GMO Answers

質問

質問者 Philippines from Rural (フィリピン)

遺伝子組み換え生物の生態学的影響について、あらゆる角度から、長期(30年以上)にわたり行なわれた研究はあるのでしょうか? もし長期にわたる全てを網羅した研究がなされていないとすれば、なぜGMOは「安全」と判断され、公に利用されているのですか? そのような研究には、遺伝子組み換え作物と併せて使われる殺虫剤や除草剤の使用やそれらの影響、遺伝子組み換え作物や30年以上にわたる単一栽培下で散布された農薬によって影響を受けるすべての生物に対する、あらゆる角度からの(長期的)生態学的影響、などが含まれるべきです。このような研究がなされていないのであれば、お知らせください。また、なされていないのであれば、なぜ「科学」は、GMOを安全だと判断しているのか、また、科学はどうして将来を予測できるのか、教えてください。 DDTのことはご存知でしょう?サリドマイドも?

回答

ご質問に端的にお答えすれば、「いいえ」です。遺伝子組み換え作物については、30年以上にわたる研究はなされていません。遺伝子組み換え植物の生産に向けた初めての組換え研究は1982年に報告されていますが、それは31年前のことに過ぎません。 遺伝子組み換え植物がUSDAの承認を得るためには、その植物が生態系に及ぼす潜在的影響について、十分に評価されていなければなりません。ご質問の主旨は、すべての生物に対してあらゆる角度からの生態学的研究が行われているのかどうか、それも、ありとあらゆる状況においてなされているのかどうか、を問うものと推測しますが、いかがでしょうか。あらゆる状況における全ての生物を研究することは、実際問題、不可能です。従って、科学者は、主な非標的種や、環境に棲息する様々な種類の生物を代表するような指標生物を微生物から動物全般にわたって選び、通常は、少なくとも3つの大陸の6種類の農業生態系において、最低3シーズンかけて生態系への影響評価を行っています。場合によっては、さらに多くの評価が行われます。 圃場試験は、通常使用される殺虫剤や除草剤を散布する区としない区を必ず設けて行われていますが、これは優良実験計画の一環です。科学者たちや規制当局者たちは、このような方法により、作物が環境に与える影響を十分に把握できると判断しています。

更なる保護措置として、いかなる不測の悪影響も発見出来るよう、市販後の農業生態系モニタリング計画も実施されています。もし、市販後に何らかの悪影響が認められた場合には、そのような影響を管理し軽減する措置がとられるか、あるいは作物が市場から回収されることになります。GM作物の反対派は、恐怖心を利用し、不測の影響が生態系の破滅に繋がると常に予測していますが、実際のところ、作物は季節ごとに栽培されており、悪影響が認められれば、その作物の利用は中止されるのです。栽培される作物によって生態系に不可逆的な悪影響が生じることは、現在に至るまで科学的に実証されていませんので、これは奇妙な懸念といえます。自然の生態系には復元力がありますので、ほとんどの場合、影響を受けた生態系は、速やかに以前の状態に戻るでしょう。 それはさておき、GM作物は、17年以上にわたり、約30ヶ国の1千7百万人以上の農家によって、20億ヘクタール以上の面積で栽培されており、生態系に悪影響は認められていません。このこと自体が、確固とした長期研究といえるのではないでしょうか。

単一栽培という言葉は、論議の的になってきたようですが、ここで蒸し返すことは止めましょう。 今日の世界では、ほとんど全ての農業が単一栽培であると言っても過言ではありません;有機栽培農家、従来型作物の栽培農家、そしてGM栽培農家はすべて、栽培面積の大小にかかわらず、一種類の作物しか栽培していません。ただ、これは必ずしも悪いことではありません。それぞれの作物(そして作物が栽培される土壌)は、水や栄養、病気、害虫管理に対する要求がまちまちであるため、単一栽培でない農業は大変難しくなります。 私たちの先祖は、一万年以上前に単一栽培で農業を始めた時に、このことに気付いたのです。彼らは多分、現在のトルコの地にあった8千ヘクタールにも及ぶ野生小麦の単一自生地を見て、ヒントを得たのでしょう。農業の歴史は興味深い話ですが、別の機会にしましょう。ついでに言えば、「単一栽培」を、軽蔑を込めた形容詞として使うべきではありません。単一栽培なくしては、現在の私たちは存在していなかったかもしれませんし、未だに狩猟採集民であったかもしれません。

科学は将来を予測できるかと質問にありますが、その質問への答えは、「いいえ」でもあり、「はい」でもあります。科学は、将来に起こり得ることを推定するには、最善のシステムです。

