GMO Answers
質問
ゲノムは極めて複雑であること、それらの発現にはバラツキがあること、そして、野生種や栽培種の双方が混在する環境ではゲノム間で微妙な相互作用が起こりえること、これらを考えると、長い年月の間に種を超えた遺伝子の組換えが起こり、望ましくない結果がもたらさせる可能性は否定できません。私たちは、それら望ましくない結果の全てを予知するのは不可能であることを認めるべきだと思います。モンサント社は、このことを認めないのでしょうか?
回答
あなたのおっしゃる通りです。将来を予知することは不可能ですし、多くの人にとって「遺伝子を導入する」という概念は不安を覚えさせるものでしょう。しかし、ゲノムは自然界でも様々なプロセスを通して変化しているのです。ほんの一例ですが、太陽光によって誘発される突然変異、ジャンピング遺伝子(動き回る遺伝子)、染色体の切断や修復、様々な環境シグナル、そして遺伝子の水平伝播など、これらを通じてゲノムは自然に変化しています。科学者たちは、これらのことを、もっとうまく説明する必要があります。事実、昆虫や植物、動物などの生物は、その殆どが微生物やウイルスから遺伝子を「獲得」しているのです。これは多少不気味に聞こえるかもしれませんが、このゲノムの可塑性(外界の刺激などを通じ常に機能的・構造的な変化が起こること)こそが、多くの科学者たちが、医療や食料品、そして農業に、安心して遺伝子工学のツールを応用している理由なのです 。
ゲノムに関する極めて詳細な研究が可能となったことで、異なる生物種間での遺伝子移動が何千年も続いていたことが明らかになりました。バナナやコメ、トマトのゲノムには、これらの植物にとって有害であるウイルスの遺伝子配列がそっくり含まれています。いくつかの甲虫は、コーヒーの実の消化を助けるために、微生物から遺伝子を取り入れてきました。そう、そして、ヒトもまた、血液型や脂質代謝、免疫反応、アミノ酸代謝、タンパク質修飾など、様々な機能に関わる遺伝子を、微生物から取り込んで来たのです。更に詳しい説明については、こちらの記事、「ヒトのゲノムには、先祖からではなく 『異生物種』から獲得した遺伝子も含まれる」(http://www.cam.ac.uk/research/news/human-genome-includes-foreign-genes-not-from-our-ancestors)をご参照ください。
さて、あなたからの質問に話を戻しましょう。私たちは、天然に起こる、あるいは農業で活用される「遺伝子水平伝播(生物間でのDNA交換)」が、将来的にどのような負の結果をもたらすかについて、予知することは出来ません。しかし、私たちは、そのような遺伝子伝播が過去に何回も繰り返されてきた事を知っていますし、遺伝子伝播が有益であることも知っています。GM作物は、商業利用に先立ち、広範な特性評価や安全性試験、そして規制審査を受けるのです。遺伝子導入がゲノムの安定性を変化させる可能性、そして、ゲノムの不安定性が食品や飼料の安全性に及ぼす潜在的リスクについて、更に詳しく知りたい方は、こちら(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3510115/)をご参照ください。
米国環境保護局(EPA)のGM作物に対する承認基準は、「人の健康や環境に不当な有害影響がないこと」、を求めています。EPAによる審査の根幹をなすものは、「GM作物の環境への影響」です。これには、微生物や無脊椎動物、高等生物への潜在的な影響も含まれます。実際には、承認済みのGM作物が商業利用され始めてからも、公共部門の研究者たちは、利用の拡大とともに意図しない影響がでる可能性の調査研究や、人や動物、環境にどのような純益がもたらされたかの評価を、引き続き行います。147件の研究を対象にしたメタ分析レポートは、GM作物の栽培が世界中に広がったことにより、化学農薬の使用量が37%減少し、作物の収量は22%増加、農家の収益は68%増加したと報告しています。結局のところ、新たな技術を取り入れるか否かを判断するには、それがいかなる技術であれ、潜在的リスクと潜在的利益を天秤にかけなくてはならないのです。GMOの場合を見てみると、多くの分野 ―医薬品、食品加工、農業― において、その有益性は明らかです。そして、GMOが人や環境に対し「不当な悪影響を及ぼした」という証拠は一つも見つかっていないのです。
規制の壁が緩和され、マーケティング上の不安(市場で確実に販売できるか否かという不安)が取り除かれさえすれば、現代的植物バイオテクノロジーは、様々な形で食糧の供給に貢献することでしょう。
回答者 エリック・ザックス博士回答者
エリック・ザックス博士
Eric Sachs, Ph.D.
モンサント社、環境・社会・経済プラットフォーム・リーダー