食品表示は、消費者が食品を選択する際の目安となるものです。日本では、遺伝子組み換え作物を原材料とする食品には「遺伝子組み換え」と、また遺伝子組み換え作物と非組み換え作物を分別生産流通管理せずに使っている場合には「遺伝子組み換え不分別」と表示することが義務付けられています。
表示制度はなぜつくられたか
遺伝子組み換え作物が日本で流通する食品に使用されるようになったのは、1997年からです。当時は厚生省(現・厚生労働省)によって安全性が確認された遺伝子組み換え作物(除草剤耐性ダイズや害虫抵抗性トウモロコシなど)が輸入されており、安全性が確認されたものにわざわざ表示をするのはかえって誤解を招く、ということから表示は義務付けられていませんでした。
その後、消費者団体等から「どの製品に遺伝子組み換え作物を用いているのか知りたい」という要望が寄せられるようになり、農林水産省によって消費者の代表や生産・流通業者、専門家による表示問題懇談会が設けられ、1997年より2年半にわたる議論が行われました。
その結果、JAS法を改正して遺伝子組み換え食品の表示制度を盛り込むことを決め、2001年4月から表示制度が本格的にスタートしています。
https://www.maff.go.jp/j/jas/hyoji/pdf/tuuti_a.pdf
また厚生労働省でも、食品衛生法において、JAS法と同じ内容の表示制度を同時期から実施しています。
http://www.mhlw.go.jp/topics/0103/dl/tp0329-2.pdf
2009年からJAS法および食品衛生法などの食品表示規制については、消費者庁が担当しています。
なお、2023年4月1日より、消費者の誤認防止や消費者の選択の機会の拡大につなげるため、遺伝子組み換え表示制度のうち任意表示が新しい制度になりました。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/quality/genetically_modified/assets/food_labeling_cms202_220329_01.pdf
表示制度のポイント
遺伝子組み換え食品の表示制度には、義務表示と任意表示があります。義務表示は、検査によって遺伝子組み換え作物を使っているかどうか確認できるものに、「遺伝子組み換えである」または「遺伝子組み換え不分別である」という表示を義務付けるというものです。行政機関では適正に表示が行われているかどうか、定期的に検査を行って確かめています。
現在流通している食品では、大豆、とうもろこし、じゃがいも、なたね、綿実、アルファルファ、てん菜、パパイヤ、からしなの9農産物とこれを原材料とし加工後も組み換えられたDNAまたはそれによって生じたタンパク質が検出できる33群の加工食品、また栄養改変遺伝子組み換え作物およびこれを原材料として使用した加工食品が義務表示の対象となっています(表1)。
参考
- 内閣府令 食品表示基準 別表第16, 17, 18
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_230309_02.pdf - 消費者庁 食品表示基準Q&Aについて 別添 遺伝子組換え食品に関する事項
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_230331_05.pdf
組成、栄養価等が通常の農産物と同等である遺伝子組み換え農産物及びこれを原材料とする加工食品であって、加工工程後も組み換えられたDNA又はこれによって生じたたんぱく質が、広く認められた最新の検出技術によってその検出が可能とされているもの | |
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農産物 | 加工食品 |
1. 大豆(枝豆及び大豆もやしを含む) | 1. 豆腐・油揚げ類 |
2. 凍り豆腐、おから及びゆば | |
3. 納豆 | |
4. 豆乳類 | |
5. みそ | |
6. 大豆煮豆 | |
7. 大豆缶詰及び大豆瓶詰 | |
8. きなこ | |
9. 大豆いり豆 | |
10. 1から9までに掲げるものを主な原材料とするもの | |
11. 調理用の大豆を主な原材料とするもの | |
12. 大豆粉を主な原材料とするもの | |
13. 大豆たんぱくを主な原材料とするもの | |
14. 枝豆を主な原材料とするもの | |
15. 大豆もやしを主な原材料とするもの | |
2. とうもろこし | 1. コーンスナック菓子 |
2. コーンスターチ | |
3. ポップコーン | |
4. 冷凍とうもろこし | |
5. とうもろこし缶詰及びとうもろこし瓶詰 | |
6. コーンフラワーを主な原材料とするもの | |
7. コーングリッツを主な原材料とするもの(コーンフレークを除く) | |
8. 調理用のとうもろこしを主な原材料とするもの | |