気候変動の科学が良い例でしょう。世界はまだ50年先に予測されたほどには温暖化はしていません、そういう意味では「いいえ」でしょう。しかしながら、科学者たちは、現在の傾向が続けば、温暖化が進むと確信しています。これが、科学を利用して将来を予測するということです。科学で100%確実な予測をすることができるのか?それは絶対に無理です!私たちはそれぞれに個性が異なります。コップに水が半分も入っていると思う人もいるでしょうし、半分しか入っていないと思う人もいます。人によって見方が違います。私たちが変化について考えた場合、例えばGM作物を導入する場合、それをリスクとみるか、ベネフィットとみるか人それぞれです。これは人間の本質ですし、危険を回避したいという人々がいることで、幸いにも私たちは悪い事態に陥る前に、考えることができるのです。しかし、DDTやサリドマイドのように失敗だと主張される例がある一方、文字通り(何百万ではないとしても)何千もの新製品や技術革新が、重篤で不必要な副作用を伴うことなく、ベネフィットをもたらしていることを忘れてはなりません。 ここでDDTについての議論を復活させても仕方ありません。このトピックについての有用な情報は、次のリンクをご参照ください:

  • The Story of DDT

http://industrialprogress.com/2012/01/26/the-story-of-ddt/

  • DDT in NYT: The Unfinished Agenda

http://acsh.org/2004/04/ddt-in-nyt-the-unfinished-agenda/

  • Health Costs and Benefits of DDT Use in Malaria Control and Prevention

http://www.webmeets.com/files/papers/EAERE/2013/9/Health%20Externalities%20of%20DDT%20for%20EAERE%202013.pdf

DDTについては、用途を限り、きちんとした管理の下に使用すれば、マラリアの予防を通じて、毎年何百万人もの命を救うことができるという確かな証拠が積みあがっています。更に言えば、GM作物が悪影響を及ぼすという仮想的なケースについては、簡単な解決策があるのです:栽培を止めることです!

要約すれば、30年間にわたって試験を行っているものはありません。30年間の試験を求めるのは妥当な予防措置のように聞こえますし、競合会社の製品や単に好きになれない製品の導入を阻止するには良いかもしれませんが、実際には、ためになるどころか害をもたらすでしょう。その根本的な理由を知るには、なぜ新しい製品が開発されるのかを理解する必要があります。 新製品は、通常、市場にその製品に対するニーズがあるから開発されるのです。例えば、農家は殺虫剤や除草剤を使用しても、かなりの割合で作物を失っています。 殺虫剤や除草剤は高価ですし、散布には時間と労力を要します。環境への影響を減らし、生産を増大させ、そしてコストを抑えることのできる製品は、消費者や農家、そして環境に明確なベネフィットをもたらします。 30年間の試験を行っている間に、これらのベネフィットは失われてしまいますし、その30年の間に、従来の手法を使い続けることでもたらされる害は、はるかに大きいものになります。GM作物は、より精密に構成されており、他の育種方法で作られたものに比べ、成分組成の変化やその他の意図しない変化が少なく、世界中の何百万人もの農家によって何十億エーカーもの農地で栽培され、事故もなく、極めて大きな経済的、環境的ベネフィットをもたらしています。これらのことを考慮すれば、新たなGM作物の導入に際して、30年間の試験の完了を待つことは、深刻な判断ミスになると論じることが出来ます。

新種の種子や作物の開発に長期の試験が要求されたことはないことを、ここで指摘しておかねばなりません。他の方法で遺伝子組み換えされた作物に(GM作物と)同一の新形質が含まれていたとしても、安全性評価は行われません。唯一GM作物だけが、市場への導入に際し、安全性評価を受けるのです。昔ながらの、正確性に劣る手法で生産された他の作物には目をつぶり、GM作物だけに市場導入前の安全性評価を求めることは、全く科学的に意味のないことです。もちろん作物育種は、長年にわたり、何百種類もの作物を生み出し、安全な科学だと立証されていますので、市場導入前の評価は必要ありません。資金が豊富で専門的に組織化?された世界的な反GM団体は、GM作物が遺伝的に異質であり、危険なものであると消費者を信じこませようとしていますが、GM作物の安全性が(従来作物に比べ)劣るというような科学的根拠はありません。

回答者 ブルース・M・チェーシィ

回答者

ブルース・M・チェーシィ

Bruce M. Chassy

イリノイ大学、アーバナ・シャンペーン校、食品科学・人間栄養学部、食品安全・栄養学、名誉教授

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