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農研機構 実用遺伝子プロジェクト中間発表会を開催
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は3月4日、実用遺伝子プロジェクト中間発表会を開催しました。
作物研究所の小松晃氏らは、トリプトファン高含有飼料イネの開発を行っています。家畜の排せつ物による環境負荷を小さくするために、飼料のタンパク質含有量を下げ、排せつ物に含まれる窒素量を減らす方法があります。この方法で、必須アミノ酸を飼料に添加することで、不足分を補っていますが、必須アミノ酸のひとつであるトリプトファンの単価はおよそ3200円/kgであり、コストの高さが問題になっています(リジンはおよそ170円/kg)。
研究では、トリプトファン合成に関与する変異型酵素の遺伝子(イネ由来)を飼料イネに導入し、元の品種の約10倍のトリプトファンを含む遺伝子組み換えイネを作成しました。また、生物多様性に関する項目を評価した結果、遺伝子組み換えイネは元の品種と比べて競合における優位性はなく、元の品種を駆逐してしまうことはないことが分かりました。来年度、隔離ほ場での栽培を予定しています。
野菜茶業研究所の川頭洋一氏は、ビッグベイン抵抗性レタスの開発を行っています。ビッグベイン病に感染したレタスは葉脈が太く見えるという見た目の変化が起こり、商品価値が下がってしまいます。世界各地でビッグベイン病が発生しており、国内でも、ビッグベイン病により生産者が大きな被害を受けたという例があります。
病原体ウィルスの外被タンパク質の遺伝子を導入した植物体は、そのウィルスへの抵抗性を獲得する場合があることが分かっています。今回は、ビッグベイン病のウィルスの外被タンパク質の遺伝子をレタスに導入した遺伝子組み換えレタスを作成しました。遺伝子組み換えレタスの後代を温室内で栽培し、ビッグベイン抵抗性を試験したところ、5世代目で発症率4%となり(既存の抵抗性品種の発症率は96%)、強い抵抗性を持つことが明らかになりました。今後、社会受容の確保のため、レタス由来のプロモーター及びターミネーターを用いた組み換え体を作成し、実用化に向けた開発を進めていく予定です。
花き研究所の棚瀬幸司氏は、花もちのよいカーネーションの開発を行っています。カーネーションの花もちを向上させるには、エチレンの生成量が少ないこととエチレン感受性が低いという2つの要因が関与することが分かっています。花き研究所はこれまで、交雑育種により、従来品種の約3倍花もちのよい新品種のカーネーションを開発しています。
今回、新品種を遺伝子レベルで解析したところ、エチレン酸化酵素遺伝子の発現が抑制され、エチレン生成量が低下することで花もちがよくなっていることが分かりました。しかし、新品種に外からエチレン処理を施した場合、従来の品種と同様にしおれてしまいます。そこで、エチレンシグナル関連遺伝子を新品種に導入することで、エチレン生成量が少なく、かつエチレン感受性の低い遺伝子組み換えカーネーションを作成しました。組み換えカーネーションは、エチレン処理3日後でもしおれず、優れた花もち性を示しました。今後は、エチレン低感受性を獲得したことで、他の性質に変化は出ていないかなどの解析を進めていく予定です。
その他に、湿害耐性ダイズ開発のための基礎研究として、ダイズの出芽時における耐湿性機構の解明(作物研究所、小松節子氏)、コムギの高効率の遺伝子組み換え技術の開発(作物研究所、安部史高氏)、遺伝子組み換えカンキツ類の世代促進育種法の開発(果樹研究所、遠藤朋子氏)の各研究課題の途中経過が報告されました。
農業・食品産業技術総合研究機構ホームページ
http://www.naro.affrc.go.jp/