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遺伝子組み換え農作物のアレルギー誘発性評価をめぐる最近の知見について
遺伝子組み換え農作物のアレルギー誘発性について、一部報道で現在の評価方法に対して問題提起が行われました。そのもととなるのが、オランダの研究者の発表で、遺伝子組み換え農作物中に新しく作られたタンパク質と既知のアレルゲンについて、6つの連続するアミノ酸配列を比較して、共通点がないかを調べたところ、33種類のうち22種類のタンパク質について、アレルゲンと共通する6つのアミノ酸配列が見つかったというものですが、この研究者は、この結果の大半は擬陽性であると思われ、これらのタンパク質が本当にアレルゲンとなり得るかを判定するためには、さらに患者の血清を使用した試験を行うなどして確認を行う必要があると結論しています(Gijs A Kleter et al 2002)。
遺伝子組み換え農作物に新しく組み込まれたタンパク質のアレルギー誘発性は、様々な試験を行って総合的に評価され、判断されています。新しく組み込まれたタンパク質と既知アレルゲンのアミノ酸配列に似たところがないかを判定することも、有効な情報の一つとされています。現在は、1996年にFAO/WHO及び国際生命科学協会(ILSI)によって提案された、8つの連続するアミノ酸配列を比較する手法が広く行われています。その後、2001年にFAO/WHOから、6つの連続するアミノ酸の配列を比較する方法が提案されています。
FAO/WHOの報告書については当時、ILSIが、アミノ酸6個という短い配列で相同性を比較すると擬陽性が多く出てしまい、さらに科学的検討が必要であると発表しています。例えば、トウモロコシにもともと含まれている50個のタンパク質を無作為に抽出し、この試験と同じ様に6つの連続するアミノ酸の相同性を調べたところ、41個のタンパク質で一致がみられました(Hileman et al 2001)。この方法では、主要作物の中でも特にアレルギー誘発性が低い作物の1つであるトウモロコシでさえも、84%が擬陽性となることが指摘されています。
我々は毎日、多くの種類のタンパク質を摂取していますが、その中で、アレルゲンとなるタンパク質はごく一部です。最近の研究から、アレルゲンとなるタンパク質には、消化されにくい、熱で変性されにくい、その食品中の主要タンパク質であるなど、共通した特徴を持っている事が分かってきました。たとえ、6-8個の極めて短いアミノ酸配列に相同性があっても、食物アレルゲンとなる確率は非常に低いと考えられます。
したがって、遺伝子組み換え食品のアレルギー誘発性の評価においては、ひとつの試験結果のみで結論づけられているわけではなく、様々な試験からアレルゲンの特徴を比べて総合的な評価が行われています。
具体的には、上記の8個の連続する短いアミノ酸配列の比較だけでなく、タンパク質全体を見たアミノ酸配列の相同性の比較も行っています。また、胃腸で速やかに消化されるか、熱によって変性しやすいか、その食品中に高濃度に含まれないか、分子量が比較的大きいかなど、様々な試験結果に基づき総合的に判断され、既知のアレルゲンと同じような特徴を一つでも示した場合には、患者の血清を用いてさらに確認が行われています。その上で、従来と同じように安全であることが確認された遺伝子組み換え作物だけが、市場に出ることが承認されています。
オランダの研究者の論文はこちらをご参照下さい。
Screening of transgenic proteins expressed in transgenic food crops for the presence of short amino acid sequences identical to potential, IgE – binding linear epitopes of allergens
Gijs A Kleter
RIKILT Institute of Food Safety,
BMC Structural Biology 2002 2:8
http://www.biomedcentral.com/1472-6807/2/8/