GMO Answers
質問
選抜育種によって、除草剤耐性や害虫抵抗性のような特定の形質を持つ作物が作られたことはありますか?
回答
はい、あります。これらがどのように作られるかは、科学的見解と政治的見解が交わる興味深い部分であり、「伝統的な品種改良」対「GM技術の活用」という対立の図式には、弱点があることを示しています。
育種によって除草剤耐性がもたらされた代表的な例としては、BASF社が開発した「クリアフィールド」というブランドの品種があります。これらの品種は、植物のALS酵素を不活性化させるような阻害剤(除草剤)に対し感受性がありません1。ALS阻害剤に対する非感受性は、自然界では時を異にして何度か植物にもたらされてきました。そして、それらは常にALS遺伝子の中で生じた様々な突然変異によって引き起こされたのです2。
ALS阻害剤への耐性を作物に導入するために、まず初めに取り組むべきことは、天然の除草剤耐性を持つ野生種を見つけ出すことです。もし野生種にそのような形質を持つ突然変異個体が存在し、その個体が既存の作物と交配可能であれば、次に、育種を繰り返して、天然の除草性耐性形質を商業用品種に取り込みます(この過程で、野生種に含まれる様々な形質の内、望ましくない形質は取り除いていきます)。このようにして「クリアフィールド」ブランドのヒマワリは開発されました3。一方、交配可能な個体の中に目的の形質を持つ突然変異個体が見つからない場合には、「突然変異育種」と呼ばれる80年も前から続く伝統的な育種方法によって、人工的に突然変異を起こすのが一般的です4。
遺伝的変異は単に無作為な突然変異の結果として生じたものである、ということを思い出してください。無作為な突然変異が起こる頻度は、化学的な変異原や放射線のような物理的な変異原を利用することで、高めることができます5。これらの突然変異誘発手法は、遺伝的変異をもたらす新たな源となっており、目的とする突然変異個体が得られた場合には、前述のように、育種を通して商業用の品種へと改良されることになります。このような方法により、望み通りのALS突然変異形質をもつ小麦が開発されました6。突然変異育種は「伝統的な」植物育種方法に含まれる一般的な技術であり、日本のナシやアメリカのグレープフルーツなど現在世界中で栽培されている何千もの植物品種がこの方法で作られてきました(品種登録の詳細はこちらをご覧ください http://mvgs.iaea.org/Search.aspx )7。
さて、ここで興味深い政治的な部分について触れたいと思います。突然変異品種は、アメリカ有機農業業界によって推奨され広く栽培されています8。一方、この業界は「遺伝子組み換え」には極めて強く反対していると言われています。この一貫性の無さにはとりわけ、腹立たしさを覚えます。何故なら、有機栽培を推奨する立場の業界が、安全性評価の必要性を微塵も感じることなく、突然変異品種は安全であるとして、容易に受け入れているからです8。これらの中には人工的に誘発された未同定の遺伝子変異がいくつも含まれているにもかかわらずです。このことは、遺伝子組み換えGMOには、極めて厳格で膨大な費用がかかる連邦安全・環境規制が課せられていること9(そして、言うまでもありませんが、GMOに対しては、絶えず更なる規制や全面禁止を求める声が上がっていること)を考えれば、全く対照的です。実際には、GMOは既知の栽培品種に、特性が明らかな特定の遺伝子を1つあるいは幾つか追加したり削除したりするだけであり、GMOについて不明なことは、従来型の育種でたった1回掛け合わせ(しかも突然変異の誘発なしに)する場合に比べても、はるかに少ないのです10。
そのうえ、遺伝子組み換えGMOの開発プロセスにおいては、ゲノムのどこにも特別に突然変異が起こる可能性はありません1011。米国科学アカデミーは、突然変異品種は認めるが遺伝子組み換え品種を認めないとする考えには科学的な正当性がないと述べ、更に「突然変異の誘発は、遺伝子に与える破壊的影響がこの上なく大きく、結果として、極めて幅広い潜在的な表現型効果の中から意図しない効果が現れる可能性が最も高い」10と付言しています。
害虫抵抗性を持たせるための育種については、2つの興味深い例を紹介します:ソラレン(psoralen)を含んだセロリとソラニンを産生する「Lenape」バレイショ11です。セロリのケースでは、従来型の育種によって殺虫成分のソラレンを含む品種が開発されたのですが、あまりにも多くのソラレンが含まれていたため、不幸にも農場や食品倉庫の作業員たちに発疹症状を引き起こしてしまいました12。同様にソラニンのバレイショも、育種家によって、殺虫性のグリコアルカロイドであるソラニン(日光に当てるとイモの表面が緑化するため間接的にその産生を確認できる)を多く産生する品種が選抜されました。その後、このバレイショは日光があたらなくても常に過剰な量のソラリンを産生させていることがわかり、残念ながら既にこのバレイショを口にしていた人々は重病に陥ってしまいました13。
参照文献
- Pfenning, M., G. Palfay, and T. Guillet. “The CLEARFIELD® technology–A new broad-spectrum post-emergence weed control system for European sunflower growers.” Journal of Plant Diseases and Protection, Special 21 (2008): 649-653.
- Oard, James H., Nengyi Zhang, and Dearl E. Sanders. “Resistance to acetolactate synthase-inhibiting herbicides.” U.S. Patent Application 12/303,888.
- Baumgartner, Jolene R., Kassim Al-Khatib, and Randall S. Currie. “Cross-resistance of imazethapyr-resistant common sunflower (Helianthus annuus) to selected imidazolinone, sulfonylurea, and triazolopyrimidine herbicides.” Weed technology (1999): 489-493.
- Kharkwal, M. C., R. N. Pandey, and S. E. Pawar. “Mutation breeding for crop improvement.” Plant Breeding. Springer Netherlands, 2004. 601-645.
- van Harten, Anton Marcus. Mutation breeding: theory and practical applications. Cambridge University Press, 1998.
- Mergoum, Mohamed, et al. “Breeding for CLEARFIELD Herbicide Tolerance: Registration of ‘ND901CL’Spring Wheat.” Journal of plant registrations 3.2 (2009): 170-174.
- FOA/IAEA, Mutation Enhanced Technologies for Agriculture, Retrieved May 7, 2015
- McEvoy M., U.S. Department of Agriculture National Organic Program. Cell Fusion Techinques Used in Seed Production. NOP Policy Memo 13-1
- McHughen, Alan, and Stuart Smyth. “US regulatory system for genetically modified [genetically modified organism (GMO), rDNA or transgenic] crop cultivars.” Plant biotechnology journal 6.1 (2008): 2-12.
- Committee on Identifying and Assessing Unintended Effects of Genetically Engineered Foods on Human Health, National Research Council, et al. Safety of Genetically Engineered Foods: Approaches to Assessing Unintended Health Effects. National Academies Press, 2004
- NAS (1989) Field Testing Genetically Modified Organisms: Framework for Decisions. Washington DC: National Academies Press. URL http://books.nap.edu/catalog/1431.html[accessed on 5-7-2014].
- Seligman, Paul J., et al. “Phytophotodermatitis from celery among grocery store workers.” Archives of dermatology 123.11 (1987): 1478-1482.
- Zitnak, A., and G. R. Johnston. “Glycoalkaloid content of B5141-6 potatoes.”American Potato Journal 47.7 (1970): 256-260.
回答者
クリストファー・バーベイ
Christopher Barbey
独立の専門家