GMO Answers
質問
Btトウモロコシやその効果(あるいはヒトに影響がないこと)について、説明して頂けますか。Btが昆虫だけに作用してヒトには影響がないことは、どれくらい確かなのでしょうか。酵素やタンパク質、それらを確認するプロセスなどについて興味があり、Btがヒトに影響がないことについて、科学的な回答を求めています。
回答
バチルス・チューリンゲンシス(BT): ヒトと環境への安全性
アントニー M. シェルトン、コーネル大学、昆虫学教授
Btとは何か?
「Bt」は、バチルス属の細菌(バクテリア)である「バチルス・チューリンゲンシス」を表す略語です。バチルス属の細菌は、一般的に「土壌細菌」で、Btは、土壌、昆虫の生体や死骸、昆虫の排泄物、穀物倉庫、そして植物の表面など含め、自然環境にごく普通に見られます。自然界では、Btは主として胞子の形で存在し、環境全体に拡散することが可能です。また、バチルス・チューリンゲンシスは多様性に富み、60以上の血清型、数百の亜種が確認されています。これらの内、商業用の殺虫剤として幅広く使われているのは二つです。一つ目は、Bacillus thuringiensis subsp. Kurstaki (Btk) という株で、農業や林業に大きな被害をもたらす様々なチョウ目害虫に殺虫効果があります。二つ目は、Bacillus thuringiensis subsp. israelensis (Bti) という亜種で、主に蚊やブユの幼虫の防除に使われています。
Btのユニークな特徴は、胞子形成の過程で、結晶構造を作り出し、これらの結晶がある種の昆虫に活性を示すことです。Btは、100年ほど前に日本で、カイコの幼虫から初めて単離されました。そして40年以上にわたり、Btは、その胞子と付随するタンパク質の結晶の混合物が、殺虫剤として、様々な作物に散布されてきました。1995年までに、182種類のBt製品が米国環境保護庁(EPA)により登録されましたが、1999年の時点では、Bt製剤の売り上げの合計は、殺虫剤全体の売上額の2%以下でした。他の多くの害虫防除法に比べ、Btには、ヒトや環境に極めて安全であるという優れた強みがあります。
Btはどのように害虫に作用するか?
Btの殺虫効果は、主に、胞子形成の過程で作られる殺虫性の結晶タンパク質(ICP)に因っています。ICPの違いによって、効果のある昆虫の種類も異なります(例えば、ある種のICPは一部のイモムシ類に効果がありますが、別のICPは一部の甲虫類にしか効果がありません)。現在、Bt殺虫剤が対象としている主な農業害虫は、畑作物や穀物では、ワタキバガやオオタバコガ類(bollworms)、メイガ類(stem borers)、タバコガ類(budworms)、ヨトウガ類(leaf worms)、林業では、マイマイガ(gypsy moth)、トウヒノシントメハマキ(spruce budworm)、 野菜では、イラクサギンウワバ(cabbage looper)、コナガ(diamondback moth)などです。また、蚊やブユなども、Btの散布、あるいは、繁殖場所となる水たまりなどをBtで処理することにより発生を抑えることができます。
殆どの殺虫剤は、害虫に接触さえすれば効果を表しますが、Bt殺虫剤は、散布された状態であれBt作物に内在する状態であれ、害虫が食べなければ、その効果が発揮されません。つまりBt殺虫剤の場合は、殺虫効果が表れるまでの時間が、合成殺虫剤より長く、数時間から数日かかります。害虫が食べると、ICPは、昆虫の中腸(消化管の中央部)にある特異的受容体に結合して、小さな孔をあけます。これによって、腸管内容物が流れ出し、マヒが起こり、害虫は死に至ります。
この作用の特異性は2つの点にあります。一つ目は、昆虫の中腸内の環境であり、2つ目は、ICPは適切な受容体を持つ細胞膜にしか結合しない、という点です。ICPが結合できる適切な腸内環境をもつ昆虫は、一部の種類に限られます。適切な中腸内環境や受容体をもたない生物(例:全ての哺乳類)では、ICPは消化器官をただ通り過ぎるだけで、日々摂取される何百ものタンパク質と同じように、排せつされることになります。Btの作用は昆虫だけに限られるため、極めて安全性が高いのです。ICPの作用機作や特異性について、より詳しい説明を望まれる場合は、下記のコッホらの総説(2015)をご参照ください。
Bt植物とは何か?
Bt植物は、対象害虫に毒性を示すICP を植物体内で作り出せるよう、Btからの遺伝子が組み込まれた植物です。害虫が植物を加害し、ICPを摂食すると、Btが散布された植物の葉を食べたのと同様の症状を呈し、死に至ります。 現在、米国で登録されたBt作物は、BtトウモロコシとBtワタの2つだけです。
科学界はBtをどう見ているか?
Btタンパク質は、散布の形であれ植物に組み込まれた形であれ、環境やヒトに安全であるということが数多くの有力な証拠により証明されています。以下に示した3件の科学総説は、このことを裏書きしています。
American Academy of Microbiology. 2002. 100 Years of Bacillus thuringiensis, a Paradigm for Producing Transgenic Organisms: A Critical Scientific Assessment. http://ipm.ifas.ufl.edu/pdfs/100_years_of_bt.pdf
Hammond, B. et al. 2013. Toxicological evaluation of proteins introduced into food crops. Critical Reviews in Toxicology. 43:25-42. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3835160/
Koch, M. S. et al. 2015. The food and environmental safety of Bt crops. Frontiers in Plant Science 6:283. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4413729/
回答者 ドルー・カーシェン回答者
ドルー・カーシェン
Drew Kershen
オクラホマ大学法学部、アール・スニード・センテニアル法学教授(名誉教授)