更新日:2024年3月29日
アルゼンチン
生産の状況
ラテンアメリカには、遺伝子組み換え作物を積極的に導入している国がいくつかあり、これらの中で遺伝子組み換え技術の導入を先導してきたのが、世界で最も肥沃で生産性の高い土地を有する国のひとつであるアルゼンチンです。アルゼンチンでは、1990年代に遺伝子組み換えダイズの栽培が開始されると、急速にその面積を拡大してきました。2023年の遺伝子組み換え作物は、多い順に、ダイズ1,598万ヘクタール、トウモロコシ668万ヘクタール、ワタ42万ヘクタールなど(合計2,313万ヘクタール)となっており、世界で3番目の作付面積になっています。アルゼンチンで生産されるダイズ、トウモロコシ、ワタのほぼ100%が遺伝子組み換え品種です。現在はブラジルにおける栽培面積の方が上回りましたが、それまではアメリカに次ぐ遺伝子組み換え栽培国として世界第2位を維持していました。また2020年10月に認可された遺伝子組み換え小麦に関しても、2023年に4.3万ヘクタール栽培されました1。これらの小麦は分別流通管理され、一般の小麦とは区別して取り扱われています2。
安全性審査
アルゼンチン農牧漁業省(MAGyP)に所属する関連部局が、環境、食品、飼料の観点から遺伝子組み換え作物の安全性審査を分担しています2。省内の農牧水産庁(SAGyP)は、遺伝子組み換え作物のほ場試験、限定的放出および商業的利用を全体的に規制する責任を負っています。バイオテクノロジーに関連する部局として、農牧水産庁には、バイオテクノロジー総局(Directorate of Biotechnology、DB)と農産物マーケティング総局(Directorate of Agricultural Market、DAM)があり、安全性審査と市場対応を担当しています。DBは、2009年に設置された部局で、バイオセイフティ、政策分析、規制に関わる総合調整を行っています。DBのもとで、CONABIA(農業バイオテクノロジー国家諮問委員会、環境安全性審査を担当)が組織されています。また審査に関わる関連機関として、農牧水産省の関連独立機関として、SENASA(国立食料農業品質安全サービス、食品・飼料安全性審査を担当)、INASE(国立種子検査所、野外試験・種子生産を監視)があります。
環境安全性の審査を行うのは、DBのもとで設置されたCONABIAです。遺伝子組み換え作物のほ場試験を十分に行った時点で、申請者は特定用途(輸出、品種登録までの商業生産前栽培など)に限定した作付けの承認を求めることができます。CONABIAは、遺伝子組み換え作物の環境に対する潜在的な危険性を評価します。なお審査は、申請書の提出後、180日以内に行うことになっています。
スタック品種はケースバイケースで安全性審査が行われており、導入遺伝子間で代謝上の相互作用がないかどうかなどの検討が行われます。
食品安全性および飼料安全性に関する審査は、SENASA(国立食料農業品質安全サービス)が担当しています。また種子検査・登録の観点から、INASE(国立種子検査所)による審査も行われます。
商品化の申請はCONABIAが環境安全性の観点から審査し、SAGPyAに対して承認または却下を提言します。商品化の申請が認可された場合、申請者は遺伝子組み換え生物を用いた食品の安全性に対する責任の他に、その品質を監視する責任を負います。承認は定期的に見直されます。農産物マーケティング総局(DMA)は、商業化に関する経済的影響の観点から審査を行います。申請者はINASE(国立種子研究所)に新品種登録を申請しなければなりません。病害虫抵抗性および除草剤耐性作物の商品化には、SENASAの特定の認可が求められます。
アルゼンチンにおける遺伝子組み換え規制は、行政決定No. 763/2011(基本的枠組み)および行政決定No. 701/2011(遺伝子組み換え植物の野外試験と商業化に関する手続き)、No.661/2011(組み換え種子の生産に関する手続き)に基づいて、実施されています。また2021年から22年にかけて、隔離条件や耐虫性管理など各種規則の部分改訂を行いました2。包括的なバイオセイフティ法は制定されていません。なお、カルタヘナ議定書には署名していますが、批准はなされていません。
2020年10月に、政府は、アルゼンチン企業が開発した乾燥耐性の遺伝子組み換え小麦を認可しました。ただし、実際の商業化に関しては、最大の輸出先であるブラジルにおける承認が条件とされていました。その後、2021年11月にブラジルのCTNbioが小麦粉に加工されたものであれば、輸入してもバイオセイフティの面で問題ないと認めたことから、アルゼンチン国内での商業栽培が始まりました。なお、生産者や業界団体は遺伝子組み換え小麦が一般流通に混入する危険性を指摘したことで、厳格な分別流通管理を行うことを定める行政決定(Resolution 535/2021)がSENASAにより発出されました2。
表示
遺伝子組み換え食品に関する表示義務はありません。農牧水産庁の基本的立場は、表示を行うかどうかは、製品の製造プロセスではなく、製品の特性やリスクに基づいて判断されるべきだというものです。また遺伝子組み換え由来の食品が慣行食品と性質において大きく異なる場合には、その性質の違いに関する表示を行うべきであり、用いた技術について表示するべきではないと考えられています。トレーサビリティや表示はコスト増大を伴うものと考えられており、それに見合うメリットがないかぎり導入するべきではないというのがアルゼンチンの基本方針です。
新たな育種技術(NBT)の扱い
アルゼンチンでは、2015年の行政決定(決定173/15)により、新たな育種技術をもちいて育成された作物の取扱いが決定されました。具体的には、事前相談手続きを導入し、申請者から提出された書類提出にもとづき、行政部局がリスク評価機関であるCONABIAに確認を求めることになっています。確認のポイントは、外来遺伝子が残存していないかという点です(一過的に外来遺伝子を用いた場合には、当該遺伝子が最終製品に残っていないかを確認します)。残存していないということが確認されれば、通常の交配育種により育成されたものと同じように一般流通が認められます。2021年にはさらに手続きの明確化を行いました(決定21/2021)。なお、事前相談手続きを経た品目に関しては、公表されていませんが、仮想的な品目も事前相談が可能となっています。
※協力:名古屋大学大学院 環境学研究科 立川 雅司 教授