GMO Answers

質問

質問者 draechap2089 (アーカンソー州、ウェスト・メンフィス)

最近目にした記事に、新種の遺伝子組み換え小麦は、小麦の遺伝子の発現を抑え、ヒトの遺伝子と適合することが出来る、と書いてありました。これはちょっと心配です。と言うのも、私は、家族のために全粒小麦粉のパンやその他の小麦製品を買っているからです。この記事へのリンクを付けましたので、真相を教えて頂ければ助かります。

回答

手短に言えば、幸いにも、最近の研究により、この気がかりな主張は虚偽であることが証明されています。

これら最新の知見が得られる以前から、食品に含まれるRNAが食事を通してヒトの体内に入ったとしても、ヒトの遺伝子に到達して、遺伝子の発現を抑制するような可能性は極めて低い、という科学的な証拠は多々ありました。 (オーストラリア・ニュージーランド食品基準機関:FSANZによる要約は、以下を参照ください。)http://www.foodstandards.gov.au/consumer/gmfood/Pages/Response-to-Heinemann-et-al-on-the-regulation-of-GM-crops-and-foods-developed-using-gene-silencing.aspx

お答え;全粒食品や食物繊維は健康によいのです。

ご質問に付されたWEBサイト【The Natural Health News & Holistic Healing】の記事は、ヒトの栄養について大変重要でタイムリーな話題を提供しています。 記事は、オーストラリア政府の作物科学機関(CSIRO)の科学者たちが開発した遺伝子組み換え小麦品種について、とても良い質問を投げかけています。

科学者たちは、正確な現代的遺伝子組み換え手法を用いて、小麦の繊維含有量を増やしました。食物繊維は健康を保つには欠かせないもので、食物繊維を十分に摂取することは大腸がんの予防につながる可能性があります。

(詳しくは、Chapter 12, Diet and Cancer, in David L. Katz 2008. Nutrition in Clinical Practice 2nd Editionをご覧ください:

http://www.amazon.com/Nutrition-Clinical-Practice-David-Katz-ebook/dp/B005WL9SVE/ref=sr_1_3?s=digital-text&ie=UTF8&qid=1384733846&sr=1-3

残念ながら、現代の食生活では、あまり多くの繊維質を摂ることができません。

CSIROの新たな小麦は、「目に見えない繊維」と呼ばれる一般的な食物繊維を多く含むように育種されています。 「目に見えない繊維」はまた、「抵抗性でんぷん」としても知られている、ゆっくり消化される自然な食用でんぷんで、様々な植物性食品に含まれています。この栄養素は、ゆっくり消化されるという特徴があるため、消化管の前段を通過する際に、完全に消化されることはありません。

つまり、未消化の抵抗性でんぷんの一部は、大腸までたどり着くことができるのです。 大腸内で、このでんぷんは、腸の下部を覆う内膜組織に栄養エネルギーを供給するという、大切な役割を果たします。「目に見えない繊維」は、ヒトの大腸内膜の生体細胞に必要なエネルギーを提供するという役割があるゆえに、健康の保持にとって不可欠な栄養素となっているのです。

食習慣や食物繊維、腸内微生物、消化管の健康の間に、どのような相互関係があり、絡み合っているのかについては、次々に話しが展開しており、科学的、医学的関心の高さが窺われます。また、私たちが学ぶべきことがまだまだ多いことは明らかです。しかし、食物繊維から簡単に得られるエネルギーが、消化管の健康には不可欠であること、また、食物繊維が大腸がんの予防に役立つ可能性があることは、すでに認識されています。 現代の食習慣では、消化管の健康に最適な量の食物繊維を摂ることが難しい点は、繰り返し述べるに値します(詳しくは、http://jn.nutrition.org/content/142/5/832.long  Michael Conlon and colleagues 2012を参照ください)。また、大腸がんの発生は、総じて食物繊維の少ない食事を摂る人々に多いのです。

より健康的な食生活をめぐり、様々な話題が飛び交っていますが、小麦や大麦のような全粒シリアルがその中心となっています。CSIRO BARLEYmax™ のレポートを参照ください:http://www.csiro.au/Outcomes/Food-and-Agriculture/BARLEYmax_FFF_Report.aspx

