GMO Answers
質問
遺伝子組み換えでは、ゲノムのどの位置に遺伝子を導入したのか分かるのでしょうか?RNAi (RNA干渉)はどうなのでしょうか?現段階で、私にはGMOが十分安全であるとは思えません。
回答
RNA干渉(RNAi)とはなんでしょうか?まず初めに、RNAとは何なのか、そして細胞内でどのような役割をするのかについて認識を一致させておきましょう。それぞれの生命体のDNAの中には、その生き物がどのように作られ、そしてどのように生きていくのかについてのあらゆる情報が蓄えられています。DNAの機能セグメントである何千もの遺伝子は、互いに協力し合って、適切な時に、適切な箇所で、適切な量のタンパク質を作り出すために、分子制御で様々な指示を出しています。これらの指示によって作られたタンパク質のうち、一部はそのまま身体を構成する成分となり、また他の一部は、細胞にとって必須である別の分子を作り出す酵素として機能し、食べ物などからエネルギーを獲得する手助けをします。図書館にあるレシピ本のように、DNAには、細胞内の一つ一つのタンパク質を作るための何千ものレシピが保管されています。しかし、これらのレシピ(情報)が活かされるには、DNAにある情報を細胞内に引き出す必要があります。
ここでRNAが重要な役割を果たします。RNA分子は、構造上はDNAと似ていますが、その働きはDNAとは異なり、DNAに保管された情報を、タンパク質が合成される細胞機構へと運ぶ役割を担っています。DNA情報(「レシピ・カード」)の「コピー」であるRNA分子は、特定のタンパク質を作るために欠かせないものです。なぜRNAがタンパク質を作ることが出来るのか、それは、それぞれのRNA分子が、ある特定のタンパク質の生合成を指示するDNA情報の「カーボンコピー」を持っているのからです。ですから、細胞内には、常に、DNAから情報を転写した何千ものRNA分子が存在しており、細胞にどのようにタンパク質を作るかを指示しているのです。
細胞はこれらのレシピに従い、適切な時に、適切な箇所で、適切な量のタンパク質を作り出します。しかしながら、そのような情報は、細胞が管理するには極めて膨大な量になります。このため細胞は、様々なプロセスを使って、タンパク質の生合成を監視し、制御しています。これには、あるタンパク質の生合成を開始したり停止したりするための分子制御も含まれます。レシピの例えで考えてみますと、シェフはゲストのために料理を用意しますが、コース料理が全て運ばれたある時点で、ゲストはみんな満足します。それ以上料理を作り続けることは、無駄な事となりますし、もしゲストたちが次にデザートを期待している場合には、彼らを不快な気持ちにさせることさえあるかもしれません。多くの生き物(バクテリア以外)は、RNAに転写された情報を、慎重に管理し、不要な場合には破棄するというプロセスを持っています。このプロセスは、調光スイッチのように機能し、細胞のニーズに沿って、タンパク質の生産に必要なRNAの情報伝達を妨げることで、遺伝子の活動を弱めたり、止めたりします。このプロセスがRNA干渉(RNAi)です。
RNA干渉の研究は、当初ペチュニアなどの植物で始まりましたが、その詳細は、1990年代後半、ファイア並びにメローの両博士によって初めて解明されました。そして、その功績が称えられ、両博士は、2006年のノーベル生理学医学賞を受賞するに至っています。彼らの発見により、細胞内で作られたいくつかのRNAが、他のRNA分子をコントロールし、RNAの働きを抑制することが分かりました。また、様々な植物、動物、そして菌類などで広くRNA干渉が起きていることも確認されました。RNA干渉のプロセスは、無作為に起こるものではなく、遺伝子配列の特異性を通して、細胞が慎重にプログラムしているものなのです。ファイア、メローの両博士は、二本鎖RNA(dsRNA)と呼ばれる特殊な形のRNAが作られることが、このプロセスの鍵であることを突き止めました。