生産された除草剤耐性作物であれば、何ら評価を課されずに栽培できることから、この矛盾はいっそう明らかであると述べています。
さらに、農場規模での評価(FSE)によれば、野生動植物への影響は、同じ作物間で遺伝子を組み換えたかどうか(除草剤耐性かどうか)による差よりも、通常の異種作物間(トウモロコシと菜種との比較など)のほうが大きくなりうることも示しています。
報告書では、現行のEUの規則Directive 2001/18はリスクのみを考慮するだけで、遺伝子組み換え作物の利用による環境への利点、メリットを同様に評価する規定を設けていないことを問題点として言及しています。例えば、除草剤耐性の遺伝子組み換えテンサイを栽培すれば、除草剤の散布回数が減らせることによって農作業や輸送などで発生する二酸化炭素の排出量の減少につながります。現在の環境影響の審査においては、このようなあらゆる可能性のある環境への利点を示す証拠は考慮されず、負の効果だけで評価されています。
それとは対照的に近年、エネルギー作物(燃料の原料となる作物)のように、作物の環境的な利点や副次的効果への関心は高まっています。現在、環境的なメリット(もしくは副次的効果)は、農業システムの多機能な本質および食糧、繊維、オイルなどの主要製品に加え、幅広い種類の環境財やサービスに貢献する可能性に注目するEUおよび国の農業政策改革の最新ラウンドにおける焦点でもあります。新規の政策や新興産業の下で、農民は食糧生産の継続に加え、農業による二次的なメリット(洪水防止、大気中の炭素を固定、景観美学および生物多様性の確保などの環境財やサービス)の提供による収入が次第に増えてくるであろうと予測しています。
報告書では、農業によるプラスの副次的効果を最大化するとともに、農業による負の効果(環境影響)を最小に抑えて持続可能性へと移行することは可能であるとしています。そのためには、既存または新規の農業技術、遺伝子組み換えか非遺伝子組み換えかにかかわらず、持続可能性という大きな目標に向けた取り組みが必要であると結論しています。さらに大きな課題は、農業の経済的継続性を維持しながら、このような変更を達成することであり、もしも農業による二次的なメリットを食糧生産とともに算定すれば、農業のGDP(国内総生産)への寄与は上昇すると述べています。
これらのことからACREは、遺伝子組み換え作物だけではなく、その他の新しい作物及び農業生産も対象として農業による環境フットプリント(environmental footprint 環境影響の指標)を評価することによって、より広範でバランスのとれた判断が可能になり、そのような規制当局の取り組みが必要であると提案しています。

ACREホームページ
http://www.defra.gov.uk/environment/acre/fsewiderissues/acre-fse-060317draft.pdf

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