更新日:2024年3月29日
ベトナム
生産の状況
2015年3月に農業農村開発省(MARD)の作物生産局(CPD)は、3種類の遺伝子組み換え作物の商業栽培上の認可を行いました。その直後となる、同年4月には、国内で初めてとなる、遺伝子組み換えトウモロコシの商業栽培が始まりました(東南アジアではフィリピンについで2番目)。その後、栽培面積は急速に拡大し、2023年には22万ヘクタールが栽培されています1。研究開発および規制整備に関しては、アメリカ国際開発庁の支援がなされると共に、ASEANやAPECなどの会議を通じて情報交換もなされています。
安全性審査
ベトナムの規制枠組みは、数次の変更や追加がなされながら、2014年に概ね整備されるに至りました(ただし、その後もたびたび改訂を重ねています)2。2010年6月時点でのベトナム政府における遺伝子組み換え規制の基本法令は、バイオセイフティ令(Biosafety Decree)69/2010/ND-CPとなっています(本政令により、2005年の政令は廃止されました)。なお、2011年11月には、本政令を改訂する政令(Decree 108)が公布され、食品用途の安全証明書の発行責任が、それまでの保健省(MOH)から農業農村開発省(MARD)に移されました。また2013年5月には、バイオセイフティ令を所管する自然資源環境省(MONRE)より、通達(Circular)8/2013/TT-BTNMTが発出され、具体的な手続きが示されました。
食品と飼料に関する認可に関しては、農業農村開発省(MARD)の所管となっており、2014年1月に通達(Circular)2/2014/TT-BNNPTNTが公布され(根拠法:政令108(Decree 108))、遺伝子組み換え食品・飼料の認可(Food and Feed Use Certificateの発行)の申請と取り消しに関する規則を定めました。認可されるためには、先進国の5か国以上が認可したもの、もしくは遺伝子組み換え食品・飼料安全委員会が安全と認めたものに限られます。またMARDは、遺伝子組み換え作物の野外試験の規制を担当しています。野外試験に関しては、複数地区での実施が義務付けられています。トウモロコシ、ワタ、ダイズの野外試験が認可されました。なお、野外試験に関しては、政令69/2010(上述)を部分改訂する政令118/2020(Decree 118/2020)により追加条件が課されることになりました。これにより2017年以降一時的に停止されていた野外試験が再開されました。農業農村開発省(MARD)の役割に関しては、2017年2月に出された政令15(Decree 15/2017/ND-CP)により、さらに改訂され、食品安全や農産物貿易に関する責任が産業貿易省(MOIT)と分担されることになりました。また農業農村開発省(MARD)の通達(Circular 23/2010、その後Circular 29/2014で改訂)においては、すでに安全性評価がなされた組み換え作物と類似性があるものについては、迅速な審査を受けることができる例外規定(Exceptional Recognition of Biotechnology Advantages)が設けられています。
組み換え作物の環境中での利用に関しては、自然資源環境省(MONRE)のもとで組織されているバイオセイフティ委員会が審査しています。審査に関わる規則は、同省の通達(Circular)8/2013TT-BTNMTに基づいています。この規則の下で、バイオセイフティ証明書が発行されることになり、規則の整備に合わせて、開発企業からの申請もなされました。バイオセイフティ証明書の申請は、食品・飼料利用での安全性認可が農業農村開発省(MARD)によって与えられたもののみが行えることになっています。なお、本通達は、2013年5月に公布され、同年7月に施行されました。
組み換え作物を商業化する際には、当該の組み換え作物の品種が、農業農村開発省(MARD)による品種登録が既になされているかどうかがポイントになります。品種登録がなされていない場合には、新しい品種としての登録上の試験が追加されることになります。また政令123/2018(Decree 123/2018)により、政令69/2010において定められていた遺伝子組み換え農産物の貿易に関する規定が一部改訂されました。
また遺伝子組み換え生物に関わる研究開発に関しては、科学技術省(MOST)が担当しています。またベトナム政府は、「農業バイテク開発2030年マスタープラン」を2021年3月に公表し、ゲノム編集技術を含む今後のバイテク研究開発を促進することを表明しています。
表示
表示に関しては、農業農村開発省(MARD)および科学技術省(MOST)の両省による省庁間通達(Inter-Ministerial Circular 45/2015/TTLBBNNPTNT-BKHCN)が2015年11月に出され、組み換え食品に対する義務表示が導入されました。原材料全重量に占める割合が5%以上の場合には義務表示が必要となります。ただし、生鮮食品など包装されていない食品や最終製品において遺伝子組み換えと検知できない食品、緊急時に提供される食品に対しては免除されています。この通達は2016年1月に施行され、1年後の2017年1月から完全実施されています。
新たな育種技術(NBT)の扱い
ゲノム編集など新たな育種技術をもちいて開発された生物の規制上の位置づけに関しては、まだ明確な方針が定められていません。
※協力:名古屋大学大学院 環境学研究科 立川 雅司 教授