この二本鎖RNAは、DNAと極めて類似しており、細胞がこの特殊な形のRNAの存在を認識すると、細胞内の様々な酵素を使ってdsRNAを細かく分割します。RNA干渉のプロセスに関与する特殊なタンパク質は、細かく分割されたdsRNAを捕らえ、それらに含まれている遺伝子配列を使って、細胞内の膨大な数のRNAを全てスキャン(走査)します。RNA干渉のメカニズムは、細かく分解されたdsRNAの情報をバーコードのように使い、何千もあるRNAをスキャンして、その中から、ぴったり合うRNAを見つけ出すのです。前出の例えで言うと、料理本からコピーしてきたたくさんのレシピカードを一通り見通して、その中から「ブルーベリーマフィン」(ブルーベリーコブラーやブルーベリーパイ、ブランマフィンなどではありません)と書かれたカードを探し出すようなものです。正しい(ぴったり合った)RNA(レシピ)を見つけ出さねばなりません。ぴったり合う遺伝子配列を持つRNAを見つけると、RNA干渉の次のプロセスが、見つけ出したRNAを切り刻みます(もしくは、タンパク質の生産に繋がるRNAの情報伝達を阻止します)。その結果、このRNAによって生産されるはずだったタンパク質の生産がストップします。
様々な種類の生物が、RNA干渉を適用し、それら生物自身の遺伝子を統制するとともに、ウィルスなどの侵入から細胞を守るために役立てています。多くのウィルスは、そのライフサイクルにおいて、様々なdsRNAの断片を含んでいます。細胞はこの特殊な形のRNAを認識すると、RNA干渉を起動し、それらを捕らえ切り刻みます。そうして細胞を守るのです。RNA干渉のメカニズムは、常に待機しており、プロセス開始の引き金となるdsRNAの「出現」を待っています。プロセスは、「出現」を認知しさえすれば、すぐに動き出します。このような「出現」は、細胞が自己の遺伝子の一つを転写したdsRNAを作り出すことによる場合もありますし、ウィルスの侵入による場合、あるいはバイオテクノロジーによってもたらされる場合もあります。
1980年代の始め、科学者たちは、植物に遺伝子を導入する技術を開発しました。この技術の開発により、科学者たちは、有機栽培でトウモロコシをイモムシから守るために使用されているバクテリアのBtタンパク質を、トウモロコシに発現させ害虫抵抗性を持たせると言った、従来の育種技術では実現できなかったような、作物への有益形質の付加ができるようになりました。同様に、天然の植物には免疫が存在しないウィルスに対しても、抵抗性を持つ植物を開発することが出来るようになりました。植物の体内にはRNA干渉プロセスが既に存在していることから、RNA干渉のメカニズムを遺伝子にプログラムし、特定のウィルスの遺伝子配列にマッチするdsRNAを作り出せるようにすれば、そのウィルスを標的にすることができます。そうすれば細胞がそのdsRNAを感知し、ウィルスを破壊するため、結果的に、植物は救われることになります。
RNA干渉を活かしたバイオテクノロジーの初期の素晴らしい成功例としては、壊滅的なパパイヤ・リングスポット・ウィルスに耐性を持つパパイヤの開発が挙げられます。このウィルス耐性を持つ「レインボー」パパイヤはハワイで開発され、17年前に商業販売が開始されて以来、ハワイのパパイヤ産業を救い、支え続けています。ウィルスに対する抵抗性のおかげで、このパパイヤは、これまでに、2億5,000万ポンド(約11万3,400トン)もの収穫量を達成しています。RNA干渉技術を活用することで、スカッシュ(アスグロー社が開発、現在はモンサント社が所有)やプラム(米国農務省が開発)、うずら豆(ブラジル、ブラジル農牧研究公社が開発)など、様々なウィルスに耐性を持つ植物が開発されています。
