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日本植物細胞分子生物学会主催、バイテク情報普及会協賛「GM教育支援プログラム」八王子東高校で開催
- 日本植物細胞分子生物学会は、遺伝子組み換え作物に対する国民理解の促進を目的として、高校生を対象とした教育支援プログラムを推進しています。バイテク情報普及会では、このプログラムの協賛を行っており、今年度は既に十校程度の実施が決定しました。実施校の一つである東京都立八王子東高校で、9月28日、教育目的の遺伝子組み換え実験が行われましたので、その概要についてご紹介します。
- このプログラムは、遺伝子組み換えについて実際に基本的な方法がどのようなものかを学んでもらい、遺伝子組み換えに対する正しい知識を身につけてもらおうと、同学会が中学・高等学校を対象に公募の形で募集し、実施しているものです。応募にあたっては、大学教員との連携提案としての申し込みが必要となりますが、今回、八王子東高校では、先に東京農工大学で研修に参加した同校教諭の川幡理(かわはたおさむ)先生が応募して、実験が実現したものです。また今回の実験には、東京農工大学の丹生谷博教授、筑波大学の小野道之准教授が同席して、実験の指導にあたりました。
- 実験は、高校3年生の選択科目「生物II」のバイオテクノロジーの授業の中で取り扱うもので、今回は26名の生徒が実験に参加しました。彼らは、ちょうど6月中旬に生物IIの授業中にバイオテクノロジーについて学習しており、今回の実験では遺伝子組み換えの具体的な方法を理解して、昨年のノーベル化学賞受賞の対象にもなったGFPについても学ぶことを目的としています。実験には教材キット「pGLOバクテリア遺伝子組み換えキット」を用いて行い、大腸菌が持っていない遺伝子を取り込ませてその新しい遺伝情報を大腸菌内で発現すること(形質転換)を確認するものです。なお、実験にあたっては、「遺伝子組み換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(通称カルタヘナ法)」を遵守して実習を行うことについて所属長の同意が必要で、通常の実験とは異なるという点についても、事前に説明が行われました。(写真1)
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- 大腸菌は染色体遺伝子の他にプラスミドと呼ばれる比較的小さな環状のDNA分子を持っています。このキットのpGLOプラスミドには、GFPタンパク質遺伝子と、抗生物質アンピシリン耐性のための遺伝子が含まれています。また、取り込まれた細胞中でGFPの発現がアラビノース(糖の一種)の有無によりコントロールされるように作成されています。新しい遺伝子を取り込んだ後、培養される寒天培地の中にアラビノースが含まれていると細胞は蛍光を発しますが、アラビノースが含まれていない培地では発色しません。遺伝子の発現調節とセレクションのメカニズムを目でみることによって、形質転換を簡単に体験することができるようデザインされたプログラムです。実験前に、このメカニズムについても生徒は学習します。
- 今回の実験では人数分のキットが準備され、生徒たちにはそれぞれ、大腸菌スタータープレート1枚、寒天培地プレート4枚、形質転換溶液1本、LB培地1本、マイクロチューブ2本と必要な実験器具(ピペットやループ等)が配布されました(写真2)。まずブランクの色違いのマイクロチューブ2本に形質転換溶液を250μlずつ入れ、各チューブにスタータープレートの大腸菌のコロニーをすくいとって、各チューブに溶かし入れます(写真3)。次にpGLOプラスミド溶液を片方のチューブにだけ入れ、その後いったん冷やしてから、ヒートショックを行います。この時点で、pGLOプラスミドが入ったチューブでは、遺伝子が大腸菌に入り込みやすい状況になります。続いて先ほどの2本のチューブに、LB液体培地を250μlずつ入れて、室温で10分間放置した後、各チューブから100μリットルずつ2回取り出し、2枚の培地へ滴下、合計4枚の培地に滴下します。最後に各プレートに滴下された大腸菌サンプルを植え付け用ループで広げていきます。この日の実験は、これで終わり。4枚のプレートは37℃インキュベーターに次の日まで入れておきます(写真4)。生徒たちは、慣れない手つきながらも、マイクロチューブで溶液や培地を正確に計り取ったり、根付用ループでコロニーをすくったり、培地に滴下した大腸菌サンプルを広げたりと、高校の実験ではなかなか体験できない作業を興味深く行っていました。
- さて、この4枚の寒天培地の内訳は、LB培地1枚、LB培地にアンピシリンを加えたもの2枚、LB培地にアンピシリンとアラビノースを加えたもの1枚です。翌日までに、大腸菌サンプルがどのように反応するのでしょうか。川端先生は答えをすぐに出さず「どのプレートでどういう結果が出るか考えていきましょう」と生徒に宿題を出しました。生徒たちは、事前の授業でpGLOプラスミドには、GFPたんぱく質遺伝子と、抗生物質アンピシリン耐性遺伝子が含まれていること、pGLO遺伝子の発現調節についてアラビノースがどう関わるのか学習しており、4枚のうち、どの培地が蛍光のGFPたんぱく質遺伝子が発現するのかを予想します。
- 翌日、皆の予想通り、アラビノース存在下で、アンピシリンが含まれるLB培地においてGFP遺伝子が取り込まれて形質転換した様子を確認することができました。生徒たちは、真っ暗の中、UVランプを4つのプレートに当て、予想したプレートが蛍光色を発しているのを確認して、歓声を上げていました(写真5)。緑色たんぱく質を発現する遺伝子を発見したノーベル化学賞受賞の下村先生の話をあらかじめ学習していたので、そのGFPに触れることができたことも大きな喜びだったようです。今回は失敗した生徒は一人もおらず、それぞれ正確に実験が行われたことを物語っていました。
- 八王子東高校では、生物IIを選択する生徒の多くが、バイオテクノロジーに関連した専門分野への大学進学を希望しているといいます。今回の実験では、大学の先生の指導も仰ぎながら、充実した実習内容に「大学に行っても同じような実験をしたい」「実験という体験を通して、遺伝子組み換え技術について考える機会が得られた」「遺伝子組み換え農作物が特別なものという意識がなくなった」等たくさんの感想が聞かれました。
- 実験を終えて、川端先生から「4枚のプレートのうち、なぜ一枚が光るのか、その結果をみていろいろと考えさせることができます。またDNAからmRNAの転写を経てタンパク質を合成して光る性質を発現させるという、生物を理解するうえで大変重要な仕組み、セントラルドグマの格好の事例であることを、生徒は光るという喜びとともに記憶することができるでしょう。大学の先生に来ていただくことで、進学後の大学の実習の期待も高まります。生徒たちにこうした体験をさせて頂けるプログラムに感謝します」とのコメントを頂きました。
- 同学会では、来年度も引き続きGM教育支援プログラムを実施する予定です。応募にあたっては、大学教員との連携が応募条件となりますが、連携する教員が見つからない場合についても学会事務局にご相談頂きたいということです。また同プログラムにつきまして、バイテク情報普及会では、引き続き協賛を行ってまいります。詳細は、HP http://www.jspcmb.jp/info/090930_2a.pdfをご参照ください。