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フランスで遺伝子組み換えトウモロコシの長期毒性試験、信頼性に疑問符のつく結果に専門家からの反論相次ぐ

 2012年9月19日、フランスCaen大学教授・Seralini(セラリーニ)氏ら研究グループがFood and Chemical Toxicology誌電子版に、「Long term toxicity of a Roundup herbicide and a Roundup-tolerant genetically modified maize(ラウンドアップ除草剤並びにラウンドアップ耐性遺伝子組み換えトウモロコシの長期毒性)」と題した論文を発表しました。論文は、ラウンドアップ除草剤とそのラウンドアップに耐性を持つ遺伝子組み換えトウモロコシ(NK603)を2年間にわたりラットに与えたところ、乳がんや脳下垂体異常、肝障害、腎症などを発症したという実験結果をまとめたもので、Seralini氏らは当該除草剤と遺伝子組み換えトウモロコシの毒性を評価するための長期間の研究をすべきだと主張しています。

 この論文発表に際し、世界各国の専門機関から反論が相次ぎ出されました。欧州食品安全機関(EFSA)は10月4日、この論文に対する最初の検討文書を発表しました。この検討文書は、EFSAの遺伝子組み換え作物、農薬および科学的評価ユニットから選出されたメンバーによる特別委員会が、論文の問題点を次のように指摘した上で、Seralini氏らの論文はリスク評価において必要とされる科学的エビデンスが不十分だと結論付けました。

  • ラットの寿命に当たる約2年にわたる長期試験において、自然にがんが発症することを考慮していない。
  • 実験は10の処置群に対して実施したものの、対照群はたった1つである。
  • 経済協力開発機構OECD)などが国際的に定めている実験プロトコルに従っていない。
  • OECDのガイドラインでは、ラットは1処置群当たり最低50匹が必要と規定しているが、10匹しか使用していない。
  • 実験の目的が述べられていない。
  • ラットに与えた餌の成分組成、貯蔵方法、含まれる可能性のある有害物質に関する情報がない。
  • ラットが摂取した餌や水の量が明示されていない。
  • 腫瘍のデータなどは報告されているものの、測定された情報すべてが報告されているわけではない。

 EFSAはこの論文の結果に基づいてこれまでEFSAが行ってきた遺伝子組み換えトウモロコシNK603の安全性評価を見直す必要性がないことも表明しました。そして、論文に概説されている試験デザインや解析方法は不十分であるため、全容を理解するためには追加情報が不可欠として、Seralini氏に対してその情報の提供を求めていることも併せて公表しました。
 さらに10月22日、Seralini氏が開示要求していたEFSAが2003年と2009年に行った遺伝子組み換えトウモロコシNK603の評価に関連するデータのすべてを研究者に公開し、再度、Seralini氏に対して情報提供を働きかけました。

 このEFSAの発表を受けて、ヨーロッパバイオテクノロジー産業連合(EuropaBio)は即日、「科学コミュニティは似非科学を否定する-遺伝子組み換え作物に関する批判は政治的な利用目的ではなく、健全な科学によって行われるべきだ-」と題したプレスリリースを発表し、EFSAの最初の検討文書への全面的な支持を表明しました。また、EuropaBioは、Seralini氏の論文が科学研究の基礎すらも守っていないと指摘するドイツやオランダなどEU諸国の専門機関のコメントも併せて紹介した上で、健全な科学は一般市民を惑わすような意図で作られた研究から守られなければならないと強調しました。

 なお、EuropaBioでは、Seralini氏の論文が発表されて以来、メディアに寄せられた専門家のコメントをまとめています。コメントは世界各国の専門機関の科学者や専門家によるもので、30以上にのぼっており、いずれも実験デザインや検討方法の不備を指摘するものでした。また、通常科学論文にはなじまない写真の使用や一般メディアへのセンセーショナルな訴求に対し、概ね批判的な見方で一致していました。

 オーストラリア・ニュージーランド食品基準機関(FSANZ)も10月、Seralini氏らの研究の手法と解釈に問題があり、結論は信頼するに値しないとの予備評価を発表しました。FSANZは、ラウンドアップ除草剤についてはラット以外の動物実験が、今回より高濃度で行われていますがいかなる異常も見つかっていないと指摘。何よりデータが足りないことが明らかであるとして、FSANZ もSeralini氏へ詳細な追加データの提出を要求しています。

 日本でも、専門家や関連団体からコメントが出ています。
 食品の安全に関する情報を科学的な立場から検証し、情報発信にも努める任意団体の食品安全情報ネットワーク(FSIN)も10月3日、一般財団法人残留農薬研究所毒性部長の青山博昭博士のコメントをホームページに掲載しました。毒性学の専門家である青山博士は、この論文における試験手法の数々の不備を指摘し、「この論文に記載された内容に基づいて遺伝子組み換えトウモロコシやラウンドアップの影響を科学的に評価することは不可能」と述べました。

 また、社会の関心が高い科学ニュースについて専門家のコメントを収集し、ジャーナリストに提供する活動を行っている一般社団法人サイエンス・メディア・センター(SMCJ)も、本件に関していち早く行動を起こしました。9月27日、問題の論文を紹介し、これに対する英国やオーストラリアの研究者のコメントを紹介しています。これらの情報は、SMCJの活動の一環として、事前登録しているジャーナリストへ「サイエンス・アラート」として迅速に情報提供されました。

  • 一般社団法人サイエンス・メディア・センター
    専門家コメント 遺伝子組み換え作物と除草剤のラットへの影響について
    http://smc-japan.org/?p=2886

 モンサント・カンパニーは9月21日、開発企業として、本件に関して同社のホームページで「ラットを用いたフランスの研究に対する、モンサント・カンパニーのコメント」を発表しています。Seralini氏らの実験条件の不備を例証した上で、科学的に必要とされる基準を満たしておらず、公表されたデータは著者の示す解釈を裏付けていない、と結論付けています。

詳細は、下記のウェブページをご覧ください。

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