他にもRNA干渉の様々な応用が進んでおり、作物が元々持っている特定の遺伝子を改変することで、農産物の品質が改良されています。例えば、ダイズ油は、飽和脂肪を減らし、より体に良い特性を持つよう改良されました(デュポン・パイオニア社開発のPlenish®)。RNA干渉は、ジャガイモ(シンプロット社が開発したInnate™)やリンゴ(カナダのオカナガン・スペシャリティー・フルーツ社が開発したArctic®)にも応用され、食品ロスの減少に貢献しています。RNA干渉の新たな応用法として、コーンルートワームの防除法が開発されました(モンサント社により開発され、現在は、米国農務省などによる規制審査中)。
RNAは、もともと人間の食べ物の中に存在するもので、目新しいものではありません。全ての植物食品、動物や菌類などに由来する食品には、dsRNAを含め、様々な形のRNAが含まれていますし、その中には、人間の遺伝子と一致する配列をもつRNAもあります。けれども、これらの食品は、安全で栄養があるものとして認識されています。従来の食品やオーガニック食品に含まれる幾つかの形質は、RNA干渉により品種改良されたものです。例えば、ダイズの種子の「黄色」は、過去に植物育種家が、突然変異種を選抜し、ダイズ種子本来の濃い色を排除してきた結果、もたらされたものなのです。つまり、種子の中で起きるRNA干渉が、種子の色を決定する遺伝子をオフにしたことで得られた形質なのです。RNAは調理や加工の過程で分解されるため、加工度合いが低い食品ほど、RNAの含まれる確率は高くなります。更に、RNAは、消化器内に存在する酸や酵素、微生物によっても分解されます。
RNAは、何千年も前から、様々な形で食べものや自然環境の中に存在しているにもかかわらず、この天然分子の安全性に懸念を抱く人たちがいます。RNA干渉を使った技術では、裏付けのある様々な特徴を持った分子を利用しています。まず初めに、RNAには毒性もアレルギー性もありません。RNAは、自然界のどこにでも存在するような微生物により分解、消費されるため、環境に蓄積することはありません。バイオテクノロジーを起因とするRNAは、植物内ではほんのわずかな存在に過ぎません。例えば、コーンルートワームに抵抗性を持つ組換えトウモロコシの根の約0.0000001%がdsRNAです(花粉や子実など、植物のその他の器官などには更に少ない量しか存在しません)。そして、おそらく最も重要なのは、ヒトや高等動物には、例えば、体液(腸内分泌や血液など)に含まれる酵素のように、食べ物に含まれるRNAを分解する多数のバリアー機能が備わっていることです。また、様々な製薬会社の努力により、ヒトの命を救う医薬品がRNA干渉の技術を用いて開発されていますが、経口摂取したRNAベースの医薬品や植物由来のRNA成分が、再生可能な形で有意な量、ヒトの体内に取り込まれたという例は認められていません。このことは、ヒトが持つ生来のバリアー機能が極めて強力であることを傍証しています。これらの点の多くは、スティーブ・サベージ博士が「Arctic®」リンゴについて論じた際に、明瞭に説明されています。同様に、RNA干渉を使ったバイオテクノロジーの審査を行う規制当局、例えばオーストラリア・ニュージーランド食品安全機関などによっても、解説されています。
限りある資源を最も有効活用できる有益な食料を供給するためには、様々な解決策が必要ですが、RNA干渉技術は、そのような解決策に、新たに加えるべき有力なツールの一つなのです。RNA(を含む食品)が、現在まで安全に消費されてきたという歴史、そして(ヒトの体を守る)広範な生物的バリアーの存在を考慮すれば、RNA干渉技術は、食品の安全性を脅かすような如何なる危険性も示すことのない「重要なツール」であると言えるでしょう。
今日見るダイズが黄色いのは、自然の、遺伝子組み換えによらないRNA干渉が、昔の野生ダイズ種に存在した濃色の色素を取り除いたためなのです。
回答者 グレッグ・ヘック回答者
グレッグ・ヘック
Greg Heck,
モンサント社、雑草防除プラットフォーム、リード