「目に見えない繊維」を多く含む突然変異小麦

CSIRO植物栄養研究所では、食用穀物の中の「目に見えない繊維」を増やす方法を積極的に研究しています。彼らは、でんぷんの形成に関わる小麦の遺伝子が突然変異を起こすことで、「目に見えない繊維」を多く含む小麦が作りだされることを突き止めました。

作物育種家は、突然変異を誘発するために、確実性の低い(放射線を利用した)旧来の手法を用いるか、あるいは、より正確ではるかに簡便な現代的手法を用いるか、どちらかの手法を選ぶことができます。より正確な現代的手法は、世間の厳しい目にさらされ批判をあびますが、意図しない余計な遺伝子の変化を引き起こすことは殆どありません。他方、放射線を使った不正確な旧来手法は、よりリスクが高いにも関わらず、世間の厳しい目や法的規制にさらされることはありません。

CSIROの採用した、現代的で高度に的が絞られた手法は、遺伝子組み換え技術によるもので、でんぷん含有量に影響を与える小麦の遺伝子の発現を、確実に抑制できるようにデザインすることが可能です。この手法は、植物の遺伝子伝達分子であるRNAを利用して、確実に標的遺伝子の発現を抑制します(詳細はhttp://en.citizendium.org/wiki/RNA_interferenceをご覧ください)。RNA分子は人々が毎日摂る食事には必ず含まれ、食物に含まれるRNA分子の量は比較的多いと言えます。

【The Natural Health News & Holistic Healing】の記事には、CSIRO小麦について次のように書かれています。

「ジャック・ヘイマン(Jack Heinemann)は、この小麦内で発達した分子は、小麦の遺伝子の発現を抑え、ヒトの遺伝子に適合することが出来るため、ヒトが摂取すれば、これらの分子は体内に進入し、私たちの遺伝子の発現を抑制できる可能性が高いことを発見した。この発見は確かなもので、このような組み合わせが存在することは明らかだ、と彼は説明しています。」 幸い、最近の研究により、この気がかりな主張は虚偽であることが証明されました。

これら最新の知見が得られる以前から、食品に含まれるRNAが食事を通してヒトの体内に入ったとしても、ヒトの遺伝子に到達して、遺伝子の発現を抑制するような可能性は極めて低い、という科学的な証拠は多々ありました。 (オーストラリア・ニュージーランド食品基準機関:FSANZによる要約は、以下を参照ください。http://www.foodstandards.gov.au/consumer/gmfood/Pages/Response-to-Heinemann-et-al-on-the-regulation-of-GM-crops-and-foods-developed-using-gene-silencing.aspx

簡単に言えば、小麦のRNA分子は腸内で速やかに消化され、害のない単純な栄養分となります。RNA分子は大きいため、体内には簡単に進入できませんし、いずれにしても、分解されるか、あるいは速やかに血流から取り除かれるのです。これらの分子がヒトの体の機能になんらかの影響を与えるには、特殊なメカニズムが必要なのです。 毎日の食事にはRNA分子が当たり前のように含まれていますし、食事に含まれるRNAが無害であるという心強い特性は、科学者には十分認知されており、広く実証されているのです。

CSIRO小麦には潜在的な健康リスクがあるというヘインマン(Heinemann)の不確かな主張は、殆ど全面的に、2012年に中国の研究者であるチェン・ユー・ツァン(Chen-Yu Zhang)らが、セルリサーチ誌に掲載し、物議をかもした論文に依っています。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21931358

この論文は、コメ由来の植物RNA分子は、腸から動物の体内に進入し、動物の代謝に直接影響を与える可能性があると主張しています。 先ほど述べた通り、RNAの特性については、このような主張とは反対の証拠が多数存在し、中国の研究者の論文が発表された際には、多くの科学者が強い疑いを持ちました。

しかし、ここ6か月ほどの間に、チェン・ユー・ツァン(Chen-Yu Zhang)らの主張は、いくつかの異なる研究室が行った追試報告によって、強く反論されることとなりました。

