GMO Answers
質問
政府のGMOに対する監視は、とても緩いと聞いています。 GMO作物の承認を得るのは簡単なのでしょうか?
回答
ご質問に、GMOが政府の審査を受けていることをご存知であると書かれているのを見て、嬉しく思っています。 なぜなら、これらの作物には規制の網がかけられていない、と信じている人が少なからずいるからです。
GMOに対する政府の監視は緩い、あるいは、そのような監視は存在しない、というような噂が、どのようにして広まったのかは分りませんが、どれも事実とは全く異なります。 GM作物は、他のどのような作物の新品種よりも、多くの検査を受けなければならず、その結果、過去数世紀にわたり、植物育種家たちが開発してきた(そして私たちが口にしてきた)いかなる作物よりも、私たちは、GM作物について、ずっと多くのことを知っています。
米国では、GM作物は、最低でも二つ、時には三つの連邦機関による規制審査を受けなければなりません。すなわち、米国食品医薬品局(FDA)、米国農務省(USDA)、そして米国環境保護庁(EPA)による審査です。 FDAは、食料や飼料に使用される全てのGM作物について、安全性を審査します。一方、USDAは、これらの作物が環境や農業に与える潜在的な影響について審査します。 GMOが、その作物を好んで(私たちよりも先に)食べる病害虫(例えば、昆虫や植物病原菌)に対し、抵抗性をもつように組換えされている場合には、EPAは、病害虫抵抗性形質をもつ植物から産出される新規物質について、その環境安全性や食品安全性を評価します。病害虫抵抗性組換え作物として、最も知られているものは、Bt作物でしょう。 これらの作物は、バクテリアであるバチルス・チューリンゲンシス (Bacillus thuringiensis) からの遺伝子を含んでいますが、これは、有機栽培農家や多くの家庭菜園愛好者が、ある種の害虫を防除するために使用している微生物剤(農薬)の有効成分なのです。
連邦機関によるGM作物データの審査は、製品開発プロセスの極めて早い段階、すなわち最初の圃場試験の実施に先立って行われます。開発者は、作物を温室から試験圃場に移す前に、USDAから承認を得なければなりません。承認が得られれば、圃場試験が行われる州の農務部に、試験圃場の予定場所を通知します。期を同じくして、FDAあるいはEPA(GM作物の形質による)は、新たな遺伝子によってコード化されたタンパク質の安全性や潜在的なアレルギー誘発性について、試験データの評価を行います。早い段階でタンパク質の安全性を調べるのは、圃場試験の実施過程において、GM物質(花粉や穀粒)が、非意図的に食料供給ルートに紛れ込んでしまう可能性もあり、そのような事態に備えるためなのです。「早期食品安全性評価」に際し、開発者が提供すべき情報については、FDAの指針をご覧ください。http://www.fda.gov/Food/GuidanceRegulation/GuidanceDocumentsRegulatoryInformation/Biotechnology/ucm096156.htm#intro
新たなタンパク質の安全性に関するFDAの審査見解は、FDAの「新たなタンパク質協議一覧」をご参照ください。http://www.fda.gov/Food/FoodScienceResearch/Biotechnology/Submissions/ucm222595.htm
一方EPAは、害虫抵抗性遺伝子によってコード化されたタンパク質について、同様な試験結果の提出を要求しています。 例えば、生物農薬登録アクション文書(http://www.epa.gov/oppbppd1/biopesticides/pips/bt_brad2/1-overview.pdf)の5-7ページを参照ください。そこには、EPAがBtタンパクを「免除」したとの記載がありますが、これは、そのタンパク質が、一連の試験を通過し、ネズミが大量に摂取しても有害な影響が生じないことを意味しています。ですから、EPAは、食物や飼料中のBtタンパクの残留について、化学農薬のように「許容レベル」を設定する必要がないのです。Btタンパクは、許容範囲の設定が免除されているとは言え、安全性の評価が免除されている訳ではありません。 タンパク質の安全性評価に対する科学的な見解は、こちらの報告(http://www.epa.gov/scipoly/sap/meetings/2000/june/finbtmamtox.pdf)をご参照ください。
圃場試験の段階は数年にわたります。作物の開発者は、毎年、圃場試験の実施許可をUSDAから受ける必要があります。また、1)作物に害虫抵抗性形質が含まれる場合、そして、2)圃場試験の面積が10エーカー以上である場合には、EPAからの承認も必要となります。
