GMO Answers
質問
ある生物に異なる生物の遺伝子を、寄生的に、導入することは倫理的に問題があるのではないでしょうか。生き物にとってDNAや遺伝的性質とは、自己の証であり、一つ一つの種を他から区別し独立させるものです。それは、永劫の時間をかけて形成されてきた各生物の設計図のようなものです。これらの生き物に対して大企業がなそうとしていることは、例えば、宿主に寄生して自身のRNAを増殖する(細菌由来の)コブよりもましなのでしょうか。
回答
ご質問ありがとうございます。頂いたご質問には、種の完全性とその意味する所について示唆されています。ごく最近まで、それぞれの種は遺伝学的に固有である、つまり、あなたの言葉を借りて言えば、「他から区別」され「独立」していると考えられていたことは確かです。しかし、今日の広範なゲノム解析研究により、それが事実ではないことが分ってきました。種を超えての遺伝子の転移は、これまでに考えられていたよりも、はるかに多く、また広範に生じているのです。例えば、様々な作物のゲノムを調べた結果、全ての作物に、pararetrovirusやflorendovirus(訳注:いずれもウイルスの一種)のDNAが含まれていることが分りました。このことは、植物への遺伝子導入が、実際には、特別目新しいことではなく、自然界で起きている現象と何ら変わりがないことを示しています。その上、遺伝子組み換えでは、「種」の中の一つ、もしくは僅かな数の品種に遺伝子導入が行われるだけで、「種」全体に導入される訳ではありません。ですから「種」の自立性は依然として保たれます。
科学者によって導入された遺伝子が寄生体であるか否かという点は興味深い問題です。メリアム・ウェブスター辞典によれば、「寄生体(parasite)」とは、「生物学上の寄生体と同様に、他のものに依存して生活するもの、あるいは、他のものからの支援を受けながら、有益あるいは十分な見返りを提供せずに生活するもの」、と定義されています。この定義に照らせば、科学者が導入する遺伝子が「寄生体」には当てはまらないことは明らかです。なぜなら、これらの遺伝子は、植物を病害虫や雑草から守り、農家が栽培し易くなるなどの有益な見返りをもたらすために、植物に導入されるからです。言い換えれば、遺伝子導入は適者生存に貢献していると言えます。
更に、植物(のゲノム)には、しばしば「寄生DNA」や「ジャンクDNA」と呼ばれる天然起源のDNAが大量に含まれています。これは、遺伝子が、植物(のゲノム)の中のごくわずかなDNAだけを使って機能していることを意味しています。大半のDNAには特定の機能がないことから、これらは「ジャンクDNA」、あるいは「寄生DNA」とさえ呼ばれています(グーグルで「寄生DNA」検索してみてください)。このようなことから考えると、例え人為的に植物に導入された遺伝子が寄生体になったとしても、それは、植物内にもともと存在する仲間たち(大量の「寄生DNA」)の一つとして加わるに過ぎず、圧倒的な数(の「寄生DNA」)の中に埋もれてしまうことでしょう。
ここでの教訓は、自然界も遺伝学も、従来考えらえていたよりも、はるかに多様性にあふれダイナミックであるということです。結局のところ、私たちが研究室内で出来ることは、いかに望んでも、自然界で大規模に起っていることを、小さな規模で再現することでしかないということです。
回答者 ウェイン・パロット回答者
ウェイン・パロット
Wayne Parrott
ジョージア大学、作物育種・遺伝学、教授