これらの反論は、ジョンホプキンズ大学のケネス・ウィットワー(Kenneth Witwer)、バーナードカレッジ(ニューヨーク)のジョナサン・スノー(Jonathon Snow)、miRagen Therapeutics社(コロラド)のブレント・ディッキンソン)Brent Dickinson、そしてモンサント社のジェイ・ペトリック(Jay Petrick) 及びイワン・イワシュータ(Ivan Ivashuta)などの研究室から寄せられました。

食品に含まれるRNA分子(人々が摂る食事には常に存在していました)は、ヒトの体内の遺伝子に影響を与えることはできません。何故なら、RNA分子が腸から体内の作用点に至るのを完全に阻止するハードルが幾つも存在するからです。 植物RNAが腸壁を通り抜けることが出来ないことは、繰り返し、最近の科学研究によって実証されており、問題の植物RNAは血流には存在しないことが決定的に証明されています。

チェン・ユー・ツァン(Chen-Yu Zhang)らの報告は、肝タンパク質の数値から、コメに含まれるRNAの摂取が原因と思われる肝障害を認めたとしています。(ちなみに、これは非遺伝子組み換えのコメが原因であり、これにより、なんらかの障害が生じたという示唆はなされていません)。 Brett Dickinsonの最近のレポートでは、実験動物に大量のコメを与えたことによって生じた栄養バランスの悪化が原因であると容易に説明がつき、これ以上の説明は不要であると結論しています。

植物RNAがヒトの代謝に影響を及ぼさないようにするもう一つの防衛手段は、植物RNAを、ヒトの如何なる遺伝子ともきちんと適合できないようにすることです。この防御手段は、ヒトゲノムのデータベースを参照しながら、対象となるRNA配列の構造を確認することで、植物遺伝子の発現を抑えるRNA分子に、意図的に組み込むことができます。

余りにも無造作にデータベース検索を行ったことで、ジャック・ヘイマン(Jack Heinemann)は、小麦のRNAがヒトの遺伝子に予期せぬ潜在的に有害な遺伝子発現抑制が起こるという、間違った当初の主張にたどり着いてしまったのです。

ヘイマン(Heinemann)の当初の研究は、ヒトに対する予期せぬ遺伝子発現抑制効果という仮説を評価する際に、間違ったRNAシークエンスを利用しています、そしてリスクの推定は甚だしく誇張されています。 この点についての議論は、以下のリンクを参照ください。

http://gmopundit.blogspot.com.au/2013/05/gmo-wheat-and-shouting-fire-in-crowded.html.

2013年3月13日付で彼が出したレポートの改訂版には、異なる結果が記されています。しかしながら、Heinemannの2013年の二回目の推定よりも、CSIROは、標的に対しはるかに狭く焦点を絞った小麦遺伝子発現抑制RNAをデザインすることができるであろうと思われます。

健康に関する肯定的なメッセージがこの話の重要な点です。消費者の皆さんは、食物の中に含まれる少量のRNAを心配する必要はありません。何故なら、速やかに消化され、無害な栄養素となるからです。食物に含まれる植物由来の遺伝子発現抑制RNA分子が、ヒトの代謝に何らかの影響を与えるという確かな証拠はありません。日々の食事に、食物繊維を提供する全粒粉、大麦、オートムギ、豆類、果物そして野菜を、定期的に含めることを心がけ、食物繊維がもたらす恩恵を受けるべきでしょう。(David Katz, 2013 , Disease-Proof:http://www.amazon.com/dp/B00C5R7I5Q/ref=rdr_kindle_ext_tmb を参照ください。)

また、「目に見えない繊維」が豊富に含まれる新たな小麦品種の登場を期待しましょう。それが遺伝子組み換えの小麦なのか、放射線照射による突然変異の非遺伝子組み換え小麦なのかは、まだ議論の余地がありそうですが。

回答者 デービッド・トライブ博士

回答者

デービッド・トライブ博士

David Tribe Ph.D.

メルボルン大学(オーストラリア、バークビル)、農業・食料システム/微生物学・免疫学、上級講師

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