GMO Answers
質問
グリホサート耐性のGM作物は、オーガニック作物とくらべ、芳香族アミノ酸やオーキシン、フィトアレキシン、葉酸、リグニン、プラストキノンなどの含量が少ないのでしょうか?
回答
質問していただき、ありがとうございます。オーキシンについて質問されていることに少しワクワクします。大学院では、オーキシン(植物の成長調節物質で「植物ホルモン」とも呼ばれる)がスイートコーンの植物体内でどのように作られるのかを研究をしていましたので、自分の得た知識がお役に立てば嬉しく思います。
ご存じかとは思いますが、植物や微生物には、一部のアミノ酸、厳密にいえば「芳香族環」として知られている化学構造を持つアミノ酸の合成に必要な反応を触媒する(EPSPSとよばれる)酵素が存在します。これらの「芳香族アミノ酸」は、ご質問にある、オーキシンやフィトアレキシン、葉酸、リグニン、プラストキノンなどを含め、植物体を構成する様々な化合物の前駆体です。 グリホサートは、EPSPS酵素に結合して、酵素が触媒として作用することを妨げます。このため、芳香族アミノ酸の合成が行なわれず、結果的に植物を構成する様々な化合物に影響を与えます。グリホサート耐性作物では、EPSPS酵素とは少し形の異なる(自然界のバクテリア由来の)酵素が発現します。酵素の形が少し異なることにより、グリホサートは酵素に結合することができず、植物には(除草剤としての)効果を表しません。このため植物は、普通どおりに、アミノ酸の合成を行うことができるのです。
査読済の論文が掲載される科学誌には、グリホサート耐性作物の化学的構成あるいは「組成」が、慣行栽培された作物と同一であることを示すデータが多数公開されています。代表的な例を挙げれば、 2013年のランドリー氏らの研究報告で、グリホサート耐性作物に含まれる芳香族アミノ酸(チロシンやトリプトファン、フェニルアラリン)の量は、慣行栽培作物に比べ変わりがないことが確かめられています。本報告では、グリホサート耐性トウモロコシと慣行栽培トウモロコシの芳香族アミノ酸含量は、それぞれ乾物重比で、チロシンが0.31%と0.30%、トリプトファンが0.65%と0.63%、フェニルアラリンは両者ともに0.49%でした。このデータから、グリホサート耐性が芳香族アミノ酸の含量を減少させることは無いことが分ります。しかし、芳香族アミノ酸の含量は、他のあらゆる化合物と同様、環境や遺伝的性質等の自然要因によってもバラつきが生じます。慣行栽培された作物とオーガニック栽培された作物を比較した情報は多くありません。これは、作物の承認や申請要件には、栽培方法の相違は考慮されていないことが影響しているのかも知れません。栽培方法の違いをトウモロコシで調べた報告の一例(ローリグとエンジェル、2010年)を見ますと、栽培方法の違い(慣行栽培vsオーガニック栽培)は、組成にほとんど影響がないとする一方、予想された通り、栄養素の含量には、環境や品種などの要因が大きく影響すると結ばれています。以上の報告例の通り、グリホサート耐性作物と慣行栽培作物の組成が同等であること、また栽培方法の相違が組成に与える影響はほとんどないことを総合して考えますと、ご質問にある「GM作物に含まれる芳香族アミノ酸やその他の化合物の量がオーガニック作物と比べて少ない」、ということは考えにくいと思われます。
ご質問に書かれた幾つかの化合物について補足させて頂ければ、グリホサート耐性作物に含まれるこれらの化合物の量が明らかに少なければ、そのような植物は生理学的に正常な姿にはなりません。圃場で作物を見れば、このような異常はすぐにわかるはずです。例えばオーキシンは、植物が正常に育ち発達するように作用します(他の生物にあるホルモンと同様なため、「フィト(phyto)」あるいは「植物」ホルモンと呼ばれる)。 また、オーキシンは、植物が光に反応するように(だから植物は上へ上へと太陽に向かって伸びる)、重力に反応できるように(だから根は地面の中へと下に伸びる)に作用するとともに、個々の細胞の発達と増殖を手助けしています。もし、グリホサート耐性作物に含まれるオーキシンが少なければ、圃場のトウモロコシは直立しませんし、生長不良となり、おそらく何本もの茎が出来てしまうでしょう(本来一本の茎になるべきにも係らず)。そのような報告の一例は次のリンクからご覧ください。
https://news.uns.purdue.edu/html4ever/031002.Johal.corn.html.
以上の説明はお役に立ったでしょうか。不十分、あるいは夜寝付く手助けが必要であれば、400頁の論文を紹介しますのでご覧ください。きっと役に立つことと思います。
- Lundry, DR; Burns, JA; Nemeth, MA; and Riordan, SG. 2013. Journal of Agricultural and Food Chemistry 61: 1991-1998. http://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/jf304005n
- Röhlig, R.M. and Engel, K.-H. Influence of the Input System (Conventional versus Organic Farming) on Metabolite Profiles of Maize (Zea mays) Kernels J. Ag. Food Chem. 2010, 58 (5), 3022–30: http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/jf904101g
回答者
アンジェラ・ヘンドリクソン・キューラー
Angela Hendrickson Culler
モンサント社、組成生物学センター、リード