圃場試験には、いくつかの重要な目的があります。 まず、新たな遺伝子が意図した通りに機能するかどうか、そして、さまざまな栽培条件の下で、遺伝子組み換え作物が、対照の非遺伝子組み換え作物と同じように生育するかどうか、これらを開発者は把握することができます。 また、圃場試験を通して、開発者は、最終的な規制承認に必要な情報を収集することができます。彼らは、作物が環境に及ぼす潜在的な影響を調べ、幾つもの試験圃場から作物材料を集めて分析し、遺伝子組み換え作物が、栄養や食品としての安全性において、対照の非遺伝子組み換え作物と同等であることを確認するのです。
おそらく皆さんは、遺伝子組み換え作物について、政府機関がどのような情報を審査し、食品や飼料、環境への安全性を評価しているのか、興味をお持ちだと思います。
潜在的な環境への影響については、政府機関は、想定される様々な「非標的生物」(例えば、魚類、鳥類、ミツバチ類、てんとう虫類、寄生蜂類、クサカゲロウ類、トビムシ類、水生昆虫類、みみず類)、 土壌微生物類、土壌品質、生物の多様性、絶滅危惧種などに対し、潜在的な悪影響があるかどうかを評価します。 また、近縁野生種への遺伝子流動の可能性についても検討し、遺伝子流動が起こる可能性がある場合には、その潜在的な環境影響についても評価します。 さらに、環境中での作物の分解速度を調べて、潜在的な暴露レベルを決定し、作物が雑草化する可能性を評価します。 また、GM作物が農薬の使用に、どのような影響を及ぼすか、についても調べます。
特定の環境要因については、政府機関の審査項目は、作物の性質によって多少異なります。 USDA 並びにEPAが審査する環境情報の種類は、それぞれ機関のウェブサイトに掲載されている資料で確認することができます。EPAのGM作物規制の概要は、このサイト(http://www.epa.gov/opp00001/biopesticides/pips/)でご覧ください。
EPAが承認した特定の遺伝子組み換え製品についての情報は、このサイト(http://www.epa.gov/opp00001/biopesticides/pips/pip_list.htm)でご覧ください。 承認済みの製品に関する試験結果及びEPAの評価は、それぞれの製品の箇所をクリックすると見られます。
USDAが承認した全ての製品の環境評価は、USDAのサイトに付されたリンクで見られます。開発者が提出したデータも掲載されています(「Petitions」と書かれた欄にあります)。
最後に、導入遺伝子によって産生されたタンパク質の安全性を早期に確認するだけでなく、FDAは、作物全体の安全性や栄養価についても評価しています。彼らは、 栄養価に係る全ての生化学的因子を確認しています。例えば、繊維含量、タンパク質や炭水化物、脂質の総量、そして、各アミノ酸や脂肪酸、ビタミン、ミネラルなどの量です。また、安全性に懸念のある食品中の成分についても測定しています。 例えば、幾つかの作物には、天然の化学物質(栄養阻害物質)が含まれており、これらが多量である場合には、私たちの健康に有害な影響を及ぼします。 このような例としては、バレイショに含まれるソラニンがあり、ダイズには栄養吸収の阻害物質が含まれています。 作物の開発者は、遺伝子組み換えによって、天然毒素や栄養阻害物質の量が、偶発的に増えていないことを、示さなければなりません。アレルギー誘発性についても同様です。 さらに、新たなタンパク質の潜在的アレルギー誘発性の確認に加え、開発者は、遺伝子組み換えによって、一部の人々にアレルギーを引き起こすことが知られている、食品中の既知あるいは疑似アレルゲンが、偶然に増加していないことを、実証しなければなりません。FDAの審査プロセスについては、 次のサイトで確認ください。
http://www.fda.gov/Food/FoodScienceResearch/Biotechnology/Submissions/default.htm
ちなみに、FDAによるGM作物の審査の全容は、次のサイトで見られます。
http://www.accessdata.fda.gov/scripts/fdcc/?set=Biocon
このようなデータの集積は、大規模で、費用のかかる、徹底したプロセスの賜物なのです。推定では、初期の実験段階から、新たなGM作物製品を市場に送り出すまでに、13年以上の年月がかり、その内、最低6年間は、安全性データの集積や規制審査に費やされています。 更に、輸出され、国際的に利用されるGM農産物については、先に述べた米国での審査と同様なプロセスが、輸入国において、何度も繰り返して行われています。 最新のGM作物製品が、農家の手にわたるまでには、その製品は、世界中の多くの規制当局で審査され、何百もの独立した専門家から指摘を受けることになるのです。
以上の説明の通り、GM作物の承認を得て市場に出すのは、決して「簡単」ではありません。
回答者 エイドリアン・マッシー博士回答者
エイドリアン・マッシー博士
Adrianne Massey,Ph.D.
バイオテクノロジー工業会(BIO)、科学規制部門、専務理事