GMO Answers
質問
GMOを侵略的外来種の撃退に利用することはできますか?
回答
これは良い質問であると同時に(様々な要素を含む)複雑な質問ですね!まずは、同じ認識を持って話を進めていきたいので、侵略的外来種とは何かを定義しておきましょう。ある科学委員会では、侵略的外来種を、「当該生態系に外部から導入された種で、経済的損失や環境破壊を引き起こしたり、人の健康に害を及ぼしたりする、もしくはそうなる恐れがあるもの」と定義されています。侵略的外来種には、節足動物、雑草、ウイルス、あるいはその他の生物が含まれます。あなたの質問は、GMOを利用して、侵略的外来種である病害虫を撃退するこが出来るかという点に焦点を当てたものと思いますので、昆虫とウイルスを例に挙げて説明したいと思います。
米国で食用作物や繊維作物の栽培に被害を与えている多くの病害虫は、実のところ侵略的外来種です。例えば、ヨーロッパアワノメイガ(ECB)は、米国の原産ではなく、1900年代前半にヨーロッパから米国にもたらされた外来種で、米国のトウモロコシ栽培に毎年10億ドル以上の被害を与えているだけでなく、リンゴや、豆類、穀物類、イモ類などにも被害を及ぼしています。ヨーロッパアワノメイガは、トウモロコシの茎に穴をあけて入り込み、トウモロコシを倒伏させたり、あるいは穂を食害し、収量を低下させたり、穂(実)を腐らせたりします。1996年に、自然界に広く分布している土壌細菌Bt(Bacillus thuringiensis)由来のタンパク質を産生する遺伝子組み換えトウモロコシ(Btトウモロコシ)が、初めて商品化されました。Btトウモロコシが産生するタンパク質は、ヨーロッパアワノメイガからの加害を防ぐ働きをしますが、これは有機栽培農家が作物に散布するBt剤と実質的に同じものです。作物への供給の仕方(外からか内からか)が異なるだけで、同じタンパク質なのです。何十年にもわたる研究により、これらのたんぱく質は人の健康や環境に安全であるということが証明されています。
2015年に米国で栽培されたトウモロコシのうち、80%以上がBtトウモロコシでしたが、この侵略的外来種であるヨーロッパアワノメイガの防除には、極めて優れた効果を示しています。実際、米国コーンベルト地帯で行われた各種の調査では、「Btトウモロコシの栽培によりヨーロッパアワノメイガの発生が大幅に低下し、現在では、ヨーロッパアワノメイガは米国中西部の多くの地域で主要害虫とはなっていない」、と報告されています。同様な状況は、米国のワタ栽培面積のおよそ90%を占めるBtワタでも認められており、アジアからの侵略的外来種であるワタアカミムシガ(pink bollworm)は、ほとんどいなくなりました。
侵略的外来種と戦うGM作物の例には、パパイヤも挙げられます。ハワイでは、1990年代にパパイヤ・リングスポット・ウイルス(PRSV)が猛威をふるい、パパイヤの生産が壊滅的な打撃を受けました。このウイルスは侵略的外来種で、感染した植物を餌にするアブラムシが媒介することで、あっという間に伝染が拡がります。PRSVに感染したアブラムシが健康なパパイヤを加害すると、そのパパイヤも感染します。感染したパパイヤの実には商品価値がなく、木は枯れてしまいます。殺虫剤を散布しても、アブラムシには効果が不十分で、持続可能な防除方法とは言えません。
科学者たちは、PRSVの遺伝子の一部をパパイヤに導入することで、PRSVに抵抗性を持つパパイヤの開発に成功しました。これは、私たち人間が予防接種を受けるのと同様の原理です。このPRSV抵抗性パパイヤは、1998年にハワイに導入され、現在ではハワイ産パパイヤの80%以上がGM品種となっています。
以上、ほんの数例ですが、侵略的外来種に対する安全で持続可能な防除策として、GM植物がどのように利用されてきたかを紹介しました。しかしながら、侵略的外来種の数は、世界貿易の活発化に伴い、指数関数的に増加しているため、更なる対策を講じる必要が急務となっています。
回答者 トニー・シェルトン回答者
トニー・シェルトン
Tony Shelton
教授