GMO Answers
質問
米国政府は遺伝子組み換え食品を、現在市場に流通している普通の食品と「実質的に同等」と分類し、それらを規制していないのに、なぜ遺伝子組み換え食品は特許化できるのでしょうか?特許は、発明や他に類を見ない独自のものに適用され、勝手に使われることのないように保護されるものではないのでしょうか? さらに、自然からもたらされる天然製品を、どうして特許化できるのですか?
回答
この問いへは、3つの質問に分けて、個別にお答えしたいと思います。
一つ目の質問: 米国政府は遺伝子組み換え食品を、現在市場に流通している普通の食品と「実質的に同等」と分類し、それらを規制していないのに、なぜ遺伝子組み換え食品は特許化できるのでしょうか?
米国食品医薬品局(FDA)は、GE食品が普通の食品と比べて、実質的に同等であるか否かを審査します。評価は、提出されたデータ、すなわち、普通の食品と同様に安全で栄養があることが示されたデータに基づいて行われます。言い換えれば、FDAは、食品の安全性と栄養性を保証するための仕事をしているのです。FDAによる分類が「実質的に同等」という意味は、GE食品は安全で栄養があるということです。
FDAによる安全性や栄養性についての評価は、特許を管轄する米国特許商標庁(USPTO)が行う仕事とはまったく異なります。USPTOでは、特許の審査官たちが、申請された案件が特許として認められるための法的要件を満たしているか否かを審査します。法的要件とは、特許申請された製品が新規(独自)なものであるか、有用性(実用性)があるか、自明でない(発明のステップが含まれる)か、適切に説明されているか(同分野の熟練者がその特許を理解することができるように記述されているか)など、特許として認められるための要件を示したものです。
一つ目の質問への回答の鍵は、FDAとUSPTOは、それぞれの明確な法的権限や責務のもとに、異なる質問に質疑・応答していることを理解することです。
分かりやすい類例を示しましょう。自動車のマフラー(触媒コンバータ)の製造業者が、環境関連の当局に、自社のマフラーが環境浄化法の基準を満たし、排気ガスに含まれる汚染物質を除去しているとして、承認を求めたとします。申請を受け、環境関連の当局は、提出されたデータを評価します。このマフラーが環境浄化法の要件を満たすものとして分類されれば、これらの当局は、このマフラーを、すでに承認されたマフラーと比べ、事実上「実質的に同等」であると公表します。これによって、新たなマフラーの製造業者は、そのマフラーの販売承認を得ることになります。
しかしながら、環境関連当局は、新たなマフラーを、既に承認された既存のマフラーと「実質的に同等」として認めたものの、その製造業者が新たなマフラーに関する特許を取得できるか否かについては、一言も言及することはありません。製造業者は、別途、特許の申請をしなくてはなりませんし、USPTOは申請を受ければ、このマフラーが4つの法定要件を満たすものかどうか判断することになります。なお、USPTOが特許を認めたとしても、新たなマフラーが環境浄化法に既定された汚染基準を満たすかどうかについては、何ら言及をすることはありません。異なる質問であり、異なる法定要件が適用されるのです。
あなたの質問には、FDAがGE食品を規制していないと書かれています。FDAは、全ての新食品を、既に市場にある食品と比べ安全性や栄養性を評価しますが、それは自主的な協議制度のもとに行われています。 FDAは、他の新食品と同様に、GE食品も扱っています。バイオテクノロジー企業は、すべてのGE食品についてFDAとの協議を行ってきました。提出されたデータを審査した結果、FDAは、市場にある全てのGE食品は安全で栄養があると判断してきました。すなわち、普通の食品に比べ「実質的に同等」と判断したのです。このように、FDAは、自主的な協議制度を通じて、GE食品を実際には規制してきたのです。FDAは、市場に流通しているGE食品が安全で栄養があると判断しています。
二つ目の質問: 特許は、発明や他に類を見ない独自のものに適用され、勝手に使われることのないように保護されるものではないのでしょうか?
特許は、他に類のない独自の発明、すなわち米国の特許法にある4つの要件を満たした発明に与えられるもので、あなたが考えられている通りです。バイオテクノロジー企業は、他の特許申請者と同様に、特許の申請を行う必要がありますし、USPTOによって申請案件が法定要件を満たすと判断された場合にのみ、特許として認められることになります。
USPTOが特許として認めれば、特許の保有者は、他者が許可なくその特許を使用することを防止することができます。バイオテクノロジー企業は、他の特許保有者と同様、GE作物を創り出すために、多くの時間や資金、労力を投じてきました。特許は、その保有者に、発明にかかった費用を回収し利益を得ることができるよう、一定期間の「寡占」を認めています。特許法や特許は、このようにして発明に対するインセンティブを与えているのです。他の発明者と同じように、バイオテクノロジー企業も、特許化された製品を保護する権利を得ることができます。
米国最高裁判所は、3つの判例を示していますが、この中で、「二つ目の質問」について私が記した点(2番目の段落の内容)を、特に強調しています。この3つの判例は、Diamond 対 Chakrabarty (1980)、JEM Ag Supply対 Pioneer Hi-Bred International (2001)、Bowman 対Monsanto (2013)の係争に関して示されたものです。
三つ目の質問: さらに、自然からもたらされる天然製品を(誰かが)どうして特許化できるのですか?
米国の特許法並びに最高裁判所の判断によれば、誰であれ「天然物」を特許化することは出来ません。では、「天然物」は、米国法で特許が認められる4つの要件に照らすと、どのようなものでしょうか。例えば、「機械、製造品、合成物」、あるいは特許化できるプロセス(方法)などは、とりわけ農業や医薬分野では、極めて複雑で、定義が難しいと言えます。最高裁判所による2つの判例は、「天然物」を理解する上で、特に役に立ちます。それらは、Funk Brothers Seed Co. 対 Kalo Inoculant Co. (1948)、Association for Molecular Pathology 対 Myriad Genetics, Inc. (2013)の係争について示された判例です。
バイオテクノロジーの特許に関しては、事実論議や訴訟において、これまでに、「天然物」をめぐり、激しい論争は行われていません。なぜなら、バイオテクノロジーの特許が対象とする製品は、自然界には存在しないものであり、そしてその製品は法的要件に照らし「新規(独自)」なものであるためです。バイオテクノロジーの特許への反対論は、「生体」(例えば、バクテリアや植物、(ヒトを除く)動物)は、特許の対象にはなり得ないという点に集約されます。しかしながら、米国最高裁判所並びに世界の特許裁判所及び機関は、繰り返し、「生体」も特許の対象となる、との判断を示しているのです。
回答者 ドルー・カーシェン回答者
ドルー・カーシェン
Drew Kershen
オクラホマ大学法学部、アール・スニード・センテニアル法学教授(名誉教授)