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「GM作物を導入しなければ英国は食糧危機に」 英国王立協会の研究報告書まとまる
英国王立協会(The Royal Society)は、『Reaping the Benefits: Towards a Sustainable Intensification of Global Agriculture(利益を受け容れるために-持続可能な世界農業の強化に向けて)』と題する研究報告書を2009年10月21日に発表しました。報告書は100ページにも及ぶもので、将来予想される食糧危機に対して「GM作物の導入については待ったなし」とされています。
2050年には90億人に達すると予測される世界の人口を養うために、世界の食糧生産量を倍増させる必要があるとする国連の報告を受けて、英国政府は2008年7月、英国王立協会に研究報告書の策定を委託しました。これを受けた王立協会の作業グループ(著名な学者8名で構成、議長はデイビッド・ボールコームケンブリッジ大学植物学教授)は、委託研究課題として「食物作物増産に向けた生物的アプローチ」の検討を行い、一年をかけて報告書をまとめました。
報告書は、国内と世界の作物生産量をそれぞれ50%および100%増加させることを想定し、様々な選択肢を検討しています。その選択肢として、伝統的な農業技法に加えてGM作物を含む最新の科学技術の導入を総動員させなければ、2050年までに発生するであろう破局的な食糧危機を防ぐことはできないだろう、と結論付けています。また、農業分野における科学技術と持続可能な農作物マネージメントの研究プログラムに対して、毎年2億ポンド(約300億円)を10年間、予算として投入することを求めています。
英国の報道(『サンデー・テレグラフ紙』 2009年10月18日付け)は、消息筋コメントとして「報告書は、今後の食糧不足に備えてGM作物の適正利用を進めるべきという内容だ。これがGMに関する議論を前進させるきっかけとなるはずだ。政府はそう認識する必要があるだろう。世界は大きく動いており、国民が食糧の調達に不安を感じ始めるのもそう遠くはないはずだ。収量を増やすことや病気に強いことが証明されたGMについては、国内にも導入すべきだ。GM作物には個別の検討が求められる。GM作物は、世界の飢餓に対する唯一の解決策ではなく、有効な対策の一つなのだ」と伝えています。
英国ではこれまで環境保護団体側による反対運動等を受けて、商業ベースでGM作物を国内生産するという計画は中止に追い込まれてきました。しかし最近になって、内閣・政府で「GM作物の国内市場への導入を」という声が強くなってきています。今のところ、欧州連合域内で唯一作付けが許可されたGM作物が、米国の農業バイテク企業モンサントのGMトウモロコシですが、スペインにおいて比較的小規模な商業ベースで栽培されています。一方、域外のGM作物栽培面積は、南北アメリカやインド亜大陸を中心に1億2,500万ヘクタールにも及んでいます。
昨年、英国が輸入した大豆260万トンのほぼ3分の2は遺伝子組み換え品種で、GMの大豆油は広く使われています。食の安全を所管する食品基準庁(FSA)では、GMの有用性について新たな公開討論会を計画しているということです。政府としてはGM作物を導入する方向に踏み出しており、今回の報告書の発表は、GM食品が国民の支持を取り付けることができる機会となりそうです。