昔から行われている品種改良技術の1つです

1.大昔のキャベツは今のものとは似ても似つかぬ姿

食品スーパーに行くと、一昔前に比べて野菜や果物の種類が増えたと思いませんか。例えばジャガイモといえば、以前は「男爵」か「メークイン」くらいでしたが、近頃は色や甘み、食感が様々な“個性派”が出回っています。紫色のジャガイモなんて、ちょっと前までは想像できなかったと思います。

現在私たちが食べているほとんどの野菜や果物は、昔から今のような形や味だったわけではありません。農耕を開始して以来、人類は「もっとおいしくて、いろいろな種類をたくさん収穫できるように」と、工夫と努力を重ねてきたのです。

例えばキャベツは、その野生種(原種)からは想像できない“変身”ぶりです。葉が大きくて球状の、私たちがよく知るキャベツが作られたのは、西暦100年頃です。さらに15〜16世紀になると、花が大きくなったカリフラワーやブロッコリーが登場します(図1)。

私たちは、「自然のまま」「手つかずのまま」の野菜や果物を食べていると思いがちですが、実は長い時間をかけて「品種改良」という人の手が加えられた作物を食べているのです。

図1

2.生物みんなが持っている遺伝子

農作物の色や形、味などの特徴、つまり生物の性質は、生物ならみんなが持っている遺伝子によって決まります。人間も生物ですから、背の高さや髪の色等は、それぞれが持っている遺伝子で決まっています。

遺伝子の組み合わせが変われば、その生物の性質も変わります。自然界では、色とりどりの花が咲き、様々な形の実を結びますが、それは偶然、遺伝子の組み合わせが変わったからです。これに対して、優れた性質を得るために意図的に遺伝子の組み合わせを変えることを、「品種改良」と言います。品種改良は、優れた性質を持つ作物の品種を交配(掛け合わせ)して行います。キャベツの仲間のように、現在私たちが目にするバラエティに富む農作物の多くは、古くから行われてきた品種改良の賜物なのです。

例えば、おいしいコメの代名詞「コシヒカリ」は、収量が多く食味に優れた品種と、病気に強いとされていた品種の掛け合わせで作られました。私たちがふだん食べているコメのほとんどは、品種改良によるものです。

「遺伝子組換え」技術は、こうして昔から当たり前のように行われてきた品種改良の方法の1つです。交配のような従来の品種改良も、遺伝子組換え技術も、意図的に遺伝子の組み合わせを変えて、多くの人々が好む優れた性質の農作物を作っていることに変わりはありません。

ただし、従来の品種改良と遺伝子組換え技術を使った品種改良とでは、遺伝子の組み合わせを変える方法が違います。従来の品種改良は親の遺伝子を半分ずつ、ランダムに受け継ぐため、目的通りの品種ができるかどうかは偶然に頼ることになります。よって、開発には長い年月がかかります。それに対し、遺伝子組換え技術は、あらかじめ機能が分かっている遺伝子だけを組み込むので、目的の性質を持つ農作物を確実に作ることができます。(図2)

図2

3.花粉症の症状を和らげる遺伝子組換えコメも

現在、日本で流通が認められている遺伝子組換え作物は、「除草剤で枯れない」性質や「害虫に強い」性質を持つ品種が主流です。これらの品種は、除草剤や殺虫剤の使用を減らして栽培することができます。私たち消費者にとってはそのメリットを感じにくいかもしれませんが、生産物の価格を抑えることができ、環境への負荷も減らすことができます。

また、「栄養価が高い」といった私たちがありがたみを直接感じることができるような品種の開発も進められています。例えば、βカロテンを多く含む「ゴールデンライス」がそうです。βカロテンは人間が食べると体の中でビタミンAに変わる物質です。ビタミンAが足りないと夜盲症やその他の欠乏症を発症することが知られていますが、途上国では毎年数十万人の子供が、ビタミンAが足りないために失明しており、その半数が失明後半年以内に亡くなっています。そこで、毎日ゴールデンライスを食べてもらうことで、子供の命を救おうというわけです。

日本で開発中の「スギ花粉症緩和米」は、アレルギー物質(たんぱく質)を微量に含むコメを毎日食べて花粉症の症状を和らげようという画期的な品種です。国民病ともいえる花粉症を解決する切り札として、現在は食品から医薬品へ切り替えて国が開発を進めています。スギ花粉症緩和米は、花粉症のアレルギー物質を作り出すスギの遺伝子を組み込んだ「遺伝子組換えイネ」です。イネとスギでは同じ植物といっても両者の間には大きな種の隔たりがありますが、遺伝子組換え技術はこのように異なる種の遺伝子を利用することができ、品種改良の可能性を広げます。

Pagetop