GMO Answers
質問
モンサント社がGMO反対派の注目を集めるようになった歴史的背景は何ですか?反GMO感情は、「モンサント社はまさにヒットラーだ」というような陰謀説が流布される以前から存在したのでしょうか、あるいは、時を同じくして出てきたものでしょうか?
回答
いい質問ですね。 なぜモンサント社が反対派のターゲットとなっているのかは、私もよく質問されます。大衆をある目標の下に結集させるには、誰かを悪者に仕立て上げるのが効果的です。いい話には、悪者や犠牲者、そしてヒーローの存在が欠かせません。最高の悪者にはある種の「顔」が必要です; 例えば、サインフェルドは、多くの人が道化師に恐怖感を抱くように仕向けましたが、それは米国のホラー物語では「Twisty」というキャラクターで擬人化されました。モンサント社は、他のあまり鮮明でない実体(すなわち、バイテク産業全体)に代わり、擬人化された悪者として扱われています。つまり、幾つかの画期的な技術業績に先鞭をつけた企業を採りあげ、過去の出来事(枯葉剤、DDT殺虫剤)や理解しにくい初期のビジネス手法(例えば農家との契約)で色づけすれば、悪者が出来上がるのです。また、ラウンドアップ・レディー種子を販売しているものの、ラウンドアップは販売していない企業が幾つもあり、モンサント社以外の多くの企業がグリホサートを販売しているにも関わらず、モンサント社が当初、ラウンドアップ(除草剤)を販売していたため、反対派は、(モンサント社が)ラウンドアップをもっと売るためにGMを開発したのだという批判をしています。
私がモンサント社に入社する以前のことですが、1986年にジャーミー・リフキン氏が、遺伝子組み換え牛成長ホルモン(rbST)は絶対に承認されないだろう、と発言したのを直接聞いたことがあります。このホルモンは牛が産生するタンパク質で、高生産性の牛の血液中に多くみられるものです。 牛にrbSTを補給すると、牛乳の生産量が増え、酪農場の効率が上がります。当時、私は、 bSTの生理学的研究はかなり進んでいると思っていたものの、潜在的な商品としてのbST投与については、あまり知られていなかったため、リフキンの発言を奇異に感じたことを覚えています。私が思うに、反バイテク運動を開始したのはリフキンです。その当時の研究の多くは、牛乳の収量にのみ焦点が当てられており、健康について結論付けるには、あまりにも研究の蓄積が不十分でした。彼の当時の主要な関心は、小規模農家の経済に向けられていましたが、この製品の大きな利点、すなわち設備投資がわずかで済むことについては、指摘することが出来ませんでした。
この点について説明しましょう: 多くの農場用技術は高額であり、設備投資も多額を要します: 例えば、新品のトラクターの購入(100万ドル近く)、牛の追加購入(一頭当たり2,500ドル)、より大きく質の良い牛舎の建設などです。これらにはお金がかかり、小規模農家にはこのような資金の手当ては困難です; しかしながら、rbSTとその投与コストは、農家に牛が10頭いようと1000頭いようと変わりはありません。
しかし、リフキンは、安全性について主張すれば注目が集まることを知っていました。1980年代には、規制承認を得るため、少なくとも4社がbSTの試験研究を実施していましたが、モンサント社は、他社に先んじて、広範な試験研究を発表し、その多くが1990年の会議で公表され、FDAの承認を得てこの商品を商業化した唯一の企業となりました。よって、バイオテクノロジーを農業分野に早くから導入したモンサント社が、(GMO反対派の)標的となったのは、必然的であったと言えます。
同じようなことがGM作物でも起こりました。1994年に、Flavr Savrトマトが、バイオテクノロジーを利用して開発された最初の自然食品として登場しましたが、リフキンはbSTで言ったように、このトマトの詳細がまだ知られていない段階で、Flavr Savrトマトは即座に死を迎えるだろうと宣言しました。条はん作物では、モンサント社(ロブ・フレーリーの率いるチーム)が、植物の外来遺伝子の発現を最初に発表した企業でした。同様な研究は、ヴァン・モンタギューら(ヘント大学)並びにチルトンら(シンジェンタ)が率いる二つの研究室からも発表され、後に、これら三名の科学者は、2013年の世界食料賞を受賞するに至りました。そして1996年には、モンサント社の科学者たちは、他者に先駆け最初に、規制承認の要件にもされていませんでしたが、異なる種類の動物を対象に行われたラウンドアップレディーダイズの給餌試験の結果を発表しました。 しかしこれはThe World According to Monsantoと言う映画(日本名:「モンサントの不自然な食べ物」)では、不適切に描写されています。
悪者を擬人化することの価値を上手く説明するには、GMOアンサーズに寄せられる質問をご覧いただくのが最適かと思います。このサイトの立ち上げ当初に、最も頻繁に寄せられた質問は、モンサント社の従業員が自社のカフェテリアでGM由来の食品を食べていないことに関するものでした。このような質問に幾度も回答しているにも関わらず、最近また同じ質問が寄せられています。これはモンサント社の従業員(悪者たち)は危険性を知っていながら知らぬふりをしている、という暗示を与える狡猾なやり方です。しかし、これは全く根拠のない主張で、ソーシャルメディアや、そのようなメッセージを信じる人々によって、引き起こされているのです。私は、このような非現実的な陰謀説を人々が信じていることに、改めて驚きを覚えています。
私は都会で育ち、アルビン・トフラーの「未来の衝撃」を読んだ後、否定しがたい問題があることを知り、農業に携わりたいと思い始めました。すなわち、人口は急激に増加し続けており、多くの人がバランスのとれた食事を手にすることができないという問題に取り組み、農耕地を増やすことなく、野生生物が保全される姿を、私自身が目にしたいと思ったのです。私は、日々この問題を心配しつつ解決策を見出すために、他社の科学者たちや各種の規制機関、多くの大学と協働して取り組んでいる2万人の従業員と仕事をしています。
最後に一点だけ: この悪者モンサント社は、常に、大変働きやすい職場として選ばれています。他の人たちが私達について語る話と、従業員として私が経験していることの間にかい離があることは、大変興味深く、また意味あることだと私は感じています。
回答者 ジョン・ビシー二博士回答者
ジョン・ビシー二博士
John Vicini
モンサント社、食品安全科学部門リード