更新日:2024年3月29日
EU(欧州連合)
生産の概況
EU加盟国における遺伝子組み換え作物の栽培は、2023年時点では、スペインとポルトガルにおいてのみ栽培されています(合計約5万ヘクタール)1。2016年まではチェコ、スロバキアにおいて、さらにそれ以前にはフランスやドイツ、ルーマニアなどでも栽培されていましたが、EUでの栽培国および栽培面積は減少傾向にあります。2015年3月には、環境放出指令を部分改訂する指令(指令No. 2015/412)が制定され、加盟国が遺伝子組み換え作物に関して独自の栽培制限を行うことができるようになりました(オプトアウト)。オプトアウトには、各作物の認可過程において加盟国が申請企業に要請する方法と、認可後に加盟国が欧州委員会に対して栽培制限を申請する方法の2通りの方法が可能です。ただし、栽培を制限する場合の理由には、安全性以外の理由(農業政策や土地利用計画など)に限定されています。2015年以降、19の加盟国がオプトアウトしています2。
安全性審査
栽培や流通など環境中で利用される遺伝子組み換え作物の安全性確認は、「2001/18/EC 遺伝子組み換え体の意図的環境放出に関するEC指令」に基づき、遺伝子組み換え生物の安全性を確認しています。また食品や飼料として利用される遺伝子組み換え作物に関しては、「遺伝子組み換え食品飼料規則No. 1829/2003」に基づいて申請と安全性審査を求めることもできます。安全性審査は、環境放出指令に基づく場合と、遺伝子組み換え食品飼料規則に基づく場合で、手続きが若干異なります。環境放出指令の場合には、まず認可申請を行った国の評価機関で安全性審査を実施し、その結果に関して他の加盟国から反論があった場合のみ欧州食品安全機関(EFSA)で安全性審査を行いますが、遺伝子組み換え食品飼料規則の場合には、すべての場合においてEFSAが安全性審査を実施します。
いずれの場合も、基本的にはEFSAのもとで組織されたGMOパネルにおいて科学的観点から安全性評価が行われ、この評価に基づいて、欧州委員会が認可の判断を行います。また認可された遺伝子組み換え作物や食品の認可期間は10年となっています(更新あり)。
EUにおける遺伝子組み換え作物の認可には時間がかかるとして批判されることがありますが、その背景には、個々の品目の認可が、加盟国の代表者の合議機関における投票によって決定され、その際、必要な賛成票が得られない場合には、大臣級の会合での投票に持ち込まれるなど、複雑な決定手続き(コミトロジー)に基づいているためです。この手続きに関する規則を改訂する動きがありますが、いまだ結論が得られていません。
なお、欧州委員会のなかで、遺伝子組み換え作物に関する規制や政策は、保健衛生・食の安 全総局(DG Sante)が中心的に担っています。これは、かつて環境総局、研究総局、農業総局、産業総局などに政策担当が分散し、方針の対立などが見られていたことから、バローゾ欧州委員長が権限を単独の総局に集約したことによるものです(2010年2月より)。
また欧州食品安全機関(EFSA)は、BSE事件を受けてリスク評価を行政機関から独立させるために設立された機関で、イタリア・パルマに置かれています。
2019年には、安全性評価の透明性を高めるための規則(EU規則 No. 2019/1381)が制定され、EFSAへの事前相談や情報公開手続きなどに関して、関連法が部分改訂されました。
表示
商品化された遺伝子組み換え作物には、「表示・トレーサビリティ規則No. 1830/2003」のもとで、流通記録の5年間保持、表示義務が課せられます。表示は、遺伝子組み換え体に由来するDNAやそのDNAが作るタンパク質が、最終製品中に存在するか否かに関わらず、遺伝子組み換え体から生成されたすべての食品に義務付けられます。これにより、精製油のような加工食品や、食品添加物、飼料などについても表示が義務付けられています。表示の方法は、”この製品は、遺伝子組み換え体を含む”または”…遺伝子組み換え(作物名)から製造”と表記することが義務付けられます。ただし、EUとしては「遺伝子組み換え作物は含まれていない」、「遺伝子組み換え不使用」などの表示制度は設けていないものの、一部の加盟国(ドイツやフランスなど)では「遺伝子組み換えフリー」の表示制度を認めています。なお、承認を得ている作物については、分別していても偶発的に組み換え体が混ざってしまった場合、このようないわゆる意図せざる混入について、0.9%以下であれば表示を免除することになっています(なお、0.9%は当該食品の全重量に対する割合ではなく、個々の原材料毎に占める割合です)。
新たな育種技術(NBT)の扱い
新たな育種技術に関しては、EUでは2007年頃から欧州委員会を中心として検討が続けられてきましたが、法的解釈に関する結論を得るのに時間がかかっていました。そのような中、フランスで起きた裁判を発端に、フランス国務院が突然変異誘発技術やゲノム編集由来の生物に関して、欧州司法裁判所に対して環境放出指令上の解釈を求めました。2018年7月に欧州司法裁判所からの意見が公表され、突然変異誘発技術に由来する生物は原則としてGMOであり、GMO指令の法的義務を負うとされました。指令から除外される技術は長い安全使用の歴史を有する突然変異誘発技術に限られ、ゲノム編集由来の生物は規制対象になることが明確にされました。この裁定を受けて欧州委員会は、ゲノム編集技術など新しいゲノム技術(new genomic techniques)に関して、EU内の様々な機関に関して情報収集(規制状況、検知技術、リスク評価、市場化動向、倫理的検討など)を行うように指示し、その結果が2021年4月に公表されました。そのうえで、欧州委員会は2021年9月に、植物における標的変異とシスジェネシスを対象とする法的な枠組みを今後検討する方針を示しました。具体的な法案の公表は、2023年第2四半期に見込まれています。
なお、EUから離脱した英国は、独自の規制案(正確育種法と呼ばれています)の検討を開始しています。
※協力:名古屋大学大学院 環境学研究科 立川 雅司 教授
European Union: Biotechnology and Other New Production Technologies Annual. GAIN Report Number E42022-0069