9. 1から5までに掲げるものを主な原材料とするもの | |
3. ばれいしょ | 1. ポテトスナック菓子 |
2. 乾燥ばれいしょ | |
3. 冷凍ばれいしょ | |
4. ばれいしょでん粉 | |
5. 調理用のばれいしょを主な原材料とするもの | |
6. 1から4までに掲げるものを主な原材料とするもの | |
4. なたね | |
5. 綿実 | |
6. アルファルファ | アルファルファを主な原材料とするもの |
7. てん菜 | 調理用のてん菜を主な原材料とするもの |
8. パパイヤ | パパイヤを主な原材料とするもの |
9. からしな | |
組成、栄養価等が通常の農産物と著しく異なる遺伝子組み換え農産物及びこれを原材料とする加工食品 | |
形質 | 加工食品 |
ステアリドン酸産生 | 1. 大豆を主な原材料とするもの(脱脂されたことにより、左覧に掲げる形質を有しなくなったものを除く) 2. 1に掲げるものを主な原材料とするもの |
高リシン | 1. とうもろこしを主な原材料とするもの(左覧に掲げる形質を有しなくなったものを除く) 2. 1に掲げるものを主な原材料とするもの |
エイコサペンタエン酸(EPA)産生 | 1. なたねを主な原材料とするもの(左覧に掲げる形質を有しなくなったものを
除く) 2. 1 に掲げるものを主な原材料とするもの |
ドコサヘキサエン酸(DHA)産生 |
使用量が多い場合にのみ表示する
加工食品については、「主な原材料」として使用されている場合にだけ表示義務があります。主な原材料とは、全原材料のうち、原材料の重量に占める割合が上位3位以内のもので、かつ原材料の重量に占める割合が5%以上を占めるものをいいます。
検出できる場合にのみ表示する
食品の加工の方法によっては、組換えられたDNAやそれによって生じたタンパク質が分解や分離、除去され、最新の検出技術によってもその検出が不可能な場合があります。このような加工食品には表示の義務はありません。これは、意図的に栄養改変を行ったものを除き、遺伝子組み換え作物と既存の農作物由来の最終製品の間で、科学的に品質や安全性の差はないことが確認されているからです。ただし、これらの加工食品について任意で表示することは認められています。
任意表示制度の根拠となる分別生産流通管理
遺伝子組み換え作物が混ざらないように分別生産流通管理された原料であることを裏付ける証明書つきの原材料を使った場合は、任意で次のように表示をすることができます。
分別生産流通管理をして、遺伝子組み換えの混入がないと認められる大豆およびとうもろこし。 またそれらを原料とする加工食品。 | → | 「遺伝子組み換えでない」 「非遺伝子組み換え」 などの表示が可能 |
分別生産流通管理をして、意図せざる混入を5%以下に抑えている大豆およびとうもろこし。 またそれらを原料とする加工食品。 | → | 適切に分別生産流通管理された旨の表示が可能 <表示例> 「原材料に使用しているとうもろこしは、遺伝子組み換えの混入を防ぐため分別生産流通管理を行っています」 「大豆(分別生産流通管理済み)」 など |
遺伝子組み換え作物の栽培国において非遺伝子組み換え作物のみを分別するためには、特別なコストをかけて、農場から製造工場に到着するまでの全ての流通過程で、厳密な管理を行う必要があります。このような管理システムを、分別生産流通管理(IPハンドリングIdentity Preserved Handling)といいます。IPハンドリングを行っていることの証明書は、農作物が生産者から流通業者、輸出入業者、加工業者へと渡る各チェックポイントで発行されます。全てのチェックポイントで適切な分別管理が行われたことが確認され、最終的に全ての書類がそろって初めて、適切なIPハンドリングが実施されたと認められます。
これをもとにメーカーは上記の任意表示をすることができます。
参考
意図せざる混入
栽培農家や流通業者は厳密な管理の下、細心の注意を払って分別管理を行っていますが、現実には遺伝子組み換えのものがわずかに混ざってしまうことがあります。これは、農場から食品の製造工場までには様々な流通段階があって、それぞれ同じ流通ラインを用いているためです。非遺伝子組み換えのものだけ流通させるときは、通常の流通をいったんストップさせてから、コンベアーや倉庫内を清掃してからラインに流します。しかし、清掃してもラインに数粒、遺伝子組み換えのものが残っていたりすることもあり、現状では絶対に混ざらないようにすることは不可能です。
日本では、このような現在の流通システムを鑑みて、大豆およびとうもろこしに限り、遺伝子組み換え作物の混入率が5%未満なら適正なIPハンドリングが行われたと認めています。ただし、IPハンドリングの証明書がそろっていることが前提ですので、たとえ混入率が5%未満であっても、証明書に不備があれば「遺伝子組み換え不分別」の表示が義務付けられることになります。
(2023年4月現在)